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聖女、耕す1

 ヤマネコ獣人リンクスのやっている料理屋には、相変わらずあまり客が来ない。

 あまり、と言える程度には来るようにはなった。小屋の前でマオが土いじりや採取をしているときに、通りがかりの狩人なんかに声をかけるからだ。

 しかし、リピーターを生むまでにはいたっていない。

 というのも、店に来る客はみんなマオにつられて来るのだ。店先で少女がおいでおいでと言うから入ってみると、出てくるのはヤマネコ獣人だということで、お客たちはおののくらしい。

 リンクスとしては客が料理を食べてどんな反応をするのか見守りたいだけなのだが、客には肉食獣にジッと睨まれている気分になるようだ。

 「く、食わせて喰う気か……?」と呟く声を聞いたことがあるが、リンクスはただ料理を食わせたいだけだ。

 今のところ、リンクスの耳や尻尾を怖がらずにいてくれる人間はマオしかいない。人間と仲良くなるのは、なかなかに難しいらしい。


「マオー、そろそろ飯にしないか?」


 外に出て小屋の脇にある畑のほうに目をやると、マオが屈んで地面を見ていた。

 いい加減に土を耕してそこに種を蒔いて畑になんてなるものかと思ったが、マオは畑作りがなかなかにうまかった。

 レブラの扱いも大したもので、頻繁に顔を出すあの変態エルフに言いつけて村まで種を買いに行かせているのだ。

 そのおかげで、小さな畑でありながら結構な種類の作物が育っている。


「どした? そんなふうに地面を見つめて。ミミズでも出たか」

「ミミズ、違う。イモね、何か変」


 マオが指差す先には、何日か前に植えたイモの葉がある。数日でよくここまで茂ったなというほど、わさわさと葉が育っている。


「変って、そうなのか? 確かにここの畑のもんは、大体が育つの早いとは思ってたけど」

「イモ、採れるまで年の四分の一くらいかかる。でもこれ、たぶん収穫できる」

「育つのに三ヶ月かかるもんがもう? おお! 本当だ、ゴロゴロと!」


 どうなっているのか確認するのが早いだろうと引き抜いてみると、たっぷり育ったイモがいくつも現れた。種イモを植えて数日でここまで育つのは、やはり変だと言えるだろう。


「すげぇな。もう食べられるじゃん」

「やっぱりエルフの持ってきたイモだから変……?」

「いや、エルフ族の名誉のために言っておくと、変態なのはレブラの問題で、エルフだからじゃないぞ。てか、あいつに変なこと言われたりされたりしてないか?」


 ものを持ってくるついでにレブラがマオと親しくなろうとしているのは、リンクスも把握している。だが、マオがエルフの美貌を前にしてもなびかないし、しっかりしているからと放っておいてしまったところがある。ふと、二人がどんな会話をしているのか気になった。


「んー、触られないようにしてるからダイジョブ。遊びの誘い、全部断るし」

「遊びの誘い? どんなこと言ってくんだ?」


 まさか自分に内緒でデートの誘いまでしていたのかと、レブラの積極性にリンクスは若干ひいた。変なことを言っていないだろうかと心配になる。


「何だっけ……『ニワトリの餌やりにいきましょう』とか」

「突かれたいんだろうな」

「あとね、『牧羊犬の羊追いを手伝いましょう』とか」

「それはたぶん、自分も犬に追いかけられたいんだろうな」

「ちょっと楽しそうだなって思ったんは、『馬に乗りませんか』かな」

「あー……それな。たぶん馬じゃない。待ち合わせ場所に行ったらレブラが四つん這いになってて『私が馬だ。どうぞ乗って』って言われるやつだと思うぞ」

「ひあー……」


 レブラが変なやつだという認識はあってもそこまで変態だと思っていなかったのか、マオは鼻の頭に激しく皺を寄せて嫌そうな顔をした。

 多少誇張してしまった感も否めないが、注意喚起ができたのならいいかとリンクスは思い直す。マオがレブラを警戒しなければいけないのは、間違いないのだから。


「まあ、変態エルフどうでもいい。問題は、このイモ、どう仕留めるかいうこと」


 気を取り直したのか、マオはリンクスの手から鈴なりのイモを奪うと、やけに真剣な顔をして見た。

 言葉とその表情の物騒さから、リンクスに緊張が走る。


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