聖女、ママになる2
「……何だと? その子たちの父親は、リンクスではないのか……?」
レブラは雷に撃たれたかのような衝撃を受けた顔をしていた。
リンクスを放すと、確認するように子猫たちに近寄っていった。
「確かに、似ていないな」
「だから、最初から違うっつってただろ!」
「だが、マオさんのお腹が大きかったら犯人はリンクスだと思うのが普通だろ!」
「普通じゃねえだろ! 獣人の俺と人間のマオから何で子猫が生まれると思うんだよ! それに、俺たちそういうこと一切ないからな!」
リンクスが必死に訴えると、レブラが冷ややかな目で見てきた。それまで子猫に夢中になっていたウルサまでリンクスのほうを見て、「えー、嘘だー」と言ってきた。
「若い男女がひとつ屋根の下に暮らして、何もないわけがないよなー?」
「そうだ。ないわけがない。そうだろう、マオさん?」
「ぶっちゃけ、もう寝ただろ?」
ウルサとレブラが、マオを相手にとんでもない質問をする。常々そういったことをマオの耳に入れたくないと思っているから、リンクスはものすごく二人に腹が立った。
だが、リンクスが怒るより先に、マオが口を開いてしまった。
「うん、寝た。この前、嵐の日」
「いや、寝たけどさ。二人が期待するようなことはないから。ただ、雷を怖がるマオを朝までなだめてただけだから」
誤解を招くことをマオが言うものだから、リンクスはまた弁解せねばならなかった。
二人がそれを信じてくれたかはわからないが、もう関心はリンクスから子猫たちへと移っている。
「もうとにかくこの子たちの父親がいないということであれば、この場で誰が父親に相応しいか決めようじゃないか」
「ふん。だったら、チビたちに選んでもらうのが筋だろう? なあ、リンクス?」
「え、なに? どういう話の流れ?」
なぜだかわからないが、レブラとウルサの間では、子猫たちの父親を決めようということになってしまった。
バチバチと火花を散らすかのように視線をぶつからせる二人のやる気に、リンクスはついていけない。
「この子たちに選ばせるというのなら、やはり一斉に呼んでみて、誰のところに行くか見るべきだろうな」
「子猫は二匹……最悪、一匹でも俺のほうへ来てくれれば」
どうやら、離れたところから子猫たちを呼び、誰のところへやってくるかで父親を決めようということらしい。
そもそもまだよちよちでモチモチな子猫たちが、こっちの思惑通りに動くのかということが疑問だが、やらなければいつまでも収集がつかないのは確かだろう。
「マオ、じゃあチビたちを離れた場所まで連れてってくれるか? で、俺たちが声をかけたら床に下ろしてやってくれ」
仕方なく、リンクスは小屋の中のテーブルを隅に寄せ、子猫たちが歩いても大丈夫なようにした。まだ動きが達者なようには見えないが、万が一調理場に興味を持っても危ないから、鍋などにはきちんと蓋をしておく。
「離れたよ」
「よし――じゃあ行くぞ」
リンクスの声を合図に、男たちは一斉に声を上げた。
「チビども、こっちだ」
「おいで〜子猫ちゃんたち〜パパだよ〜」
「にゃお〜にゃにゃにゃお〜パパはこっちでちゅよ〜」
冷静に呼びかけるリンクスに対し、二人は冷静さを欠いている。完全におかしい。マオは冷たい目で二人を見ている。
男たちの思惑など知らぬ子猫たちは、小さな手足を懸命に動かして、てっちてちと前に進んでいる。
二匹の子猫は、途中までは並んで歩いていたのだが、あるときから好き勝手に動き始めた。
赤みを帯びた毛並みの子は、不思議そうにしながらレブラのほうへ。青みを帯びた毛並みの子は、こわごわと少し怯えながらウルサのほうへ。
……行くように見えて二人は興奮した。
だが、結局二匹は途中で疲れ果て、こてんと眠ってしまった。
「そんな……」
「まあ、まだ子猫だから仕方ないな」
レブラもウルサも残念そうにしつつも、ふくふくの毛玉と化した二匹にメロメロだ。
待っていても起きないだろうとあきらめて、二人は帰っていった。
マオは子猫たちを抱き上げて、もらったばかりの籠の中に寝かせてやった。小さなものを慈しむその表情や手つきは、なかなか母親っぽいものがある。それを見て、リンクスは感心した。
「実際のところさ、そいつら、何で拾ってきちゃったんだ? 一緒に暮らすのは全然やぶさかじゃないんだが、もし親から無理やり引き離したんだとしたら、心配だなと思って」
騒いだり囃し立てたりする者がいなくなって、リンクスは改めてマオに尋ねた。この小屋で育てるにしても、そこははっきりさせておかなければならない。
「親、たぶんいない。この子たち、木の穴……ウロ?にいた。ずっと。何日も前から。それで今日、わたしの膝に乗ってきた」
「今日見つけて思いつきで連れてきたんじゃなくて、何日も前から顔なじみだったのか。……にしても木のウロって……」
そんな場所で猫が子育てをしたのだろうかと、リンクスは不思議に思った。何より、この子たちが普通の猫には見えない。
「ねえ、リンクス。おちびたち、名前つけて」
考え込むリンクスの袖を引き、マオは笑う。
「え、何で俺? マオがつけてやればいいのに」
「この子たち、家族。だから、リンクスつけて」
よくわからずにいるリンクスに、マオはただニコニコするだけだ。マオの笑顔と、ふくふくする子猫たちの寝姿に、リンクスは仕方がないと腹を決めた。
「家族、か。じゃあ、赤いのがポルで、青いのがカルな」
「ポルとカル……うん! 可愛い! よかったね、ポルとカル」
ねむっている子猫たちには聞こえていないだろうが、マオは嬉しそうにもらったばかりのその名前を呼んだ。
その姿を見て、リンクスの胸も言いようがないほど温かな気持ちで満たされた。




