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ヤマネコさん、聖女と町へ行く3


「ねえ、レブラ。あの子、迷子?」


 しばらく座って市場のいろんなところを眺めていたマオは、ふと不審な様子の子供を見つけた。横にいるレブラをつついて、その子のことを確認させる。


「身なりのきれいな子だな。それに、隠そうとしているがキョロキョロしている。たぶん、迷子だろう」

「じゃあ、声かけてあげなきゃ」


 レブラの言葉に確信を持ったマオは、困った様子の男の子のもとへ近づいていった。

 

「あなた、迷子? 一緒に来た人、はぐれた?」

「ま、迷子じゃない。僕はひとりで来た」

「そっか。飴あげる」


 声をかけられた男の子は、マオのことを見て一瞬警戒した。だが、マオの顔を少し見つめて、表情を緩める。


「飴はいらない。甘いものは好きじゃないんだ。そんなことより、お前だって小さいくせにひとり歩きか?」

「ううん。わたし、ちょっと離れたところにいる金髪と、もうひとりいる」

「保護者がいるってことか」

「うん」


 マオは少年と話しながら、飴の包み紙を取り出してそれで折り紙をしていた。三角に折り、それをまた半分に折り、開いて、何ヶ所か折っていくうちに小さな鳥の形になる。


「飴、いらないなら、これあげる。鳥だよ」

「あ、ありがとう。器用だな。言葉は変だけど」

「田舎者なだけ。気にするな」


 折り鶴をあげたことで、少年の表情は柔らかくなった。それに折り鶴が気に入ったらしく、嬉しそうに手のひらに乗せて見つめている。

 それから少しの間、特に何を話すわけではなかったが、マオは少年のそばにいた。待っていれば少年がきちんと帰るか、保護者が迎えに来ると考えていたのだ。

 その予想は、意外な形で的中する。


「坊っちゃまー!」

「あ、やべ!」


 どこからか声がして、それを聞いた少年が驚いて飛び上がった。そして慌てたように胸元のペンダントを開いて、何かをマオの手に押し付けてくる。


「お前、どこの子? 家は?」

「え、森の中。料理屋やってる」

「わかった。それ、あげるから大切に育てて。いつか会いに行く」

「え、わ、あ、……ありがと?」


 手の中に押し付けられたのは、何かの小さな種だ。そのことに気づいてお礼を言うも、少年は走っていってしまった。そのあと、見るからにじいやという感じの好々爺に捕まっていた。どうやらレブラの見立て通り、どこかいいところの家の子だったようだ。


「何の種……?」


 それは見たこともない種で、表面にきれいな模様が入った不思議なものだった。だが、すぐにそれをしげしげと眺める余裕はなくなってしまう。


「マオー! ごめん、待たせたな。無事にニワトリも酢も買えたから!」

「リンクス!」


 リンクスに呼ばれ、マオはそちらを見た。ニワトリ二羽を小脇に抱えて手を振る姿を見て、マオは駆けていった。極度に胸部の発達した美女の誘惑に乗らずに買い物を済ませて来てくれたということで、ひとまず溜飲が下がる。


「さ、また馬車に乗せてもらって帰ろうぜ。あれ、レブラは?」


 駆け寄ってきたのがマオだけなのに気づいて、リンクスは周囲を見回した。すると、近くに潜んでいたらしいレブラが、胸を押さえてよろよろと出てきた。


「すまない。迷子の少年とマオさんの可愛すぎるボーイミーツガールを見守っていたら、あまりの素晴らしさに心拍数があがりすぎて……」

「だいぶキモいな。え? 誰かと一緒だったのか? 少年って?」


 何となくリンクスが面白くなさそうにしているのがわかって、マオは自分の気持ちが少し晴れるのがわかった。美女にまとわりつかれている姿などという、面白くないものを見せられたのだ。これでおあいこ、と心の中で笑う。


「ないしょ!」


 帰りの道中、リンクスは迷子の少年が何なのか知ろうとしたが、マオはニヤニヤして絶対に話さなかった。リンクスはレブラにも尋ねてみたものの、好みの光景を目にして興奮気味の彼ではまったく役に立たなかったのだった。

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