ヤマネコさん、聖女と町へ行く2
マオは口をパクパクして、金髪美女と自分の胸を交互に見た。それから自分のなだらかな胸の感触を服の上から確かめ、ぼそりとレブラに言う。
「……服のデザイン、同じ。でも、全然違う」
マオが着ているものも美女が着ているものも、襟ぐりが大きく開いたブラウスの上から胸元で編み上げる胴衣を装着するものだ。マオは胴衣のおかげでブラウスがピタッとフィットしているが、美女のほうは胴衣の編み上げにより強調された豊かな胸元が、深い襟ぐりからこぼれそうになっている。
「そりゃ、きょにゅ……じゃなかった。胸部が発達した人とそうでない人とでは、同じ服を着ても違った見た目になるのは当然だね」
「……わたしの胸部、発達ない……」
「マオさんはその慎ましやかな胸部を含めて、とても愛らしくて魅力的だ。むしろ、ある日突然あの女性のような体型になっていたら、私は嘆き悲しむ!」
「……嘆かしてやりたい、いつか」
美女の極度に発達した胸部に打ちのめされたマオをレブラは励まそうとするが、自分の好みを主張しただけだから励ましにはならなかった。
そうしてマオたちが話しているのをよそに、リンクスはニワトリを買うべく美女と向き合っているのだが、美女のほうは様子が違う。
「リンク、相変わらずひとりなの? だったらあたしをもらってよ。家族がほしいって言ってたじゃん。あたし、あんたの子供だったら何人でも産んであげるのに〜」
美女はなまめかしく身体をくねらせながら、甘えるようにリンクスに言っていた。それが耳に入って、レブラは露骨に顔をしかめる。
「私はああいうのは好かない。マオさん、飴を買ってあげるので行こう。どうせニワトリの買い付けが終わるまで時間がかかる」
「……うん」
リンクスが美女に対して何と受け答えするのか、気になりはするものの、マオは促されるままレブラと共にその場を立ち去った。
マオもムカムカした顔をしている。だが、レブラの不快感とはまた別のものだろう。それを本人は、まったく自覚していないようだが。
「ほら、マオさん。お菓子がたくさんだ。飴もあるし、ビスケットも乾燥した果物もある。どれでも好きなものをどうぞ」
「わあ……」
レブラはお菓子を売る店の前まで連れてくると、マオに選ぶよう促した。こっちに来てからこういったお菓子とは縁がなかったから、マオは小さな子供のように喜んだ。
「これ、かわいい。これにする」
「おお、懐かしい。でも、これは包み紙がきれいなだけで、中は地味な飴だが」
「おいしい?」
「味は保証するよ」
「じゃあ、これ」
マオが選んだのは、色とりどりの包み紙にくるまれた小さな飴だ。それをひと掴み袋に入れてもらい、店をあとにする。
ちらりと振り返ると、リンクスはまだ美女と話し込んでいた。きっと積もる話があるのだろう。
仕方なく、マオはレブラの服を引っ張って、市場の中心にある座れそうな場所までいった。
市場には食べ物屋も出ている。だから、そこで買ったものを食べられるようにと木箱などが椅子代わりに置かれているようだ。それに座り、マオは包み紙を開けて飴を口に入れた。
「おいしい」
「それはよかった。……はあ。甘いものを食べて柔らかくなったマオさんの可愛い顔を独り占めだ」
マオは飴を食べてご機嫌に、レブラはそれを見て満たされた顔になっていた。自分を見てレブラがニコニコするのにも、マオはもう慣れつつある。
「……きれいな金髪だったね」
思い出したのか、マオはぽつりと言った。自分の真っ黒な髪を指先に絡めて、くるくるともてあそんでいる。
「おや、あれが金髪だと? 金髪とは私のこの美しい髪を言うんだ。あんなの、麦藁色だ、麦藁色」
励ます意図なのか何なのか、レブラは自慢の美しい金色の長髪を、サラサラッとなびかせてみせた。その仕草を見て、マオはおかしくて笑う。
それからは、とりとめもない話をしながら、二人はリンクスが自分たちに気がついてここへやってくるのを待っていた。