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ヤマネコさんと聖女、町へ行く1

 ポクポク、ポクポクと、ひずめが地面を蹴る音を聞きながら、マオは不慣れな振動に耐えていた。


「り、リンクスぅ〜ゆれ、ゆれる〜」


 ぷるぷるしているのは、主にマオのお尻だ。もともと肉付きがいいわけではないから、激しい振動はマオの尻を痛めつけていた。

 走り出してからずっと、定期的にこの声を上げているから、もはやマオの鳴き声のようになっている。


「だから俺は言ったぞ。馬車は揺れるって。それでも町に買い物に行きたいって言うから、乗ったんだろ」

「うぅ……そうだけど」


 ポンポンと肩を叩いてなだめてくれるものの、リンクスはあくまでマオの責任だという。

 町に出るためにバンダナで耳を、背中に背負うカバンで尻尾を隠してついてきてくれているということは、本当はあまり町には行きたくなかったのだろう。

 マオが無理を言ってまで町に行くことになったのは、あるものが恋しくてたまらなくなったからだ。

 それは、マヨネーズだ。

 どっこい根性であっという間にこの世界に馴染んだものの、やはりもとの世界の食べ物は恋しくなるものらしい。

 野菜にかけるドレッシングのようなものはあるものの、マオはマヨ派の人間だ。

 卵と油と酢と塩さえあれば作れる!と意気込んだものの、酢がないし、肝心の卵もたまに手に入るだけのものだから、それなら買いに行こうということになった。

 

「マヨマヨ……」


 マヨネーズを食すということだけが、馬車の揺れに耐えるマオの心の支えになっている。

 行きだけでなく帰りも当然馬車に乗らなければならないのだが、そのことはすっぽ抜けて、帰宅したあとのマヨネーズ作りのことしかマオの頭にはない。


「マオさん、お尻が痛いのだったら、私の膝を貸そうか」


 隣に腰かけているレブラが、あぐらをかいて座っている自分の太ももをポンポンと叩いた。ここに来いよ、ということらしい。

 

「レブラ椅子、いや。むり……」


 椅子状態になったレブラに座る自分を想像したのか、マオは顔をくしゃくしゃにしかめて首を振った。


「君ひとりを座らせるくらい、どうということはないよ。さあ、遠慮せずに来るといい」

「遠慮じゃねえよ。嫌がってんの。……馬車を用意してくれた恩がなけりゃ、ぶん殴ってるぞ」


 マオを自分のほうへさらに引き寄せ、リンクスはレブラにキッと歯をむいて見せた。獣ではないから通じる相手ではないが、一応威嚇だ。

 レブラはマオが嫌そうな顔をしただけで満足したようで、深追いしてくることはなかった。

 マオが町に出たがっていると聞きつけて、レブラはまず反対した。何か理由があるからというよりも、一応という感じで。

 森林調査官という立場上、公にしてはいないとはいえ聖女であるマオの出歩きには一応注視しておかなければならないということらしい。

 リンクスとしても、町に出たときに誰かにマオが聖女だと気がつかれるのは避けたかった。

 言葉に不自由なく、何かしら能力があるなら別だ。聖女らしく果たす役目もあるだろう。だが、マオは片言しか話せない普通の女の子だ。

 だから今日は、リンクスとレブラでしっかりマオを守るのだ。


「なあ、レブラ。マオの容姿ってさ、やっぱ目立つかな。聖女だって気づかれることはなくても、このへんの子じゃないのはバレるんじゃねえかな」


 こちらの世界の女の子としておかしくない服装をさせているものの、やはり黒髪黒目で幼い顔立ちというめずらしい容姿をしているのは間違いない。

 不安が残るリンクスに対して、レブラは平然としている。

 

「そのときは、私の知り合いのコロボックルで通します」

「コロボックル?」

「どこかの世界にいるという小さな妖精です。たしか、小人の姿をしているとか」

「……マオに聞かれなくてよかったな」


 名案だと思いつつ、小人という単語はマオに嫌がられそうだとリンクスは思った。だが、肝心のマオは疲れたらしく寝てしまっていた。


 それからしばらくレブラの知り合いが手綱を取る馬車はガタガタ道を進み、材木とともに眠っているマオたちを町まで運んでいった。


「ついた!」


 それまでずっと眠っていたくせに、馬車が止まるやいなやマオはぱっちりと目を開け、シュタッと荷台から降りた。

 そして、市場を目にしてリンクスたちにそわそわしてみせる。


「わかったわかった。早く行こうな。まずはニワトリを知り合いのところで買うから、ついてこい」


 今にも駆け出しそうなマオをなだめ、リンクスが先頭を歩きだした。マオは慌ててリンクスの服の裾を掴んだが、少し解せない顔をして、すぐ後ろを歩くレブラを振り返った。


「リンクス、町に知り合いいたんだね……」

「まあ、ずっと森にこもっているわけではないからね」

「ふぅん」


 マオがそのとき何を考えたのかレブラにはわからなかったため、会話はそれきり途絶えてしまった。後ろで二人がそんな会話をしているとは気がついていないリンクスは、市場の中をずんずん進んでいき、ある小屋の前で止まった。


「はーい。あら、リンクじゃない! 久しぶりね!」


 リンクスがノックしたのちに出てきたのは、金色の髪が美しい女性だった。

 おまけに、ボン、キュッ、ボンだ。

 そのナイスバディを目にして、マオは口をあんぐりと開けてしまった。

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