ヤマネコさん、釣りをする1
リンクスとウルサは、マオを挟んで向かい合っていた。
リンクスもマオと比べてかなり背が高いし、身体も大きい。だが、ウルサはそれ以上に上背がありごつい。
「久しぶりだな、ウルサ。お前、引きこもりだから同じ森に住んでても会わないもんな」
「いや、引きこもりって。こもってんの冬だけじゃん」
「で、何してんの? 無駄にうろつくと人間に怖がられるぞ」
「何って聞かれると困るけど、強いて言うなら自分探し?」
「探すなよ。ここ森だぞ」
「案外あるかもだろー。ここ森だぜ」
二人は相当に仲がいいらしく、ガハハと笑って話が盛り上がった。……間にマオを挟んでいることなどすっかり忘れて。
「ちょっと、暑い! むさい! 二人、知り合い? なら、立ち話より家、いくがいい」
「お、ごめんごめん」
程よく筋肉が乗ったリンクスの胸板と胸毛の濃いモリモリなウルサの胸板についに挟まれたマオは、不機嫌な顔をしてムイムイムイッとその間から抜け出した。
髪を乱し、不機嫌な顔をしているマオがさっきまで怯えて泣いていたことを思い出し、リンクスはその頭を撫でた。
「なぁ、せっかくだからうちに来ないか? 繁盛してねぇけど料理屋始めたんだ。飯食いながら話そうぜ」
「いいな! あ、でも、俺は今、魚を食いたい気分なんだよな。どうせだったら釣りに行ってからにしないか? たくさん釣って、パーティーしようぜ」
「いいねえ。最近、そういうことしてなかったから新鮮だわ」
トントン拍子に話は決まり、一度小屋に戻って釣り竿を取ってきてから、リンクスたちは魚が釣れるところを目指した。
畑いじりのあと全力疾走して疲れ果て、おまけに心臓もバクバクしたあとのマオとしては、小屋で休んでいたかっただろう。だが、楽しそうにしているリンクスたちを見ていると水をさしたくなかったらしく、黙ってついていく。
リンクスはマオが疲れのせいで無表情になっているのに気がついて、ひょいと小脇に抱えてやった。こんな子供扱いは嫌だと暴れるかと思いきや、素直に抱えられたままだった。
「君、マオちゃんっていうんだね。マオちゃんって、どういうわけでリンクスと一緒にいるの?」
リンクスの小脇に抱えられたマオに、ウルサが話しかけた。
マオは少し考えて、それから口を開いた。
「わたし、ニンゲン」
「……わあー、ざっくり」
以前、レブラに自分のことを話してしまったことを反省しているのだろう。その反省を活かして、余計なことは一切話すまいとという意思を感じる。
それを聞いていたリンクスは、我慢できずに笑った。
「森で拾ったんだよ。たぶんだけど王宮かどっかの聖女召喚に巻き込まれたんだろうな。よその世界から来たみたいで、片言しか話せないんだ。だから何かの縁ってことで、俺が面倒みてる。ちなみに子供じゃなくて、十七歳らしいから」
「聖女……よその世界……十七歳……? お、おぅ」
リンクスの口から出たマオの情報にウルサは戸惑ったようだが、何度か深呼吸をしてそれを飲み込んだ。さすがは友だと、リンクスは安心した。
それから少し歩いて、一行は沼に到着した。
地面に下ろされたマオは、じっと目の前の瑠璃色の水面を見つめる。
「これ、きれい。何?」
「これは沼。そうだな。濁りが少なくて、きれいな水だな。でも、意外に深いし水草とかの陰に何があるかわからんからな」
「泳げる?」
マオは水に興味津々だ。真剣に水面とリンクスの顔を交互に見ている。
それをそばで見ていて可愛く思ったのか、面白がったのか。ウルサが両脇に手を入れて、ひょいとマオを持ち上げた。
「ここの沼な、おーきなヌシがいるんだってさ。マオちゃんをエサにして釣ってみるか?」
「ひやー」
ウルサは冗談で言ったのだし、マオもそれはわかっていた。ウルサが投げる真似をして、マオが大げさに悲鳴をあげるという遊びだった。
だが、そんなことを繰り返しているうちに突然水面に激しく波紋が浮かび、黒い影が浮上してきたかと思うと、ザパーと何かが水しぶきとともに現れた。