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ヤマネコさん、聖女と歩く2

 レブラの服装は、濃い緑のローブに焦げ茶色の肩掛けカバンという地味そのものだ。それだけだったら、ほどよく森に馴染んで目立たなかっただろう。

 だが、レブラはサラサラの長い金髪を持つ美貌のエルフだ。

 金髪の美形エルフが恨めしそうな顔をして木の陰から自分たちのほうを見ているというのは、何とも言えないものがある。


「マオ……あれ、ずっといるのか? いつも?」

「うん、大体いつも。わたしのこと見てる。今日も、小屋出たときから、後ろいた」

「嘘だろ……全然気が付かなった」


 尾行されていたことに気がつけなかっただなんて、獣人族の名折れだ。何より、マオは気づいているのに自分が気づけていなかったという状況が嫌だ。

 頻繁に訪ねてくるが、てっきりマオの顔を見たら帰っているものだと思っていた。それなのに、隠れて見ているだなんて、ちょっと……いやかなり、ドン引きだ。


「私の隠密スキルを舐めないでいただきたい。エルフは森と共にある者だからな」


 話を聞いていたらしく、レブラが木の陰から出てきてサラッと髪をなびかせ、ドヤ顔で言った。状況的に何も偉そうにできることなどないのに。


「いやいや。舐めてねーよ。むしろ恐ろしいわ。何を尾行してんだ。マオがめっちゃ嫌がってる」

「知っている! その愛らしい嫌そうな顔を見ればわかる。ああ……その大きな目が私を見るときだけ細められるのがたまらない」


 レブラに恍惚とした表情を向けられたため、マオはリンクスの身体の後ろに隠れてしまった。怖がるのはもっともだし、リンクスとしてもマオを変態の目に触れさせる気はないから、しっかりと隠してやる。


「リンクス、自分の手元にマオさんがいるからってちょっと調子に乗ってるんじゃないか? その態度も『俺以外の目には触れさせねーぜ』ってやつなのか? だったら見せびらかして歩かないでくれ」


 レブラは美貌を歪めて、歯ぎしりしそうな顔で言った。とんだ言いがかりだし、嫌われているのは己のせいなのに。


「そういうんじゃない。今日はキノコ狩りに行くんだよ」

「キノコ狩りって……どうせ『ほら、食べてみろよ俺のキノ』」

「言わせねーよ。俺ね、子供扱いするわけじゃなく、マオの耳にそういう言葉を聞かせたくないんだわ」

「そ、そんな……本気のトーンで怒らなくても。エルフジョークだ」

「んなわけねーだろ! 今すぐ全エルフに謝れよッ!」


 レブラは、リンクスに思いの外本気で怒られたからかしゅんとした。

 少しは反省しろと思うから、リンクスは言いすぎたとは思わない。

 それよりも、この変質者を前にマオがどんな感じなのか気になった。


「ねえ。いつもなんで、コソコソ見る? 近く来て、一緒に畑したり、今日もキノコ狩り来たらいい」


 嫌そうに目を細めた顔ではなくぱっちりと目を開いて、マオはレブラを見ていた。純粋に疑問だったのだろう。遊びに誘うくせに、自分はマオのしていることに参加しようとしないのは、確かに疑問だ。

 そんなふうにまっすぐ尋ねられるとは思っていなかったのだろう。レブラは戸惑って、しどろもどろになった。


「えっと……それは……離れて見てたほうがこうふn……じゃなくて、ドキドキして、今はそのほうがいいというか、自然体のマオさんを見ていたいというか……」


 かろうじて変態的単語を吐くのは踏みとどまったが、そこはかとなくにじむ変態臭は隠せていない。保護者的には完全アウトな発言だ。

 しかし、マオはその発言をリンクスほど気持ち悪いとは思わなかったようだ。


「そっか。じゃあ、心の準備できたら来る、いい? リンクスのご飯も、食べ来て。まだ食べてないでしょ?」

「え……ああ! ぜひとも!」

「リンクス、ご飯屋さん。小屋来たら何か食べる、礼儀よ。わかる?」

「そうだな。そういえば、まだ一度もリンクスの作るものを食べたことがなかったな。……今度、訪ねたときは必ず」


 まさかマオから誘われるとは思わなかったからだろう。レブラは驚きに目を見開き、それから顔いっぱいに喜びの表情を浮かべた。

 そして「仕事に戻る」と言って、ニコニコ手を振りながら去っていった。


「マオ、ああいうのに優しくしなくていいんだぞ。変態がつけあがるから」

「変態なんは否定しない。でもレブラ、人と付き合う、苦手かなって。じゃあ、『こうしたらいい』って教えたら、上手になるかもって」

「……なんだよ、それ」


 マオが深く考えて言葉を発したとは思っていなかったため、リンクスはたじろいだ。

 変態野郎だと突っぱねることなく、レブラに歩み寄る姿勢を見せたのだ。

 正直言って、マオがそういう気遣いや思いやりがあるようなタイプだとは思っていなかった。それに、長く一緒にいる自分のことより先にレブラのことを理解した風なのが、どうにも面白くなかった。


「……キノコ、採りに行くぞ。好きなだけ食わせてやるから、さっさと行こうぜ」

「うん!」


 すねているのを気づかれないように、リンクスは先に歩きだした。その後ろを、マオも気にした様子もなくついてきた。

 

 今は、同じ小屋で世話をしてやっているが、いつまでこうしていられるだろうか。

 マオはいつか小屋を、森を、出ていってしまうのだろうか。


 リンクスは、これまで一度も考えたことがなかったのに、そんなことを考えてしまった。

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