「岩田一尉の事情」
作者体調不良のため暫し休載いたします。
毎週水曜日に更新したかったのですが・・・
矢張り病気がちなのでダメでした。
来週はどうなるか・・・
「続・岩田一尉の事情」かも?(今回中途半端なので。)
ゼロハチヨンゴ、午前八時四十五分。近江、天龍両艦では午前九時の当直交代の時間に合わせて艦内が慌しくなるのは何時もの事だが、今日は午前十時からの訓練の為、総員起こし、全乗員は持ち場に付く。当直交代の引継ぎと同時に訓練内容の確認など多忙を極めている筈だ。それに対して大和と夕張は無人艦なのでその手間が一切掛からない。訓練前に兵装、機関等の確認を行うだけで済む。
「こちら夕張。異常ありません。」
隊内リンクを使用して夕張さんから連絡が入る。こちらの都合を忙しくしているであろう時間帯に、僚艦に知らせる必要もないので大和に対してのみの報告なのだろう。大和にも異常は無し。勿論船酔いは克服していた。訓練開始まで一時間弱。オレには一つ動作確認をしておきたい物があった。それは飛行甲板である。一万九千トンと言う巨大なイージス艦である大和には艦載機を搭載する予定があった。現在はまだ搭載予定の機体が最終試験中という事で載せられていないが、小型の回転翼機なら八機、大型の垂直離着陸型戦闘攻撃機なら五機まで搭載可能な格納庫が用意されていた。当然それらの機を発着艦させる為の飛行甲板が必要に成るのだが、大和の甲板上はミサイル垂直発射装置で可成りの部分を占められてしまっている。飛行甲板を造る場所が足りない。その問題を解決する為に考え出されたのが、常時必要では無いのなら、畳んでしまって置けば良いではないか、という結論だった。システムチェックの上では問題は無いが、設計通りに機能するのかは実働試験をしてみたかった。言うまでも無く、大和のAIを起動する前に、それこそ部分的な設計、試験の段階で安定して完動しているのはデータでも解っているが、正直どういう風に動くのか見てみたい。
「こちら大和。夕張さん、これから飛行甲板の動作試験をしたいと思います。そちらからも動きを確認、リアルタイムで中継して貰えますか?」
「解りました。艦の距離を百メートルまで詰めます。」
夕張さんにはオレのやりたい事が隊内リンクで伝わっているので、いちいち説明しないで済むのが非常に楽だ。だが前後の艦の距離を二百メートルで維持、単縦陣を組んでいるあとの二隻、近江、天龍には伝わらない。
「大和より各艦。これより大和の飛行甲板展開試験を行います。夕張は展開状況監視の為、大和との艦の距離を百メートルに。近江、天龍は速度そのまま、現状の二百メートルを維持してください。」
速度を変えるなと言う指示はつまり大和が一時的に速度を落として夕張に追い付かれる形で距離を縮めるという事だ。今回の訓練航海は大和の為の訓練、大和の公試が主目的だが近江、天龍両艦もただ訓練の支援に来ているのではない。両艦の乗員もそれぞれ課せられた訓練がある。こちらの勝手で予定を変えさせるのは申し訳ない。
「こちら近江、了解。」
「天龍、了解。」
両艦から短く返信。ここで何か言葉を加えるのは近江艦長豊郷二佐なのだが、今回は違っていた。
「こちら天龍、岩田一尉です。質問しても宜しいでしょうか。」
自身の艦内、或いは日常等では解らないが、これまでの印象で言えば岩田一尉は必要最低限しか喋らない。報告、連絡も必要十分にして最短。その一尉から聞きたい事が有ると言う。
「こちら大和。なんでしょうか?」
大和の存在もその行動も、海上自衛隊内に於いてすら今はまだ機密である。風間海将補に通信も最小限にせよと命ぜられた事はもちろん忘れてはいないが、ここで質問を無視するのも不自然だった。もし秘密にしなければならない様な質問なら回答を拒否できる。年齢の設定は下だが階級はオレの方が上なのだから。
「訓練計画に発着艦の予定は有りませんが、大和には艦載機を載せているのでしょうか?」
飛行甲板の展開を行うと聞けば当然起こりうる疑問ではあった。
「いいえ。現在大和に艦載機は有りません。洋上で確実に機能するか確認する為の試験です。後日、艦載機を載せる時になって動きません、というのでは困りますから。」
当たり障りの無い様に返答する。これで質問は終わると思ったのだがそうはいかなかった。
「搭載予定の機種をお訊きしてもよろしいでしょうか?」
いつもの感情が余り感じられない岩田一尉らしからぬ早い口調だと感じた。
「機密事項に成りますのでお答え致しかねます。」
本当はまだ知らなかっただけなのだが、正直に答えると余計ややこしく成りそうな気がした。
「そうですか。お手間を取らせてしまい申し訳有りませんでした。失礼します。」
通信は以上。その科白は落ち着いて感情が読み取れないいつもの岩田一尉の物だった。その時になってようやく岩田道夫一等海尉の経歴を思い出した。四十一歳で一等海尉と優秀であるのは間違いないが、その優秀さが群を抜いている。岩田一尉は元々航空自衛隊所属の自衛官だった。以前は小松基地所属の戦闘機乗りだった。その中でも特に優秀なパイロットで第十一飛行隊、通称ブルーインパルスへ推挙されたが断ったという話があるそうだ。だが訓練中の事故により負傷によって視力が低下。パイロットを続ける事自体に不都合があるほどでは無かったが、戦闘機乗りとしては致命的である、と本人が判断したという。