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人ならざる者に与えた優しさとその代償⑥

 リディアは頭を悩ませていた。


 人類の発展度合いや、以前、魔王が現れてからの経過年数的に、恐らく、そろそろ新たな魔王が選出される頃合いだろう。


 なので出来うるなら、自分達の手が入った者が魔王や勇者になるのが好ましい。それに位置を把握していると色々と助かるのだ。


 何故ならいくら魔王や勇者と言っても、成り立ててでは弱く、最悪選出された瞬間に殺されてしまうなんてこともあるのだ。


 そのため『保護』という名目で手元に置いておくのが一番良い。


 しかし、いくら頑張って育てても選出されないなんてことがある。


 『制定者』はリディアにとって味方ではあるが、現在、容易にコンタクトは取れないし、仮に取れてもこの世界に直接干渉するのは難しいのだ。


 ティターニアの妖精の力を使っても、確実とは言えない。


 それに、魔王選出は多様性を求めるため、毎度違う種族が選ばれることがほとんどだ。


 「……前回はドラゴンで……結構、酷いことになっちゃったしねえ」


 《まさか『魔神』になるなんて思いもしなかったよね》


 『イレギュラーは本当に突然起こりえるな』


 そう言って、リディアとパック、オーベロンがため息をついた。


 前回の魔王はとあるドラゴンが選ばれた。そして大きく成長する適性があったため、フラワーに大量の魂を投入させた結果……限界を突破して『魔神』になってしまったのだ。


 『魔神』とは『王種』のさらに上の進化――だが、一概にも上位種とは言えない。何故ならかなり不安定で大気魔力が薄い土地では、長期間の生存が難しいのだ。それに知性が大幅に低下し、本能のままに暴れてしまう。


 そんな『魔神』だが、神の名を冠するのは伊達ではない。


 自身を中心とした一定距離を異次元に変えて、百数㎞に及ぶ独自法則を持つ世界を創造するのだ。


 それは自身にとって都合の良い世界。自分の周りを海に変えたり、高高度の空中に変えたり、全てが富み栄える、ある意味では楽園を造り上げたり――様々なのだ。


 そして、『魔神』になってしまったそのドラゴンは、ヌイグルミなどの可愛いものが溢れるファンシーな世界を創り上げた。元々、なまじ知性があったことと、少女で、人間に憧れていた経歴からそんな世界になってしまったのだ。


 「……他の『魔神』達と比べて大人しい力だったけど、本人以外の暴力行為(能力、意思を含めた全て)を弱めて、入り込んだ存在と遊びに興じる力……今思うとよく生き残れたと思うよ」


 危なそうには見えない力だが、『遊び』に巻き込まれた一都市は一人残らず死滅してしまうこととなった。強大な力を持つ無邪気な子供ほど恐ろしい存在はいないのだ。


 リディアはそのドラゴンを倒すことは出来なかった。あくまで消滅するまで『おにごっこ』をしていたに過ぎない。


 そもそも相手にとって都合の良い世界で勝つことなんてまず無理なのだ。


 《適性があるからと、無闇に魂をつぎ込むのはよくないのかな》


 『適性がなくてもやめた方が良いだろう。臨界点を超えて、もし耐えたら『魔神化』する恐れがある』


 魔力や魂については、まだまだ分からないことが多すぎる。慎重に研究していくべきだろう。


 「そういえば、オーベロン。あの子の相方だった子は、今どうなってるの? ……もう寿命を迎えた?」


 少女ドラゴンには、常に一緒にいた雄のドラゴンがいた。彼も知性がそれなりにあって、幼馴染みの少女ドラゴンの身を案じていたが……。


 オーベロンが顎に手を当てる。ちなみに今の彼の姿は中年男性のものとなっている。


 『まだ生きている。我が輩らと別れて、北に飛んで行った後は、人に害も為さず適当に過ごしている。それなりに長生きするだろうな。あれもあれで『王種』にまで育ったからな。あと数百年は安泰だろう。ああ、一応言っておくが貴様やフラワーのことは別に恨んでないぞ。無駄に優しいから未だ我が輩らに好意を持っている』


 「……そっか」


 リディアはちょっと複雑そうな眉を八の字にした笑みを浮かべる。


 『人に優しくすることが、あいつにとっては供養のようなものらしい。……むしろ、……そうだな、優しくし過ぎて……好かれて、新種族が生まれたくらいだ』


 「あー、うん、そう」


 《……あー》


 リディアは反応に困っただけだったが、パックはほんのり顔を赤めてしまう。


 ちなみに魔物は別種であっても、稀に子供を作ることができる。無論、遺伝子が近い方がより、出来やすいが。


 「それで、どうしようね。次に育てる種族は何にしよう。一通り試したよねえ。……意外性を求めてゴブリン、とか?」


 『多少の知性はあるが、個体数を増やすことに特化しているせいで、個々の強さが求められていない。そのせいで、上限が低いはずだ。それに数が多すぎて強い個体を探すのも面倒だ。我が輩の『目』とて限界がある』


 《ですねー》


 オーベロンがパックを一瞥すると『目』である彼も、頭を小さく振って頷く。


 「うーん、そっかー。一応、聞くけどちょうど良さそうなくらい強い子の候補っている?」


 リディアは応えがあるとは思わず、何気なしに尋ねたのだが……オーベロンが、微かに唸った。


 『……いなくはない、が……色々少々問題があるのが否めない存在を、随分前に捕捉し続けている』


 「どんな子?」


 『『不死ノ王』が生み出したアンデッド共だ。その中で恐らく、『お気に入り』であろう一体とそれに付き添う者が一体いる。どちらも『それなり』に強い存在だ』


 「『不死ノ王』関連かぁ」


 遠い昔のことであるが、『不死ノ王』はリディアの記憶に未だ残り続けている。今までで唯一、あれが勇者と魔王の戦いに割り込んできた勢力なのだ。忘れるのはむしろ難しい。


 オーベロンいわく、『不死ノ王』は純粋なアンデッドではないらしい。異界からの転生者だったようで、この世界に転生して様々な経験を得た結果、人類を滅ぼす結論に達してしまったようだ。


 でも仕方ないのかもしれない。人の精神で魔物――それもアンデッド系統の存在になってしまっては、まともな考えを持ち続けるのは、まず無理だろう。


 他者との触れ合いを求めても、軋轢は必ず生まれるだろうし、小さなことでも積み重なっていけば不死の存在ならば、負責はいずれ大きく膨らんで――破裂してしまうはず。


 「その子らってまとも?」


 『まともとは言い難いな。片割れ――スケルトンの方は人間を憎んでいるな。片方の吸血鬼は……少々独特だ。『不死ノ王』が人間だと薄々感づいてはいたようで、その苦悩、決断に興味を示していた』


 「……。なるほど。……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、吸血鬼の子に会ってみようかな。もし会話出来るなら、してみたいかも」


 『おすすめはしないがな。かなり危うい感性をしている。こちらの言葉にどう反応するのか予測出来ん』


 「……それでも、実際に会ってみたいかな。どこにいるの?」


 オーベロンは軽く吐息をつく。


 『我が輩らが蛙を放った『死の森』に居着いている』







 

 

 オーベロンは全てを見通す力を持っているが、あらゆることに対応できる訳ではない。彼は全てを見透かせても、他者を強制的に従わせるための術がなかったのだ。


 何より彼は全てを理解してしまうがために、その他者に対して感情移入をしてしまうことがあった。


 本当は、リディアに吸血鬼のことを言うべきではなかった。


 しかし、リディアが自身と共に居続けられる存在を求めていることを知っていた。


 リディアはフラワーやパック、オーベロンやティターニアとも交流がある。けれどそれでも、満たされない何かがあるのだ。


 その、『何か』を埋めるためにリディアは不死に近い『誰か』を求めている。


 でも彼女自身、『どんな誰か』を欲しているか分っていない。そうであるから、オーベロンもどうしようもなかった。


 だからリディアの心の隙間を埋める手助けとして、吸血鬼のことを伝えたのだ。


 ――オーベロンは、そのことをずっと後悔している。


 愛おしいと思っていたもの全てを自分が壊してしまったのではないかと。


 少なくとも、きっかけは自分せいだと、ずっと、思っていた。


 その自問は、全てが終わった後、現代まで、決して終わることはなかった。


 全てを知っていても、何が正しかったのか、未だ分からないままなのだ。

 






 

 『彼女』の名前はアスカという。『彼』がいた世界で朱い鳥という意味を持つ字面をしているんだとか。血のように赤い瞳と髪を持って生まれたため、その名をつけられた。


 アスカは『彼』にとってお気に入りであった。


 『彼』がこの世界で、アンデッドという魔物ながらも受け入れてくれた村の子供だった。


 その村で特殊で特別な関係を築いた女性から生まれた子供、それがアスカだった。


 『彼』がアスカに向ける視線は、子を愛でる親のようで――同時にどこか悲しみを含んでいた。


 アスカは彼の情動なんてよく分からなかったから、それが本当に『悲しみ』だったなんて、よく分からなかったけれど。でも、同じようなたぶん辛いであろう顔をするときがあったから、合ってるはず。


 少なくとも、悲しみを受けるためか『彼』と若干ながら心の距離があったのだけは分かっていた。


 でも、悲しかった――ということもなかった。


 ただ、興味が湧いた。


 優しくされるというのは心地良かったから良い。こちらも向こうも『嬉しい』ことなのだろう。


 でも、『悲しみ』というのは辛いことなのだろうと察した。


 それで思ったのだ。


 なら、何故、そんな辛いことをするのだろう、と。そう感じてしまうのなら自分を消してしまえば楽になれるのに、と。


 直接聞いてみた。


 でも、教えてくれなかった。


 というより、『彼』自身分からなかったようだ。ただ、それは「嫌」だったらしい。


 アスカはとても興味が湧いた。


 『彼』の『それ』はとても矛盾染みたものなのだろうと理解した。


 『彼』はその時には世界を滅ぼすことを決意していた。


 優しい『彼』が、だ。迷いはあったようだ。でも怒りもあって、悲しみもあって、少々の狂気もあって――『彼』は破滅の道をひたすら進んだ。


 その矛盾の果てに何があるのか、『彼』がどんな結末を手に入れるのか、興味がそそられた。


 けれど、道半ばで『彼』は果ててしまう。


 勇者と魔王――そしてその中にいた黒衣の魔女に滅ぼされたことによって。


 『彼』を失ってしまった。


 彼女はその時理解した。


 『悲しみ』を。


 『彼』が死んだことにではなく、『彼』がどこに辿り着くのかを見届けられなかったことを。


 そんな彼女に他者に対する憎悪はなかった。


 悲しみを関連付けて、自身の他の感情に繋げられるほど、まともではなかったから。


 ただただ、悲しく、喪失感だけがあった。


 だから、『彼』がいなくなって何をすべきか分からず、フラフラとお供のスケルトンと一緒に生きていた。


 そんな彼女に転機が訪れる。


 「初めまして、かなん?」


 『彼』を滅ぼす助力をした黒衣の魔女がやってきたのだ。


 彼女――リディアはアスカのことを覚えていなかったようだ。


 いや、覚えている以前の問題かもしれない。


 そもそも当時、彼女を見たのは遠くからだ。『彼』に戦いに巻き込まれないようにと、護衛のスケルトンに守られていたのだ。


 スケルトンもリディアのことを覚えていたようで、怒り狂って攻撃したけれど、全てを無効化されてしまう。


 無理もない。『彼』はアスカが思う中で最強の存在であり、そんな『彼』に引けを取らなかったリディアが弱いはずもない。


 向こうに敵意がないのが幸いか、まだ自分達は消滅していない。これ以上したらどうなるか分からないけど。


 「やめよう、意味がない」


 「アスカ様――――彼奴は――!」


 スケルトンは怒り心頭と言ったところか。


 アスカは、この子は骨しかないのに、自分以上に感情が豊かだな、と感心してしまう。


 これで自分より強かったなら観察に値するのだけど、残念ながら、このスケルトンは自分よりも弱かった。


 「良いから、下がって」


 「……うぐ……分かりました。ですが、あやつが何かしようものなら、我は黙っていませんぞ」


 かしゃかしゃと音を立てつつ、スケルトンはアスカの一歩後ろに下がる。それでも視線に敵意と憎悪を入れてリディアを睨むのはやめない。勝てないと分かりつつも、平服しないのはさすがだと思う。感情とは実に面白い。


 リディアに視線を戻すと、彼女の肩口には見慣れない人型の小さな虫がとまっている。時々あれの女型を戦場跡などで見かけたりするけれど、同種だろうか。


 何かこちらを見ながらリディアに囁いている。


 まあ、どうでも良いだろう、とそう判断する。


 アスカは『彼』に見せると嬉しそうにしてくれた笑顔を浮かべて、ボロボロになったドレスの裾を持ち上げて礼をした。


 「初めまして、私はアスカと言います」


 「……うん、『初めまして』、だね。礼儀正しくありがとう……」


 リディアが何故かぎこちない笑顔を向けてくる。そして小さなため息をついた。


 「パック、『説明』はいいや。思った以上にやりにくい。主に私が」


 《そっかー。やっぱりかー。マスターも人付き合いするとき、リディアと同じことぼやいていたよ》


 「大変なんだねえ」


 何か、しみじみと頷いている。


 けれど、次にはちゃんとした笑顔をアスカに向けてきた。


 「ごめんごめん、改めてよろしくね、アスカちゃん。それでそっちの子は……」


 リディアがチラリとアスカの後ろにいるスケルトンを見やる。


 一応、このスケルトンにも『彼』から授かった名前はあるが――、


 「貴様のような奴に名乗る名などない!」


 「らしいよ」


 「そ、そっかー」


 リディアは淡々とするアスカと激情を露わにするスケルトンにたじたじとしているようだ。


 どんな会話をすべきか悩んでいるようで、少し間があく。いわゆる気まずい沈黙というのが支配するが、アスカは気にしない。


 むしろ、その最中にぼんやりと考えて気になったことが出来た。


 『彼』が倒されたのは随分前だ。正確な年月なんて覚えていないけれど、成長が遅いらしいアンデッドの自分達が一、二度進化する程度には長い月日が流れていた。


 少なくとも生者が何度も土の中に伏してしまうようなほど、長かったはず。


 なのに、何故、彼女は生きているのか。そんな長い時を生き続けた存在は知らない。『彼』もアンデッドでもなければ、生者はいずれ死んでしまうと悲しんでいた。決して『不老』や『不死』に関連した能力は手に入れられないと。


 興味が湧いた。


 「貴方はアンデッド?」


 「え? ううん、普通? の人かなぁ……たぶん」


 「魂はそうみたい。……少し変な感じだけど」


 アンデッド種特有の壊れかけの魂をしていない。かと言って、人とは言えないほどその魂は歪なほど大きい。


 ほー、とリディアが興味深げにアスカを見やる。


 「魂が見えるんだね。やっぱりアンデッド種はそういう力に秀でているのかな?」


 「たぶんね。まあ、見えるって言うより、感じるって言った方が正しいけど」


 そこまではっきりと魂と感知出来るわけでもない。それ関連のスキルも未だ手に入れていない。


 「それで貴方は、何? なんでここに来たの? 私達を探していたの? でも、初めましてのはずなのに?」


 気になったことが口から、ぽろぽろと零れ落ちてしまう。


 「ちょ、ちょっと待ってね、一つずつ答えるから」


 淡々としながらも積極的になったアスカにリディアが手の平を向けて制止を促してくる。


 と、そこでアスカは『彼』とのことを思い出す。今と同じように気になったことを一気に質問すると『彼』は困惑してしまっていた。


 当時は『彼』にたしなめられて気をつけてはいた。けれど最近は気になることも特になかったから、ついうっかり教えを忘れてしまっていた。


 それに質問するにしても相手にとって答えづらいこともある、ようだ。でも、長く一緒にいるとふとした拍子に話してくれるようになる。理由は分からないけれど、雰囲気が柔らかくなるとそうなるらしい?


 リディアと一緒にいて、雰囲気が柔らかくなったら教えてくれるだろうか。彼女のことを全部。


 「えっとね、私達強い存在を探していたの。その子をもっと強くして『魔王』にして、『偽神化』っていうのを得られるようにするのが私達の目的。それで、私達には『目』が良い子がいてね、それで候補の一人として貴方達が上がってきたの」


 「つまり、私達を強くするために迎えにきたの?」


 「そういうこと」


 アスカの理解が早かったためか、リディアが優しく微笑みかけてくる。


 ――実に興味がそそられる。なんのため、を聞いたら答えてくれるだろうか? 


 この誘いには裏がある? だとしたらリディアには何か目的があるはず。


 それに魔王と言ったら、『彼』とやりあった存在の一人のはず。


 『彼』は魔王が人類を脅かす存在だと言っていた。優しい『彼』は人類を守るために、魔王と渡り合えるような力を求めて、強くなろうとしていたらしい。


 それで『王種』になって、魔界に行ったら『声』が直接語りかけてきたことを少しだけ聞いた。そこでこの世界の真実を知ってしまったそうだ。


 その『真実』が何なのか分からなかった。教えてくれなかったのだ。


 『彼』は「もしかしたら、怯えさせるだけかもしれない」と悲しそうにそう言っていた。


 あぁ、そうだ、思い出した。ずっと、その『分からない』という、わだかまりが残っていたのだ。


 ならば、リディアについていけば、その知らなかった何かを知ることが出来るのだろうか。


 この凍りかけた無為な時間を動かすことが出来るのだろうか。


 誰かの何かの結末を見ることが出来るのだろうか。


 行くべきだろう。――でも、後ろのスケルトンはどうだろうか。確認だけはしよう。


 「私は行こうかな。貴方はどうする?」


 「なっ――! 彼奴は『あの御方』を滅ぼした人間ですぞ! 貴方も見ていたでしょう!」


 「見ていたよ。見ていたけど……うん、そうだね、それ以上の感情がないや。『彼』は好きだったけど。あれとこれの感情を、どう結びつければ貴方のようになるんだろう? ……やっぱりあれを見ていて、しっかり感情を出せる貴方はすごいね」


 アスカは振り返り、スケルトンの頬骨を両側から手で挟んで顔を近づける。


 「む、う――」


 スケルトンが何やらたじろぐ。これはどんな感情だろうか。分からない。まあ、面白くはある。


 ずっと見ていたかったけれど、アスカはスケルトンから視線を外して顔をリディアに向ける。


 「ねえ、リディア。貴方についていったら、戻ってこられる?」


 「……たぶんね。最終的に『制定者』っていう子のところに行って、目的を達成出来たら戻って来られると思うよ。そうなる予定ではある。……でも、確実とは言えないかな」


 「可能性があるならいい」


 リディアは隠し事は出来ないタイプだろう。『彼』も似たような感じだった。ある意味、『彼』とリディアは似ている? なら興味を持ってしまうのも自然だろう。


 アスカはスケルトンに視線を戻す。


 「貴方にお願い。ここで待っていて。いつか戻ってくるから」


 「そんな――意思が変わらぬというのなら、我も貴方と共に――」


 「『彼』の命令はもう聞かなくていいと思うよ。それに『彼』が言っていたよ。私達アンデッドは生者とは馴れ合えないって。いつかは亀裂が生じるって。受け入れようとしたらしい『彼』が駄目だったら、きっと貴方はもっと駄目だと思うよ」


 「う、ぐぐぐ……」


 スケルトンが唸る。反論はしてこない。


 「これは私のワガママ。そして『彼』の真似。待ってて、必ず戻ってくるから。――そう言って、あの後、『彼』は戻ってきたら、どんなことを感じたんだろうね」


 「そ、それは不吉では?」


 「そうなのかな。分からないから試してみたいの」


 「…………」


 スケルトンはため息をついた。なにやら諦めたらしい。『彼』もアスカの情動がおかしいことに度々、こういう風に諦めていたから理解している。


 そして、こういう時は大抵許されるものだ。


 「……約束ですぞ」


 「うん、約束」


 アスカはスケルトンの小指と自分の小指を絡ませる。確か『彼』は約束を結ぶ時、こうするものだと教えてくれた。意味はない、ただの願掛けらしい。


 挨拶みたいなものなのだろう。でも、何もないよりはマシだ。


 アスカは少し、たぶん、名残惜しくもあったがスケルトンと離れて振り返る。


 「じゃあ、行こう、リディア」


 「うん、よろしくね、アスカちゃん」


 そうしてアスカは差し出されたリディアの手を取るのであった。

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