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人ならざる者に与えた優しさとその代償⑤

 時間の流れは、リディアにとって苦痛を伴うものだ。変わらないからこそ、それを分からせるかのように精神を摩耗させるが如く削ってくる。


 ティターニアやオーベロン達と関わるようになったことで、時の流れに『奪われる』感覚は以前より薄くなっていた。しかし、なくなったわけではない。


 時は過ぎて、ウェイトは年を食っていく。自分より老けていく息子を見続けるのは辛かった。


 「……それでは母さん、さようなら」


 そして『いつもの』ようにウェイトと別れを告げることになる。


 以前から度々、人里に降りて貰い自分達以外と触れ合う機会を設けていた。


 それにウェイトは珍しいスキル持ちで、リディアから直々に戦闘訓練を積ませていた。いつの時代も魔物の脅威はあったから、傭兵などを生業として生きていくのには困らない。


 ウェイトは十分立派に育っている。けれど親としたらやっぱり子供は子供のままなのだ。不安がある。でも、一緒に居続けて、彼を『見送る』ことも耐えられなかった。


 だからリディアは笑顔で言うのだ。


 「うん、元気でね」


 そうしてウェイトと離れることになる。


 いつもと変わらない。彼も老いて朽ちていくことは避けられないのだ。


 この世界で『不老不死』のスキルは手に入れられない。スキル――魂……その元となる『魔力』と呼ばれるものの性質上、存在しないということはない。実際、リディアの『不老』のスキルは『制定者』によって造られ、与えられたものだ。


 そんな『制定者』が不老不死が造られないよう世界の理を弄っていた。不老不死の力は強い存在を造るという目的に沿うものだが、際限がないという危険性を孕んでいるのだ。


 それが魔界に存在する制御不能の『魔神』であり、いつしか世を混乱に陥れた『不死ノ王』である。


 だからこの世界が『終わる』まで、少なくともその時までは不老不死は造られない。


 そうであるからこそ、『育てる』ことは何よりも重要になってくる。


 「……じゃあ、私もそろそろ行こうかな」


 少しの間、――いや、もしかしたらこの家には戻らないかもしれない。


 でもそれでも良いのかも知れない。


 大切な思い出が残る場所であっても、捨てていかなければ、いつまでも思いに縛られ続けることになるのだから。






 

 

 時は着実に流れて、現代から千年前ほどになる。


 数百年以上の積み重ねは、着実な進展を見せる。


 『偽神化』を手に入れた魔王が『制定者』の元へ多く集っていたのだ。あと数度、『偽神化』持ちを造り出せば、目的は達成出来るはずだった。


 そして、目的を達成した後、『起こること』にも主眼が当てられるようになってきた。


 《マスター、以前提案したこと、検討してくれましたか?》


 ティターニアが祀られる神殿の中。時の流れで、多少風化しているところも散見されるが魔物達はせっせと補修を繰り返すため、崩れそうな雰囲気はない。


 そんな神殿の最奥でティターニアは変わらず燐光を纏いながら、浮いていた。


 『ええ。オーベロンが提案していた『魔道具』――その中で人類が見出した、魔晶石の増産に関する案ですね。確かに今後のために魔力中和の手段は持っておくべきでしょう』


 《なら――》


 『ですが、増産に至るまでに様々な問題があります』


 《問題、ですか……》


 フラワーは難しそうな顔をする。恐らく自身でもその問題点について理解しているのだろう。


 『貴方が言う魔晶石を造るためには、人類の発展が不可欠です。その点に関しては、オーベロンが調整するので問題ないでしょう。しかし、この世界の物資はそれほど多くはありません。今なお『広がり続けている』と言っても、有限であり、魔晶石作成に使うであろう鉱石もこの近辺に『それなりに多くある』程度です』


 その上で、とティターニアは続ける。


 『人類を如何に統制するか、が問題なります。魔晶石の効果について色々と聞かせてもらいましたが、可能性の塊です。それ故に人類に委ねてしまえば無作為に造り、すぐさま消耗してしまうでしょう』


 魔晶石を増産するためには、組織が必要不可欠となってくる。個人や少数では限界があるのだ。魔物も集落を造れるし、毎度魔王を中心とした組織も作れるが、何分彼らは道具を使ったスキル修得が出来ず、人間ほど発展が早くない。そもそも己の力に頼る形になっているため、道具作り自体しないのだ。


 だらかこそ『作る』という分野においては人類に任せたいのだが、魔物以上に制御が難しい。


 《……そうですね。それに関しては異論はありません》


 フラワーは少し悲しげな顔をする。


 彼女はリディアだけではなく、他の人間とも触れ合う回数を増やしていた。しかし、必ずしも良好な関係を築けたわけではない。


 人の良い彼女を騙したり、捕まえて見世物としようとしたりと少なからず悪い部分も見てきた。何より自分が被害に遭っていたから人類に対して楽観的に物事見ることはなくなっていた。


 でも、それでも優しい人はいたし、リディアと同じく良好な関係に至った例もある。


 そんな人類を観察してきて、どういう組織を作れば良いのか、はなんとなく分かった。


 《なので、『宗教国家』を作るべきかと。厳格な信仰があれば、節制させることも出来ます。無論、それでも己の欲望に忠実になってしまう人達は出てくるでしょう。『完璧』はたぶん無理です。……そこで、何らかの象徴を据え置くべきだと思います。たとえば、マスターを『女神』として信仰させる、などです》


 『今で言う魔物と私達の関係と同じですね』


 悪くはない案だ。実際に上に立つ存在が『上位存在』として見られると統制がしやすくなる。それが自分達に利益を与えてくれるのならなおさらだ。命令も従順に聞いてくれるようになるだろう。


 しかし、フラワーの案にはやはり問題点がある。


 『信仰対象は『私』とすることは出来ません。私は魔物の生育管理者であり、その任から逸脱することは出来ません。何より人類と魔物は敵対です。中間に立つことはまず無理で、『二つの帽子を被ること』は裏切りにも等しい行為でしょう』


 不義は、信心を損なう。決してやってはいけないことだ。


 《やはり、できませんか?》


 『出来ないことはないですが、長く続くことはないでしょうね。……ただ、私以外で適任がいないのは確かなのですが。オーベロンは……出来なくはないでしょうが、顔が広く知れ渡ることを良しとしないでしょう』


 姿は一応、変えることは出来る。しかし、数千年以上同じ姿を続けてきたのだ。愛着もそれなりに出てきたため、あまり変えたくはない。……目的のためなら、無用な感情は捨てるつもりだが。それはそれとして、やはり姿を変えたとしても一人二役は物理的にも難しい。


 《そう、ですか……》


 フラワーはしょんぼりと項垂れてしまう。


 ティターニアは軽く吐息をついた。


 『……ただ、貴方の案はしっかりと先を見据えたものであるのは確かです。私達の目的は『人類を救う』ことであるため、それを達成させるために尽力するのは当たり前のこと。……私もさらに検討してみます』


 《――! はい、ありがとうございます!》


 フラワーが嬉しそうに破顔する。


 ティターニアは、フラワーを見て、ずいぶんとコロコロと表情が変わるようになったな、と思う。ずいぶんと感情表現豊かになったものだ。


 そしてそんな彼女の悲しい顔をあまり見たくないからとちょっとだけ甘くなってしまう自分も以前と比べて『感情が豊か』になったのだろうか。自分ではよく分からなかったが、――客観的に見るとたぶんそうなのだろう。


 ――さて、フラワーの考えを脇に置かず対応策を考えてあげよう。場合によっては象徴をリディアとするのも良いかもしれない。そういうことは好まないだろうし、最終手段として考えておこう。


 このことについてはフラワーからではなく、自分から伝えようか。


 確か、今は時期魔王候補を見つけるために各地を放浪しているはずだ。一応、拠点はあるらしいから会ってみるのも良いかもしれない。


 ……そうティターニアは考えるが、彼女がリディアと再会することはなかった。

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