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いきなりはビックリすると思う

 一旦、話をやめて、小休憩を取る。


 リディアはお菓子を食べて、紅茶を飲んで一息つく。ラフレシアもウェイトさんから貰ったお菓子と紅茶を食べている。


 過去の話は今のリディアやラフレシアにとって精神的負荷が大きいものであるから、ゆっくりと話すべきだろう。俺は聞くだけだし、無理無茶は言わんよ。


 しかし、うーむ、リディアとラフレシア……妖精って想像以上に仲が良かったみたいだね。それが今では互いに憎しみあってるとか、本当に何があったんだろう。


 ラフレシアが言ってた『イカれた糞女』が相当なことをやらかしちゃったのか。


 ……でも、それだとそいつが悪いのであって、リディアとラフレシアの仲に亀裂が入りそうにはなさそうだけど……。仮にそいつをリディアが連れてきて育ててたとしてもだ。


 なんかあれだな、この後の話は聞きたいような聞きたくないような……。


 あっ、そういえば――、


 俺はウェイトさんとリディアに視線を向ける。


 (親子だったの!?)


 「ええ、こちら私の母です」


 「こちら私の息子です」


 リディアとウェイトさんが互いを指し示して笑顔で言う。なんかリディアは若干苦笑気味かな?


 いやー、意外過ぎたわ。どういう関係か気になってたけど、まさか親子だったとは。


 ……ん? そうすると疑問が……。


 (何故、ウェイトさんはリディアの命狙ってたりするんです?)


 かなり聞きにくいことだけど、尋ねて見る。妖精みたいに嫌い合ってる様子もないし、むしろかなり仲が良さそうだけど。


 するとウェイトさんは悲しそうに視線を伏せて軽くため息をついた。


 「私も実の母をこの手で殺めたくはないのですけれどね。ですがうちの母はたくさんのことを抱え込んでボロボロになっても諦めずに生き続けようとするのですよ。……歪んではいますが、その救済のため、とでも言いましょうか」


 「私は望んではないけどねえ。それに実の息子に殺させるのは不味いでしょ」


 「そもそも私程度では母を殺せませんけどね。ですが、母が『諦めたら』別です。その時は、母の魂は妖精達に絶対に奪われないようにするつもりです。それが目的ですから」


 ウェイトさんはそう言ってラフレシアに視線を送る。ラフレシアが視線を合わせると、ふいっと逸らしてしまった。


 なんかリディアの魂って妖精達にとって重要っぽいね。なんか『制定者』に対して何かしら出来るようになるらしい?


 まー、俺には関係のないことだし詳しくは聞かない。ただでさえ重い昔話をこれから聞くことになるんだし、難しい話なんてこれ以上、詰め込めるかっ。


 なんか話題を変えようか。でも、大きく変えるのは不自然だし――――あっ、そうだ。


 現在のオーベロンさんのこと聞こうかな。


 ティターニアについては……別にいいかな。なんかあったのは、ニュアンスで分かる。


 あと、前に妖精のネットワークに繋がった時、その最奥に無数の妖精に纏わり付かれた存在を確認した。もしかしたら、たぶんあれがティターニアなのかもしれない。どういうことになって、ああなったのかは分からないけど、囚われてるっぽいね。まあ、そこは過去話で語られるだろう。


 けど、オーベロンさんについては分からない。人間側を発展させたがってたようだから、今の妖精達とつるんでる可能性も考えたけど、そういう話はちらっとも聞かないし。


 『我が輩があいつらとつるむのはあり得んな』


 (!?)


 「は!? え!? オ、オーベロン!?」


 「……。……おや、珍しい」


 《え!? な――え!?》


 びっくり。なんかいつの間にか部屋の隅っこに、ボロ衣を纏ったおじさんが座っていたよ。


 豊かなヒゲを蓄えたナイスシルバーだ。一見してホームレスっぽさを受けるが、ボロ衣も肌もそれほど汚れていないから、イメージとしてはさっき宿屋の風呂でも浴びた『清楚な旅人』的な感じ。


 そんなオーベロンさんに皆がわたわたしている。ウェイトさんですら、どう動くべきか迷っている節がある。もしかしてお茶とお菓子の控えがないのかしら。……俺ので良いならあげるけど……。


 『さすがに貴様のはいらん』


 そっかー……。ちょっとしょぼん。


 ……と、俺は心を読んで貰ってお手軽に会話していると、一番慌てているリディアが立ち上がって、……けれど進み出せずオーベロンさんを見つめている。


 なんかあれかな、メタ○スライムみたいにすぐ逃げる感じなのかな? あいつと戦う時ってターン進行させる前に祈りが入るよね。


 『逃げはせん。姿を現すこと自体が稀なだけだ』


 出現がとにかく低いレアキャラってことか、なるほど。


 俺がオーベロンさんと不思議な会話をしていると、ようやくリディアが口を開いた。


 「どうして……『あれ以来』、ずっと呼んでも現れなかったのに……」


 『我が輩は『中立』だ。貴様らのどちらにも手を貸すつもりはない。……妖精共がやらかしたことは気に食わないが、奴らが現在進行形で行っている『研究』は我が輩としては認めざるを得ないのでな』


 オーベロンさんはラフレシアをちらりと見やる。その視線には若干ながら、敵意に近い何かがあった。……あー、ティターニアってやっぱり無理矢理封印しちゃった系かな? 昔話からしてオーベロンさんってティターニアのこと好いてたっぽいし。


 ラフレシアが、ビクッと震えたけど、頑張ってオーベロンさんを真っ直ぐ見つめ返していた。


 《……ならなんで今きたの》


 『同時に貴様ら妖精共が気に食わないからだ。こじつけるなら、貴様がこの場にいるからだな。だが、もし貴様が自由意志を完全に奪われて奴隷にされていたのなら、現れるつもりはなかった』


 えっ、じゃあ、俺のファインプレーでなんか奇跡起こしちゃった感じ?


 『ある意味ではな』


 やったー。


 俺は喜びのあまり、ぴょこぴょこと跳ねる。


 (んで、何かあってきたんです?)


 『貴様にとって、いくつかの面白い情報を提供しにな。……だが言っておくが戦況を変えるような情報は渡すつもりはないぞ』


 面白い話ってなんだろう。戦況とかについては、俺は別に興味ないからいいけど……。むしろどうでも良い。


 いや、それよりもだっ。


 (パックくん! パックくんは、おらんのですかっ!)


 俺が割とガチめな雰囲気を出してオーベロンさんに歩み寄ると、なんか小さく笑われてしまった。


 『……まあ、いるが。パック』


 《はーい》


 オーベロンさんの隣にパッと小さな妖精が現れた。


 わー! 男の子型の妖精だー! 可愛いー! 想像の数百倍可愛いー! めっちゃ興奮してしまう!


 俺がしゃかしゃかと歩み寄ると、パックくんに少し物理的に退かれてしまう。


 《あ、あんまり勢い良く迫られるのは怖いというか……》


 (あら、ごめんね。あっ、ちょっと頭乗ってくれると嬉しいかも。座って良いのよ?)


 《えっと、はい、分かりました》


 なんか心の距離感も若干ながらあるように思えるけれど、そんなの気にしない。


 それよりもだっ!


 今っ、俺のっ、頭の上にはっ、パックくんが、ぺたんこと座っているのだっ!


 この事実に、俺は興奮のあまり昇天しかねないっ!


 (FUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!)


 俺はパックくんを頭を乗せつつ、室内をグルグルと闊歩する。


 興奮しているけど、揺れないように慎重に。こういう時こそ、ジェントルマンであらねばっ。


 《……マスターがいつにも増してキモイ……》


 ラフレシアがそんなことを呟く。


 《は、はは……》


 パックくんは、苦笑い。俺が言うのもなんだけど、気持ちは分かるよ。


 俺はパックくんの存在をひとしきり堪能して、今度はテーブルの所まで歩いて行く。んで、頭の頂点をテーブルと同じ高さにして、渡りやすいようにした。


 (パックくん、降りて降りてー)


 《えっ……はい……》


 パックくんが一瞬躊躇う。まあ、無理はない。そのテーブルにはラフレシアがいるからね。パックくんからはラフレシアに対して敵意はないけど、気まずさはあるんだろう。


 で、ラフレシアはというと、俺を睨んでくる。


 《……マスター、なんのつもり?》


 (何のつもりも何も俺は、基本的に自分の欲望に忠実なのだ。はい、パックくん、ラフレシアの横に行ってねー。そうそう、いいよー。はい、こっち向いて)


 パックくん、心を読めるだろうけど滅茶苦茶困惑したようにラフレシアの隣まで歩いて行く。


 そしてくるりと振り返って、じーっと見つめる俺に小首を傾げる。


 《あ、あの……》


 (んがぁわぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)


 《わっ!?》


 俺はラフレシアとパックくんが横並びになったツーショットを見て、興奮が最高潮に達する。


 思わず自らの尻尾を追いかけてその場をグルグルと回るという行為で溢れ出る心情を発散させていた。


 ちなみに大体の皆には引かれてしまった。


 「……アハリちゃんって時々物凄く狂うよねえ……」


 《犬の見た目だけなら可愛いで済むけど、中身は二十代の男……》


 《え、えっと……ははっ……》


 ちなみにウェイトさんは穏やかに俺を微笑まし気に見つめていて「元気ですね」と言っていた。オーベロンさんは顔を押さえて笑っていた。


 『これはこれで……。感情をめい一杯偽りなく表せる奴を見るのも面白いものだな』


 楽しんでいただけて幸いです。俺もすっごい楽しかった。


 (よしっ、じゃあ最後にルイス将軍とバーニアス将軍連れてきて、ウェイトさんとオーベロンさんを並べてイケオジ名鑑創ろうぜっ)


 早速俺はしゃかしゃかと部屋の外に出ようとしたけれど、いつの間にか扉の前にオーベロンさんが立っていた。


 『待て。そんなことをされると収拾がつかなくなる。まあ、貴様を見ているのは面白いから放置したい気持ちもあるが』


 (じゃあ、ほっとくのもありでは?)


 『話が進まんからナシだ』


 えー。まあ、仕方ないから良いけど。


 (あっ、そうだ。お願いが。パックくんを――)


 『駄目だ』


 (まだ何も……)


 『駄目だ』


 (可愛いから――)


 『駄目だ』


 ちゃっかりパックくんを一人もらい受けようとしたけど、全力で拒否られてしまった。まあ、この対応の間、笑みを浮かべていたから、気を悪くはしてないようだけど。


 むしろ俺がむっすりしてしまう。


 (オーベロンさんのケチー)


 俺はオーベロンさんに尻を向けて、尻尾でペチペチと脚を叩く。でも、すぐに尻尾を掴まれて止められてしまう。――くっ、さすが心を読めるだけある。無駄なく的確に掴まれてしまったぜっ。


 『そこは心を読めるのとは関係ないがな』


 オーベロンさんは俺の尻尾を放し、リディアとラフレシアを視界に収める。


 『それより昔話を再開したらどうだ? 貴様らにとって空白の部分を埋める一助をするつもりではあるからな』


 (空白?)


 『そこの妖精が狂った――』


 《マスター!》


 パックくんがたしなめるように声を出したけど、オーベロンは払うように手を軽く振るう。


 『言わせろ。そこの妖精が狂った原因を呼び覚ますつもりだ』


 これにはラフレシアもオーベロンさんを睨んでしまう。


 《『私達』は狂ってなんか――》


 『ない、とでも言うつもりか? 『カスレフ』のことで自身に嘘をつき続ける姿は、悍ましさしか感じないがな。今の貴様なら気付かないか? 人憑きの奴らはまだしも、フリーの貴様らはその影響を強く受けていることを』


 ……もしかして、バックアードを倒す時に表れた妖精達ってガチで狂ってた感じなのか?


 俺のその考えにオーベロンさんは頷く。


 『もちろん人によっては対応を変えるが……融通が利かず、思い込みが激しくなり、激情に駆られることがある……典型的な精神異常が現れている』


 《……っ》


 ラフレシアは何か言いたそうだったけど、何か思い当たる節があったのか言葉を紡がなかった。


 『貴様がつき続けている『嘘』を露わにする』


 (……それって大丈夫なんですかね)


 かなり不安だ。


 『無事では済まんだろう。そこら辺は貴様がカバーしてやればいい。……我が輩とて、心を読めるだけで相手がどうなってしまうのかまでは分からんからな』


 そう言ったオーベロンさんはどことなく悲しそうな表情を浮かべていた。


 ラフレシアに対して敵意はあれど害意はないんだろうな。


 『害』にならないように俺が注意しとくべきか。


 んでは、また昔話を始めてもらおう。今度は恐らく『転がり落ちる』話になるだろうから、気を引き締めておかねば。

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