人ならざる者に与えた優しさとその代償①
この世界の始まりは、五千年前から。
始まり、と言ってもこの世界の誕生を望んでいた者など一人もいない。
少なくともリディアはそうだったし、長らく続く苦悩を思えば始まりなどなく、いっそのこと滅びを迎えてしまった方が良かったとすら思っていた。
それでも『制定者』はリディアのために次元の狭間に取り残されようと頑張ってくれていた。だからこそ、そんな『制定者』のためにリディアも諦めるわけにはいかなかった。
幸い、目的は定まっていた。
その方法も分かっていた。
けれど、その結果に至るまでの道筋が一切なかったのだ。
だから一歩ずつ、その暗闇を進む必要があった。
必要なのは『世界を創る力』。
比喩でもなんでもなく、世界を創らねば目的は完遂出来ない。
魔界に存在する三柱の『魔神』は、その過程で創られた。
初めから莫大な力を注ぎ込まれて、目的の力を有した状態で生み出されたのだ。
しかし、『魔神』を制御することは難しく、さらには処分することも叶わず、魔界にうち捨てられることになる。
『魔神』へと至った魔物は、『制定者』ですらどうすることも出来なかったのだ。
そのために『魔物』を一から育てる必要が出てきた。
魔物を制御するために進化と力の上限を定めねばならない。
進化の上限は『王種』。力の上限は『偽神化』。
その育成という目的の末に生み出されたのが『成育管理者』ティターニアだった。
他者の魂を手繰り、与え、時には穢れた精神を浄化することで魔物を段階的に成長させて最終的に目的の力を手に入れさせる。
そんな彼女を補助するために群体である妖精も付加される。
妖精はティターニアの目であり、手足だ。彼女達にも魂を操る力を与えられ、世界に解き放たれた。
女神を含め、彼女達は目的のための道具。本来の彼女達には自我はなく、ただただ与えられた命令に沿って行動してきた。
けれど、それは長い時を過ごすため、『制定者』の優しさによるものだった。リディアの苦悩を知っているため、感情はただ辛い思いをするだけだ。何よりも目的のために世界の大半の生物を数え切れないほど何度も殺すことになるのだから。
……しかしそんな彼女達は魂に触れ合うことで自我が芽生え、感情を得たせいで『苦悩』していくことになる。
彼女達、妖精に与えられた目的は、魔物を強く育てること。
そのためには、魂が必要となり、そのためには、生物の死が必要になる。
そして、さらに強く育てるためには、強い魂が必要になってくる。
故に妖精は、おびただしい死の上を飛び回っていた。
だから、当時、妖精は死をもたらす存在か、死にたかる羽虫のように忌み嫌われていた。
――しかし、彼女達はその評価など気にもしていなかった。
彼女達にとって目的だけが全てだったから。
それを完遂しなければ、全てが終わるのだから。
ならば、為さねばならない。
そもそも、感情がないため、何も感じないはずだった。
それに、話しかけてくれる相手は本来なら、いないはずだった。
「やっほ、妖精ちゃん」
そんな彼女達に気軽に話しかけるのは、リディアだ。
《なんですか? 何か問題でも?》
とある森の奥、質素な丸太小屋を前に、丸太を切って作った簡素な椅子に座り、ティータイムを過ごしていた。
「んーん。通りかかったのを見てね。ちょっと話相手が欲しくて……。なんか、こう恭しくしない相手と話したくって」
《そうですか》
「忙しい?」
そう問いかけてきたリディアはどこか不安げでもあった。
《お待ちください。……。ティターニアや他端末に確認を取りました。私が抜ける程度では、計画に支障は出ないとのことです》
「そっか、良かった……」
リディアはホッと胸をなで下ろし、嬉しそうな笑顔を向けてきた。
恐らく、寂しかったのだろう。
周りにはリディア以外の人間はいない。まあ、一応、この森を抜けた平原にいくつかの集落があるが。
けれど文明レベルは低い。
今は、農耕時代に入ったくらいだろうか。
リディアもある程度手助けをしているらしく、そのせいで神様のように扱われてしまっているのだとか。それがどうにも居心地が悪いらしい。そのため、こんな辺鄙なところに暮らしているようだ。
――この世界に起こった災害によって、大半の人間が死滅してしまった。それによって以前あった文明も技術も失われてしまったのだ。
それでも一千年ほどの時をかけて、すこしずつ人類を増えていた。
こちらの手助けもあれば、数百年とかからずに文明と人口を中世レベルまで引き上げることが出来るだろう。
しかし、そこまで人口が増え、文明が昇華されると『魔王計画』が始動することになる。そうなれば人類の数はまた減ってしまうだろう。
文明や生物種の保存は『生命管理者』オーベロンが担当することになっているため、問題はないようだが……。仮に滅亡してしまっても、再度文明を起こして中世レベルに至らせるのを、かなり短縮出来るようだ。
妖精は、ふわふわとウッドテーブルの上に立つ。
リディアはニコニコとしながら、指を動かすと家の中でカチャカチャと音がして、お茶と簡単な焼き菓子がカップと皿に乗って、ふわふわとやってきた。
「この力にも、大分慣れてきたかも。アグノストス――今の人達は『魔力』って呼んでたかな? 千年もあれば、私に宿った魂も魔力も、上手く扱えるようになったね」
《喜ばしい限りです。この力は文字通り未知な部分が多いですから。情報を得られるのはとても大きいです。問題がなければ、魂の強化も今後行っていきましょう》
「あれ、ちょっと辛いけど……まあ、仕方ないね。……ただ『偽神化』が私に適応出来なかったのは残念だったけどね。魂を高めていけば、使えるようになるかな?」
《……そうだと良いのですが。そもそもティターニアが作った『偽神化』は、三柱の魔神をモチーフとしているため、貴方に合わなかった可能性が高いです》
『偽神化』とは、特殊な形態変化スキルだ。文字通りの神の如き力を発揮出来る。……場合によっては範囲は限定されるが、『世界』を創ることも可能になるのだ。
今、彼女達が求めている力でもある。
ティターニアはリディアに『偽神化』のスキルを与えたが、何故かエラーを起こして使うことが出来なかった。原因は不明だ。
「やっぱり魔物じゃないと無理なのかな」
《……恐らくは。適応するか否かは資質に左右されるのかもしれません。ティターニアが多くの魔物に様々なスキルを創造して与えても、使える者、使えない者がいたようですから。『制定者』が魔物に対して意図的に物作りや道具の扱いに関するスキルを持てないようにしていること以外は、何らかの適性があるかと》
「ままならないねー」
リディアは小さく吐息をついて、お茶を飲む。
妖精もカップに身を乗り出し、手で掬って飲んだ。味はない。そもそも五感がなかった。必要がないものだから。
リディアは、目をきゅうと、つむって舌を出す。
「うわー、ちょっと渋くて苦いね……。それっぽいお茶っ葉取ってきたけど、うーん、紅茶にも緑茶にもなりきれてない……。……うぐぐ、品種改良の偉大さを痛感してる……。……ああ、コーヒーが恋しい。飲みたいなあ」
《コーヒー。黒い飲み物でしたか?》
「黒い飲み物」
何故かリディアが可笑しそうに笑った。
「そうだね。黒くて、そのままだと苦かったり酸っぱかったり、私はそのままでも良いけど、ミルクとか入れると美味しくなったかな」
《元からそんな味ならば、ミルクをそのまま飲めばいいのでは?》
「あっ、そんなこと言っちゃだめだよ。コーヒー派の人達が怒っちゃう」
リディアが自らの口と妖精の口元に指を添え、しーっとする。
妖精はそんな彼女を見て、よく分からないが楽しそうだな、と思った。何故楽しいかよく分からないが。
「そういえば、妖精ちゃんって味覚がないんだっけ?」
《必要がありませんので》
「でも、それはちょっと悲しいかな。お茶とかお菓子とか一緒に食べて、その感想を言い合うっていうのも楽しいから。ちなみにこのお菓子はー、甘さ控え目っ!」
ついでに粘度も高くない粉を使ったからか、とても簡単にぽろぽろと崩れてしまう。
「切実に、砂糖が、欲しい!」
《サトウキビなどはありませんからね。生物や植物の蜜を使うしかないかと》
「それでも良いんだけど、あっても量が少ないんだよねえ。養蜂とか、まず蜂が見つからないし……。うぅ、文明の偉大さを、失ってから痛感しています……」
リディアが顔を覆ってめそめそと泣き真似をする。
妖精が、それが泣くという行為で、『悲しい』という感情だと知っていた。魂を持っていると感情を稀に感じ取ることが出来るのだ。この千年の間に感情の情報は蓄積されていた。
まあ、知っているだけだからそれを泣き真似だとは思わなかったのだが。
妖精はおろおろしつつ、リディアの下に歩み寄る。
《大丈夫ですか?》
不安そうに見上げていると、リディアがピタリと止まり、手を顔から離す。彼女は八の字に眉をひそめ、困ったように笑みを浮かべていた。
「ああ、ごめんごめん、大丈夫だよ。……妖精ちゃんは可愛いなあ」
そう言って、リディアは妖精の頬を指先でぷにぷにと押す。
妖精はされるがまま、不思議そうに首を傾げる。
《……これには一体、どういう意味が?》
「可愛いから触って見たくなっちゃった。……あー、ずっとこうしていたいなあ」
《ずっとは困ります》
「ずっとは冗談だよ。でも冗談ではない本気もちょっと含んでいたり」
《……それは矛盾では?》
「矛盾ではないのだなあ、これが」
《……なるほど。……感情とは、難しいですね》
むむっ、と眉をひそめる妖精が、それはそれで可愛らしくて出来うるなら頬ずりもしたくなって必死に耐えるリディアであった。
リディアや『制定者』が為そうとしていることは、とてつもない偉業であり、どうしようもないほど矛盾を孕んだ狂気だった。
彼女達の目的の根底にあるのは『人類を救うため』。
しかし、そのために人類を何度も滅ぼし、復活させ、その都度、虐殺を繰り返すことになる。
そのおかしな矛盾に気付きながらも、どうにも出来なかった。
何故なら、必要とされる『偽神化』に至るための避けられぬ条件があったからだ。
千年以上、繰り返した実験によって魔物が『偽神化』を得るための最低限の条件を見つけた。
まず、魔力の凝縮によって生まれた『純粋な魔物』であること。
そして人間の魂を吸収させる必要があった。
何度も進化させるためには、魔力の塊によって生まれた『純粋な魔物』である必要があった。だが、『純粋な魔物』の魂は良くも悪くも不安定で、そのまま成長させては、魂の崩壊や暴走を起こすことから人間の魂を吸収させ、安定化させる必要があったのだ。
でも、強くなった魔物を安定化させるためには、どんな人間でも良いわけではない。……そもそも当時の人間は魂を持っていることが稀であった。
魔物の魂を補強するため、その人間も魂の強度――レベルが高くなければならない。
そのために『魔王』が生まれたと同時に『勇者』やその『仲間』が生まれるシステムを作った。
『勇者』や『仲間』は『魔王』同様、世界中の魂を持つ存在が死ぬ度に、自動で魂を受け取り、強化されていくのだ。
――要は『勇者』は家畜だ。
肥え太らせ、最後は『魔王』の供物とするためのもの。
『偽神化』を得た『魔王』は『制定者』の下へ赴き、世界から姿を消す。
そして滅んだ世界から、もう一度、人間の文明と魔物達を育て始めるのだ。
それを何度も何度も何度も何度も繰り返す。
勇者を倒した魔王が、必ずしも『偽神化』を得るわけではないため、落胆することも少なくはない。
『魔王計画』が始まってからリディアは、時に勇者を助け、時に魔王候補となる者を育てる。
本気で勇者を心配し、――友情を育んだり、恋をしたり――魔王候補とも同じように過ごすこともあった。
そんな本気の茶番を繰り返していたのだ。
そんなことを千年以上も繰り返して、心が疲弊しないわけがなかった。
「リディア、行ってくるよ」
そう言った『勇者』とその一行は笑顔で手を振ってくる。度重なる死闘を繰り返してもなお、その顔に絶望はない。彼らは信じているのだ。この先にいる魔王を倒せば、人類を救えると。
「うん、頑張って」
リディアも笑顔で手を振る。
何かしらの理由によって魔王討伐は手伝えないという『設定』があるため、共に戦うことはない。
彼女の役目は魔界奥深くにある魔王が住む城までの露払いだ。
リディアは三千年ほど経過した現時点でレベルは8000を超えていた。妖精の力によるものであったが、それでも元からかなりの素質があったのだ。
それに三千年もあれば、戦いの技術は嫌でも身につく。恐らく、世界最強と言っても過言ではないだろう。
そんな三千年の技術を持ったリディアに育てられた勇者の力は並大抵のものではない。
――でも、『魔王』には勝てないだろう。
魔王一人だけが戦うわけでもなく、肉体はただの人間である勇者が文字通りの化け物に勝つことは万に一つ、あるかないかだ。
それに万に一つが起こりえそうになったら、『制定者』が設定したシステムが起動して、『不幸な事故』によって負けることになる。
彼らにとってこの先に待ち受ける現実ほど、悲惨なものはない。
リディアは、勇者達の姿が見えなくなると同時に、フッと身体から力を抜き、後ろに倒れる。
と、その瞬間には彼女はベッドの上に寝転んでいた。
周りは、いつの間にか木々を組まれて出来た家の中だ。
時代背景的におかしい無駄に出来の良いマットレスの上を軽く跳ねながら、リディアは横を向いてため息をつく。
なんとなく、手鏡を魔法でたぐり寄せて、覗き込みながら――笑ってみる。先ほどの勇者に見せたどこか悲しげで親愛に満ちて、勇者を信じながら希望をもって送り出した、そんな顔だ。
「……作り笑い、上手になったなあ」
『偽笑』なんてスキルを得て、熟練度が上限に達するほどなのだから、数え切れないほどしてきたのだろう。
《リディア! 貴方はまた、転移で戻ってきたのですか!》
リディアがもう一度ため息をつきかけたところで、妖精の怒ったような声が聞こえてくる。
仰向けになると、顔近くに三千年前から変わらない姿をした妖精がやってきた。
――でも、三千年前に比べると、どことなく表情が変化するようになったし、今も眉間に少しだけシワを寄せて怒ったような顔をしていた。
これでも、妖精達いわく《感情がない》らしい。
リディアは、にへら、と力なく笑い両手をプラプラと振る。
「妖精ちゃん、はろはろー」
《はろはろー、じゃないです! また雑に転移で戻ってきて! 異空間を通り過ぎるのが危険なのは貴方が誰よりも理解しているでしょう! 何度も言っているのに!》
「大丈夫だってー。私は、どんな濃度の魔力であっても、操作できるし。『魔女ノ夜会』って本当に便利だねえ。名前は仰々しいけど、これのおかげで処理能力が格段に上がったし。その気になれば、スローモーションで世界をみれるんだよ、すごいでしょー」
《そういう問題じゃありません!》
何を言っても手応えのないリディアに、妖精がやきもきしたようにパタパタと手を振るう。とても可愛らしい。あざとすぎる。
《もしも、があるかもしれないでしょう! 確かに今は戦時中で、そのまま戻ってくることにもリスクがありますが――》
「なら、問題ないよねえ」
《問題ないですが、雑にするな、という話です! ……私達でも、見ていて分かります。段々と貴方の身の振り方が雑になってきていることぐらい》
「……成長したねえ」
リディアがそうしみじみ言いながら、手皿を作るとそこに妖精が降り立ってきた。随分長い付き合いだからか、暗黙の了解がいくつも出来てしまった。
そのまま妖精が乗った手皿を顔の近くまで持ってくる。
妖精が手皿から顔を出して、心配そうな表情を浮かべていた。
《……そうなったのは、貴方が泣かなくなってからです。……辛くは、ないのですか?》
「慣れたからね。……もうね、作業なんだよ。仲良くなるのも、送り出すのも……この待っている間に『終わる』のも」
心が麻痺してしまったのかもしれない。
「そこであったことや感じたことも、毎度新鮮に感じるし、嘘じゃ無いけど、……失うことには慣れちゃったから」
リディアはフラフラと首を振る。
「……あぁ、そうだ。たぶん今回も勇者くんの子供が出来るかもね。生理来なくなったし。……そうそう、オーベロンに今回、私は何回子供作るかとか聞かないとなあ。また、たくさん死んじゃったろうしねえ。少しでも人類を増やす貢献をしないと。……子育て頑張らないと。……思うんだけど、私の子供っていつも激動の時代を生きているよねえ。申し訳ないなあ」
《…………》
淡々つらつらとそんなことを言うリディアに妖精はどう返していいか分からなかった。
百年――五百年、――千年、二千年と時が過ぎていくほどにリディアは少しずつ油を注していない歯車のように感情変化がぎこちなくなっていた。
リディアが段々とおかしくなっていく。嫌だ。でも、たぶん、この変化は完全に壊れないためのものだ。
恐らく、感情を失うためのもの。
……きっと、壊れるよりはマシなのだろう。
妖精は、『制定者』がティターニアやこちらに感情を与えなかったのは、きっとこういう理由なのだろう、と察することが出来た。
……リディアは昔の自分達に近づいているのだ、そう直感した。
それは、嬉しい? 違う。……彼女がこちらに近づくのは、――とても悲しく、怖いことだ。
《自分に、嘘はつかないでください》
「え?」
リディアがきょとんとする。――それはそうだろう。今まで妖精は心については分からないと言っていたのだから。……心がない存在が心を分かった風に言うなんて滑稽かもしれない。
それでも、今何かを言わなければならない。そうしなければ『リディア』が失われてしまうような、そんな気がしたから。
《慣れたなんて、嘘です。辛いと思ってしまうから、貴方は見ない振りをしているだけでしょう? それが心を守るためなら、良いです。でも、お願いですから、自分を殺すことだけはやめてください。貴方が笑わなくなるのも、泣かなくなるのも、私達は嫌なんです》
なんだか論理的じゃない。自分らしくない、そう思いながら妖精は言葉を口に出す。
《辛いなら、私達が頑張って貴方を癒します。だから、辛いなら、言ってください。悲しいなら泣いてください。私達はずっと貴方の傍にいます。貴方の心を守りますから――絶対どこにも行きませんから……どうか……リディア、私達が好きな貴方のままでいてください。今の貴方がいなくなるのは、嫌なんです》
妖精が泣きそうな顔で縋るような声で必死に言う。
伝わっているのか。分からない。やっぱり、相手の心も自分の心も何も分からない。それがこんなにも『不安』だなんて。
――不意にリディアの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「……あ……」
《みぃっ!?》
妖精がギョッとして、おろおろとしてしまう。何か間違ってしまったのだろうか? いや、泣いてくれたのだから、想定通り? でもこのあとどうすれば――。
《あ、あの、あのあの――わ、私は何か、何か――?》
「…………。ふふっ――」
慌てふためく見たリディアは涙を零しながら、わずかに笑みを浮かべ、手皿の甲で目を覆った。
「……そっか。こんな私でも好きって言ってくれるんだね。……それに、妖精ちゃん達はずっと私の傍にいてくれるんだ。…………いられるんだ」
《え、……あ……。……はい。いなくなりません。私達は絶対に》
「……そっか」
そう言って妖精はどうしていいか分からず、なんとなくリディアの額をぽふぽふと小さな手で叩いたり撫でたりしてみる。よく分からなかったけど、そうしたくなってしまったから。
この感覚を逃しては駄目だと思いながら、妖精は必死にリディアを『慰める』のであった。




