妖精と戯れてみた
※若干ながら性的なものを喚起させる描写があります。閲覧にはご注意下さい。
アンサムが元に戻って、夜が明けた。
色々と大きな事件だったし、事後処理を迅速――色々と有耶無耶にしたり何かしたりするためにクレセントとその関係者の処刑が行われることになった。
元から処刑の準備は進んでいたし、そこら辺は滞りなく進んだらしいね。皮肉過ぎる。
んで、俺だが第三王子様の部屋にいる。部屋には俺とラフレシア以外誰もいないよ。
でも、第三王子様とはあまり親しいわけじゃないから部屋を使うことに若干、抵抗がある。
と、言っても関係上使いやすいアンサムの部屋は……まあ、別の理由から『使いにくい』らしいから、ここにいさせてもらってる。
あっ、フーフシャーさんはお姫様の部屋にいるらしいよ。無事だったみたい。アンサムの呪いを解いた後、ちょっとだけ会ったけどなんかお肌がテカテカ潤ってた。一応、戦ってらしいポニーテイル女とカウボーイ女は生きてるらしいってよ。……まあ、うん、色々あったんだろうね。
俺は今、床にうつぶせに寝転がりながら、ラフレシアとたわむれていた。
眼前にいるラフレシアは、俺がチョウチンアンコウみたいに頭から生やした『発光』用の触手をペチペチ叩いている。程よい弾力があるから殴ってて楽しいらしいな。ぼよんぼよんしてるし。
殴った勢いで俺の口に当てたり、鼻に当てたりしても楽しんでるみたい。
まあ、始終俺と目が合ってるからほとんどにらむような顔しかしてこないんだけどね。
仲良さゲージ、あまり上がらないなあ。たまに多少上がったりするけれど、元に戻るし。チェスターと戦っている最中とか終わった後とかは特に高かったけど……。
好感度が上がったままにならないのは、俺がタイタン側に被害及ぼしたのが原因だ(特にこいつの元主人であるロミーを痛めつけたのが一番だろう)。
これに関しては撤回は無理だし、諦めるしかない。
それ以外でラフレシアと仲良くなるには……、たぶんリディアとの確執について知ることだろうな。
どうしてリディアと喧嘩してるのかを知って、ちょっとだけでもラフレシアの味方になれば、まあ、多少は良く見てくれるだろう。
うーん、でもリディアを裏切ることになるのかな?
てか、まあ、リディアの味方になってるのは現状、何も分かっていないからなんだけどね。場合によっては普通に寝返る事もありうるよ、俺は。
《マスター、少し口開けて》
(あいよ)
口を開けると、そこに殴って発光触手の先端を入れようとしてくる。何度かやっているとすぽっとはまった。
《やった!》
少し嬉しそうな顔してくれる。うーむ、可愛い。
ぷっ、と吐き出すとラフレシアは頑張って避けた。
《なんの!》
さらに触手が戻ってくる間に大げさな回転蹴りをして、ばしーんと当てて吹っ飛ばし、俺の鼻先にぶち当ててくる。おお、上手い。良い蹴りをするじゃないか。ちっこいけど脚長いし、中々映えるな。
そういや、改めてじっくり見る機会なかったけど、この子、ほんと綺麗で神秘的よね。
身体がわずかに光ってて、遠くから見ると優しいぼんやりとした光が浮いてる感じになる。背中に生える羽は虹色で、――虫っぽいものだけどむしろそれが合ってる。ただ羽には実体があるわけじゃないっぽい。
なんだろう、あれ。魔力の塊とか?
腰まである金髪は、流れるようにさらさらしていて綺麗だ。
身体付きは、十五、六歳くらいの子を、小さくさせた感じ。スレンダーだけど、健康的な肉つきをしてるから、見てると安心する。
《ふぅ……。マスター、次は私くらいの触手だして。バトルする!》
(結構、好戦的ね、君)
俺がそう言うと、ラフレシアは頬を軽く膨らませて睨んでくる。
《攻撃的になる相手が目の前にいるから仕方ないじゃん》
(そりゃそうか)
一本取られた。こう、憂さ晴らしでもしないとやってけないのかもね。……うーん、だとするとストレス溜めないためにも、やっぱり仲良くならないとなあ。
今夜辺りにでも、リディアとの関係について訊こうかね。
――と、ラフレシアに触手を与えてぼんやり考えていると、見上げられていることに気付く。
ちなみに触手は鎌首をもたげさせてラフレシアの頭と同じ位置にあるが、今は操ってないから往復ビンタをもらっていた。やめたげて。
(ああ、ごめん、動かした方がいいか。それなりに頑張るっ)
《いや、まだいいけど。これも面白いし》
べしべし無抵抗にやられる触手くんだ。一応、彼も生きてるからほどほどにしてあげてね。
《……マスターってさ、あんまり好戦的じゃないよね。……あの光の種族の子が傷つけられたりとか誰かに従ってとかじゃない限り、あまり手を下さないし》
(倫理観は一応あるからね。って言っても、俺の倫理は知識前提のマニュアル操作だから、一線とか簡単に超えられるけど)
普通の人間っていけないことをいけないと思う他に嫌悪感とか抱いて自動ブレーキがかかるはずなんだ。でも、俺はこの身体になってからそれがない。
感情がないわけじゃないんだよな。行動もそれに左右されることもあるし。けど、熱くなりすぎず、冷静になりやすくもなった。……サイコパスかな?
(だから、俺はなるべく一線は越えないようにしてるだけ。人を痛めつけるのとか好きじゃないし)
《……ロミーにやったことも?》
(少なくとも一切楽しくなかったよ)
ラフレシアが俺をジッと見つめてくる。
本当か嘘か分かるように今だけ、深層心理が伝わるようにしようかな? ――いや、やめとこうか。たぶん、ラフレシアは俺のこと『悪い奴』にしたいだろうし、しばらくはその路線を維持させよう。
理解は出来ても納得が出来ないのが、人間だからな(妖精はどうか知らないけど)。
でも、一方的ってのも駄目な気がする。
(で、そっちはどうだ? ミアエルについてやったこと。楽しんでたか?)
《そんなわけないじゃん!》
ラフレシアが触手くんの先端をギュッと両手で掴んで俺を見上げ、そう叫ぶ。
《ロミーはあの子を撃つ気なんてなかった! 威嚇だけで済まそうとしてたもん!》
(けど撃った)
《それは――》
(あの振動でー、とかリディアがーとかなしな。……それでもあいつはミアエルを『撃ち続けた』んだ)
《――っ》
ラフレシアが言葉を詰まらせる。
触手くんを握る手が強くなったのか、どっちもぷるぷる震えていた。
あれに関しては、完全にラフレシア側が加害者なんだ。どんな理由を紡ごうが、『都合』によって『仕方なく』したということになってしまう。
開き直ることも出来るが……ラフレシアには無理だったみたいだな。それなりに悪いとは思ってたみたいだ。
(別に怒ってないから良いけどさ。だから、あいつら回収した時も特に何もしなかったし)
《……うん、私のお願いを聞いてくれたことには感謝してる》
アンサムの呪いを解いてから、ラフレシアにはすぐに銃使いの女――もといロミーとミズミの回収を懇願された。
色々とゴタゴタしてたから断りたかったけど、必死だったから回収して教会に放置したんだ。
その後は知らん。もう滅多なことじゃ関わらないだろう。あるとすれば……あいつが治ってラフレシア関連で俺に接触してくるぐらいか?
……次来て、また俺を殺すつもりだったら、今度は容赦しない。
(あれは俺のせいだし、お礼とか別に良いけど。あっ、その代わりこっちもお願いがある。今度、ミアエルに直接会って謝ってくれ)
《……会っても良いんだ》
(どっちにしろ、俺と一緒に居続けることになるから、会わなくちゃいけなくなるだろ)
《…………それもそうだよね。…………ごめん。ありがとう》
ありがとう、ね。皮肉でもなんでもなく、元主人の代わりに謝らせてくれることに対してか? 謝る気があるなら、ロミーがミアエルを撃ったことを本当に悪いと思ってる証明にもなるもんな。
許されるかどうかは知らないけど。ミアエルはどんな反応をするかね。
んで、それはさておき……遊ぶか。
(食らえ! なんか長い生物がよくやる、相手に巻き付く攻撃!)
《うわっ!》
俺は触手くんを操り、ラフレシアの胴体に巻き付かせる。胴体二回巻き分くらい出来たよ。
ラフレシアが俺をジト目で見てくる。
《何すんの》
(湿っぽいの嫌だったから)
《……マスターってほんとさぁ》
すっごい深いため息をつかれてしまった。
(油断してて良いのか? 苛烈な責めがお前を襲うぞっ! 降参したら許してやるけど!)
《痛いのはやめてよ》
(そんなことしないし!)
ラフレシアに掴まれてなかった方の先端がチロチロと眼前で踊る。すると、その先端がぱかりと四つに裂けて中から細い触手が姿を現す。
《エッチなのもやめてよ!?》
(人によってはそう思うことはしないでもないけど、やる気は無いよ!)
《不穏!》
ラフレシアは触手を近づけまいと掴もうとするけど、触手くんはその手を掻い潜る。そして一瞬生まれた隙間――脇へとかぶりついた。
《あっ、ちょ――んにゃあああああああああああああ!》
細い触手の群れが脇に殺到して、わしゃわしゃとくすぐることでラフレシアが悲鳴を上げる。ぱたぱたと暴れていたけれど、引き剥がせず、ころんと転がってしまう。
《だめっだめだめだめぇ! うにぃいいい、うにゃはあぁああ! ふぃいいいはぅうあ!》
顔を赤くして、身をくねらせるその姿は……まあ、ちょっとエッチだった。思わず目を逸らして止めそうになった。……けど、ふと思う。これ、こっちから止めたらたぶんかなり気まずい感じになるんじゃね? ……駄目だ、止められない、続けよう。
いや、一応、降参するかは訊くけれど。
(降参?)
《ふぐうぅうううう!》
ラフレシアは言葉にならない唸り声を上げて、目尻に涙を溜めつつも俺を睨み見上げてくる。オーケー、戦意は喪失していないようだ。
えーっと、一応俺の中での線引きとして胸とか股間とかには何もしないようにしよう。『機能』はないけど、ラフレシアは『普通の女の子』の精神を持っているらしいからな。
ラフレシアは脇にくっついた触手を剥がすために、奮闘している。引っ張ってちょっとづつ剥がすことに成功している。
怪我をさせちゃうから強めにくっつけないため、力負けは仕方ないことだ。
粘液で糸引く触手を引き剥がしたラフレシアは、そのまま先端を床に何度も叩きつけた。割と遠慮無いため、ちょっと潰れたり裂けたりしちゃう。変な汁がぶしゃあ、と飛び散る。
……あぁ、高そうなカーペットが汁で汚れちゃった。どうしよう。第三王子様に怒られちゃうか、泣かれちゃう。
俺は薄い骨の板を生成し、暴力的なレスリングをするラフレシアの下に滑り込ませた。
《ナイス!》
そう言ってラフレシアはさらにガンガンと強めに触手くんを叩きつける。床が固くなったから、カーペットよりダメージが大きくなった。
おぉう、かなりグロ注意になってきたぞ。というかラフレシア、楽しそうね。なんか戦闘民族的な要素でも入ってたりする? それともそれほどまでにストレス溜まってた?
まあ、このまま為すがまま触手くんを痛めつけさせても良かったけど、反撃してみる。
ラフレシアに掴まれてる方はもう脱出は困難なため、もう一方の先端を使う。胴体の巻きつきを解くと、足先の方へと向かう。
そして、こっちも、ぱかぁと先端を裂けさせる。無論、細い触手だらけだ。
《ふぅ、ふぅ――……? あっ》
ラフレシアは叩きつけるのに夢中になっていたけど、不穏な気配を感じ取り、ふと足元に視線を落とした。そこで、今まさに自分の足に食いつこうとしている触手くんを見つける。
ずぼぉ、と触手くんがラフレシアのふくらはぎ辺りまで飲み込む。
《んにぃ~~~~~~~~~~~!》
ラフレシアが触手に足を舐められたことで仰け反ってしまう。とっさに足の触手を引き剥がそうとするけれど、手に持つ触手くんを放置できないことに気付く。もし放してしまえば、くすぐりは二倍になってしまうだろう。
《んぎぃい!》
だからラフレシアは、攻撃を続行することになった。うーん意図せず耐久勝負になっちゃったな。
どっちも頑張れー。
俺はバタバタと転げ回るラフレシアと触手くんを見つつそう思うのであった。
はい、決着がつきました。
勝者はラフレシアー。
執拗なくすぐり攻撃に耐えて、触手くんを見事に八つ裂きにしてしまったのだ。
……うん、触手くん、ぼろきれのようになっちゃってる。俺が操ってたほとんど意思のない生命体だったけど、ちょっと悲しくなってくる。
とりあえず、放置も危ないから吸収しておく。汁っ気も拭き取らなきゃなー。第三王子様に汚したことを伝えないと。怒られるかもだけど、俺の汁は危ないからね。殺菌的なものはしっかりやってもらわないと。
んで、ラフレシアもなんやかんやと触手の返り血とか浴びてベトベトしてたから、布を持ってくる。
拭こう……としたけど大丈夫かな? 自分でやってもらうのが一番だけど、ハッスルし過ぎて未だ仰向けになって息整えてるからなあ。
訊いて見るか。
(身体拭くけど、良い?)
《……またエッチなことするの?》
(さっきのこと含めてエッチなことではない)
《エッチなことじゃないなら汁塗れにならないし》
(……! 確かに……!)
普通のくすぐりで身体中ベトベトにはならないよな。つまり、俺はラフレシアにエッチなことをしてしまったのか? なんてこったい。
(つまり責任取らないといけない系?)
《マスターって責任取れるほど甲斐性あるの?》
(……やだっ、俺無職じゃんっ)
《ばーか》
俺が口を押さえて、目を見開くと、ラフレシアがクスクスと笑ってくれた。
そしてころんと半回転して俯せになると、顔を横に向けて俺を見つめてくる。
《背中拭いて。前は嫌》
(おっけぃ)
ラフレシアに許可をもらった俺は、その小さな背中を拭く。力加減とかちょっと不安だったけど、なんとか痛がられることもなく全う出来た。
背中を拭き終わると、ようやく起き上がれるようになったラフレシアに布を渡し、前の方を拭いてもらう。
俺に背中を向けて身体を拭くのは、中々に色っぽかった。背中の虹色の羽もあるから、かなり幻想的だ。やっぱりファンタジーな妖精だなあ、と当たり前で語彙力皆無な思いを抱く。
そんなラフレシアを見つめていると、ふと口を開く。
《……マスターはさ、この後どうするの?》
(この後?)
ニュアンス的に人狼達の国に行って戦争を止めるとかの話じゃないよな。
《このままリディアについていって、あいつの言うとおりにするの?》
(今のところはな)
《……その結果、世界の人達が大勢死んでも?》
(どうだかな)
《…………》
ラフレシアは顔を俯かせ、唇を噛んでいた。……なんとも何か言いたげだけど、言いたくない顔をしている。
俺はため息をつく。
(協力して欲しいのか?)
《……頼んだらしてくれるの?》
(内容による)
さすがにリディアをぶっ殺せとかだったら、御免被るけど。必要なことだとしても、命の恩人に手を挙げるような真似だけはしたくはない。向こうから敵対してくるなら話は別だけど。
《…………そっか》
ラフレシアが肩を落とす。なんだい。何も言わんのか。納得させる自信がないの?
……まあ、今からタイタンだっけ? 女神やら転生者やらがいる国に行っても受け入れられないのは分かりきってるしな。
ここで俺から安請け合いしても、駄目だよな。
…………うーん、なんかあと一歩感がある。……どうしようかな、ここであれを言うか。
(今夜、身の上話を聞かせてくれ)
《え?》
ラフレシアがきょとんとした顔をして振り返る。……むっ、そんな意外そうな顔をされて見つめられると恥ずかしいぞ。
俺は思わず目を逸らしながら、言う。
(妖精のこと、女神のこと、リディアのこと……どうして喧嘩することになったか教えてくれ。……もちろん真実をなっ)
《……えっと……それは……優しさのつもり?》
ラフレシアが以前問いかけて来たようなことを口にする。
俺は、微かに唸りながら答える。
(……いちおー)
《……そっか。…………ありがと。……なら、今夜、話すよ。私達がリディアを『裏切った』話を》
そう言ってラフレシアは柔らかく微笑んだ。
――なんとなく、ラフレシアの俺に対する『険』が少しだけ解れたような気がする。まだまだ気は許してはいないだろうけど、焦らず進んでいけば良い。
俺とラフレシアには、たぶん長い時間があるだろうから。




