第三十三章 ロマンは大事だと思う
俺は無事に城の中に入ることが出来た。あとはこのまま二日ほど待機しておけばいい。もし何か問題があって計画を早めなきゃならなくなったら、アンサムに連絡を入れればいいしな。
まあ、ざっくり話し合ってはいる。俺、というよりは俺を介してお姫様とアンサムが打ち合わせした感じかな?
なんとなく理解は出来た感じだと、お姫様はなんかチェスターだか言う吸血鬼に目をつけられてしまったようだ。もしかしたら何かしら手を出される危険があるとのこと。
計画を早めることも出来るが、なんか城側でも色々と準備があるらしく、出来れば二日後が良いんだと。その間の護衛は俺がやることになった。
そういや、アンサムに呪いをかけた奴は、チェスターらしいな。
そんなわけで、俺の相手はあいつらしい。ちなみにチェスターはどうなっても問題はないので、『侵蝕』を直接かけて操るつもりだ。
そもそも吸血鬼って手加減して勝てる相手じゃないっぽいし。
なんか『デイウォーカー』っていうタイプは吸血鬼の中じゃ弱いらしいけど、あくまで吸血鬼内での話だそうだ。『デイウォーカー』でも訓練された吸血鬼は物理攻撃がほぼ無効で、魔法が唯一のダメージソースなんだって。
だとしたら俺、勝てないね。そういう訳で、フェリスの到着が待たれる。フェリスって対吸血鬼用の魔道具持ってるんだってさ。たぶんあの二本のダガーだと思うけど……。それがあれば、実体化させて俺でも攻撃を通すことが出来るらしい。
それ以外だと俺がフルボッコにされるから注意しないといけない。
だから今の俺に出来ることはあんまりない。頭から下も普通に生やすことが出来たから、もうマジで何もすることはない。……だから時間まで自分の能力で遊ぶことにする。
たぶんもしかしたら転生者達と城の中で戦うことになるかもしれないし、戦闘用に身体を調整するのも良いだろう。
あっ、そういえば転生者っていうとあの銃使い二人のことすっかり忘れてたんだよな。城に行く前にラフレシアが言わなかったら放置してたかも。
とりあえずアンサム経由でフェリス辺りに銃使い二人の場所を教えたから、そこにある空気穴から水でも流し込めば、二日は持つだろう。それにラフレシアから聞き出した話だと二人とも狙撃手として長期間『待つ』ために肉体を維持するスキルも持ってるらしいし。銃使いの女は、……俺が命令しないとスキルを使えないかもしれないけど。
まあ、当たり前だけどその対応にラフレシアはかなりごねたが。でも、城に入るチャンスがなくなっちゃうかもしれないから、無視するしかなかった。
《…………!》
だからさっきから今の今までラフレシアが俺の魂の中で無言で威圧してきていた。
若干、関係が良くなったかなあとか思ったら、また悪化して逆戻りだぜ。
ちなみにだけど、ラフレシアの精神を操って俺に好意を寄せることは一切考えていない。
反抗されるのが面白いというのもあるけど、さすがに精神弄くって好意を向けさせるとか気持ち悪いし。
仮にやったとしても、コレジャナイ感が絶対に出てくると思うんだ。
自然にほどほどに敵対的にでも仲良くなれれば良いんじゃないって感じだな。
その一環として、会話をするのだ。ちょうど今、俺は実験として『とあるモノ』を作成中である。これが完成すれば、俺の能力は別に飛躍的に向上とかしないけど、すごくなる。それを見せよう。
(ねえねえ、ラフレシアーちょっと見てー)
《……!》
無視である。威圧しながら俺の問いかけに完全無視だ。そう来るなら、俺にも考えがあるぞ。
(ねえ、見てってばあ。ねえねえ)
《……》
(ねーえーねえねえ、ねえってばーねえねえねえねーうぇー)
《――うっさいなぁ! 何!?》
さすがのラフレシアも無視出来なくなったようだ。ふふっ、俺の交渉術も中々のものだろう。
ややブチ切れ気味のラフレシアは俺の頭の上ににょっきりと姿を現す。そして俯せになって、バシバシと俺の額を叩いてきた。
ちなみに今の俺は、顔以外は白いぶよぶよ肌の化け物姿になっている。さすがに人皮を用意出来なかったから、仕方ないのだけど。
あっ、話はガラリと変わるけど、部屋にいるのはお姫様にイユーさん、あと淫魔の綺麗なお姉さん、フーフシャーさんだ。第三王子様と熊みたいなデカい素敵なおっさん将軍、バーニアスは二日後に必要な兵集めをするためにどこかに行ってしまった。
今、この場にいるのは俺を除けば女の子のみである! まあ、だからなんだって話だけど。
そういえばラフレシアって女の子って扱いで良いんだろうか。精神は女の子らしいから女の子なのか……?
そんなラフレシアに額をバシバシされながら、俺は手に持つモノを掲げる。
ラフレシアがジッとそれを見つめて、眉を顰める。
《……何それ》
俺が手に持つモノは、白っぽい筒状のものだ。片側の先端にはわずかな穴が空いており、そこにほぼピッタリな棒が突き出ている。ちなみにこの棒は上下に動かすことが出来るのだっ!
俺はそれをスコスコと上下に動かしながら、胸を張って言う。
(骨で作ったピストンだっ)
《あっそ。戻っていい?》
すぐさま興味が失われてしまった。対応がとっても淡泊で悲しいぜ。
(ちょっとお待ちなさいよ。まずはこれを見るんだ)
ラフレシアが魂の中に戻ろうとしたので、引き留める。んで、筒の中に自分の血を流し込み、――『気化散布』を発動。
その瞬間、スコココココと連続でピストンが動き始める。うん、ちゃんと動いてくれた。それに強度も問題ないっぽい。摩擦も『粘液』があるからある程度、軽減出来る。血液を霧状に噴射してしまうため、多少周りが汚れちゃうが……そこは俺がさっきまで入っていた鍋であまり飛び散らないようにしている。
排気とか圧力の調整の仕方とかは普通のエンジンの仕様を代用出来なくて面倒だったけど、ある程度はスキルでゴリ押しでもなんとかなるもんだな。
(すごいっしょ、これー。俺の能力を使えば、何かしら機械的なものが出来ると思ったんだよねー)
《……。なんかヤバいことしているような気がするけど、これで何が出来るの?》
(それは、えっと、これとこれを繋げて……)
『骨成形』で造った他の部品を組み立てて、クランクを作成する。あとちょっと長めの角材っぽい骨を用意する。その真ん中には縦に一周するように溝が彫り込まれてあって、左右の先端部にはクランクに連動する回転部分を設けてある。
(んでー……あー、今は触手で良いか)
『骨成形』でちゃんとしたモノを造りたかったけど、代用でベルト状の触手を左右回転部分に引っかけてセットする。
準備が出来たので、もう一回、ピストンを始動ー。
すると、ピストンが動くと、クランクが回る。さらにクランクに繋がった回転部分がそれなりの速度で回転し始める。セットされた触手はそれに合わせて回転する。少々動きは鈍いが、数でゴリ押しすればパワーも上がると思う。
(どやっ。成功したぜっ)
《……は? ちょっと待って、これって……》
(チェーンソーだぜぇ)
《何してんのぉ!?》
ラフレシアが叫んでバチーンと俺の額を強く叩く。なにをするだ。肌が裂けちゃうかもしれないからそんなに強く叩くんじゃありませんよ。ほらっ、今の声で皆驚いてこっち見てんじゃん。ごめんねーうちの妖精が騒いじゃってー。
次から、いつも通り心の中で話しなさいよ。
《明らかに生物が作り上げて良いレベル超えてるでしょ! それにチェーンソーって何に使うつもり!?》
(そりゃあ、ゾンビでチェーンソーと言えば人体にずびゃびゃーっと)
ゾンビでチェーンソーってこれは、もはやロマンだよね。
《グロいわ! しかもそれを向ける相手ってルリエとかシィクとかでしょ! やめてよ! 大体、そんなもの、一度使ったら肉が詰まって駄目になるんじゃないの!》
普通のチェーンソーってそうらしいね。あくまで映画のやつは演出のためか特別製かのどちらかなのだろう。――そして、俺のチェーンソーは特別製なのだっ。
俺は骨部分に食料として出された生肉を置く。それで『侵蝕』を使うと生肉に赤黒い血管が伸びていき――骨に溶け出すように吸収されて俺の身体に入っていく。
(こうすれば問題ないだろ)
《だろ、じゃない! 良くない!》
(あっ、そうだ。ラフレシア、「めーでー、めーでぇー」って低い声で言ってくれない?)
《なんか分かんないけど、言うか馬鹿!》
えー、言ってくれたら臨場感が増すと思うんだけどなあ。まあそんときは俺も身体をしっかり大きくしなきゃいけないけど。
……あー『あれ』を本気で目指すなら、丸ノコにすべきなんだよな。
うーむ、でも、普通のチェーンソーが好きなんだよなあ。
それに丸ノコだと『刃』が必要になるから、ダメージ効率は悪そうなんだよな。試しに骨で刃を作ってみたけど、切れ味大したことなかったんだ。
で、こんなの造っておいてなんだけど、これはあくまで虚仮威しだ。材質も骨だし、剣とかと打ち合ったら普通に壊れてしまうだろう。再生は出来るけど、俺の元からある器官じゃないし、戦闘中の即興の再生は難しい。
剣を刃こぼれさせられればいいけど、相手には『斬鉄』なんていうスキルがある。下手をすればチェーンソーごとぶった切られる恐れがあるのだ。
だから、他の武器なり戦術なりを用意しないといけない。そこら辺は色々と考えてはいる。この六本の尾を上手い具合に組み替えれば、戦闘体型を作れるかもしれない。
それと、……『俺らしい』戦い方としてラフレシアを使うことも考えている。
(ラフレシア?)
《何!?》
ぷんすか怒って、バシバシと未だ俺の額を叩いている。
(お前を操って、命乞いをさせながら戦ってもいいか? その間の記憶は残さないから)
《…………》
ラフレシアの手がピタリと止まる。――そしてしばらく黙り込んだ後、小さく言った。
《……やだ》
(そっか。分かった。じゃあ、やらない)
《……》
ラフレシアが上半身を前に出して、手を伸ばし、俺の瞼を掴んで、ぎゅーっと引っ張ってくる。やーん、なにするのー。痛くないけど、目ぇー出る、目ぇー出るぅー。
《……前も言ったけど、勝手にすれば良いじゃん》
(やらんよ。俺が死ぬまでお前は俺の中に入ってることになるだろうし、せめて最低限、多少は精神的な居心地の良さを保証しないとな)
《そういう気を配るくらいなら、さっさとくたばってよ》
(それは御免被る)
俺がそう返すと、ラフレシアはため息をついた。瞼から手を離して、今度は俺の額を弄って伸ばしたり、皮を寄せたりして遊びだした。その後、特に何かを言ってくることもない。
なんとなくラフレシアを撫でたくなって指を伸ばしたけど、払いのけられてしまった。
うーん、駄目か。そりゃそうか。俺はラフレシアと仲良くなれるなら、したいけど、まあ向こうは心情的に無理だろうな。でも、無駄だからとその努力を怠るつもりはない。
ラフレシアを俺の都合で捕らえ続ける以上、俺はこいつに優しくしないといけない。俺自身が人の心を保ち続けるためには、そうしないといけないと思ったから。
つまりはいつも通り、俺は俺のために生きているのである。
だから全力で気兼ねなく、俺はラフレシアと仲良くなろうと思う今日この頃だった。
まあ、それよりも今は、戦闘フォルムを開発しよーっと。
尻尾は槍にしよっかなー。あと、溝彫ってー。武器回復用の骨付き肉とか身体に入れておこうかなー。それに――。
「さっきから気になってるんだけど、何しているの?」
俺がウキウキで武器を造っていると、フーフシャーさんに話しかけられてしまった。なんか肩越しでとっても近い! それに下着姿だから、すっごい緊張する! 嗅覚あったら、普通に良い匂いとかしそう!
《きっも》
なんとなくラフレシアに深層心理が伝わるようにしてたら、罵られてしまった。ちなみに未だ頭の上に乗っている。今は上半身を起こして、脚をぴーんと投げ出すように伸ばして座っていた。んで、げしげしと小さな踵で蹴ってくる。
「うー」
俺はラフレシアに今は構わず、フーフシャーさんに骨で造った槍を掲げて見せる。
「骨……武器にするつもり?」
「うー」
頷く。この槍にちょっとアクセントを加えて、良い感じにするのだ。城って廊下は結構広いけど、やっぱり槍みたいな突きの武器が良さそうなんだよね。というか、丸ノコでも言及したけど、骨で剣――刃を造っても切れ味とか大したことにならないし。なんか刃を鋭利にする系のスキルってないのかな。
――『斬鉄』とかってあれどうやって手に入れるんだろう。
あと、六本の触手の内、電撃用を脇腹辺りに配置する。やや長めにして、牽制用に使う予定だ。あと、テンタクル時からある手首の射出触手も規模を大きくしたり、手首以外にもつけて発動させられるか試す予定だ。
他にも、組み替えたら良い感じになるものがあるから、やらないとなー。
「うっうー」
「楽しそうね。……気になってるんだけど貴方みたいなアンデッドって初めてみるけど、生者とか憎くないの?」
「うーう」
首を横に振る。そんなこたーない。そもそも俺の魂、人間だし。偶然死体に入っちゃっただけっぽい。――ということ伝えて欲しいなあ。
俺はそう懇願すると、ラフレシアが、へっ、と鼻を鳴らして渋々言う。
《マスターの魂は偶然、死体に入っただけの普通の人間なんだって》
「あら、そうなの? 災難ね。……でも、人間……というわけでもなさそうね。魔物の気配があるわ。……でも、そこはデリケートな問題かもしれないから置いておくとして……、マスター?」
《そっちには触れないでよ》
ラフレシアがすっごい嫌そうな声を出している。たぶん顔も嫌そうなんじゃないかな。
「私、貴方も気になるのよね。こんな近くで妖精なんて見たことないし。それに普通に喋れるのね。たまに見つけると、歌うように喋って煽ってくるから、そういう話し方なのかと思ってたわ」
あっ、それ、俺も気になってた。最初会った時、歌って韻を踏むような感じで喋ってたよな。
《……。普通に喋れるし。でも、誰にも宿ってない子達はあれが普通だよ。あと、嫌いな奴とかだと、わざとらしくやるし》
「そうなのね。でも、あれはあれで好きよ。声も綺麗だし」
だってよ。良かったな。
《けっ》
ラフレシアがそっぽを向いた――のかな? 照れてない? 目ん玉伸ばして見たいけど、さすがにそれはグロいよな。
「ところでちょっと触ってみても良い? ほっぺとかお腹、柔らかそう」
《やめろし》
フーフシャーさんがラフレシアに指を伸ばすけど、ぱちんと払いのけてしまった。
ふふっ、うちのラフレシアはシャイガールだから、そう簡単に気を許さないぞ。――とか思ったら、踵でげしげしやられてしまう。やーん、頭へこんじゃーう。
「あっ、私、触ってみたいみたいのですが……」
ラフレシアとフーフシャーさんが戯れていると、お姫様もやってきた。後ろにはイユーさんが静かについてきている。イユーさん、真面目な顔をしているがあれは……実は可愛いモノ好き……とかだったら面白いんだけどなあ。うーん、表情が動かない。
んで、たぶんお姫様は見た目通り年相応の可愛いのが好きなんだろう。
お姫様が恐る恐るラフレシアに指を伸ばす。
《いーーーーー!》
けど、ラフレシアは歯を剥き出しにして唸るような声を上げる。
お姫様が困ったような顔で首を傾げてしまった。
「あら、私も駄目ですか?」
《駄目に決まってるでしょ! お前は、ローラのこと苛めたんだから! お前なんか大っ嫌いだ、ばーか!》
ラフレシアが、ぶんぶんと手を振り回して、お姫様の指を牽制する。まあ、あれは仕方ないっちゃ仕方ないな。俺でもちょっと怖いと思ったくらいだもん。
それに今は戯れタイムだから、俺は別にたしなめるつもりはなかったけど――、イユーさんがフッと前に進み出てきた。
俺はとっさにラフレシアを囲うように触手を伸ばす。それと同時に俺の触手の前にかんざしのようなぶっとく鋭い針が突き付けられる。――つーかそんなもん、どっから出した。暗器持ってるとか、油断ならないメイドさんだな。
針を突き付けてきたイユーさんは触手に包まれるラフレシアに鋭く言う。
「……セレーネ王女にそのような無礼な口をきくことは許しません」
「う~……」
悪いね、うちの相棒が。けど、寸止めだろうと脅しだろうと、冗談でもいきなり刺し殺そうとする真似はよしてくれない?
ピリピリッとした空気が俺とイユーさんの間で流れる。
これにはお姫様も慌ててしまう。
「イ、イユーやめなさい! 貴方の言い分も分かりますけど、この場合悪いのは私なのですから。……確かにあれは、傍から見れば苛め以外の何者でもありませんし」
《傍も何も、ただの苛めでしょ! このしょうわ――むぐぅっ》
お前も止めなさいよ。ちょっと口に触手入れて黙ってなさい。
イユーさんが下がったのを見てから、ラフレシアを囲っていた触手を解く。口に触手を突っ込まれたラフレシアが現れるが、今はガジガジとかじって抵抗している。口に突っ込んでおいてなんだけど、お腹壊すからやめなさい。
俺はお姫様に軽く頭を下げると、悲しそうな笑みを浮かべられてしまった。
「お気遣いありがとうごさいます。あと、えっと……ラフレシアさん。言い訳になりますが、あの時、ああでもしなければ、彼女の言うことを聞くほかありませんでした。それに一緒について来られたり、ルイス将軍を治療されでもして、『借り』を作られたら面倒でしたので。……もしそうなってしまったら、アンサムお兄様をお助けすることが叶わなくなります。それだけは絶対に、……絶対にいけません。たとえあの子が善良だと分かっていたとしても」
《…………》
ラフレシアの触手ガジガジが少し弱まったかな?
まあ、お姫様からは並々ならぬ執念的なものを感じるからね。たぶん本気でアンサムを助けたいんだろう。それを邪魔する相手はたとえ善良であろうと敵として扱わなきゃいけなかったんだろうな。たぶん。
《……そんなの知ったことじゃないし》
ラフレシアが声に出さす、心の中でそうぼやく。
うん、別に、お前のタイタン側の人間を思う心は否定しないよ。関係的に言えば、俺とミアエル、お姫様でいえばアンサムが傷つけられたことに当たるんだろうから。
向こうに感情が偏るのは無理もないことだ。
――まあ、これに関して俺がこれ以上、言うことはないな。
そもそもラフレシアを捕まえて、精神をそのままにして徴用してることが間違いだし。
俺がタイタンの奴らから傷つけられたとしても、傷つけ返した時点で、もう喩らせることも言えん。ましてやそれが、ラフレシアの元宿主とその恋人だったらなおさらだ。
ついでにタイタンの人間には、一人、拷問まがいのこともしちゃったしな。
俺がもっともらしいこと言ったって、そんなの空々しいだけだ。
けど、ラフレシアの考えは最低限、肯定するよ。間違ってないって。
《……。……私は、マスターなんて大嫌い》
別に良いよ、それで。悪いのは俺なんだから。
でも、俺以外の奴とは少しでも仲良くしてやって。
《…………》
ラフレシアは、しばし黙っていたけど、不意に、ころんと転がり落ちてきて、逆さまに俺を間近で見つめてくる。そして、ぱちんと俺の鼻を両手で挟むように叩くと、お姫様の方に飛んで行った。
イユーさんは少し警戒していたようだけど、お姫様は軽く手で制す。
ラフレシアはお姫様の目の高さまで飛ぶと、その場に留まり、むっすり顔で言う。
《……いつか、もしローラに謝れる日が来たら、謝って。それを約束したら、許す》
その上から目線の尊大で生意気な言葉はどうだろう? 皆の前でお尻ペンペンしちゃうぞ? ――とか思ったら、ラフレシアがお尻を押さえて睨み付けてきた。
お姫様は難しそうな顔をして、悩ましげに逡巡して、なんとか笑みを浮かべて言う。
「……もし、出来うるなら約束します。……そんな日を望めることを願って」
《……じゃあ、約束。私も酷いこと言ったの許してもらうからね》
「ええ。ありがとうございます」
お姫様がそう言うと、ラフレシアがお姫様の指を掴んで小さく振る。
『指切り』が終わると、ラフレシアはお姫様の手の上にちょこんと立つ。
お姫様は戸惑いながら――触れることの了承をもらったと判断して恐る恐る手を伸ばし、小さな頬をむにむにと突く。――どんな感触だったのか……まあ、少なくとも柔らかかったのだろう、お姫様は楽しそうに笑う。ラフレシアも別に嫌そうじゃなく、ちょっとつーんとしているけど、喜ばれてまんざらでもなさそうだった。
「あっ、じゃあ、私も……」
《魔物はだめー!》
「あーん」
フーフシャーさんが便乗しようとするけど、ラフレシアは許してくれなかった。
「くすんくすん」
なんかフーフシャーさんがわざとらしく悲しげにこっちを見てるけど、知らんがな。緊急事態じゃない限り、俺はラフレシアの意思を尊重するからね。
「……じゃあ、アハリートくん、責任をとってその触手で私と……」
「うー」
淫魔さんがなんか手を伸ばしてきたけど、ぱちーんと触手で弾く。残念、俺の触手はエロ方面では使わないんだ。たとえそれが任意であろうとなっ。
「あーん」
フーフシャーさんは二度、フラれたことで悲しそうにソファに飛び込んで、しばらくいじけるのであった。




