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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第五章 現る最強の死霊、リッチ?

 なんか地中にいるのヤバそうだったから出てきたけど、この後どうしよう。

 あっ、ちなみに今、左脚には木の棒を何本かくくりつけて即席義足を施している。歩きにくいけどないよりはマシだ。

 

 それは良いとして、広域浄化魔法だとかを放つとか言われたけど、もしかしてハッタリだったんじゃなかろうか。でも、本当だったら不味いので出てきた次第だ。

 

 うーん、途中まで良い感じだったんだけどなあ。一人の足に噛みついて、即地中に離脱して、各個撃破を狙う。複数相手でも対応できるように作戦を練ったんだけど、まさかのマップ攻撃とか止めて欲しい。そういう力技で解決って、策を練る側が涙目になるからマジやめて。

 

 てか浄化魔法ってあれだろ? さっきそこの幼女が放ったような、なんか対魔物用だかなんだかの危ない魔法のことだろ? それを放たれるのは不味い。

 

 つーか、さっき幼女があの二人に放つの見てたんだが人間に効果ほとんどないとか、酷すぎないか? 無差別に全てを巻き込むように使われたら、俺、ほぼ勝ち目ないじゃん。

 

 しかもなんか俺がさっき食らった感じだと、俺ら魔物に対する毒効果みたいなのもあるしさ。かすっただけでも死亡確定とかどんだけチートだよ。

 

 それに広域、ってどこまで広いのか分からんのも困ったね。十メートル以内なら離れられるからいいけど、百メートルならかなりヤバい、一キロメートルだったら、消滅まったなしだ。

 

 うーむ、魔法を使えなくても知識だけは得といた方がいいかもな。

 

 まあ、不幸中の幸いにして、あのアンサムって奴が深読みしてすぐに魔法をぶっぱなさなかったのは助かった。

 

 なんかバックヤードだかバックアードっていう名前の、俺がたぶんいつか倒す予定のリッチと取引する予定だったらしい。俺をそいつの部下だと思ったようだ。

 

 ………………ん? 取引って、あいつら奴隷商人っぽいし、その幼女渡すのかな? 

 

 ……うぉ、まさか骸骨がロリコンだったとは思いもしなかったぞ。しかも俺ら魔物に対して絶大な致死効果を示す魔法を使う相手を買うとは……やばい、もしかしてリディア並のドMなのかもしれない。

 

 ……いや、この場合、もしかしたらリディアがリッチの可能性もあるのでは? ドMだし、俺に自分の討伐依頼を出したのかも。

 

 うん、そうに違いない!

 

 ――なんて冗談はさておき、真面目に考えるか。

 

 さすがにリディアはリッチではない。なんでかっていうと、俺は同じ魔物の気配を感じ取ることが無意識の内に出来るからだ。それは最近気付いたんだよね。

 

 リディアはその中で……グレーゾーンだ。というのもなんかちょっと普通の人間ではないっぽいんだよね。

 

 でも、魔物では絶対にない。それは確信を持って言える。まあ誤魔化す手段なんて無数にありそうだけど、初めて出会った人間くらい信じたいものだ。性癖はともかく可愛いし。ときめかないけど。

 

 では話を戻そうか。幼女を助けるためにはどうしようか。

 

 言葉喋れないんだよなあ。アンサムって奴が気を遣って念話してくれたら、助かるんだけど、どうだろうか。

 

 そのアンサムが俺を油断ない目つきで見ながら、声をかけてくる。

 

 「……取引までもうちょっと時間はあったはずだが、どうしてここに?」

 

 どうしてって言われても嘘にしても本音にしても、偶然見つけたからとしか言い様がない。そして言いようがないため、どうすることも出来ない。せめてYESかNOで答えられる質問にして欲しいなあ。

 

 俺は首を左右に振って、困ったような仕草をしてみる。伝われ、俺の思い!

 

 「うー」

 

 「……? ああ、言葉を喋れねえのか。……悪いな、俺は念話が使えねぇんだ」

 

 うむ、残念だな。でも、アンサムって空気読めるっぽいから大丈夫かな。喋れないことに気付いてくれたし。

 

 「一応、確認するが言葉は通じるよな?」

 

 「うー」

 

 頷く。

 

 「ならいい。それでどうしたんだ? 俺らの様子を見に来たのか?」

 

 どう答えようか。うーん、YESはやめた方がいいかな? 俺がリッチの部下でこいつらのこと理解しているなら、俺から攻撃なんて仕掛けないだろうし。不手際起こして怒ったとしても幼女を捕まえた後にするのはおかしいし。それだと俺が馬鹿だと思われかねん。

 

 んで、逆にNOと答えた際の理由は……知らん。答えが無数にありすぎる。あのアンサムって奴、察し良いから適当に答えても、勝手に解釈してくれるだろう。都合の良さそうな答えにYESをすればいいや。

 

 なので、俺は首を横に振る。

 

 アンサムは眉間にシワを寄せた。

 

 「じゃあなんで……いや――――ここはお前の縄張りなのか? バックアードの部下だが、それとは別に侵入してきた俺らのことを警戒していただけか」

 

 「うー」

 

 そういうことにしておこうか。

 俺は縦に首を振って頷く。

 

 アンサムはニヒルに笑う。

 

 ――あっ、なんか間違ったことしちゃったかな、と俺は焦るものの、奴は肩を竦めた。

 

 「わりぃな。こっちもトラブっちまってよ。予定の五日後に改めてお前の主人に商品を渡しに行くから、報告だけでも済ましといてくれねえか? 今回の一件はどちらも問題なかったってことにしてよ」

 

 ……これはどう答えるか。穏便に幼女だけを受けとれば、それで万々歳だったのだが上手くいかないもんだ。言葉を喋れればなんとか誘導できたかもしれないが、無い物ねだりはできない。

 

 ちらりと幼女を見やる。

 

 ……なんかすっごいこっち見てる。怖いんですけど。なんか明らかに殺意滲ませているんですけど。……ちょっとこれ、もしかして俺、あの子と二人っきりになったら、殺されるんじゃないの。つうか、普通そうなるよな。今の俺ってあの子からすれば、諸悪の根源みたいなもんだし。あの子の受け取りしなくて、逆に良かったのかな?

 

 いやいや、そんな事考えちゃダメ――なんだけど、あの子の目、本気の殺意こもってるもんなー。

 

 やっべえ、どうしよう、心が揺らいできてしまったよ。あいつの荒んだ心を解きほぐしてみせる、とか安請け合いしたら、俺の存在が光の粒子となって解きほぐされてしまいそうだよ。

 

 あー、どうしよう、どうしよーう。助けたいけど、うーん。

 

 なんか全てが上手く行く良い切り札転がってないもんかね。

 

 ――そんな俺の願いが通じたのか通じなかったのか――『それ』はやってきた。


 「やっほーゾンビちゃん、はっやいねぇ――――おろ? お取り込み中かなん?」


 リディアが俺の後ろからやってきたのだった。

 

 救いの女神来たー、ではない、現状は! ほっとくとやらかしそうなので、俺は慌ててリディアに向かって念を送る。伝わってくれ、お願いだ!

 

 (リディア、リッチ、リッチのフリしてくれ、頼む!)

 

 (うぇん? 私でもさすがにあの骸骨ちゃんを真似るのは無理があるかなぁ。真似られるほど親しくはないし)

 

 おぉー、直接口に出さず、念話で返してくれた。この子、ちゃんと空気読めるみたいだ。

 

 (違う違う、完璧じゃなくても良い! とりあえずあいつらを信じされられれば! なんかな、あの幼女奴隷らしくて、リッチに売られそうなんだよ。で、そいつら奴隷商人。あの幼女助けたいんだ)

 

 (ほほう。あの幼女ちゃん――お、おぉ……ふ、踏みつけられてる、な、なんて酷いんだ! うへっ、私と代わって欲しいくらいだなぁ)

 

 空気は読めてもやっぱりド変態はド変態だった。

 

 (おい)

 

 (おっと、ごめんにゃ。――それにしても、あの子の目と髪は……あぁ――――そっか、分かった、ゾンビちゃんに協力するよん。でもリッチってどう演じればいいのかな? 私、骸骨じゃないし。これならフードかぶってくれば良かったねえ)

 

 (顔は魔法でどうたらで良いんじゃない……のか? そこら辺はアドリブで。あれだ、他はいつも通り演じればいい)

 

 (いつも通り?)

 

 (リッチはドMでロリコンらしいっぽいから)

 

 (うへぃ、マジかぁ。うぉーすげぇ、骸骨ちゃんに親近感沸いてきたなぁ!)

 

 やる気になってくれて嬉しいよ。

 さて、それではリッチとその部下を演じようか。まあ、俺は喋れないから突っ立ってるだけなんだけどね。リディアに全てを任せよう。不安だけど。

 

 リディアがにへらと笑いながら、俺とアンサムらを眺める。

 

 「ゾンビちゃんと遊んでたらまさか私が頼んだ奴隷ちゃんと出会うなんてねえ」

 

 「……なんだてめえは」

 

 アンサムがやはり明らかに敵意を前面にだし、リディアを睨む。対してリディアはその敵意に物ともせず、いつも通りの緩い雰囲気のままだ。

 

 「なんだって酷いなあ。取引相手ぐらいすぐに分かって欲しいねえ」

 

 「てめえがバックアード、だと? なんの冗談だ? ……今なら冗談で許してやる、とっと消えな」

 

 「……? ……あれぇ? ……本当に取引相手のことも分からないの?」

 

 リディアがかくんと首を傾げた。――その顔は、冷たいと感じるほどの真顔だった。あまりの表情の緩急に俺でも寒気を感じてしまうほど。

 

 さらに、魔法なのか、一瞬だけリディアの顔が骸骨になった。

 

 ――え? ちょっ、マジでリディアがリッチとかないよね? すごい不安になってきたんだけど。

 

 計画を立てた俺でも不安になるくらいだ。真実を何も知らないアンサムは、――たとえ奴が切れ者でもこのリディアを見てさすがに身を強張らせてしまう。

 

 「な、あ、――ま、さか?」

 

 「大体、私の前で何、奴隷ちゃん踏んづけてるのかな? ――ねえ、今の言葉の意味理解したら、何をすべきか分かるよね?」

 

 「いや、だが、こいつは……」

 

 「二回も言わせる意味が分からないんだよねえ。長く生きている私はね、無駄に繰り返すのが大嫌いなんだよね。……そもそも光の種族がなんなのか私が分からないと思ってる? それってさあ、私を馬鹿にしているって事だよねえ?」

 

 「――! う、い、いや、そんなつもりは……」

 

 やべえ、リディア、めっちゃ怖え! ドMロリコン設定どこ行ったの? 確かにこの方が迫力あるし説得力もあるけど、隣に立ってる俺も滅茶苦茶怖いんだけど!

 

 アンサムもごくりとツバを飲み込むと、幼女からゆっくりと足をどける。

 

 リディアは不気味なほど優しく微笑むと、その笑みを今度は幼女に向ける。俺らに殺意たっぷりの幼女もさすがにビクッと震える。気持ちは分かるよ。

 

 「はーい、奴隷ちゃーん、こっちにいらっしゃーい」

 

 リディアがそう言って、幼女に差し向けた指をくいっと自らに向ける。同時に幼女の身体がふわりと浮かんで、リディアの前まで飛んでいく。

 

 リディアは幼女を浮かばせながら、相変わらず笑みを浮かべる。

 

 「可愛いねえ。遊び甲斐がありそうだなあ。――ああ、キミらはもう行っていいよ。お金はちゃんと払うから、屋敷に来てよ」

 

 そう言いながら、リディアが幼女から顔を逸らした。

 

 その時、幼女の手に強い光が宿った。俺はヤバい、と思い、とっさにリディアから離れる。それと同時に幼女の手から、先ほど出会い頭に俺に放ったビームを最大出力にして極太にしたような物を発して、リディアにぶつけたのだ。リディアの全身が光に飲み込まれる。

 

 うぉおおおおい! リディア大丈夫か? 普通は人間には効かないらしいけど、魔力ものすごい集めて放つとヤバいとかアンサム言ってたし――そもそもリディアって人間だよな? でももし魔物だったら、完全アウトじゃね?

 

 時間にして数秒、光が消え去ると、そこにいたのはローブをまとった骸骨だった。

 

 全身から煙を上げながらも、その骸骨は依然としてその存在を揺るがせない。

 

 骸骨は落ち窪んだ眼窩に赤い光を宿らせると――高らかに笑った。男や女、子供や大人、老人のようなごちゃまぜにしたような不協和音の音色で。

 

 「あははっはははっはっはあっはははっはっっっはっは! さっすがだねぇ! せっかくつけた肉が剥がれちゃったよぉ! あぁ、痛い……けど、気持ちいいなあ。いきなりはすっごい無礼だけど、楽しいし、君みたいな元気な小さい子は好きだから許してあげるねえ、はははっ!」

 

 「う、そ……」

 

 幼女はたぶん最大出力で放った魔法なのだろう、それを受けてもなお消滅せずに立つリディアに絶望している。

 

 ……あー、えー? リディアさん? 貴方、マジで人間? えーどうしよー何が真実か分からなくなってきたんだけどー。

 

 上機嫌に笑っていたリディアだが、ぴたりと突然止まると、ぶるぶる震えているアンサムを見やる。今のリディアは骨で表情はないはずなのに、冷たさが漂っている。

 

 「で、未だキミらは何しているのかなぁ? 私の言ったこと、本当に理解しているの? なんでさっきから何度も何度も何度も――」

 

 明らかに怒気がこもっているリディアの声に、アンサムは慌てる。

 

 「あ、ああ! すまない! おい、行くぞボケ! さっさと立てや!」

 

 アンサムは仲間のひょろながい男を蹴飛ばすと、そのまま首根っこを掴んで走り出した。

 

 「ぐ、ぐぇ苦しい――! だ、旦那ぁ! 待って、待ってくだせえよ! 足、俺の足の解毒を――」

 

 「馬鹿野郎! 本当に死にたくねえなら、我慢しやがれ!」

 

 そうして、アンサムとその仲間は、瞬く間にいなくなってしまう。

 

 んで、訪れる静寂。

 

 ……いつの間にやらリディアは元の可愛らしい女の子の顔に戻っている。……こっちが本物だよね? だよね?

 

 てか、幼女の方も大変だなあ。リディアをとんでもない化け物みたいに見て、めっちゃガクブルしてる。うん、すっごい気持ちは分かるよ。漏らしていないのが逆にすごいと思える。

 

 で、俺は恐る恐るリディアに声をかけてみる。

 

 (あ、あの、リディア、さん……ですよね?)

 

 「そうだよん! どう? 迫真の演技だったっしょ? ドMロリコン要素も最後になんとかぶち込めたし、完璧だーよね!」

 

 きらーん、とリディアは横ピースウィンク舌ぺろをする。

 

 あっ、これはリディアさんですな。

 

 良かった、リディアがリッチだったわけじゃないみたいだ。

 

 …………そうだよね? 本当にそうだよね?

 

 俺はそんな半信半疑状態から抜け出せずに、しばらくの間、リディアに敬語をつかって接していたのだった。

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