第二十四章 妖精ゲットだぜ!
とりあえず無力化及び、遠ざけることに成功したかな?
……一応、触手とか作って天井に仕掛けておいて良かった。てか、まさか最後の最後でグーダンが修道院の奴らに見つかるとは思わなかったぞ。穏便に済ませられたのに、本当に、まったく。
俺はあのカウボーイ女と司祭みたいな奴が修道院の方に逃げ込んだのを確認する。そして地上に這い出てきて注意しながら礼拝堂へと入っていった。
一度、触手爆弾を破裂させてたから、ちょっとだけ酸の霧がまだ漂っている。結構上等だった長椅子がボロボロで見る影もない。弁償したらいくらくらいするのかな?
まあ、それはさておき、祭壇の方に歩いて行く。
そんな時だった。
「あぁあっ! 殺さず倒すとか阿呆か! そんな余裕があるか馬鹿たれがぁあああ!!」
そんなカウボーイ女の声が聞こえてきて、思わずビクッってなっちゃう。次いで一瞬にしてチンピラ達の魂が消し飛んだのを確認して――何かで切り裂かれたっぽい?――さらにビビる。
え、やだ、怖い。マジ怖い。やっぱり転生者って怖い。慎重過ぎて正解だった。ほんとこわっ。
俺は早足になりつつ、祭壇までやってきて、そこにある捕獲用触手(大)を確認する。
しっかりと中に二人分の魂が入っている。銃使いの女とその彼氏っぽい奴でいいのかな。
さて、どうしよう。まあ、こいつら厄介だから最低限連れて行くけど……処遇はどうしよう。
初めはこんなことになったら、女の方は殺すつもりだったけど……うーん。
男の方、罠だって分かりながら助けに行ったんだよなあ。
別に同情とか、感動したから見逃したい、とかじゃないんだ。
これ、殺しちゃったら俺、人として大切なものを見失いそうな気がするんだよね。
たぶん、今の俺はこいつらを殺しても罪悪感なんて抱かないと思う。
……だからこそ問題なんだ。
一度でもやってしまうと、たぶん次から完全に歯止めが利かなくなる。
悩みすらしなくなるだろう。
実際、あのチンピラ達を使い潰すことに何ら感情を抱かないもん。
そうであるからこそ、俺は一線だけは気軽に越えちゃいけないんだ。
ていうか、こいつら殺したら、ミアエルが俺のこと身を挺して助けたこと完全否定することになるし。
ミアエルのあのやり方は認めてはいないけど、馬鹿だとか嘲笑うことだけはしちゃいけない。
よし、どっか連れてって隠しておこう。触手に包んでおけば地面に連れ込めるし。地上に管を伸ばして、空気穴さえつけとけば、一日くらい持つだろう。この触手、寄生虫なしのクリーンな奴だし、放置しても色々大丈夫なはず!
そんなわけで俺は捕獲用触手(大)を抱え上げ、もう一つの捕獲用触手へと向かう。
捕獲用触手(小)は小さいから、念じたら軽快に椅子の下から出てきてくれた。むにょんむにょん、と元気に跳ねている。ふふっ、こう見ると可愛いじゃないかこいつ。
んで、こっちのは妖精入りだな。
まさか捕まえられるとは思わなかった。期待してなかったから、嬉しさより驚きが強い。
あー、もし捕まえられたら試したいことあったんだよね。
今、『魂支配』の空きが一つだけある。アンサムとグーダンに使って、後一枠あるのだ。
その最後の一枠に妖精入れちゃおうかなあ、とか考えてた。
ちなみにリディアには相談してない。ていうか、この話題あんまりだしたくないんだよね。リディアって妖精のこと本気で嫌ってるから、気まずくなりそうでさ。
それに『魂支配』するのも実際怖いんだけど。こいつら妖精って魂関連に特化しているから、下手に繋がると逆に支配とかされちゃうんじゃないかなあ、なんて思ってる。
でも、それ以上に『面白そう』なんだよね。女神やら妖精関連は気軽にリディアに尋ねられないから、こいつを従えられたら色々と事情を聞けそう!
まあ、今すぐここではやらないけど。『魂支配』は時間がかかるから、やっぱり安全な場所でやらないといけない。……それにあのカウボーイ女が近くにいるの怖いし。あいつ苦手だわ。
とりあえず目的も済ましたし、ここにいる必要は無い。
この後、一つだけ、明日のためにしておいた方が良いこともあるが……そっちはあくまで出来れば、だ。『聖人』関連だから、慎重にいかないといけないしね。……いっそ進化しちゃって戦おうかな。
というわけで俺はすぐに教会から逃げ出すのであった。
グーダンには一旦、裏町の屋敷へと戻って貰う。手に入れたものはそこに置いておけばいいだろう。聖人達がいるかもしれないけど、そこら辺はケースバイケースで対応しよう。持ったままってのもきついだろうし。
今回手に入れたものは結構大荷物だし、明日のために隠しておかないといけないのだ。
ちなみに修道院で暴れさせている大半のチンピラはそのまんまだ。あっちはもうどうでもいいからな。いや、一人二人くらいは『材料』用として戻しておくか。聖人と戦う時にいくらか肉が必要だと思う。
んで、俺は人気のなさそうなところに行って、その途中で二人を地面に埋めておく。でもすぐには遠くには行かない。触手で包めば一緒に潜れるのは知ってるけど(最初はグーダンで試した)、潜ったまま離れたことはないからな。
……うーんやっぱりちょっと俺が離れると『潜伏』の効果が切れて、やや圧される感じがあって、苦しげな声が聞こえてくる。
ちょっと工夫が必要かな?
触手の表面を乾燥とかさせて堅くしてみると……うん、潰れず良いスペースが保てた。これで問題ないだろう。縦だと辛そうだから、横たえておく。暗闇で精神が壊れでもしななきゃ、空気穴もつけたし、まあ、ほっといても問題ないだろう。
それで、メインイベントだが……こっちも早めに済ませないとな。妖精達って全員が繋がってるらしいから位置を探られるかも。実際今、暴れてはいないけど……なんか魂の気配がぴこんぴこんしてる。まるでレーダーのような発光をしているのだ。
俺は捕獲用触手に少しだけ隙間を開けて、そこから細い触手を四本ほど入れる。
《いやぁ!》
その声に、ちょっとだけドキッとする。……うーん、気をつけないと性癖こじれそう。
妖精の手足に触手を巻き付けて捕獲用触手を広げると、そこから粘液塗れの小さな女の子が現れた。……うぐっ、人外好きの俺の心に少し響いてしまう。この姿はすごく、エッチだ。……駄目だぞ、俺。俺の触手はエロ方面には使わないんだ。
つーか、よく見ると女の子の形はしているけど、あくまで形だけだ。胸はただ膨らんでいるだけで、股間も同様でそれらしい『機能』はない。……いや、待て、これは、むしろ逆にエロいような……。
妖精が俺をキッと睨み付けてくる。
《この変態変態、最低最悪、馬鹿や――んぐぅ!》
ちょっとうるさかったので触手を口の中に突っ込む。そのまま『魂支配』開始。
《んぐぅううううううううう!?》
あれ? なんか、あれ? 予想していたより明らかにスムーズに『魂支配』が出来ている。『魂支配』ってかなり時間がかかるはずなんだ。なんか卵の殻を削って穴を開けるようなそんな地道な作業なんだけど……それがない。
こいつがいわゆる群体で女神の『端末』だからか? あっ、なんかネットワークっぽいものが見える。その奥になんかたくさんの妖精らしき光に纏わり付かれた大っきな魂の塊が――、
《誰、か――》
その塊から微かに女性の声が聞こえてきた。
《――shutdown!! code:『apoptosis』――》
目の前の妖精が心の中でなんか唱えたら、ぶちっ、と不意にネットワークが断ち切られた。つーか、シャットダウンはともかく、アポトーシスってそれあかん。たぶん自害系の奴だ。
(止めろ! ストップだめ! アポトーシスはいけない!)
どうすればいいか分からないから、必死に呼びかけて止める。無駄だと思っていたけど……、
《う、ぐ……》
止まってくれた。あら? なんで? もしかして、『魂支配』で支配出来てたから命令に従ったのかな?
たぶんそうなのだと思う。実際、目の前の妖精は俺を恨めしげに睨んでいるが、何もしようとしていない。
よし、訊ねてみよう。
(お前の名前は?)
《……ホ、スタ……嫌だ……この名前は、お前のところでなんか使いたくない!》
妖精が本気で嫌がるように頭を振りながら、心の中で叫んでいた。
(じゃあなんて呼べばいい?)
《知るか! 勝手になんとでも呼べば良いじゃん……》
すっごい反抗的。怒りながらも悲しそうにして、ぷいっと顔を横に逸らした。
うーん、駄目だなこれ。いや、態度じゃなくて姿が。口の中に触手突っ込んだままだから、人によっては嗜虐心くすぐられるんじゃないかな。人外好きな俺も目覚めてしまうかも。
それはさておき、こいつ、今、俺の魂と繋がってる状態かな? そんな繋がりを感じ取れるような……。
《お前と繋がってるとか……気持ち悪い……》
おや、なんか伝えてないのに伝わっているような。……あらま、まさか完全に俺の魂と同期しちゃってる感じ? いやん、赤裸々な思いが伝わっちゃうとか恥ずかしっ。
妖精が俺を蔑んだような目で見つめてきて、言う。
《きもっ》
やめろ、お前人外なんだから、そんな反応すると本気で興奮しちゃうぞ、いいのか?
《……っ! やだ、マジで気持ち悪い……!》
本気で嫌がってる。本当に心が知られちゃってるみたいだな。でも向こうの心の声が聞こえないんだけど。何、この一方通行。
(お前の方が上位とか主人みたいな感じ?)
《……そうだったら良かったけど、私はあくまでお前の支配下にある。……命令には逆らえないようになってる。私がお前の心理的なものが分かるのは、あくまで従う私がちゃんとした意思疎通を図るためのシステムだと思う。実際、普通の妖精憑きがそうだし。……ていうか私の心なんて知ったところで、言うことを何でも聞かせられるならそっちには関係ないじゃん》
(なるほど、……まあ、そうなのかもな)
うーん、意外に複雑な関係になってしまった。まあ、命令に従うなら一応最低限の行動だけ縛っておくか。
(命令する。自害禁止、俺の命狙うの禁止、逃げるの禁止、今んとこ、他の妖精と通信するの禁止)
《……分かった。でも最後のはどっちにしろ出来ないよ。一度ネットワークから完全に外れたら、繋がってる仲間と接触しないと繋げることは出来ないから。今回みたいにネットワークを侵される危険があるし》
(ならいいや。まあ、しばらく静かにしていてくれ。つうか、俺の魂の中とか入れる? あっ、やばい悪戯すんなよ)
俺はそう言いながら、恐る恐る妖精を離す。逃げ出すんじゃないかと内心ビクビクしていたけど、妖精はむっすり顔をしたまま、俺の胸の方にやってきた。すっごい渋々ゆっくりと俺の中に入り込んでくる。……んー、なんか変な感触だな。魂になんか違和感がある。異物感みたいな? 慣れるまで時間がかかりそうだ。
《……大人しくしてるよ。精々惨たらしくローラ達に殺されろ、馬鹿野郎》
(声援どうも)
そんな軽口を叩きつつ、俺は地面へと潜ると、『聖人』達を探しに行く。
さて、余裕が出来たし、少し楽になるために最後の仕上げをしようじゃないか。
俺は城下町の地中をひたすら進んでいた。そんな深く潜らなければ、大抵の家屋も避けずに行けるから楽だな。
これから『聖人』達と戦いに行こうと思う。いや、まあ、戦いっていうか真正面からやり合わないけどね。
《卑怯者》
妖精が吐き捨てるように言ってくる。
そのことは十分自覚しているけど、改めて言われると、すごく新鮮な気分になるな。
(ありがとう。ところで聖人の特徴教えてくれないか?)
《三人とも胸は普通。くびれはアンジェラ、ローラ、ミッシェルの順に細い。お尻は逆》
(それも大変興味深いんだけど、能力的なものさ。一応、狙うとしたら魔法使い系がマシとか言われたんだけど。杖持ってるのが大半って聞いたけど、ほんと? ていうか、今回魔法系の奴っていんの?)
リディアには、襲撃前に大体の聖人達の特徴を教えてもらっていた。
けど、回復術士を中心に構成が毎度違うんだってさ。遠距離格闘家と近距離格闘家とか、飛び道具とか使ってくる奴もいたとか。魔法系はあんまりリディアに有効打は与えられないから、活躍の場が狭まりつつあるらしいけど。って言っても、弱い訳ではないらしい。それにあくまで使いどころが結構あるから、なんやかんや、うんぬんかんぬん、なんとかかんとか、重要ではあるっぽい。
そういえば回復術士は止めとけって言われた。普通に殺されるかもってさ。毎度、何気に最強なんだってよ、あの中で。今回もそうかもって言ってた。
格闘家は普通に奇襲をかわされるかもしれないから、なしにしとけって。
だからこその魔法使い系だけど、俺魔法に弱いからなあ。消去法で一番、マシってだけらしいし。それに俺にとって一番好ましくない、レジスト能力も高めとも言ってたな。
……うーん、困る。というか選ぶ以前に、そもそもいるかどうかも分からない状況だしなあ。
つーか、誰が誰やらどんな特徴なのか。結晶を周りに浮かせたのが確か、回復術士って言ってたっけ? でも、他はまちまちらしい。杖がメイスっていう武器の近接特化の可能性もあるっぽいし。魔法使いでも素手の場合があるって言ってたっけかな。
こんなことなら、意地張らずに襲撃終わったあの時にリディアに訊ねれば良かったかなあ。
まあ、今更仕方ないし、ここは妖精の情報に頼ろう。
《……言いたくないし、魔女の代わりに言うとかヤなんだけど……ううぅ、でも、言えないが出来ない……。いるよ。ミッシェルって娘》
(特徴は?)
《金髪眼鏡》
(……。杖は?)
《持ってる》
(…………)
本当に言いたくないらしく、最低限しか言わねえな、こいつ。
《当たり前じゃん。だったら、私の意思なんて完全に奪っちゃえばいいじゃんか》
(でもそれつまんないんだよ)
《……この変態快楽主義者》
妖精が唸りながら、そんな悪態をつく。
そんな態度取られると、なんだか楽しくなってくるじゃないか。
(けど、生意気な子は、ちょっと辱めてやろうかなあ)
《な、なに……何されても私は痛くも痒くもない! 死んだって問題なんてない! むしろ殺せ!》
(殺さないよ。ふふっ、その強がりが続けばいいなあ。ああ、こっから心を読むのはなしだ)
《……っ! 聞こえない……やだ、でも気持ち悪いのが分かる……》
ねっちゃりとした俺の心に触れて妖精が震えた気がした。
一度、俺は地上に上半身だけだして、手皿を作る。そこに魂から出て貰った妖精を乗せて、真正面から向かい合う。
やはり少し不安そうだ。自らの身体を抱き、心の防御壁を築く。ここら辺、普通の人間と仕草は同じなんだ。感性も一緒かな? ……なら……。
《……負けないから……!》
すごむ妖精に俺は言う。
(自分が思う、言いたくないくらい最大限滅茶苦茶ぶりっぶりっで可愛い感じのことを仕草つきで言え。あっ、淫猥系はなしで)
《……は?》
と、妖精が呆けたのも束の間、俺の手の平の上で身をくねらせ、片足を曲げて手でハートを作り上げる。そしてとてつもなく可愛い子ぶった声色、満面の笑みで言うのだ。
《ほしゅたわぁ、ろみぃのことぉ、世界で一番だーいちゅきっ! でも世界の皆も同じくだいしゅきだからぁ、これで幸せになぁれ! くらぇ、らぶりぃ、びぃむ!》
そして最後はハートを象った手を前に出して、小首を傾げ、ウィンク舌ペロで華麗なフィニッシュだ。
……うわぁ、可愛いけどきっつ。
《…………》
命令の拘束が解けた妖精は、目のハイライトが瞬時に消えて固まってしまう。でもそれも一瞬だ。
《あ、あぁあああああああああああああああああああああ!》
顔を真っ赤にしながら、俺の手の上で頭を抱えて転げ回っている。やべえ、面白い。
(くくっ……大丈夫、大丈夫、とっても可愛いかったよ、ほしゅたちゃん)
《う、うっさい、このばかぁあ!》
妖精が涙目になりながら、飛び上がると即座にスクリュー回転しながらドロップキックをかましてきた。華麗な一撃が俺の胸に入る。けど、とすん、と弱い感じで、たぶん痛覚があってもダメージは一切なかっただろう。
妖精は、反動で跳ね返り、空中で一回転するとそのまま頭から俺の魂の中に入っていった。
《――うぅううう、あぅんぐぎゅ、にゅうう、うんぐわぁああああ!》
なんか俺の中で、どったんばったん転げ回りだした。ビリビリと魂全体に響く感じはするけど、面白いもの見せて貰ったからほっといてもいいや。
ダメージでかそうだよなあ、あれ。俺が考えたものを一から十やらせたわけじゃなくて、自分で思ったことを一から十やらされたんだから。自分がってのが中々にきついところだ。
とりあえず、落ち着いたら聖人達の詳しい話を聞こう。その後、聖人達にアタックをかけようか。
ああ、その前に進化しちゃおうか。身体の変化がそれほど大きくなかったりしたらすぐ戦えるだろうし。戦いにくい変化だったら、戦いは見送っちゃおう。別に問題ないし。




