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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第二幕 偽りの王子と国を飲み込む者達
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第二十三章 奇襲の意趣返し

 妖精というのは――少なくとも女神に属する者達は――群体であり全てが繋がっている。距離に関係なく、それぞれが見たもの感じたもの、記憶したものを共有が可能なんだとか。


 いわゆる妖精同士でネットワークが構築されていると言っていいのか。


 だからこそ、裏町の屋敷に行った聖人達がピンチだということもすぐ知れた。


 ミッシェルが攫われてしまったらしい。さらに途中で同期が切れてしまったため何が起こったかは分からない。どうやらミッシェルの精神状態が限界値を突破しかけたため、一旦、通信を切ったようだ。


 妖精は宿った者の精神に影響されるらしく、その逆も然り。それを用いて精神を落ち着かせることが出来るが、相手の負の精神に引きずられる可能性もあるらしい。最悪、当事者だけではなく、繋がっている者達全員に影響を及ぼす場合もあるとのこと。


 まあ、だから感情のハウリングの危険性も考慮して相互通信の強度もそれぞれ違うらしいが。ここら辺はとても面倒な話になってくるため、ルリエは突っ込んだことは聞かなかった。


 分かったのは、やはりあのゾンビが向かった屋敷は『巣』にされていたこと。


 そして本体のゾンビはすでにチンピラ達をいくらか連れて、『どこか』に向かったということだろうか。


 どこに向かったか。何をしようとしているのか。それを知るためにはまず、ゾンビが何を為そうとしているのか知る必要があるのだが……。


 残念ながら、妖精やアルディスに問いただしても詳しい話は聞けなかった。


 あくまで転生者達は城の淫魔やゾンビ退治だけをやっていろということなのだろう。


 「……せめて、どこに向かっているのか想定してくれると助かる。ここが目的地でロミーは片手間ついでの復讐なら、ロミーを違うところに搬送した方が良かったことになるからな」


 《あいつらが何を考えているか、なんて難しいよ。少なくとも将軍の処刑阻止と城に行くことのどちらかの可能性が高いと思ってるけど。……ここに来るのは、ロミーに対する復讐以外は思いつかないよ》


 「じゃあ、まず順繰りに考えて行こう。仮に城に行ったとして、突破は出来るか? チンピラを囮にすれば、中に入れるのか?」


 《うーん、この国の戦力はよく分からないけど、練度は高そうだったから無理じゃないかな。ルリエ達が戦った門前でも、門番の人達、良い動きしてたんだよね?》


 ゾンビに門を突破されたものの一般兵ですら、立派に連携を取れていた。あのゾンビでなかったら、十分止められていただろう。


 だとするなら、他の将軍が駐在している城は守りが堅いと考えてもいいだろう。


 《……それにたぶん、正面じゃなくても入れるし。……だけどそうするとそもそも町の中に入ること自体無意味だし……攪乱目的でも効果は薄いかな……むしろ『彼』と一緒の方が突破が簡単そうだし。ゾンビが要なんだから、囮にして死んじゃったら意味ないよ》


 『彼』とは誰か分からないが、城へ真正面から入る意味はないらしい。


 「ですが、『違う出入り口』から入った場合、あのゾンビの特性を十分に発揮出来ないとも思いますがね」


 そう言ったのは、アルディス司祭だ。


 ルリエが首を傾げる。


 「奴の特性……肉体操作か隠密が使えないところということか?」


 「後者の隠密の使用が不可になりますね。そもそも屋内に入るという時点で、何かに潜り込む系のスキルは効果が薄くなりますから」


 潜~と言ったスキルは大抵、深度に限界が設定されているのだ。城となれば、入った時点で効果がなくなると言って良いだろう。


 「……いや、あれは肉体に潜むことも可能かもしれないからな。適当な城の人間さえ捕まえれば、入ることも出来るだろう」


 《そうだよね――んん? あれ、ルズウェルの方から連絡。なんか広場のルイス将軍に接触した人がいたみたい》


 その言葉に全員が妖精に近づく。特にミズミが殺気を強めに外の扉に視線を一瞬向けた。


 妖精は自分より遙かに大きな者達に近づかれたことで、やや気圧されたように震える。


 《そ、そんなに詰め寄らないでよ、うっかり潰されるのなんて嫌だからね》


 「それよりも、相手はゾンビか?」


 《それよりもって、もう……。……うーん、と違うみたい。ルズウェルとカスレフが調べた感じたとその人にゾンビの気配はないっぽいかな。……それになんかその人が言うには、自分を王妃だって……》


 「王妃? 何故そんなところに?」


 《分かんない。アルディスは城の内情とか知らない? 夜に散歩する人なのか、とか。そういう文化とか》


 「さすがに私もそこまでは……。ただ王妃に関しては悪い噂が多いですね。少し城を歩いただけで、やれ前妻を暗殺したとか最近では権力を得るためにアンサム王子と寝たとか」


 《……え? マジ?》


 妖精が殊更、嫌悪感たっぷりな表情を浮かべた。


 ルリエとしても確かにそれは、とは思うが、妖精からはまた別種の強い感情が見て取れる。まあ、今回の計画には関係のなさそうな背景だろうから追求はしないが。そんな噂、ゴシップ記事にでもする以外に役になんて立たない。


 「それで王妃はどうしてそこにいたんだ?」


 《さあ? やっぱり理由はちゃんと言ってくれないっぽいね。本物かどうかも分からないし、仕方ないから確認がてら城に使いを出して、誰かに迎えに来て貰うみたいだよ。あと先にローラ達と合流出来そうだから、ゾンビが入っていないかちゃんとした検査もするみたい》


 「……それなら一応、安心、か?」


 仮に相手が本物の王妃であった場合、ゾンビが体内に入っていたら城に容易く侵入出来るだろう。でもその可能性を減らせるのなら、助かる。


 「城に入るのはまず無理だとして、次は将軍の救出らしいが……これはカスレフとルズウェルの広場にいる二人に任せてもいいのか?」


 「問題ないでしょう。それに戦う必要もないですし。将軍を連れて、安全に城下町の外に出るのは至難の業でしょうから。最悪、追跡さえすればいいかと」


 「…………」


 その通りだ。怪我をした将軍を連れて行ったところで、どこに行くのか。これが問題なのだ。夜中とはいえ、少しでも騒ぎを起こしてしまえば、警戒態勢が敷かれることだろう。元より門を破った以上、そこは厳戒態勢がすでに敷かれているのだ。同じ場所からの出ることは出来ない。


 「ゾンビが町の人間を虐殺することや感染させることは考えられるか?」


 《その可能性は低いと思う。屋敷でも寄生虫の封じ込めを徹底してるっぽいよ》


 「彼らが『今後』を考えるなら、ゾンビにそんなことはさせないでしょう」


 ゾンビの力を最大限に生かした城下町を混乱させる方法が使えないなら、連れ去ることが難しくなる。


 将軍を連れて城下町に潜む続けるのは難しいだろう。事態が好転するなら、隠れ続けるのも良いが……。


 「お前達が知ってるゾンビの『目的』は、時間をかければ成し遂げられるのか? その結果、将軍の罪を打ち消すことに繋がるのか?」


 《一応、繋がるけど……時間をかければ良いって話でもないような》


 「そもそも将軍を連れ去って警戒させたら、『目的』への警備が厳重になりますから。逆に時間がかかるでしょうね」


 「…………」


 なら、夜中に将軍を連れ去るメリットがない? それともこちらが知らないだけで、連れ去った後、城下町の外に出る方法があるのだろうか? それなら考えるだけ時間の無駄だが……。妖精とアルディスを見る限り、脱出する手段はないのだろう。


 なら将軍を助けることはない、ということになる。そうするとロミーへの復讐になるが……『巣』を作ってまで念入りにやることか? というか、あのゾンビは隠密が得意だというのにあんな騒ぎを起こす必要がどこにある。死んだふりで誤魔化そうとしていたが、あんなことがあれば、こちらだって警戒を強めることぐらい分かるだろう。少なくともゾンビを殺したら、今度は怒った魔女襲来もあり得るのだから。


 (……どれもこれも要素同士の食い合わせが悪いな。というかなんだ? このちぐはぐした感じは? 違和感しかないな)


 あまりにもおかしいのだ。今までの話をまとめて、結論を出すなら、……結局、ゾンビが城下町に侵入する意味がないと来ている。


 メリットが一切無い。……なんでこんなことをする? もっと良い手段があったはずだ。


 『目的』のために城に行くにしても、処刑される将軍を助けるにしても。


 何故、明らかに悪手を取り続けている?


 ……ロミーの復讐のために突っ込んできたとしても、おかしい点がある。あの『アントベアー』の群れは事前に集めておかないといけないほどの数がいた。ならば、門の突破は最初から想定していたことになる。何も考えていない、ということはないはずなのだ。


 《あっ、ミッシェルを救出出来たみたい。あとローラが予想として、明日の処刑時に何かするかもって思ってるよ。屋敷にはまだ多くの人が待機させられてるってさ》


 「…………」


 ローラの考えは合っているかもしれない。だが明日にする意味は? その準備をするために今、大勢を連れて移動しているのにはどんな理由がある? ……分からない。


 ルリエが腕を組んで眉間にシワを寄せながら考えていると、ふと目の前にシィクがやってくる。そしてルリエの眉間に指を二本当てて、シワを伸ばした。


 「ルリエさん、シワが寄っちゃってますよ。ほら、ぴーんってしないと」


 「…………」


 シィクがにっこりと笑顔を向けてくるので、ルリエは彼女の両頬を手で挟んだ。ついでにむにむにと回すように揉む。


 「むいむぅ――」


 同時に肩に力が張っているのに気付き、力を抜く。


 「そうだな、少し悩み過ぎているな」


 恐らく考えても仕方がないのかもしれない。というか、分からないことが多い現状や立場で予想なんて出来るわけがないのだ。本来それを考えなければならないのは、妖精やアルディスなのだから。


 まあ、そう言っても最悪命に関わることだから、出来うる限り考えて対策していきたいが。


 ――と、ルリエがシィクと戯れていると、不意に教会の両扉がゆっくりと開けられ始めた。


 それには全員がすぐさま、臨戦態勢を整える。シィクは振り返ると、剣の柄に手を当てた。ルリエも鞭を解いておく。ミズミは即座にライフルを構え、弾を装填して扉に向けていた。


 アルディスと妖精は、一歩下がり、注意深く観察している。


 扉が開き、そこに現れたのは――子供だった。ダボダボな服を着た十歳前後の男の子で、殺気を向けられたことで戸惑ったように身をビクつかせる。


 ルリエ、ミズミにアルディスは警戒を解こうとしたが、妖精とシィクが叫ぶ。


 《その子、魂がないよ!》


 「『生体感知』にも反応なしっす! 生きてません!」


 それには三人は、再度、警戒を強める。


 そんな生きていない子供の後ろから、男が歩いてくる。――こちらは隠す気がないのか、触手を服の袖から垂らしていた。顔は人間のそれだが、明らかに化け物であると分かる。


 《そいつ、あのゾンビだ! 間違いない!》


 「来たか……」


 「お前が……!」


 ミズミがゾンビ――アハリートに銃口を合わせる。対するアハリートは触手をうねらせながらも、特に何もしてこなかった。


 敵意がない。だからミズミも攻撃するのに若干ながら躊躇いがあるようだ。


 ルリエはこっそりと後ろを確認する。……背後のロミーは動かされる気配はない。たとえ動かされても対処はしている。大丈夫だ。


 シィクが剣を抜き、構えながら、油断なくアハリートを見つめ、問う。


 「……何か用っすか?」


 彼女は無意味だと思いつつも、念話を繋げてみる。一応皆にも聞こえるように、ネットワークを構築しておく。


 すると化け物――アハリートは首を縦に振りながら、返答してきた。


 (少しだけな。そっちが手を出さなきゃ、穏便に済ます予定だ)


 「ロミーに手出しはさせないぞ。お前にとっては憎い奴かもしれないが、こっちにとっては大事な仲間なんだからな」


 そう言ったルリエにアハリートは心の中でため息をつく。


 (そうか。それはこっちも同じだ。そっちの都合で殺しかけやがって。……自分らだけ被害者面してんじゃねえよ)


 「それはそっちも同じだろう。……大体その子はなんだ? お前にも一応は、見境はあると思っていたが」


 (これか? 肉片で見繕っただけのただの人形だよ。実際に子供を殺したわけじゃない。……妖精がいなきゃ、まあ、もっと楽だったんだけどな。いや、そっちの革鎧の奴に感づかれるか? ああ、そういや、お前がミアエルを治療してくれたんだよな。ありがとう。お前らのせいだとしてもその辺は感謝してる)


 「え? あ、はい、どうも」


 シィクはアハリートにいきなり礼を言われ、戸惑ってしまう。彼女は一瞬、どうするか迷いつつ、息を吐き出すとアハリートを真っ直ぐに見つめる。


 「ロミーさんに、もう手出しは止めてください」


 (分かった)


 「え?」


 そう言われて、思わず呆けてしまう。それは全員が同じだった。


 (殺しに来たけど、ここにいる全員と敵対したら面倒だしやめとく)


 「……面倒だから止める?」


 ミズミが漏らした声は、憎悪に満ちていた。アハリートも聞こえていたのだろう、彼に視線は向けたが……すぐに逸らした。ロミーとミズミの事情は知らないだろうが、察して何もしないのを見るに、火に油を注ぐ気はないらしい。


 争いをとことん避けようとしている気配がある。――何か目的がある?


 「なら、すぐに帰って貰うと助かるんだがな」


 (そのつもりだ。……ところで一つ聞きたいんだけどさ、お前ら、なんでアンサムにあんな酷いことしてそんな『普通』に振る舞えるんだ?)


 「……ん?」


 ルリエは首を傾げる。


 アンサムとはこの国の王子のことだろう。酷いこととは一体なんだろうか。そもそも実際に関わったことはない。


 ルリエ他、転生者は訝しむと、その反応を見てアハリートは(なるほど)と呟く。


 (知らないのか。なら本当にいいや。原因はそっちの偉そうな眼鏡と妖精か。……じゃあ、俺は……あっ)


 アハリートが立ち去ろうとした時だ。彼は視線を一瞬だけ修道院の方に向け、口を歪める。


 それと同時に、修道院の方から叫び声が響いてくる。


 「きゃああああああああああああああああああああ!!」


 「なんだ!? お前か!? 一体何を――」


 (くっそ、最後の最後でミスしやがって、あの馬鹿……)


 「ルリエさん、うちが確認しに行く――」


 (させるか)


 「――っ!」


 アハリートが袖から触手爆弾を取り出してきた。それを触手で掴んで投げようとしたところで、――銃声が鳴る。


 びちっ、とアハリートの身体の真ん中の肉が弾ける。その前に子供型の肉人形が盾となっていたが、何故か肉体を損壊させず、すり抜けたのだ。


 そしてミズミは吐息を一つつき、呟いた。


 「弾けろ」


 瞬間、アハリートの上半身が弾け飛んだ。血肉があたりに飛び散り、酸性だったためか、周囲を焼け溶かす。


 アハリートの下半身だけがその場に残り、血を噴かせている。


 それを見たルリエは思わず口を開く。


 「すごいな。……お前が討伐に行った方が良かったんじゃないか? すり抜けも可能なら防がれなかっただろうに」


 「いえ、ミズミさんの能力は魔法的なので結界構築前や崩壊後に魔女に位置を容易く特定されて殺される危険がありましたので」


 「アルディスちゃんの言う通りかな。それに俺はロミーほど精密性がないからねえ。それなりに近づかないと。……それにすり抜けは魂のない物体にだけだし」


 そう言ってミズミは肩をすくめる。


 一瞬、緊張の糸が切れかけそうになったが、妖精が叫んだ。


 《まだそいつ死んでない! 魂が残ってる!》


 (――ったく、ほんと面倒臭いな、妖精って……でもやっぱり位置は特定出来ないんだな)


 上半身を失ったまま、アハリートの声が全員に聞こえてくる。


 ルリエは即座に彼の足元に目を凝らした。そして身体の陰に外の石畳に繋がる平べったく背景に溶け込むように擬態した触手を発見する。


 やはり保険をかけていた。でも、種が分かっているため、対処は出来る。それなりに離れているが、大地操作で地上に押し上げられるだろう。


 シィクもそれを分かっていたのか、床に手を当てて魔法を発動させようとした。


 そんな彼女に向かって、天井からなまこのような触手が降ってくる。


 「うひぃっ!?」


 べちゃりと後頭部に張り付いてきたなまこ触手に、シィクは小さく悲鳴を上げる。とっさに落とそうと頭を振りながら手を伸ばすが、その前になまこ触手が細い触手を額と首に巻き付けてきた。力は弱いが簡単に振りほどけない。


 ――さらにそのなまこ触手の背部には、突起があった。そこからたくさんの白く長い糸状の触手が伸びてきて、顔全体を覆ってくる。


 白い糸触手が肌に触れた瞬間――、


 「んぎぃっ!? あ――んぎゃぁああああ! い、ぎぃ、ぁああ!」


 シィクの顔に激痛が走り、彼女はたまらず床を転げる。必死に触手を取ろうとするが、糸触手に触れる度に痛みが貫き、手が強ばって動かせなくなり、さらにまともな思考すら出来なくなっていく。さらに転げ回る彼女に、その他に床に落ちてきていたなまこ触手が群がっていく。


 そしてその同時期に妖精にも触手が降ってきていた。


 《うわぁ!?》


 その触手は平べったく、妖精に当たった瞬間、包み込むように捕らえてきたのだ。そのまま床に落ちて転がる。妖精はバタバタと暴れるが触手は柔らかく強靱なため、破ることが出来ず、ただボコボコと小さな膨らみを作るばかりだった。


 さらに、他にもボトボトとたくさんの触手が降り注いでくる。シィクや妖精にぶつかったものもあるが、多くは触手爆弾だ。


 ルリエはなまこ触手をなんとか回避出来たが、同時に起こった様々なことに混乱しかける。


 (天井から――いつあんなのを仕込んで――いや、違う、今考えるのはそこじゃない。どう動く――これは爆弾――早くしなければ、シィクを、それにホスタは――)


 アハリートを倒せれば、今ダメージを負っても立て直しが出来るが、それを為すのは無理がある。生憎とルリエは魔法系の遠距離攻撃スキルを持っていなかったのだ。


 ――まず逃げて態勢を整えることが重要――。


 そう判断して、シィクを抱え上げた。なまこ触手は幸い、取り付いた相手のみに執着するようだ。


 あとはアルディスかミズミにホスタを回収するように頼もうとして……、

 

 「助けてミズミィ!」


 ロミーの叫びが教会内に轟く。


 声の方を見やると、あの触手爆弾がロミーの近くにも落ちてきている。爆発しそうな気配はないが、もし爆発したら、至近距離で動けない彼女は助からないかもしれない。


 「――っ」


 ミズミがロミーに向かって動きかけたのを見て、ルリエが怒鳴る。


 「罠だ! 行くな!」


 (なら、ほっといてグズグズの溶けた肉塊にしたけりゃそうしとけよ)


 間髪入れずアハリートの声が脳内に響いてきて、ミズミが歯噛みすると申し訳なさそうにルリエを見やった。


 「――くそっ――! ……ごめん、ルリエちゃん、皆」


 そう言って、ミズミはロミーの元へ走って行ってしまう。


 「馬鹿が! あぁ、くそっ! ホスタは――」


 視線を床に向けるが、今の一瞬でホスタを包んだ触手が消えてしまった。くぐもった叫びは微かに聞こえるが、正確な位置を特定出来ない。長椅子の下に逃げ込んだか。今更しゃがんで椅子の下に手を突っ込む暇なんてなかった。


 「~~~~~! アルディス逃げるぞ! 離れるなよ!」


 「ですが、ミズミさんが……それにホスタも……!」


 「捕まって操られたければ、そこでグズグズしていろ!」


 「……っ!」


 時間がない。取捨選択しなければ、待ち受けているのは確実な死だ――いや、それよりも酷いことだろう。


 何もかも見誤ってしまった。あのゾンビの目的も、用意周到さも。


 ルリエはアルディスと共に修道院の方に向かって走り出しながら、ちらりとミズミとロミーの方を見る。ミズミがロミーを抱え上げようとしていたところで、ホスタを包んだものを巨大化させたような平べったい触手が降ってきて、彼らを包むのを目にした。


 (――殺されることがどれだけ幸運なことか、嫌になるほど分かる相手だな)


 捕まえられたら操られる運命にある。それでなくても、シィクのように行動不能にされてこちらの戦意や機動力を削ぐことも出来る。奴は多数戦を想定した、とてつもなく厄介な方向に進化した魔物だ。城下町に入られた時点で、負けていたということなのだろう。


 いや、準備する時間や『材料』さえ与えなければなんとかなったかもしれない。まあ、それもしょせん、たらればの無駄な話なのだが。


 アハリートは追撃を仕掛けてくる様子はない。ミズミの攻撃の威力から、まだこちらが隠し球を持っていると警戒しているのか、姿を現そうとしなかった。それが幸いして、比較的、無傷で修道院へ繋がる扉を開け放ち、逃げ込む。


 このまま連絡路を通り、寄宿舎がある建屋まで行ければいいが――扉を開けた先、すぐに手斧を高々と抱えて振り下ろさんとする男がいた。


 タイミングが悪すぎた。いや、合わされたのだ。回避が出来ない。このままでは脳天をかち割られる。


 ルリエは死を覚悟したが、手斧が頭に当たる寸前で半透明の障壁が張られた。がきん、と一撃でその障壁は破壊されたが、手斧をはじき返してくれた。


 アルディスが叫ぶ。


 「私はこれが限界です!」


 「十分だ! あと、シィク、悪い!」


 ルリエはとっさにシィクを真横に投げ捨て、自身は反対側へと跳ぶ。そして手斧が振り下ろされ、空を切る。彼女は鞭を解くと手斧男の足へと振るって巻き付けると、力強く引いて倒す。


 即座に立ち上がり、力一杯、その男の顎下に蹴りを叩きつけた。気絶したか死んだかは分からないが、動かなくなってくれた。


 しかし、連絡路の左右の窓――鎧戸は破壊されていた――から、男達が四人ほど乗り越えてくる。ナイフや手斧を持ち、向かってくる。


 退路はない。そして一人に少しでも時間をかければ、殺される。


 向こうは戦えるのがルリエだけだと分かっているようで、倒れているシィクなどには目もくれず優先的に狙ってきていた。


 無理だ。死ぬ――、どうやって倒す――駄目だ一度に攻撃なんて無理だ死ぬ――殺さないように……殺さないように……? そう思った瞬間、ブチッと何かが切れた。


 「あぁあっ! 殺さず倒すとか阿呆か! そんな余裕があるか馬鹿たれがぁあああ!!」


 スキルを発動――鞭にまず『重量強化』をかけて、魔法の詠唱で『刃化』というものをさらにかけ、自分が出来うる腕力強化を最大まで施す。その重くなり、薄い魔力の刃がついた鞭を全力で腕を振るい身を捻りながら、回そうとする。


 (アルディス、死にたくなければしゃがめ!)


 ついでにアルディスへと念話を繋げて呼びかけ――確認する間なく、そのまま鞭をぶん回す。


 凶悪な鞭は壁や戸を容易く一刀両断する。その通り道にいた人間など、容易く横真っ二つにされてしまった。ずるりと上半身と下半身に分かれ――どしゃりと倒れ込んでわずかにもがいた後、死に絶えていく。


 「んぐぅっ!」


 そしてルリエは突発的かつ一つのスキルに重ね掛けではなく、多数のスキルや魔法を同時に使うという無理な魔力操作をしたせいで、頭が焼き切れるような熱と痛みを帯びる。思わず膝をついてしまうが、視線だけは周囲から外さなかった。


 今ので敵を殲滅出来たようだ。――アルディスも一応、避けることが出来たらしい。


 ただ、こんなところで止まってはいられない。後ろではあのゾンビがいるし、修道院では相変わらず――いや、さらにもっと叫び声が多く木霊している。


 ……シィクは……びくんびくんと震えながら、意識が落ちかけていた。こっちも早めに処置しなければ、ショック死するかもしれない。


 早くどこか、落ち着ける場所を作らなくてはならない。


 ルリエはフラフラと立ち上がり、壁に寄りかかる。鼻血が出ているが気にしている余裕はなかった。


 「いくぞ……アルディス……すまないが、シィクを頼む……」


 「は、はい……!」


 アルディスが慌てて、シィクに駆け寄って抱えていたが、ルリエはそれを気にすることも出来ず、ただ前へと進むのであった。

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