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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第二幕 偽りの王子と国を飲み込む者達
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第十九章 死ねぬかもしれない、それぞれの死地へ

 ローラ、アンジェラ、ミッシェルの三人は門前まで急いでやってきた。けれど、戦闘はすでに終わった後だった。今は衛兵達が事後処理をしている最中だ。


 そんな三人は辺りを見回し、巨大な肉塊の前にいる少女――ルリエを見つけて駆け寄る。


 「すみません、遅れました」


 「思ったより時間がかかったな。何か問題でもあったのか?」


 やや偉そうで尊大な物言いをするルリエにアンジェラが少しムッとしながらも、何も言わずバツが悪そうな顔をする。


 けれど明らかに何か言いたそうにしていたアンジェラにルリエが不思議そうに首を傾げる。ローラは困った顔をしていることから、こちらが何かあったわけではないだろう。こちらは問題が自分にあったら正直に言うはずだ。


 下手に言葉で追求するとこじれそうだったのでローラに念話で確かめて見る。


 (なんだ、問題か? ロミーのことではないだろうな。……だとすると転移か。それも考えていたが、てっきりお前が転移での魔力障害になったと思ったんだが)


 転移は便利な移動手段に思えるが、かなり使い勝手が悪く危険なのだ。というのも、転移をする際に通る空間は高濃度の魔力に満ちており、魔力を操る術がない人間や魔力を内在魔力に変換出来ない人間は死に至る可能性すらあるのだ。


 (あー……私は後ろの結晶石があれば、むしろ常人よりマシになるんです。……アンジェラの名誉のために言いますが、彼女も魔力の扱いは上手です。特に内在魔力の調整や吸収効率は貴方方転生者達にも劣らないでしょう。本来なら一、二回程度の連続転移なら問題ありません)


 ローラは心の中でため息をつく。


 (ただ今回は体力や精神の消耗が激しく、さらに私が行った突発的な転移だったため、対応が一瞬遅れてしまったんです)


 (なるほどな。分かった。別に責めているわけじゃない。問題があれば出来うる限り頭に入れておきたかっただけだ)


 ルリエは首を傾げ、口を開いて言葉を発する。


 「ロミーはとりあえず手足を縛っておいたか? 足の腱も切って傷だけ治すのも出来ればやって欲しかったが……」


 「一応はやりましたよ。寄生虫の除去もして、最低限の検査もしました。……貴方の予想通り芳しい結果ではありませんでしたよ。恐らく彼女はもう――」


 ローラは悲しそうな顔をして、最後の言葉をすぼませて言い切らず首を横に振った。ルリエが顔を歪め吐き捨てる。


 「やはりトロイの木馬か。……あえてあの肉塊やアントベアーを見せつけていた辺り、本当に騙す気だったのだろうな」


 「事が終わったら私が出来る限りのことはします」


 「頼んだ」


 ルリエとローラ、そして聖人二人は沈鬱そうに言葉を切る。ルリエの近くにいたシィクは不思議そうな顔をしつつ、場の雰囲気から気軽に質問が出来ないことだと悟り、口を閉ざしていた。


 そんな中、ルリエが鼻から息を出して、沈黙を破るために背後の肉塊に目を向ける。


 「それで今後の話をするが……悪い。奴を中に入れてしまった」


 ルリエはローラ達に先ほど起こったことの一部始終を伝える。一度倒しかけたと思ったらそれはフェイクだったこと。そこから奇襲を受けて隊列が崩壊してしまったこと。さらに門を破壊されて侵入をされてしまったこと。


 「中から這い出てきた奴をシィクに倒してもらったら動かなくなったが、レベルが上がることはなかった。恐らくだが、あれもフェイクだったんだろう。……これを見てくれ」


 ルリエは三人に肉塊の近くに来るように促す。そして集まった彼女らに肉塊の触手が絡まった部位を指し示した。そこは触手が剥がされており、背骨と胸骨のような骨が縦と横に伸びて格子状になっていた。さらにその奥は分厚い膜のようなものが張っており、今は膜と骨の一部が破られて中身が露出している。


 内部はそれなりに広い空洞になっていた。内蔵も何も詰まっていないが……何かを詰めていた名残がある。


 「恐らくここにスペアをいくつか、あと本体を詰めこんでいたんだろう。無理をすれば二、三人くらいは詰めこめるだろうな。さながらアンデッドの子宮と言ったところか」


 「……冒涜的ね」


 ミッシェルが気色悪そうにその肉塊を見やっていた。


 「たぶんシィクが切り飛ばしたのは、偽物だったんだろう。奴はずっとこの中にいたんだ」


 「今思えば、触手をこのでっかいのに繋げてましたもんね」


 シィクが眉をひそめながら、先ほどの戦闘を思い返す。触手を断ち切った後、若干ながら動きが鈍ったのは、遠隔操作に切り替えたからだろう。


 「それでシィクに切り飛ばされた後、このデカブツは動かなくなった。奴が物質に関係なく潜れるなら、その時に逃げられたはずだ」


 ローラが口元に指を当てる。


 「もしそうなら厄介ですね。彼に潜られると私達では感知出来なくなりますから」


 「打つ手なしって奴?」


 アンジェラがげんなりとするが、ルリエは首を横に振る。


 「いや、いくつかの可能性を元に行き場所には見当をつけた」


 彼女が指を二本立てると全員の視線がそこへと向かう。


 「一つ、ロミーがいる教会だ。奴はロミーに執着していた。どうやらあのゾンビが大事にしている女の子を傷つけたらしいな。それの復讐があるから奴はそこへ向かう可能性がある」


 だが、と呟く。


 「それは難しい。奴は転生者だ。それも死の森出身らしいじゃないか。土地勘はないに等しい。もしこの土地に詳しい知り合いがいて、その場所を教えてもらったところで辿り着くのは難しいだろう。感知が優れていると言っても、人が多いところでは選り分けにも時間がかかる。……それにあいつは狡猾で慎重だ。お前達聖人がいる可能性がある場所にわざわざ出向かないだろう」


 「……でも、可能性はあると?」


 「まあな。あいつの目的が教会そのものとかだ。出来れば誰か向かわせた方がいい。ああ、奴がこの場に留まっていて尾行される可能性も考慮した方がいいかもな。それでもう一つの行き場所だが、……こいつの上についている人間が分かるか?」


 ルリエが背後の肉塊の上に生える、人間の上半身に親指を差し向ける。三人はそちらを見て、すぐに視線を逸らしてしまう。ほとんどが攻撃などに晒されたためだろうボロボロになっていて見るに堪えない姿になっていた。全身に張り巡らされている黒い血管も痛々しい。……しかも、何人かは妖精から『まだ生きている』と伝えられた。


 「門番達に聞いたら、こいつらを知っている者がいた。話を聞いてみたら裏町だかにあるマフィアの組員らしい。どうやら今日、町の外に出掛けたきり、戻ってこなかったそうだ。恐らく、何かの理由であの林に行って襲われたんだろう」


 どんな理由かは知らんがな、と言いながらルリエは注意深く三人を観察する。真剣に訊いているのを見るに三人はこの件について知らないようだ。


 あの林は別に何かがある訳でもなく、わざわざ行く必要なんてあり得ない(アントベアーの蜜採集は国の事業であるから手を出すと捕まるらしい)。だから今回の件と全く関係がないなんてことはないだろう。もしかしたらアルディス司祭辺りか、城の連中が何かしたのかも。チンピラ共をけしかけたか、それとも別のことに使った結果、あそこに行ってしまったか。


 「私は奴の目的がなんなのかは知らないが、まずは拠点を築くはずだ。肉体を自在に変えたり操る術があるなら、その『材料』がある場所が必須だろう。それで反社会的な連中が相手なら、まあ、罪悪感もそう抱かないしな」


 「大体分かった。……けど、そこまで分かっていてなんで追わなかったの?」


 アンジェラがルリエに食ってかかる。アンジェラは同盟締結やらの目的を知っており、それに伴いアンサム王子が阻止をしてくるのではないかということも知っている。


 ……一応、身体が入れ替わっていることも。それをあまり良く思っていなくても、失敗させるわけにはいかないほど大きなことなのだ。そしてルリエはそれを分かっていなかったとしても、ゾンビの危険性くらいは分かっているはず。


 それなのに放置するのは、あまりにも無責任過ぎると思ったのだ。


 対してルリエはため息をついた。


 「この惨状を放っておけと? 寄生虫をぶちまけながら突っ込んできたんだ。その発生源、感染した人間の治療か隔離しておかないといけないだろう。一応、感染に関しては私もそうだからな。仮にそうでなかったとしても、魔物がいない魔物使いに何が出来る。……お前は手足も使わず格闘が出来るのか? それか武器もスキルもないまま猛獣と戦うようなものだ。今の私に戦えというのはそういうことだ。まず私の魔物を町に入れてくれるよう説得してから文句を言ってくれ」


 「う……」


 ルリエにまくしたてられ、アンジェラがたじろぐ。さらにルリエは続ける。


 「それでも追えというなら追うが、まず間違いなく餌食にされるだろうな。シィク、奴を捕捉していない状態で追っていって勝てると思うか?」


 シィクが腕を組んで眉間にシワを寄せる。


 「どうっすかね。……少なくとも全然感知出来ない相手がいつ地面から飛び出してくるか分からないのはきついっすね」


 「二人だと特にシィクが先にダウンしたら、もう建て直しが利かないんだ。それに私達は転生者同士での連携なんて想定していない特化型の能力ばかりだ。その点、そっちは対魔女戦用と言っても多少、やりようがあるだろう?」


 「まあ、うん」


 アンジェラはなんとも言えない表情をする。責められていないどころか評価されたのだから、文句なんて言えなかった。


 「だから待っていたんだ。あの相手は負けたら死ぬだけじゃ済まないんだからな」


 「そうだけど、その辺にしてあげて。もう分かったと思うし。ところでこれから貴方達はどうするの?」


 そう問いかけたのはミッシェルだ。自業自得とは言え、さすがにこのまま放置するのはアンジェラが可哀想だった。こんな場合、ローラは相手が正論だと何も言えない場合が多いため、『こういう』手助けはミッシェルの役目になっていた。


 ルリエは肩をすくめる。


 「もうそろそろここでの役割は終わりそうだからな、教会にでも行って用心するとしよう。あとはローラが寄生虫の除去やらをやってくれ。シィクで確かめた者達を隔離しておいたから、門番達から引き継いでくれ。――それでだ、教会には援軍が欲しい。カスレフやら城に行った奴らがいるだろう? 明日まで出番がないなら一人くらい呼び戻してくれないか?」


 「出来るか分からないわよ。……でも、もし呼び戻すとしたら誰が良いの?」


 「ミズミだな。あいつ、銃弾に色んな効果を乗せられなかったか? 物によってはあのゾンビに効果的なものもあるだろうな。ルズウェルも捨てがたい。あのゾンビが偽物か本物どうか判別できるのは大きい」


 「相談してみるわ。もし了承が出たら、向かわせるように言っておく」


 「頼む。そっちも気をつけろよ。あと、アンジェラ」


 ルリエは、歩き始め、すれ違い様に彼女の肩に手を置く。


 「な、なに」


 「一人で行動なんて絶対にするなよ。そういうのを私達の前世でフラグというんだ。……嫌味に聞こえそうだが、なんだかやりそうで不安だったから言わせてもらう」


 「フラグを立てる人はすぐに脱落するんすよ! ホラーやミステリーでの一人行動は絶対に駄目っすからね!」


 「……そうですね。アンジェラはすぐ突っ走りますから……心配です」


 「気をつけなさいよ。貴方が操られたら、結構大変なんだから」


 皆にそんなことを言われ、アンジェラもさすがに顔を赤くして怒鳴る。


 「うっさいな!? 皆してほんとなんなのさ!」


 むきーとアンジェラが怒って地団駄を踏む。他の皆が微笑みを浮かべ、今の今まで張り詰めて摩耗していた精神を少しだけ癒やせたのだった。


 そして彼女達は改めて気を引き締め、それぞれの目的地へと向かう。


 場合によっては死すら与えられないかもしれない最悪の地獄へと。

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