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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第二幕 偽りの王子と国を飲み込む者達
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第七章 タイタンの精鋭

プレイフォートには、実を言うとそれなりに聖教会が根付いている。ただし代々の国王は最低限の権能のみを与え、国に大きく関わることを良しとはしなかった。


 この国はそれなりに魔物との関係があり、それ故に魔物を根絶させようとする聖教会とは相容れなかったのだ。


 ただし、聖教会の『ある力』は人類にとって重要なため、追い出すこともまた出来なかった。


 それは、聖教会が開発した疑似進化だ。皮肉なことに魔物根絶を訴える聖教会が、魔物が行う進化を真似るという矛盾は論争の的だが――今は置いておく。


 この力を行使することは聖教会が独占しており、聖教会を介さないことが発覚した場合、タイタンの法によって裁かれることになる。


 疑似進化するためには、人工的に作られた属性を得てからレベルアップすればいいのだが――その属性取得――聖教会が言うところの『ジョブ』は今では人類にとって切っては切れないものとなっている。普通ではあり得ない多くのスキルを獲得出来る有効な手段であるため、重宝されているのだ。さらに聖教会が崇める女神ティターニアは、スキルを創造し、授ける力を持つと言われ、女神に司る妖精達はレベルを上げる力を持っているのだ。


 そのため平民達に馴染みは薄いが、戦う者や様々な分野で上を目指す者には信仰されている。


 女神を崇めるため、もしくはジョブを授かるための教会を兼ねた神殿がプレイフォートに一つだけ建っている。交差した二本の剣の真ん中に一本の剣が通った――『千剣』の異名を持つ女神のシンボルが神殿の上に掲げられている。


 この国内で幅を利かすことを許されていないためか、こじんまりとしているものの石造りで出来た建物の細部の意匠はよく凝らされているようだ。


 神殿に出入りするのは、傭兵や旅人の装いがある者など、少なからず戦いを生業とする者が多い。また若者が多いのが特徴だろうか。平民でも才能があれば、スキルを多く得てあわよくば宮仕えをするチャンスがあるため、教会の門を潜ることがあるのだ。


 そしてそれらの他に信仰を捧げることを主とした敬虔な信徒がいる。彼らは教会に祈りを捧げに来ているだけの者だ。基本的に教会は戦う者によって信仰されているが、それ故に危険な魔物を退ける役目も少なからずあり、聖教会関係者に助けられた者が信徒となることが多い。


 白い法衣を纏った者達が、礼拝堂で祈りを捧げ、傭兵や旅人達はジョブに関することで足を運ぶ。


 その中で信徒達から憧れや尊敬に満ちた視線を向けられる者達がいた。信徒の法衣に細やかな刺繍が施されている三人の少女。そしてさらに細やかかつ美麗な刺繍が施された法衣を着た眼鏡をかけた男性が一人いた。


 男の方は上級司祭であり、神国タイタンから出向いてきた者である。そして彼の背後に控える三人の少女達は、悪名高い古の魔女、リディアを討伐するために訓練を重ねられた『聖人』達だ。


 若いながらも妖精達の力によって限界までレベルを上げられており、本来あり得ない数のスキルを取得している。皆、同様に『王種』に至っており、タイタンにおいて精鋭中の精鋭と言えるだろう。


 そんな彼らは祈りを終え、厳かな顔で神殿の奥へと消えていく。


 神殿奥にある客室にて一同は集う。部屋の中には司祭や聖人達の他に、バラバラの衣装を纏った者達が五人程度いた。


 ――彼らは『転生者』。アハリートと同じく異界から魂のみこの世界で生まれ変わった者達だ。転生者の特徴としては、前世の記憶があること。また常人より早くレベルアップし、スキルを取得することが出来る点だろうか。


 転生者達はタイタンに属しているものの、教会の信徒ではなく、国の一市民という点が『聖人』達とは大きく違う。それ故か、妖精達の力を使わない選択をする者がおり、ここにいる転生者のほとんどは『王種』には至っていない。ただし、常人よりも早く成長出来るため、必ずしも『聖人』よりも劣っているわけではない。リディア討伐ということで仲間との連携のため、固定されたスキル取得を条件とした『聖人』達より、応用性に富んだ能力を取得しているのだ。


 転生者の一人、磨き上げられた鎧を纏う騎士風の青年が、司祭に声をかける。


 「司祭様、お勤めご苦労様。……それで早速で悪いけど、僕たちの仕事はあるのかい? さっきようやくここに着いてから簡単な話は聞いているけど、誰がどこに行くか詳しい話は司祭様に聞いてくれと言われてね」


 司祭は柔和な笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。


 「ええ。――では時間も押しているのでさっそく――……まず光魔法を唯一使えるカスレフ、貴方と支配系能力に耐性があるルズウェルは、城にて淫魔と思しき魔物の討伐に赴いてください。ミズミ、貴方は遠距離から援護、もしくは狙撃を行ってください」


 騎士風の青年とルズウェルと呼ばれたとんがり帽子とローブを着た小柄な少年、そして明らかに『銃』と思われる武器を背負った金髪、サングラスをかけた軍服を纏った青年、ミズミに司祭を指示を出す。


 「……分かった」


 「おっけー」


 ルズウェルはぼそぼそと言い、ミズミは気軽な感じに手を振りながら答え、さらに続ける。


 「カスレっち、狙撃場所とか俺が決めていいっしょ? つか、アルディスちゃん、ターゲットの詳しい居場所とか誰に聞けばいいわけ?」


 司祭――アルディスは笑みを崩さず、ミズミに返す。


 「共同作戦をする予定の騎士団の方がいらっしゃるので、その方にお話を聞いて下さい。恐らく決行は明日になるとは思いますが……必ず指示通りに」


 明日の将軍処刑にはアンサム――もといクレセント王子が出席するため、彼がいない時間帯が一番、都合が良いのだ。


 「はーいっと、じゃあ他にないなら行くけど? 軽めの話聞いてからここでずっと待たされてたしねえ。カスレっち、ルズちゃん、もう特に用がないなら行こうぜえ。善は急げってねえ」


 「……うん」


 「そうだね。相手は淫魔と聞くし、城を支配されかねない。時間はある、準備は念入りにしよう」


 「お三方、魔物の討伐よろしくお願いします。問題が発生した場合、連絡を送ると思うので最適な行動を取って下さい」


 アルディスは軽く頭を下げ、即座に行動に移した三人を見送る。そして残った転生者二人に顔を向ける。


 「貴方達二人――と、もう一人には、聖人である彼女達と共に行き、魔女と行動を共にしていると思われる者の排除を願いたいです」


 「魔女の討伐、ではなくて?」


 「ふっ」


 ミズミ同様、銃を背負った少女――ロミーが遠慮がちに聞くと、聖人の一人、赤髪を三つ編みにした少女が鼻で笑った。


 ロミーはムッとして赤髪の少女を睨む。


 「なにが可笑しいの?」


 「いや、簡単に言っちゃってくれるな、と思ってね。正直、あんたの『銃』でも初撃で仕留められなきゃ、倒すのは無理だよ。そんでよほどの事が無い限り、絶対外す」


 「魔女って言っても人でしょ? 私なら、一キロ以上離れていても眉間を貫くことだって出来るし、魔女は感知能力が低いって言うじゃない」


 「遠距離で倒せるならとっくにやってるって。そもそもあたしらだって、相手の力を奪う結界だって敷くし、それの成功はほぼ確実だけど……それでも先人達は倒せなかったんだよ」


 赤髪の少女は暗い顔をしてロミーを見つめる。


 「魔女は別格――次元が違う。皆が弱かったわけじゃない。むしろ私達より強い人だっていたんだよ? でも、倒せなかった。……あたし達だって今日、死ぬかもしれない……いや、最悪『死ねない』かもしれない」


 「…………」


 ロミーは聖人達に施されている『復活魔法(リザレクション)』のことは知っていた。一度なら、死んでもほぼ確実に生き返れるという最上級の魔法だ。記憶を保持するため、次の戦いでの勝率がわずかながら上がる。その前回の戦闘経験を生かし、魔女を追いつめた聖人達もいたのだ。


 でも、記憶を保持するが故に死ぬ前に拷問され、心を壊されることがある。そうした場合、復活したとしても次の戦いに赴くことが出来なくなるのだ。


 むしろ近年では、魔女に復活魔法の対処をされてしまうことが多くなってすらいた。自害用の魔法や薬を仕込んでいるが使えるかどうかすら怪しい。


 赤髪の少女は、肩を竦める。


 「まあ、結界を張った後の初撃は任せるよ。その時なら、当たる可能性があるからね。でもそれ以外は――他の敵を頼むよ。……結界が壊された後は、逃げてもいいだろうし。……だよね、アルディス司祭?」


 「そうですね。その方向で進めるのが良いでしょう。転生者の方々には、結界が壊れ次第逃げてもらいましょう。ああ、そうそう、魔女の仲間で最優先で狙うのは、転生者のアンデッドでお願いしますね。見た目の詳細はロミーさんに宿る妖精に聞くのがいいでしょう」


 「そういや、ちょっとだけ話には聞いてましたけど、本当に転生者なんすか? 普通なら、あの魔女の味方はしないと思うし、そもそもタイタンで転生しなかったのはなんでだったんすかね」


 革の鎧を着た傭兵風のポニーテイル少女、シィクが首を傾げながら問う。アルディス司祭はその問いに同じく首を傾げ、やや眉間にシワを寄せる。


 「魔女には異界の転生者を呼び出す能力はないので、恐らく、『天然』ものかと言われていますね。魔女の味方をしているのは、騙されているのかと」


 「なら、事情を説明すれば味方になってくれるかもしれないんじゃないすか? うちらだって魔物の転生者だっているんですし、もし出来るなら話し合いで引き込めないっすかね?」


 ちょっと期待したように言うシィクにアルディスは悩ましげな顔をする。


 「なってもらったら、確かに助かりますが……話をするにしても手短かつ油断はしないように。それに魔女の目的を知った上で協力している可能性もあります。妖精達の情報では支配系に特化しているとのことらしいので、貴方達に近づくために嘘をついてくることも考えられます。判断は任せますが、殺すことを目的として動いてもらうと助かりますね。これは貴方達の命――どころか下手をすれば操られてタイタンに大災厄を引き起こす恐れすらありますから」


 「うっ……わ、分かりました。気をつけるっす」


 魔女の魔物を味方につけられるのなら、それでもいいだろう。だが、そのゾンビの能力を聞いた限りでは、味方に引き込むのにはあまりにもリスクが高すぎるのだ。奇襲や騙し討ちを得意とする者は、信用することが出来ない。


 本来、あのゾンビに当てる人選では、支配能力に耐性があり、妖精憑きで生死の判別が出来るルズウェルを当てることも考えた。だがそもそも接近された時点で相手が魔物であるならば、支配云々に関係なく殺される場合がある。彼は中、遠距離の魔法を得意とするため、近づかれたら負けなのだ。そして、あのゾンビは妖精いわく隠密にも特化している上に、確実に殺す方法がまだ分からないらしい。


 ……さすがに油断しているところを内在魔力を抑制する結界を敷いて動けなくすれば、逃げられることはないだろうが……。でも今回、倒せる、とは思っていない。情報収集が目的と言って良いだろう。ロミーの妖精を経由して能力をある程度把握することが出来れば、対処する方法を見つけられるかもしれない。


 ただ、本当は倒したいのが本音だ。――チェスターとの情報共有をした結果、今回の『計画』を遂行するためにはあのゾンビの能力はかなり邪魔になると予想された。……どうにか殺す方法が分かればいいのだが……。


 アルディスが考え込んでいると、他の者達が魔女やその仲間を討伐するための作戦を話し合いはじめた。


 黒髪セミロングの清楚な雰囲気を醸し出す聖人の一人、ローラが微かに首を傾げる。


 「それでどうしましょうか。出来うるなら、ロミーさんらと私達で役割を完全に分けるよりかは、全員で各個撃破をした方が良いように思うのですが。もちろん魔女以外の人達を、ですけど」


 「でも、それって魔力使えないから――そうそう魔女って基本他者の存在を感知する能力は低いけど、魔力に敏感だから結界敷く前に下手にスキル使うとバレるから気をつけてよ」


 赤髪三つ編み少女、アンジェラは転生者達に顔を向けて言う。


 「んで、魔力使えないから、正直きつくない? てか、妖精から今、言われたけど獣人――それも人狼もいるっぽいしバレずに倒すのって難しいんじゃない?」


 「ただ、まったくダメ、という訳ではないでしょう。ローラが言うように、各個撃破出来るならやった方がいいかもしれないわね」


 ブロンド髪を綺麗に切りそろえ、眼鏡をかけた堅物そうな少女、ミッシェルがハキハキとした声で言う。


 「まあ、魔女が私達の存在を危ぶんでいるのなら、なるべくまとまろうとすると思うけれど。人狼が味方にいると言っていたし、ある程度の情報収集をしているのは確かでしょうね」


 そんな三人の聖人達が話し合う中、やや蚊帳の外に感じていたシィクは腕を組みながら、眉を顰めて話を理解しようと必死だった。少なくとも今回の作戦は危険度がかなり高いようだ。


 今までの魔物退治とはかなり勝手が違う。最悪、自分のミスで自分のみならず皆の命が危険に晒されるかもしれない。


 と、シィクはふと疑問に思ったことがあった。根本的な話で、そもそも前提としてあらなくてはならないことを――。


 「す、すみません、ちょっと良いっすか? 話の腰を折って申し訳ないっすけど……」


 「何でしょうか? 疑問に思ったことは何でも答えますよ。皆さんと情報共有はとても大切ですから」


 ローラに微笑みかけられ、シィクはほんのり頬を赤らめながら、おずおずと答える。


 「え、っと……魔女はどこにいるのか分かっているのかなあ、と思って……あ、変な質問だったら申し訳ないっす!」


 その質問にローラは首を傾げ、アルディスを見やる。


 「そういえば、そうですね……私はてっきり居場所は分かっていると思っていたのですが、聞いていませんでしたね。司祭様、その辺はどうなっていますか?」


 「その点は抜かりなく。いくつか怪しい人物――件の人狼と思しき者を昼間時にて見た、という人達から情報は掴んであります。尾行には失敗したようですが、町の外にいるのは確実かと。それといくつかある林の一つから聞き慣れない絶叫が響いてきたとの情報も上がっていますので、その一つに向かってもらおうかと思っています。確実にいるとは言い切れませんが、怪しい場所はある程度、見当をつけているので、そこまで忙しく走り回ることはないと思いますよ」


 「分かりました。……林の中……ロミーさん、林でも銃は扱えますか?」


 「無問題。ただ場所決めは念入りにしないといけないかも。だから、相手の居場所は気付かれる前に把握しておきたいかな。その点に関しては私とシィクはその手の能力が充実してるから先に見つけられると思うけど」


 ローラが顎先に指を当てて考え込む。


 「そうであるのなら助かります。ただ魔女は感知系のスキルでも気付いてしまう場合があるので気をつけてくださいね。五感強化までに留めるのが無難でしょう。――目視で確認出来れば上々ですね――それで魔女に奇襲を仕掛けられるのは大きいでしょう。結界を張った瞬間バレると言っても、先に見つけて近づけるというのはとても良いです」


 基本はほとんどの力を封じた魔女に特攻をかけるだけだが、事前に色々と何かしらが出来るのは戦いを有利に出来るかもしれない。それに魔女とその仲間がまとまっていたとしても、魔女と戦闘を開始すれば彼女に援護は入らないだろう。魔女の能力は強力だが、それ故に制御が難しく味方を巻き込む可能性があるのだ。だから、一旦戦闘に入ってしまえば、囲まれるということはない。むしろ、そうなってくれた方がローラとしては助かるほどだ。弱体化するのは魔女だけではなく、他の者も同様なため、上手くすれば、一網打尽に仕留められるかもしれない。


 ――彼女達はさらに話し合い、作戦を煮詰めていく。


 そうして今夜、林の中にいるという魔女とその仲間を倒すべく動き出すのだった。

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