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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第四章 最近の幼女は強いと思うのだが。①

 さて、移動方法は片付いたし、次は戦うか。

 

 平和な時代の日本から来た人間らしからぬ好戦的な思考だが、やらねばやられる状況に身を浸していたなら、そういう意識は結構、簡単に変わると思う。……いや、ちょっと変わりすぎかな。魔物の身体になったから好戦的になってるのかな。でも、それでもいいか。

 

 でなきゃ、最初の時点でゾンビに食われて死んでるだろうしね。

 

 ゾンビパニックの時、ゾンビを生きた人間だと思って殺せない人間は、ゾンビになってしまう弱者ということだ。お前すでにゾンビだろ、というツッコミがあるかもしれないが、生まれていきなりゾンビだからノーカンだ。

 

 うーん、と、まず心構えを万全にするため、生きものを殺す訓練をしようかな。

 この森には古代に栄えた文明の遺跡があるようで魔物が沸くダンジョンとして認知されているらしい。リディアの話を聞く感じ、この世界の文明レベルは中世っぽいらしいが、古代の文明はとっても発展していたらしい。まあ、RPGの世界観でよくある設定だわな。

 

 しかし、何で滅ぶんだろうな、すごい文明なのに。

 

 リディアに何か知ってるかと尋ねたら、意味ありげに笑ってはぐらかされてしまった。何か知っていそうだな。

 

 ……あいつ、本当に謎なんだよな。まあ、変態だけど悪い奴じゃないってのは分かるんだけど。

 

 だから今はいいか。

 

 で、絶賛その遺跡付近にやってきた次第だ。中には入らない。なんかリディアいわく、ダンジョンって空間が拡張されてすごく広くなっているんだって。普通に危ないらしいし、あと遺跡は地面が土じゃない部分もあって、俺に不利に働くからな。遺跡の外にも魔物や野生動物がいるらしいし、そいつらを倒すことにする。

 

 あっ、ちなみにまたスキル二つゲットしました。

 

 『聴覚強化』と『振動感知』だ。

 

 土の中で必死に外の様子を窺ってたら取得出来た。どちらも優秀なスキルで、土の中にいながら地上の情報をまるで見ているように感知出来るのだ。

 ふふふっ、もはや土の中に居る俺に敵はない!

 

 なお、土から出るとかなり弱体化する模様。

 

 ……うん、実はね、この二つの感知系のスキルを取る前の話なんだけさ。

 地中遊泳している時に、ふと自分の場所確かめたくて元気よく、ずばーと全身を晒すように地上に出たんだ。でさ、その時目の前にかなりでかい鹿っぽい生物がいてビックリわけよ。で、ビビって硬直している隙に、角で見事に腹を貫かれたんだ。しばらく角に張り付いたままあちこちにぶつけられて死ぬかと思った。めっちゃ怖かったよ、マジで。

 

 その後、なんとか逃げ出すことに成功して、急いで地中に潜って、しばらくこもっていたんだよ。その最中に怖くて泣きそうになりながら、外の様子を必死に探っている最中に二つのスキルを取得できた――という流れだ。これ、内緒な。

 

 ……あれだ、戦って――いや殺されかけて分かったのだが俺、かなり弱い。


 うん、ていうか、俺、地上で戦ったら大抵の奴に普通に負けるよな? つーか考えてみれば本来、ゾンビは集団で戦うのが基本だ。個人の能力ってそれほど高くないし、そうしないと生き残れない。

 

 ……そう思うと徒党をどうしても組めないボッチゾンビの俺ってかなりヤバい。

 

 俺の戦い方としては、地中に潜み、相手の足元に近づいて一気に飛び出し押さえつけるか、足首掴んで土の中に引きずり込むべきだろう。とにかく奇襲をかけないことには始まらない。

 

 映画でもボッチゾンビさんが人を血祭りに上げる時って陰からワーッと出てきて、一気に押し倒すもんな。それか死体のフリしたりとか。それに比べ、遠くから主人公らに姿を見せたゾンビさんの死亡率の高いこと高いこと。

 

 まあ、普通に考えて、よたよた歩くゾンビなんて良い的でしかないもんな。

 で、人海戦術を使えない以上、相手から攻撃を受けない位置から奇襲を仕掛けることを俺の基本戦術にするしかないな。

 

 ……しかし改めて考えてみると、少しでもリーチある奴に挑まれたら、俺、終わりなんだよなあ。対戦予定のリッチは魔法使うアンデッドみたいだし、真正面から行ったら確実に死ぬ。

 

 で、さらに思ったのだが格上相手と対戦するとすぐには終わらないかも。少なくともアンデッドなら一撃で倒しきれないこともあり得そうだ。即死以外の致命傷って意味なさそうだもんな。だから相手を警戒させてしまった後の対処も考えるべきだろうな。潜みながら戦う術を覚えよう。

 

 まずは倒すことから始めようか。ちょうど近くに四足歩行の生物が何匹かいるようなので、地面に潜りながら近づいて――――逃げられた。

 

 おおーい……まだ地上に出てないのに……。

 

 その後、数回やったが同じように逃げられてしまった。

 うむ、どうやら向こうにも感知する術――もしくはちょっと焦って急いで向かおうとしたのが原因なのかも。速く移動すると思いのほか、地上に何かしらのシグナルを与えてしまうのだろう。

 

 ……なので、今度はゆっくりゆっくーりー……とぉ!

 

 イノシシっぽい生き物の左後ろ足をガッチリ掴む。

 

 「ぴぎぃぃいいいいいいい!」

 

 甲高い悲鳴を上げ、暴れる。予想以上に強い力に、手首が千切れそうになる。冗談ではなく、身体が脆いから本当にそうなりそうだ。そうなる前に、俺はイノシシを地中に引き込んだ。

 

 ――だが、完全に沈み込まない。『潜土』はどうやら俺の身体から数センチくらいしか泥化を起こさないようだ。それ以上だとすぐさま元の土に戻ってしまうようなのだ。

 

 なんという誤算。だが、ここで手を離すわけにもいかず、徐々に沈み込まそうと、もう一方の手でイノシシの太股辺りを掴んで引っ張ろうとした。

 

 と、びちぃっ、と突如、俺の身体が一気にがくんと沈む。

 

 一瞬、手首が千切れたのかと焦ったが、……どうやら違う。千切れたのは、イノシシの方だ。


 無残にも片脚を俺に引き千切られてしまったようだ。そういや俺、力強かったね。仮にも『剛力』で全力にて引っ張ればそうなるか。

 

 ……血が、おぉ……グロい。けど、チャンスだ。

 

 俺は土から飛び出し、フラフラとしながらも逃げようとするイノシシに後ろから馬乗りになると、首を掴んで思い切り、捻る。

 

 こきゃ、という音と共にイノシシが倒れ、しばらくすると動かなくなる。

 

 お、おぉ! やったー! 倒せたー、が……うおぉ、よく見たら血が飛び散っているせいで辺り一帯大惨事だ。

 

 ……う、うん。なんか予想と違って生々しい勝利だが、奇襲作戦は間違っていなかったようだ。これを元に、さらにもうちょっと効率の良くて安全な倒し方を練習していこうか。

 

 じゃあ、せっかく野生動物を倒したので、ここで食うか。やや抵抗があるものの、このまま放置もどうかと思うし。それに処理の仕方なんて知らないし道具もないから、生のまま貪るしかない。

 

 まあ、それを出来るのは嗅覚も味覚もないからなんだけどね。もしそれらの感覚があったら、さすがに食えん。

 

 ちなみに俺、肉体的な生命活動はしていないけど、食事は必要らしい。死にはしないけど、動きが鈍くなったりするらしい。なんかリディアがそう言ってた。

 で、俺は18禁Gの規制がかかりそうな感じの食事をするのだった。

 

 

 ――そういえばなのだが、いつか読んだ漫画で、獲物を仕留めた瞬間や捕食中がもっとも油断するとかあったが――俺はその意味を身をもって理解する。

 

 

 俺はこの時、リディアに吸血鬼にも進化できる可能性があるーと聞いたので、スキル『吸血』でも得ようと血を啜っていたのだ。じゅるじゅると音を立てていたせいもあるのだろう、俺は優秀な感知スキルを持ちながら『足音』を聞き逃していた。

 

 そして――、

 

 パキッ、と近くで音がする。

 俺はとっさに顔を上げて、音の元を見やる。

 数メートル先の木の陰にいたのは、小さな女の子だ。

 美しい金髪に黄金色の瞳をした綺麗な幼女。お姫様と言われたら納得しそうだが、薄汚れたボロ服を身に纏い、傷だらけのその姿はまるで、――そう、『奴隷』のようだった。

 

 ……どうしよう。

 ばっちり目が合っちゃった。

  

 ああ、これ映画とかで良くある序盤か中盤で動物を補食中のゾンビと出くわしたシーンだな。まさかこんなことも経験してしまうとは。ゾンビ側としてだけど。

 

 中々肝っ玉があるのか、幼女は悲鳴は上げず、俺を視界に収めながら周囲に他のゾンビがいないか確かめている。

 

 下手に動いたらヤバいかなー? 敵意ないことを伝えたいけど、伝え方が分からん。つか、血だらけのこの状態で動いたら、絶対あの子、俺に標的とされたと思うよな。

 

 うーむ、どうしようかなー。結局の所、俺はリディアの念話を覚えられなかったし。

 

 あっ、ちなみに俺、魔法全般を覚えられないらしい。

 

 魔法を使うには大気中の魔力を感じる必要があるらしいのだが、それは触感やらの五感とかが必要になってくるんだとか。魔力は世界に充満しているらしく、操作するためにはそれをまず感知する術が必要なんだと。

 

 で、俺には身体を動かしている、という感覚はあれど痛覚や皮膚感覚がまったくない(『振動感知』も他の感覚を得たわけじゃなくて、鼓膜が反応しやすくなっただけっぽいし)。スキルを得るには、才能や最低限、『ちょっとでも出来る』という事が必要になってくる、らしい。いちからならともかくゼロでは覚えようがないのだ。そしてゾンビは進化しても基本的に触感を得ることはないらしい。

 

 ちなみに俺の身体は魔力で動いているらしいけど、吸収は自動っぽい。人間が内臓の機能を自発的に使えないように、この吸収能力は能動的に扱えないようだ。魔力を常に吸ってるらしいけど、意識してもまったく何も感じないし、たぶん操るのは不可能に近いのだろう。

 

 吸血鬼辺りになれば、感覚を得られるらしいので進化を狙っている。まあスケルトンからリッチに進化しても魔法の会得は可能らしいが、スケルトンはゾンビより脆弱な種族らしく、進化(というか退化?)の予定は今のところない。

 

 さて、脱線したが今、問題は目の前の幼女だ。

 

 こんなことになるなら、リディアと一緒に行動してれば良かった。速く移動出来るからって、調子に乗って一人で行動しなければ良かったよ。鹿に腹ぶっさされた時に学習すれば良かった。死にそうになってたってのに、これとは、俺、マジで脳みそ腐ってんのかな。

 

 ……うーん、このまま幼女が逃げてくれれば良いんだけど。

 

 ジッとしとけば、逃げてくれるかな。

 

 その幼女がこちらを睨みながら、手の平を向けてくる。

 

 んー? 何しようとしているのかなー? すっごい嫌な予感するんだけどー?

 

 幼女の周囲にいくつもの光が灯り、それが手の平に収束していく。

 

 ぞくっ、と感覚がないにも関わらず背筋が寒くなる。

 

 ――何か分かんないけど、あれは冗談抜き不味い!

 『潜土』で土に潜るのは間に合わない。だから俺は、イノシシの死体を掴むと幼女に向かって投げつける。ぶつけるつもりはない。気を逸らすだけのつもりだったのだ。

 

 そして、腕で地面を突っ張り自らの身体を横に転がす。

 

 その瞬間、俺の今までいた空間にレーザーのような光の束が通過していったのだ。イノシシを投げたのが効果的だったのか、若干狙いが逸れて、追撃もなかった。

 

 だが、完全回避は出来なかった。左足首よりちょっと上の部分がもろにそのレーザーを被ってしまったのだ。

 

 (――っつ! 痛ってえ! なんだ? 俺、痛覚ないのに痛ぇぞ!? つうか、脚なくなってるぞ、おい! これ治んの? 生えてくんの?) 

 

 光を受けた部分――左足首がなくなっている。さらになくなった脚の断面から煙が上がっている。

 なんというか痛覚も触覚もない俺が言うのもおかしな話だが、『感覚的』に徐々に痛みが上に昇ってきている気がする。

 

 このまま放置は不味いかも。

 

 俺はレーザーを受けた左脚を掴んで力任せに膝から下を引き千切る。

 

 煙が上がる脚を投げ捨て、自らの切断部位に目をやる。

 

 この脚どうなるかな。一応、俺の身体は多少の怪我は治るようだ。元々の欠損はどうしようもないらしいが、肉を食い千切られた部分や穴を開けられた部分は治っている。むしろ生きていた頃より、再生は思いのほか速い。……けど手足が丸々取れた場合、元に戻るかは分からない。

 

 そんなことを考えながら、俺は幼女が次の攻撃に入る前にそのまま『潜土』で土の中に潜る。相手に遠距離攻撃――その上、恐らく対アンデッド用の攻撃がある以上、ここは逃げるのが正解だ。で、相手が去るまで待つ。俺が逃げるのはナシで。イノシシを捨てたくないし。

 

 地中深く潜り、地上の幼女の動向を探る。

 

 どうやらあの幼女、俺が潜った地面を警戒しているようだ。そこにしっかり手の平を合わせている。たぶん俺が現れた瞬間、さっきのレーザーを叩き込むつもりなのだろう。

 

 けれど一向に現れない俺に業を煮やしたのか、この場から離れることを決意したようだ。警戒しながらも、足を引きずるようにしながら、走り去って行く。

 

 ――ふう、一息つけた。

 

 いやはや、この世界に来て三回目の命の危機を感じたよ(一回目は墓場でゾンビに追いかけられた時。二回目は鹿との遭遇)。その相手が幼女ってのも笑えるが。

 

 ……まあ、ぶっちゃけた話、あの子を殺すことは出来た。俺を簡単に滅する攻撃を出来ると言っても、不意打ちが可能だったのだから。あの子、『潜土』の特性を知っていたらしく、俺が潜った位置に注意を払っていたのだ。感知系の能力は持っていなかったと思う。俺が移動しても、そこから注意を逸らさなかったから。だから、その隙をついて後ろから忍び寄れば首の骨を折れただろう。

 

 けど、しなかった。

 

 ……なんとなく、あの幼女を殺したくはなかったのだ。

 甘いとは自分でも思うけどね。

 

 でも、もし本格的にヤバかったら――幼女が地中の俺をある程度感知出来て、攻撃を仕掛けてきたら――どうにかしてあの子を殺していただろう。俺は自分が殺されそうになっても手を出さないなんてことができるほどお人好しでも聖人でもない。

 

 むしろ俗物的な人間だ。

 

 もし仮にあれが、見知らぬおっさんだったら遠慮なく殺していたと思うし。ただしダンディーなおっさんだったら悩むところ。

 

 しっかし、俺も運がないな。いや、元の世界で、何があったか分からないまま気付いたら異世界でゾンビに転生している時点で運がマイナス値振り切っているんだろうけどさ。

 でもさ、対アンデッド用の攻撃をたまたま持つ幼女にばったり出会って攻撃されるって、どんな確率だよ。

 

 ……それともこの世界では普通のことなの? 幼児期から対アンデッド用の攻撃持つこと必須なの? 何それ怖い。だったら、俺、この世界で生きていける自信ないんだけど。

 そこら辺、今後のためにリディアに確認取った方がいいかもな。

 

 で、これからだが、本来ならリディアの元へ行って脚治せないか聞くところなんだろうけど……うーん、あの幼女、ちょっと気になるなあ。

 

 いや、俺、ロリコンじゃないよ?

 

 ただ、なんかあの子、何かから逃げているように感じたんだよね。今も感知範囲に入っているんだけど、足を引きずった感じに止まらず走っている。

 

 ……それにあの奴隷のような姿からすると……。

 

 うむ、ちょっとどこから来たか調べてみるか。

 

 俺は、幼女がやってきた方を辿るように土の中を泳いでいく。

 

 ちなみにイノシシは諸々済んだ後、戻ってきてしっかり骨ごと食べた。

※無駄な補足

 ゾンビは魔力で動くのに魔力感知出来ないという重大な欠陥を抱えている。そのため、生まれた地点から極力離れないようにする本能を持っている。大移動する際は、いくつかのグループに分かれてある程度の距離を保ちつつ、少しずつ移動していく。自我もほとんどなく、知能もそこまで高くないが、割と社会性がある種族でもある。

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