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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第二幕 偽りの王子と国を飲み込む者達
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第五章 変な奴が襲われてた

 俺は特にやることがないから、ミアエルと一緒に林の中を歩いていた。

 

 中、大型の野生動物とか魔物がいれば乗り物に出来て楽しいんだけど、感知系で調べた感じ小動物しかいないっぽい。まあ、こんな林の中にでかい生物がたくさんいたら、それはそれで困るけれども。

 

 なので、今は俺自身がミアエルの乗り物になっている。ちょっと肉体を変形させて四つ足状態になって、ミアエルを背中に乗せているのだ。

 

 イメージは馬。顔も若干縦長にして、目が視野を広く取るために離れている。さすがに普通の馬サイズにはならないから、ポニー程度の大きさだ(大きくするには変形するための肉が足りない)。

 

 この姿、ミアエルにはウケたけどリディアには苦笑いされてしまった。視界レイプは別に問題ないだろうけど、この勇者の肉体を変形されるのはあんまり好きじゃないみたいだ。

 

 一緒にいたアンサムはなんとも言い難い表情をしていた。若干、気持ち悪いものを見るような顔だった。まあ、人間の顔が必要以上に縦長になったらキモイよな。

 

 でもこの姿、俺としては周囲を確認しやすいし、ミアエルも喜んでるからよしとする。けど、あんまり誰かに見られないようにしないとな。傍から見たら叫ぶレベルの歪さだからな、これ。あと今は人の皮を纏っているけど、剥がしたら見ず知らずの奴は発狂するだろうなあ。ダメージはあまり受けないようにしないと。

 

 「うーううう、うーううう」

 

 「うーるるる、うーるるる」

 

 二人してなんか獣っぽい唸り声のようなものを上げながら、俺はてくてくと進む。ミアエルは良い感じの木の棒でぺしぺしと周囲を払っている。

 

 目的はない。ただの時間つぶしだ。なんか誰かや何かが現れたら対応しなくちゃならんだろうけど、ここにはそんな危険もないだろう。まさか、ミアエルとかフェリスとかと会った時みたいになんか危機的状況と遭遇することも……。

 

 「らめえええええ!」

 

 ……あったらしい。

 

 なんだろう。俺は誰かが何かに襲われている状況に出くわす星の下に生まれたのか?

 

 声的に女性かな? 感知を最大にしてみると、なんかたくさんの小さな奴らに群がられている人間を見つけた。……たぶん、人間? なんか魂が二つ重なってる? でも覆い被さってる奴は、生きていない空っぽな感じ。けどアンデッドでもない、変な魂だ。『魂感知』のスキルを手に入れてから、似たような感じのものを感知した記憶がある。確か、フェリスが持ってたダガーと……ナイフだったかな……? あの解体用で使ってたおしりの方につけてたやつ。

 

 「声、あっち?」

 

 結構、近かったらしくミアエルも声が聞こえたらしい。

 

 なんかやばい感じらしいし、見捨てるのも目覚めが悪いからそっちに向かってみる。

 

 そして十数秒程度駆けた先、別に開けているわけでもない林の中にそいつらはいた。

 

 一人の人間に群がっているのは手の平程度の……小動物? 虫? その複合したような奇妙な生物が群体となっている。

 

 「アントベアー……」

 

 「う?」

 

 ミアエルが呟いたのを見て、俺は首を傾げる。そういえばなんかアンサムが『それ』について言っていたような……。あんま近づくなって。なんか色々と危険らしい。

 

 「小型の熊みたいな虫の魔物、だったはず」

 

 確かに熊っぽい姿をしてるな。形は熊で、もさもさした毛が生えている。目は虫のような複眼になっていて、身体も接合部や手足の先っちょが虫の外骨格のようになっていた。

 

 「……群れてるから一気に襲われて危険だけど、樹液とか花の蜜とかで生きてるし、臆病だから普通は人を襲わないはずだけど……」

 

 「うー?」

 

 じゃあなんで襲われてるんだろう。

 

 ていうか、俺ら悠長に見てるけどいくつか理由がある。

 

 まず襲われている奴が怪しすぎるのだ。

 

 全身を甲冑みたいなもので覆っていて、それで攻撃を防いでいるのだろう。アントベアーの数が多すぎて押し倒されているものの、殺されてしまいそうな気配は今のところない。

 

 それがすぐ助けない理由の一つだったりする。

 

 うーん、どうしよう。俺らって目立っちゃいけないし、下手すると刺客とか来るって言われてるから、無闇に手を出すのも怖い。せめて襲われてる理由でも分かれば、どんな奴か判断出来るんだけど。

 

 「蜜、ちょっとだけ蜜をくだされええ! 拙者、お腹があ、お腹が減ってええ」

 

 ああ、うん。分かった。悪い奴じゃない、ただの馬鹿だな、あいつ。

 

 魔物の巣穴に突撃って、どう考えてもやばいって分かるだろう。蜜って言ってるから、アントベアーのことを知らなかったわけじゃなく、むしろ知っていたからちょっかいかけたようだな。

 

 ……普通に野草とか果物とか採取しなさいよ。この林にあるかどうか分からんけど。てか町か農村に行け。すぐそこにあるだろ。なんでそこで横着しちゃったんだよ。

 

 ミアエルが俺の背を揺すってくる。

 

 「ゾンビさん……」

 

 そうだな、よし、悪い奴じゃないっぽいし、助けるか。

 

 「……あいつら殺したい」

 

 そっち? ……おおう、目が据わってて怖いよ、ミアエルさん。

 

 ミアエルさんがバーサクモードにやや移行仕掛けています。

 

 ……そうだった。そういえばこの子、聞いた話だと確か魔物見ると殺意抱くんだっけか。俺は魂の関係上、魔物としては見られていないけど、ガチ魔物だったらと思うと震えるね。

 

 まあ、ムラムラする程度で我慢は出来るらしいけど、こういう場面だと解放しちゃうかあ。

 

 ミアエルの光魔法なら魔物だけ一掃して、甲冑女子は助けられるけど……さて。

 

 「うー」

 

 俺は首を横に振る。

 

 「むー」

 

 ちょっと不満げな顔するミアエルだが、逆らう気はないらしい。

 

 なんかアンサムがアントベアーはなるべく攻撃しない方が良いって言ってた。巣がやばいとかなんとか。まあ、それに俺としてはあのアントベアーは消滅させずにいた方が使えるからな。

 

 ――以前いた森を抜けた後、アンデッドはいなくなり、魔物も人里離れた場所しかいなくなってしまった。そのせいで回復手段が少なくなって困っていたところだ。

 

 皮膚はさすがに纏う方法が限られているけど、肉体の再生そのものは魔物がいれば事足りる。

 

 アントベアーは一匹一匹はちょっと小さいが、あれだけ数がいれば、十分だろう。今後、戦闘になりうるかもしれないし、回復ポイントはあって損はない。

 

 ということで俺はミアエルに耳を塞ぐように言い、力の限り――絶叫を上げた。

 

 臆病ということもあってか、アントベアー達は突然の咆吼に、蟻ながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。一気に巣穴に吸い込まれていく光景は気持ち悪さと心地よさが同居したなんとも絶妙なものだった。

 

 しばらく警戒していたが、アントベアーが戻ってくる気配はない。……熊は執念深いと聞くが、さてあの甲冑女子を連れ帰っても問題はないかな。アントベアーが追ってきたら、甲冑女子には悪いが出て行って貰うしかない。

 

 「お、おお……? 耳が……何が……」

 

 甲冑女子が恐る恐る周囲を見渡す。そしてミアエルと……奇妙な姿の俺を見つけ……、

 

 「ひぃ……!」

 

 怯えちゃった。

 

 ミアエルの神々しい成分を中和するどころか穢してしまう、俺の化け物クオリティさすがだぜっ。これでもまだ人の皮纏っているんですよ? あと俺は一段階、変化を残しているのだ。

 

 ちょっと口を軽く開けて、そこから触手をたくさんびろびろ見せびらかすと、「ひぃいい」と怯えて頭を抱えてしまった。やだ、良い反応過ぎて面白い。

 

 「ゾンビさん、めっ」

 

 ぽこん、とミアエルに頭を叩かれてしまう。彼女は俺から降りると、近づかず「大丈夫ですか?」と声をかける。

 

 甲冑女子は、ぷるぷると震えながら、ミアエルに顔を向けた。

 

 「……あ、ちょ、ちょっと、聞こえにくいであります。あっ、でも分かったので。あの……えっと、た、たぶん、だ、だだ、だいじょ、じょ、じょぶ、かと」

 

 すごいどもりながら、甲冑女子がそう返した。

 

 ミアエルは聖母の如き微笑みを浮かべ、軽く首を傾げる。

 

 「ここは危険ですので、私達と一緒に安全な場所に行きませんか? もしよろしければ、そこで事情をお聴かせ願えれば助かるのですが。もちろん食料もありますので身体を休めるのにも最適かと」

 

 ……ほんっとこの幼女、スペックたけえな。基本的に俺といる時は年相応の幼女なんだけど、対外的に振る舞う時に、こんな風に大人びた感じになるんだよね。

 

 口調も柔らかで落ち着いているため、その話術には相手を安心させる効果が多分に含まれている。

 

 甲冑女子は、迷った様子を見せて「え、えっと、あの……」としきりに俺に目を向けてくる。

 

 気になるよね、そりゃ。

 

 大人しくしていると言っても、こんな化け物と一緒は嫌だろう。俺のせいで妙に大人びた幼女っていう点が逆に怪しさへ加点されてしまってる。

 

 助けてもらえると信じ、手を伸ばすのには高いハードル(俺)があるのだ。

 

 けど、俺が離れる選択肢はない。あんな怪しすぎる奴とミアエルを一緒に出来るか。でも、そうすると甲冑女子がこちらの手を取れないという不毛なことになる。どうしようね、ほんと。

 

 ミアエルは、安心させるような優しい笑みを浮かべたまま、俺の脇腹に手をやり、口を開く。

 

 「これはペッ――使い魔です。見た目ほど危なくはありませんよ。……もし不安でしたら――一時的にグロテスクなことになりますが、普通な見た目に出来ますけど……」

 

 「え、ええっと、お、おお、お気遣いなく……」

 

 ふるふると甲冑女子は首を振り、悩むように唸る。ミアエルも続く言葉がないのか、困ったような笑みを向けた。

 

 すると、きゅるるる、と甲冑女子のお腹の音が俺の耳に届く。同時に「ふぅうう」と小さくため息をつき、ふらふらとしながらも立ち上がった。どうやら覚悟を決めたようだ。というか空腹が限界を迎えてしまったらしい。

 

 「だ、大丈夫でありますよね? あれ、あんな追っ手、たぶんいない、はず。……今、うちの城であんな魔物使いの人、いないはず……。……でも、あの子、光の種族なのに何故魔物を……いや、触れてはいけないこともあるのではっ、というか聞くの怖い……それにどうせこのままなら野垂れ死にますし、ならもういいでありますよね?」

 

 なんか色々と呟きながら恐る恐ると俺に近づいてくる。多少、俺も警戒しておく。奇襲でいきなり上半身潰されても良いように補助脳のワームの位置も尻の辺りに移動させておこう。

 

 まあ、普通に杞憂に終わったけどね。甲冑女子はビクビクしながらも、何もせずについてきた。

 

 とりあえず拠点に帰るけど、直前でアンサムに連絡入れとかないとな。あいつ第二王子の姿してるし、一応第二王子って放逐されたってことになってるし。この甲冑女子が知っている可能性もなくはない。

 

 ということで、なんか変な同行者が一人増えるのであった。皆に怒られるかなあ?





 (……たぶん、あいつ城の人間だわ)


  拠点へと甲冑女子を連れ帰り、しばらくすると隠れているアンサムのそんな言葉が脳内に響いてきた。

 

 (……連れてきたのヤバかったか?)

 

 ちょっと不安になる。

 

 今、甲冑女子は甲冑を着たまま口元だけを露出し、果物を一心不乱に貪っている。相当腹が減っていたのだろう。

 

 出されたものを疑うとか、もうちょっと警戒すると思っていたけど、さっきの呟きから察するにもう迷いを吹っ切っていたのかも。または、自暴自棄とも言うか。

 

 (いや、問題はねえ。たぶんだが、刺客じゃねえよ。なんでこんなところにいるかは不明な奴ではあるが……)

 

 そう言って、アンサムは木の陰から俺達のところに姿を現す。

 

 バクバクと木の実を食っていた甲冑女子は何気なく一瞥し、視線を逸らしたと思ったら綺麗な二度見をした。

 

 「ぶふぉ!?」

 

 咳き込む甲冑女子だ。

 

 ミアエルが水入りの革袋水筒を差し出すと、それを受け取り飲み込んで一呼吸する。

 

 落ち着いた、と思ったら唐突に混乱した様相を露わにした。

 

 「な、なななな、なんで放逐された第二王子が、こ、こここ、こんなとこ……!? 暗殺者!? 拙者を殺しに!? 実は暗部に所属! 王国の闇を見たり! あびゃああああああああああ!!」

 

 そして甲冑女子が座りながら手だけで、後退り、木に背をぶつける。驚きすぎて腰が抜けたのか、木に縋るように掴まるだけで立って逃げようとしない。てか、木、少しひしゃげてますね。怪力なのかしら。

 

 なんかこの子色んな意味で面白い、と俺が興味深げに見ているとアンサムがため息をつく。

 

 「落ち着け馬鹿。つーか、お前はなんでこんなとこにいんだよ、ベラ。いつも研究室に引きこもってるじゃねえか」

 

 「な、なんでとは白々しい! 拙者を殺しに来たくせに! 暗殺者みたいに! 暗殺者みたいに! あああぁぁぁあ! もうやだぁあ! なんで拙者がこんな目にぃ! 誰もゴーレム使って王子の愛人殺そうとなんかしてないのにぃいいい! うわぁぁぁあああああああん!」

 

 完全にパニック入っていますね。あと、木の胴体がとってもスリムになってるよ。倒れちゃう。

 

 ――はい、ということで落ち着くまで待って、その後、俺達が無害なのを主張してから事情を聞いてみた。

 

 ミアエルとリディアに慰めてもらいながら、彼女――ベラは語る。

 

 ベラは城で魔道具の研究をしている者らしい。話を聞く限りじゃ結構優秀で若いながらも、研究室長に任命されていたようだ。今着ている甲冑っぽいのも魔道具の一種で身体強化を施せる鎧だそうだ。一応、そうは見えないがこれでも貴族の出らしい。

 

 そんな彼女はある日、突然何故か、王子が囲っていたという愛人に襲撃をかました犯人として罪を着せられたらしい。話は一切聞いてもらえず、流れ的に処刑されそうだったため、慌てて開発中の身体強化甲冑を身に纏って城から逃げたとのこと。

 

 で、見つからないように隠れながらあてもなく逃げ回ってたみたい。そんな事情から町にも近くの村にも立ち寄れず、こんなところで食料を調達するしかなかったようだ。

 

 「拙者インドア派だから、食べられる植物なんて分からないし、でもアントベアーは蜜溜めてるってだけは知ってたから……お菓子の材料になるって、どこかで聞いて……」

 

 ぐすぐすと泣きながら、木の実を食べる。

 

 「……うぅ、なんでこんな目に。……あぁ、そうだ、きっと絶対、魔法研究室の奴らが拙者をハメたんだ」

 

 「あー、なんか仲悪かったよな、お前ら」

 

 アンサムに言われ、頷きながら、「そう! やっぱりそうに違いない!」とベラは小さく叫ぶ。パニックは抜けたが、ちょっとヒステリック入ってるな。

 

 「きっと奴らに違いない! 魔法があれば、魔道具なんて必要なし、という頭の固い連中なんで! 個人の力を高めるための研究!? 笑止! 個々の潜在能力に頼るなどアンバランスで不安定でナンセンス! 時代は普遍的な力を底上げすることが求められている! この強化鎧を見てくだされ! これこそが魔道具の力! か弱き人間でも相応の力を安定的に振るえる至高なるものですぞ!」

 

 ひしゃげていた木をついに潰し千切ってみせちゃったベラさん。うむ、確かにすごい。ていうか、あの甲冑、魔道具って奴なんだね。だとすると、なんか変な空っぽに見えた魂もそれに類する何かなのか。今後、あれっぽい魂が入った道具とか何かを見たら、魔道具を警戒した方がいいかな?

 

 アンサムが困った顔をして苦笑する。

 

 「ああ、そうだな。……あと、出来ればで良いんだが、城で起きた事柄について何でもいいから教えてくれねえか?」

 

 「……なんででありますか?」

 

 ベラは不審げにアンサムを見る。きゅっと千切れた木の端っこを持ちながら、警戒心を露わにする。

 

 「い、いくら拙者が追われた身だからと言って、自分の国を売る真似なんてしませんぞ! それこそ本当に帰れなくなるでしょうが!」

 

 「あー、じゃあ、なんでもいいから、……えーっと、王子の愛人についてとか」

 

 「むしろなんでそんなことを!? ゴシップ記事でも書くつもりですか! というか拙者がそんなこと知り得ると思っていてか!」

 

 「そりゃそうだな」

 

 「…………」

 

 アンサムにあっさり納得されてしまったベラさんは、顔を手で覆った。なんかかわいそう。

 

 なんか滅茶苦茶傷ついたのか、ベラさんは震え声で、しゃべり出した。

 

 「ふ、ふんっ……! 拙者、拙者でも、な、なにか外のこと知ってるもん……! えっと、あっ! そういえば一つだけ周りが騒いでいたのを聞いていたであります。……これはたぶん、町に行けば分かることなんで、隠す必要はないですが……将軍が明日処刑されるとかなんとか」

 

 そのとき、和気藹々としていたアンサムの周りに漂っていた空気が凍った。自然と目は細まり、次に発した言葉はやや鋭利に尖った響きを放っていた。

 

 「……誰だ?」

  

 アンサムの声色の変化に、びくっとベラが震える。でも答えない訳にもいかず、彼女は言ってしまう。

 

 「……確か、ルイス将軍、だった、はず」

 

 「……!」

 

 アンサムが目を見開き、完全に固まってしまった。 

 

 ルイス将軍って確か、アンサムの師匠に当たる人だっけ? それが明日処刑? なんで? とか思ったけど、ベラはその経緯については知らないみたいだ。これならば、たちの悪い噂程度なのだが……。

 

 「……それ、本当だよ。見てきた」

 

 その声は残酷な事実を届けた。

 

 やってきたのはフェリスだ。途中で合流したのか後ろに物資を抱えたスーヤがいる。たぶん『見てきた』のかスーヤの顔は苦々しい表情となっており、フェリスも不愉快げだった。

 

 「……っ。……どういう経緯で、今はどんな状況だ」

 

 わずかに動揺しながらも、アンサムがそう聞いた。だがその声色には底冷えするような冷たい怒りが込められていたのが俺でも分かった。


 フェリスは知り得た限りの情報を俺達に話してくれた。

 

 一般的に出回っている話は、ルイスが第一王子に斬りかかった反逆罪で捕まったこと。そして明日処刑されるとのこと。どうしてそういうことになった詳しい話は分からなかったようだ。

 

 アンサムは唸りながら、片手で自らの顔を押さえる。

 

 「……あの人がそんな馬鹿なことするはずがねえ。……クレセント、陥れやがったな。……そんなに俺が憎いか。何もかも奪いたいか」

 

 溢れる怒りを少しでも流し消そうとするかのように木を拳で何度も殴りつける。皮膚が破れて血が流れようとも、止めようとはしなかった。

 

 心の声は聞こえてこなかったが、ぐちゃぐちゃな感情は伝わってきた。怒りが占めているが、後悔、懺悔、悲しみも混じっている。

 

 ようやく止まったアンサムは木を背に寄りかかりながら、ずるずると地面に座り込んだ。

 

 「……正直言うと、俺はまだあの馬鹿を許すつもりだったんだ。……俺でも変われたんだ、ならあいつだって、もしかしたら変われるんじゃないかって思ってた。周りがあいつを持ち上げすぎたせいで、自尊心だけが肥大化して……『今』だけで満足しちまってた。でも努力すればすぐにでも俺を追い越せるって分かれば……もしかしたらってな」

 

 そう言って、皮肉な笑みを浮かべた。

 

 「けど、もうダメだ。あいつも、あいつを囲う馬鹿共も。許せねえよ。何もかもをまず消し飛ばしてやる。……フェリス、情報を寄越せ。全部利用して、全部ぶっ壊してやる」

 

 「分かった」

 

 そうして新たな作戦がくみ上げられていく。今度のものは俺でも分かるくらい、この国に住む人達を巻き込むような残酷なものだと分かった。

 

 でも、それでも構わない、そう思ってしまうのは俺がアンサムと感応しているせいだろうか。

 

 まあ、どっちでもいい。俺は俺が課された仕事を全うするまでだ。

 

 たとえ人間や――同郷かもしれない異界の転生者を殺すことになろうとも。

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