俺を気になるあの子は、内面を(物理的に)知りたいらしい
2020/06/27 追加分
※この章には若干ながらグロテスクな描写があります。閲覧の際はご注意ください。
勇者の村で子供達の相手をするという仕事(?)をもらった俺だけど、それ以外は変わらず門の前でゴロゴロしている。
ちなみに遊び時間は正確には決まっていない。スーヤとか他の監視役の人がフリーな時だから、まちまちになってしまうんだ。
なので、今は特に何もしていない。と、言っても自ら何かしに行くこともしないが。
子供と遊ぶようになってから、今みたいなフリーの時でも俺を見に来る子がいるんだよ。
下手に森とかに行くと付いてくるかもしれないから、そこら辺は配慮しないといけない。
ちなみに、子供達には防具を着けていない俺には絶対に触るなと言い含めてもらってるから、寄生虫に感染させることはないだろう。
まあ、それでも近づいてくる子もいるから、その時は「う゛う゛」と唸り声を上げて、四つん這いになって追い払ってるが。
……これもまた、遊びになっちゃったんだけどね。俺は門を超えないから、俺が追ってきたら逃げるという鬼ごっこっぽいことをすることになった。
子供って、何にでも楽しめるから羨ましいよね。
んで、そんな子供も一時的にいなくなった昼間にて、リディアと……なんか知らない女の子がやってきた。
……知らない女の子、服装見たことあるぞ。白と赤のコントラスト……巫女服だ!
見間違いかと思ったけど、和風な白衣だし、足元まで届く緋袴はいてるし。まごうことなき巫女服だよ。
なんでだ、って思ったけど……、勇者が日本人だからか? だとしたら良い趣味してるぜ。
「アハリちゃん、ハロー」
「うー(ハロー)」
リディアが片手を突き出してきたので、俺は立ち上がってハイタッチ。ぱちーん。
なんか最近の挨拶、これが普通になってきてるな。
リディアってこういうノリが良いんだよね。酷いマゾじゃなかったら、本当に良い女の人なんだけどなあ。
巫女服の子がジッとこっちを見ていた。むっ、はしゃぎすぎたかな。
「あっ、――は、初めまして、アハリートさん……」
「うっ」
巫女服の子もおずおずと挨拶をしてきたから、頭を下げて返す。
赤髪……けど、黒みがある……ワイン色って言えば良いのかな? そんな髪色をした子だ。その髪は腰くらいまであるけど、後ろで一つ縛りにして垂らしている。
なんか気になる特徴があったわけじゃないけど……一つだけ、服の上からでも分かるほど、ちょっとほっそりとして、日々ちゃんと食べてるのか不安になる。肌も白いし、ちょっと汗ばんでる? そういえばなんか回復術者の子って身体が弱いとかって聞いたような……。もしかしてこの子かな?
まあ、それいいや。猫目……服装的に狐目って言った方が正しいか? ――が、良い感じ。うん、可愛い子だ。
リディアはその子の肩に手を置く。
「この子はクレナイ。村で治癒係をしてる子だよん」
(クレナイ?)
むっ、その和風な名前はもしや……と思ったけど、リディアに先読みされて首を横に振られる。
「転生者、ではないかな。うちの村では時々、勇者様がいた世界の言葉を使うことがあるの。割とこういう名前の子もいるんだよ」
(そうなのかー)
それじゃあ、山田さんとかもいるんかね。……あっ、そういえば勇者の実名って聞いたことないな。機会があれば聞いてみようかな。
(んで、その治癒係の子がなんか用?)
少なくとも、ゾンビ憎し、私の聖なる回復魔法で浄化してくれるーみたいな雰囲気ではないかな。
引っ込み思案な子なのか、少し恥ずかしそうにもじもじしている。敵意はないかな?
たぶんリディアが説明してくれるだろうと思って、そっちに顔を向けると、こっちはこっちでなんか微妙な顔をしていた。
「……あー、うん、ちょっとね」
なんじゃい。お前ほどの者がそんな顔をするとは、その子は一体、どんな変態なんだ……!
俺が警戒して、少し後退って微かに唸ると、クレナイちゃんがちょっと慌てて前に進み出てきた。
「あ、あの! すみません、実はお願いがあって!」
そして俺の手を取って握ってきた。
きゃっ、大胆っ。心がドキドキしちゃう! 俺って基本的に女の子に耐性ないから、これだけでも惚れちゃうぞっ。
ふふっ、我ながらちょろいぜ。今の俺なら大抵のお願いを聞いちゃうぞ。申してみよ。
「貴方を、解剖させてください!」
…………………………ほわい?
まな板の上の鯉ってこんな気分なんだろうなあ、っていうのを直に味わってる。
近くでは、刃物を研いでるクレナイちゃんがいます。俺は木枠で作られた四角い大きな桶の中で仰向けになって寝転んでいた。状況だけみれば、完全にサイコホラーだな、これ。
ここはクレナイちゃんの療養所で、本来手術などを行う場所らしい。いつもは手術台が真ん中にあるんだけど、今は隅に寄せられて、代わりに木枠とそれに入った俺がいる。
ちなみにだけど、手足は縛られてないし自由だよ。あと、リディアも出入り口で待機してる。
さすがにいきなり解剖させてくれって言われてビビったけど、詳しく聞くと俺の寄生虫とワームを調べたいかららしい。
なんか寄生虫って基本的に体内の特定の場所に留まって繁殖とか行うそうな。その生態調査のためらしい。今、調べておけば、またパラサイトが現れても迅速に対応することも出来るかもだってさ。
んで、今の俺は、全裸で人間の皮を脱いで元の姿に戻っている。
クレナイちゃんが肘まである革手袋を両腕につけて、布とナイフを持ちながら、こちらにやってきた。
「それでは、始めます」
お手柔らかにー。
「まず、肝臓などを調べます。寄生虫に感染すると大体はここに寄生するので」
俺の腹に布を被せて、その下に手を入れる。
ゾンビ系の厄介なところは、血液が『流れている』ことだろう。それも血圧がかなり高く、ちょっと傷をつけるだけで勢い良く噴き出すのだ。しかし、それでいて凝固も速く、血はすぐ血管を塞いで止まるらしい。
人間からすると厄介な性質だけど、この世界のゾンビからすれば、仲間を増やすための手段なんだよな。
布の下で大きく腹が裂かれると、案の定、大量の血が噴き出して布をどす黒く染め上げる。
クレナイちゃんはしばらく待って、血が止まったのを確認すると、布を取り去り、俺の腹を開く。体外と体内に白い寄生虫がうねっているがそのままナイフと手を俺の中に入れた。
うーむ、解剖されるって不思議な気分だな。痛みもないし、相手は俺を殺める気はないから安心出来るけど……。
なんとなく頭を起こして観察してみる。正中線に沿って、鳩尾辺りから下腹部までバッサリと裂かれている。
この後、大体全部の内臓を引っ張り出される予定だ。サンプルとして保存しておくんだって。まあ、俺は再生出来るからいくらでも持っていって構わないけど。
体内でも血管を傷つけたら血がかかる危険があるから、クレナイちゃんは薄いガラス板のようなものを眼前にかけている(溶接マスクっぽい)。それでも緊張感のある顔でかなり真剣に作業していた。
「胃や他の臓器、筋肉などには嚢胞は見られない。腹腔などの体内空間に成虫らしきものが多数確認出来る。……胃の内部も確認しておく必要あり。……やっぱり、肝臓や腎臓に嚢胞を確認――いや、二つの臓器の構造が違う。進化して形状や性質が変わっている? 肝臓から見たことのない管が伸びて、……そこから成虫が生み出されている? 恐らく、寄生虫を内包し、生産出来るように変化している?」
と、そこで俺のワームが作業中のクレナイちゃんの視界を横切る。操作してないと自由に動いてるっぽいな、こいつ。
「――ワーム、通過――臓器などを無視し『貫通』して移動。スキルの効果と思われる。攻撃性はなし。対処の必要性は低い。このまま作業を続行」
クレナイちゃんが呟きながら、俺の内部にナイフを入れる。血が時々噴き出して顔のガラス板にかかったりするけれど、それくらいではものともしない。
「肝臓と腎臓……胃も切り取ります」
「うー」
そんでぶしゅう、と血を噴き上げながら、俺の内臓が取り出されてしまった。待機していたリディアが液体が詰まったガラス瓶に俺の臓器を封入する。
ちなみだが、肝臓は全体的に白っぽくなってブツブツしていて、血管っぽい穴から寄生虫が出てきていた。……腎臓は……一言で言えばグロい。なんだろう全体が黒い水ぶくれみたいになって、正直直視出来ない感じだった。胃は割と綺麗だ。
うーん、想像以上に俺の身体はヤバいな。またそれが良いんだが。
あっ、リディアというと口を固く結んで部屋の隅にすぐに引っ込んだよ。血とか肉が駄目ってタマじゃないだろう。
たぶん、勇者の身体が切り刻まれるのがちょっと辛いのかな? 俺の今の見た目って完全に化け物だけど……理屈じゃなくって感情が割り切れない感じ?
「アハリートさん、一度臓器を再生してもらってもいいですか? 特に肝臓を」
「うー」
はいよー。特定の臓器だけ再生ってやったことないから、内部の切り刻まれた部分を全体的に再生しよう。
「……回復速度がかなり速い……」
むっ、そんなにマジマジ見られると恥ずかしいぞ。
見ていて楽しいのは分かるけどね。失った部位を再生する時ってもこもこ生えていくから見てて飽きないんだ。
「では、もう一度切り取りますね。今度はその臓器の内部構造を見てみたいので」
研究熱心ね。是非とも俺も観察しよう。実は能力については把握しているけど、身体の構造っていまいち把握仕切れてないんだよね。まさか自分で自分の身体バラすのもどうかと思うし。
そもそもあんまり自分自身では傷つけたくない。体液とか飛び散るのが怖いから。
肝臓と腎臓、ついでに胃もまた取り出され、俺の身体の横に置かれる。これぞ腑分けか。
んで、肝臓にナイフを入れられた。
ぱっくりと二分割される。断面はまさにレバーって感じ。あと血管諸々と……なんかこっちも白っぽい水ぶくれが出来ていて中を割ると……ねとっとした白い液体が出てきた。ちょっとツブツブしてる?
「うー?」
「……卵ですね。再生したばかりなので『部屋』の大きさに比べて量は少ないですが……。これが血管中に流れているんだと思います。たぶん血液中では孵化しないんでしょう。血中にはまったくと言って良いほど幼虫や成虫がいませんでしたから。脳の一部、もしくは肝臓に再度戻ってきた際に特定の部屋に送られてそこで孵化、幼虫から成虫へと至るのかと。――寄生虫としてのサイクルがアハリートさんの身体で全て補われていますね。……もしそうなら、他者の身体に入ったら孵化は出来ても成虫にはならない? その場合、幼虫のまま延々と分裂だけする可能性も……。その場合、筋肉などに浸潤して嚢胞を作るかもしれない……」
そうなんだ。でも、血中に卵って詰まりそう……。
「……それに卵はたぶん普通は詰まるはず……。けれどゾンビ特有の高血圧で流している? だとすると普通の人に感染したら、血栓などを起こす可能性も……。少なくとも長期的には生きられないはず」
あら、死んじゃうのね。まあ、長期間生きられてもそれはそれで困るけれども。俺からしても、感染した人間からしても。
「次は腎臓を……」
そう言って、腎臓を切り裂くと……グロい水ぶくれを破いたら、ぶしゅうと血液ではない液体が噴き出した。そこでクレナイちゃんが素早く下がる。というかすでに逃げる体勢とってた。何か分かってたのかな?
「う?」
「……たぶん毒です。本来は老廃物などを濾過する機能があるはずですが、それを恐らく意図的に行っていないんでしょう。血圧を高めるためにあえて排出量も減らしているはず……。そういえば、おしっこは普段でますか? 量は?」
「うー」
頷く。一応出るよ。量は断然少ないけど。
と、それをリディアを介して伝えて貰う。
「出るけど、量は少ないって」
「なら、仮定通りの機能があると思います。毒素の生成、高血圧化の調整、人間が生きるのに真逆な性質を持っていますね。……興味深い」
ふむう、と唸りながらクレナイちゃんは、胃に手を伸ばしていた。こちらは普通に警戒もせずバッサリ裂かれる。中身は……消化中のものがあるくらいかなあ。
あっ、クレナイちゃんが俺の消化中のものを掬ったり、胃の壁をマジマジみている。いやっ、なんか恥ずかしっ。
「こちらは特別な機能はなさそう……。ヴォーメット辺りなら、膵臓と合わせて酸の生成のために構造が変わっていたけど……。やっぱり進化した方向性によって身体の変化が違う……」
ヴォーメットって喉袋あって酸液吐き出す奴だっけ? あれもあれでちょっと憧れがある。遠距離攻撃っていいよね。
「では、次、ワームを引きずり出して良いですか?」
「うー」
俺は頷く……が、まあ、出してもらうより自分から出した方が良いか。ということで、ワームを身体の中から出して、腑分けした横に置く。ワームって結構長くて、俺と同じくらいの身長があるんだよな。あと結構、太い。
パラサイトの時は、口の大きさに合わせてる感じだった。けど今は前より口が大きくなってるけど、さらに太い。俺の口の伸縮性が若干上がったためだろうな。
あと、こいつ、俺の身体のどこかに繋がってるわけではない。普通に体内で独立してる。
今思うとこいつが脳の代わりになったり、魂の入れ物になったりするのっておかしいよな。まあ、ファンタジーで片付ければ良いんだけどね。
クレナイちゃんがワームをペタペタと触る。
「面白い……。他の寄生虫とは一線を画しているかな。そもそも種族が違う可能性も……。この側面にいくつもある穴は……空気が漏れている? 中に管もあって体外に展開出来る? ……もしかして、寄生した相手の肺に繋いで自身が体外に出て活動出来るように? でも、これはゾンビには意味がないから……。やっぱり、元から他者に寄生させるため、もしくは元から別個の種族であった証明にもなるかも……」
なんかすごい色々と考察してる。
というか、ワームに空気穴みたいなのあったんだな。なら、ワームを相手に寄生させて色々出来そうだな。まあ、寄生虫に感染させちゃうから、そこら辺考えないといけないけど。
「……あとは、触手のサンプルを取って……終わりですかね。ワームも引き取って大丈夫ですか?」
「うー」
問題ないっすよ。それも一応、再生出来るし。
そんなこんなで身体中の触手と背中の細い糸状の触手のサンプルを取られて、ついでに寄生虫の卵、幼虫、成虫を採取されて終わった。用意していたっぽい回復用の肉ももらって、それを吸収しながら、肉体を再生させる。
あと、血塗れだから身体を拭いて、脱いでいた皮を改めて被った。
ふう、一息ついた。
クレナイちゃんが俺に頭を下げてくる。
「ありがとうございます。もしまた何かあれば、お願いするかもしれません。あと、今回の報酬ですが……」
そこでちょっと困ったような顔をされてしまった。クレナイちゃんには今回の解剖をさせる代わりにちょっとした『お願い』をしたのだ。
「……本当に『それ』で良いんですか?」
「うー」
俺は頷きながら、指を差し出す。そこにはちょっとだけ傷がついていた。ていうか、今つけたのだ。
「治すだけなら、私で無くても……」
いいのいいの、回復術を見てみたいだけだから。あと、ゾンビが回復術を使われるとどうなるか見たいし。
「なら、やりますよ……」
――まあ、結論から言うと普通に回復した。
この後、リディアから聞いた話だと別にアンデッドは闇の力から復活したとかではないらしい。それに回復術も光の力じゃないってさ。そもそもそんな属性ないっぽい。
じゃあ、ミアエルの光魔法ってなんぞやってことなんだけど、あれって光ってるからそう呼んでるだけっぽい。それと単純に魔力を散らす効果があるから、『魔を祓う』=『聖なる光』っぽいって感じになっただけだって。
つまり、俺は邪悪な闇の存在って訳じゃないようだ。やったね。
あと、普通に回復術が見られて感動した! ぴかーってなって、きゅるんって治った!
「うー!」
「う、嬉しいですか?」
はしゃいでいる俺を見て、クレナイちゃんが困惑していた。そりゃ、俺の回復速度の方が速いし、完璧に失った部位も再生出来るからね。そんなん見せられた後には微妙だろうよ。
でも、魔法で回復ってのが俺には嬉しいのだ。
「うっ」
また今度!
「あっ、はい、お疲れ……」
俺がしゅばっと手を挙げるとクレナイちゃんも手を挙げる。
――なんかおずおずと手の平を向けてきた。……むっ、これは……。
ぱちーん、と軽めにハイタッチ。
「あっ……さようなら!」
なんかクレナイちゃんが嬉しそうにしてくれた。なんでだろう。
俺は内心首を傾げながら外に出る。このまま門の外に帰ろうかね。
と、リディアが道中ついてきたのだが、なんかニヤニヤしていた。
「アハリちゃん、結構たらしだねえ」
「う?」
どういうこっちゃ。
「クレナイちゃんは身体が弱くて、昔から外に出られないから村の人達と触れ合いが少なかったの。今でもあの子を尋ねる時って、普通に会話出来る状態じゃないしね」
そりゃ療養所って言ったら怪我とかした人がくるからな。病気ならともかく怪我ならすぐ治せるだろうし。
「だから人付き合い苦手で引っ込み思案だし、……お友達もあんまりいないんだよねえ」
なるほど、ぼっちか。
「今回もかなり勇気を出したんじゃないかな。アハリちゃんが気の良いの分かっただろうし、もしかしたら村にいる間は色々と声をかけられるかもね。その時はよろしくしてやってね」
(別に良いけど、また解剖されるかなあ)
「そ、それはどうだろう……」
(俺は問題ないけど)
「ないんだ……」
ちょっと引くの止めてもらえません? 変態に引かれるのって、結構、傷つくんですけど。
まあ、悪い子じゃないし、俺も俺の身体のこと詳しく知りたいから、もっと話をしてみたいかも。もしかしたら、なんか特別な技を編み出すこともできるかもしれないし。腎臓ボムとか!
(じゃあ、定期的に会いに行ってみようか)
もちろんリディアかスーヤ同伴だけどな。じゃなきゃ村の中入れないし。
……うむ、なんだかちょっとずつ、村の人と仲良くなってる感じがする。
こういうのやっぱり良いなあ。
……いや、でも革の拘束具を全身につけたり、解剖されたりして仲良くなるっておかしいかな?
俺はちょっとだけ『常識』というものが頭に浮かんでしまった。
まあ、今更だけど。
後日譚次話、不定期に更新予定。




