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リディアが教えるリディアの倒し方講座!

2020/06/13 追加

 「今日は私の倒し方を教えちゃうぞー」


 なんかリディア(マゾ)がそんな変なことを言っていた。


 ……ここは、勇者の村の外側にある訓練場だ。ゾンビの群れに一度飲み込まれたこともあって、今は閉鎖している。


 今日はその点検も兼ねて、俺らで貸し切りになっていた。実際、見回ってたら物陰とかに隠れてたり地面に埋まってたしね、ゾンビ。


 この森ってほんとすぐゾンビが湧くなあ。あいつら、一匹でも見かけたら数十匹以上いそう。なんか黒光りする某アレだな、って思った。


 とりあえず、簡易結界も作動させつつ、一日使ってみて安全が確保されたら条件付きで施設の開放するんだってさ(必ず二組以上で使用とか。個人では絶対駄目、とか)。


 ちなみに、この場にいるのは俺とリディア以外にはスーヤ、アンサム、フェリスにミアエルとなっている。


 ミアエルに関してはフェリスと仲良く訓練してたよ。なんか見てない間に仲良くなったみたい。


 俺としては二人が仲良くなってくれるのは嬉しい。ギスギスしてるとこっちが困っちゃうからね。女の子同士きゃっきゃしてる方が目の保養にもなるし。


 まあ、訓練内容はガチっぽいけど。拳の握り方から、サンドバッグを殴って拳の作り方うんぬんとかやってた。


 さらに俺が支配したゾンビを使って、人体構造解説までやってたよ。それを伴ったミアエルでも出来る実用的なサブミッション(容赦なく骨をへし折る方法)とかロープを使った拘束術とか。


 うーん、末恐ろしい魔法使いになりそうだな。楽しみ。


 んで、今は一カ所に集まって、リディアの話を聞いていた。


 本人に本人の倒し方を教えて貰うというおかしなことだけど、割と皆、興味津々みたい。


 『古の魔女リディア』は有名な存在らしくって、下手をすればこの世界では最強の一角なんだってよ。


 リディアの倒し方については、ちょっと俺も気になってはいる。もしかしたら敵対するかもしれないし、最低限情報を得といた方がいいだろう。


 フェリスが手を挙げる。


 「はい。魔女さん、質問良い?」


 「どうぞ、フェリスちゃん」


 「スキルとかも教えてくれるの?」


 リディアが悩ましげに眉を顰めて、首を傾げる。


 「残念、それは秘密かなあ。まあ、最上位スキルは四つ程度あるとは言っておくかなん」


 「……マジか」


 最上位スキルってなんぞ? って思ってたら、アンサムがなんか驚いてた。


 (アンサム、アンサム。最上位スキルって何?)


 (ん? ああ、言うなれば統合スキルの上位版ってところだな。会得はかなり難しい部類でその分、かなり強力なスキルでもあるな。フェリスも持ってるから、頼めばもしかしたら見せてくれるんじゃねえか? あれは結構面白えスキルだな)


 へえー、そうなんだ。統合スキルより上って、いつかは手に入れたいね。あとフェリスの能力も見てみたいな。どんなんだろ。


 まあ、今はリディアの倒し方だ。


 「私の倒し方、というよりかは私とまともに戦うには、っていうのが主になるね。まず最低限超えなきゃならないラインがあるから。……じゃないと勝負にすらならないし」


 自信満々だなっ、とか初見なら思うかもしれないけど、俺は知っている。バックアード戦において結界で能力制限されてても普通に圧倒してたし、能力解除後は無双してたもんな。事実に基づく自信だ。


 リディアが指を一本立てる。


 「まず、必ず『魔力操作』『魔力感知』は扱えること。あとその熟練度は上限に達するか統合スキルとか上位スキルにしないと駄目かなあ」


 はい、いきなり俺、リディアを倒せません。


 「うー!」


 俺はしゅばっ、と手を勢い良く挙げる。


 何故か同時にミアエルが近寄ってきて、笑顔を向けられた。何故だ。でも可愛いからいいや。片手で頭をなでなでしとく。


 「はい、アハリちゃんどうぞ」


 (その二つのスキルがなくても、どうにかなりませんかっ!)


 「なりませんっ」


 「うっ!?」


 一刀両断だ。なんてこったい。


 悲しみに暮れたので、心を癒やすためミアエルをおんぶして、くるくる回りつつ、言う。


 (うそーん)


 リディアが俺を見ながら、微笑ましげな視線を向けてくる。


 「嘘じゃないよん。んと、実例を見せた方が早そうだね。――じゃあ、ほいっと」


 「あっ」「あっ」「あっ」「あっ」


 なんか俺以外の皆が、俺――の腹部を見て声を漏らす。と、同時にパキンと音がして俺のお腹辺りの服が凍結しちゃった。一瞬の出来事だった。


 触って見ると、カチカチになっちゃってる。服をめくってみると……うん、服の下にも浸透してるね。皮膚の表面が凍っちゃってるよ。


 「こんな風に、最低限自分の周りの魔力を感知、操作できていないと間近で魔法を発現させられちゃうの。今のが超重力とかだったら、おせんべいになって終わっちゃってたでしょ?」


 確かにそうだな。


 それと間近で魔法を使われてしまうのを防げない上に、俺は一切、そのことを感知出来なかった。これだと避ける以前の問題になってくるわな。


 うーむ、こんなんじゃリディア以外にも他の魔法使いと戦う際、かなり苦戦しそう。もし戦う機会があったら、出来うる限りの対策は考えないと。


 「それと何か強めの……致命的な攻撃魔法とか使えた方がいいかなあ。そうすればそれを打ち消すための行動に移るから。でないと防御不可で問答無用に捻れたり押し潰す法則を広範囲に敷くこともあるし」


 なにそれこわい。


 リディアって一撃必殺が多くない? 対策を怠った瞬間、死亡確定とか無理ゲーも良いところだ。まあ、だから最強の一角と言えるんだろうけど。


 ミアエルを一旦降ろすと、フェリスの方に戻っていった。んで、フェリスのお腹に背をくっつける感じで収まる。ミアエルは、ちょっと背伸びして、胸に頭を押しつけたり、逆にフェリスも胸を乗っけてバウンドさせたり、腕でミアエルの身体を包み込んで左右に揺れたりしてじゃれ始めた。微笑ましい。


 (弱点はー? あるの?)


 俺がないんじゃねえかなあ、と思いつつ訊くとリディアは手を合わせて何故か嬉しそうな顔になる。


 「弱点はあるよん。簡単に言えば、物理攻撃に特化した相手は苦手だったりするんだよね。もちろん私の魔法を最低限防げる前提だけど」


 (物理攻撃って……単純に殴ったり、蹴ったりが苦手ってこと?)


 「うん。私って実は魔法の出力自体は大したことはなかったりするんだよね。アハリちゃんに分かりやすく言えば、口の広い蛇口なんだけど、ポンプの力が弱くて配管も狭いせいで思い切り捻っても水量はあっても水圧はそんな強くならない感じ。あと水の成分を毒とかジュースとか特殊なものに変化させやすいだけかな」


 つまり、能力は派手で力強く見えるけど、実際のパワーはそれほどないってことか。まあ、その『派手』の部分が曲者なんだろうけど。


 「だから、私が張る障壁って実は一定の力があれば破れるんだよね。……たぶん『怪力』があるアハリちゃんなら、いけるかも?」


 ああ、一応、俺にもワンチャンあるってことか。リディアが言う最低限戦える条件さえ整えれば、勝てる可能性がわずかながら出来ると。


 その障壁にもたぶん特殊な効果を乗せるから、単純な力技で突破は出来ないんだろうけどな。


 そこはこっちの対応力にかかっていると思って良いか。


 (あっ、実際、破壊出来るか試してもいいか?)


 ――『その問いかけ』は、失敗だった。


 「えっ!? やってくれるの?」


 (……? うん。触手で。威力ありそうだけど大丈夫?)


 「触手で! 望むところだよ!」


 どうした。なんか、はあはあ、し始めたけど被虐趣味を刺激する要素あった?


 「よ、よし……どうぞ……」


 そう言って、リディアが俺に背を向けて前傾姿勢になった。いわゆるお尻を向けてきたのだ。ついでになんか丸っこい薄い壁みたいなのがリディアのお尻を中心として出現する。


 (…………)


 俺はしばらくその姿をジッと見る。……たぶん、ちょっと蔑んだ感じになっちゃったかも。


 「んっー! ふーふー!」


 蔑みの帯びた視線を浴びてリディアが興奮してしまった。


 どうしよう、すっごく気持ち悪いよ。でも、それを本人に言ったらさらに興奮するから……リディアの近くにいたスーヤに視線を向ける。


 「…………っ」


 けど、スーヤに視線を逸らされた。おい、どうにかしろよ。お前んとこの守護者だろ?


 ……残念ながら、スーヤは俺とリディアから視線を逸らしたまま戻さない。


 ちなみにアンサムもそれとなく視線を逸らしているし、フェリスは一応見ているけど、ミアエルの目を手で覆っていた。空気を察したミアエルも自ら耳を塞いで大人しくしている。


 そしてその微妙な空気が蔓延する中心にいる俺。


 なんだろうね、この修羅場。


 (……おい、勇者、お前の『嫁』だろ。なんとかしろ)


 俺はなんとなく自身の中に呼びかけてみた。


 勇者の反応を察知すべく、己の魂に集中!


 ……………………っ。


 ――なんだか、目を逸らされる感覚があった。


 ……そっか。勇者も苦労してんだなあ。でも、嫁(?)なんだからなんとかしろよ、と思ってしまった。


 勇者にも見限られたので、頼れる相手はもういない。


 (……普通に戦おう。そうしよう)


 「わ、私は一方的にでも……」


 俺が嫌なんですよ。


 ちょっとそれからリディアがごねてしまったから、俺は交換条件を出す。


 (そっちが勝ったら、叩くから……)


 何言ってんだろうね、俺。


 「まあ、それなら……」


 納得しちゃったよ。これは勝たねば。


 そうして俺はリディアと模擬戦をすることになった。

  






  

 ――色々と割愛するが、俺は負けてしまった。まあどっちも本気ではやってなかったけど。


 俺は打撃以外の攻撃はなし(触手を使うのはあり。増やすのも)。リディアはなんか大きなメイスを武器に使ってたけど、魔法はなしだった。でも魔法で作られた障壁はあり。


 それでも負けてしまった。……普通に接近戦も強かったよ。なんだろう、柔術というか合気みたいなことされて、素っ転ばされたりもした。


 リディアは戦闘中はまともだった。むしろ凜々しいと思うくらい真剣だったよ。普段もそんな感じなら良いんだけどなあ。


 ちなみに俺の触手による本気の打撃は、リディアの障壁を破壊することが出来た。


 でも、打撃軽減みたいな効果を付与されていたため、貫通後のダメージは芳しくなかったのだ。


 それと障壁破壊後の再展開も普通に速かったため、連続攻撃をしても有効打は与えられず。


 うーん、悔しい。


 そんで負けた俺は、リディアにスパンキングをすることになってしまったのだった。すっごい屈辱的だわあ。


 結局は、なんやかんやとリディアの性癖を満たすために使われてしまった。


 くっ、なんだこの精神的な陵辱感は……。俺の触手がこんなことに使われるなんて。エッチ方面じゃなくてバイオレス方面に特化したいのに……。


 ……あれだな。ちょっと格好良く言うなら、『弱いと己を貫くことすらままならない』。


 「さ、さいこー……」


 リディアが四つん這いになってお尻を上げて、顔を地面に接し、絶頂したようにピクピクしている。


 信じられるか? これが勝者なんだぜ?


 俺は、そんな相手の姿を見ながら、思うのだ。


 立って、相手を見下ろしているのが勝者であるべきだと。


 そして、それを為すべく、強くなろうと。


 俺はリディア(マゾ)に謎の敗北感を覚えて、そう決意するのであった。

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