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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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エピローグ

 何事もなかった――わけではないが、無事に屋敷で一晩過ごして、何日かかけて村に皆で帰ることが出来た。


 屋敷に泊まった夜に起こった問題、についてだが夜の間、整形を頑張っていたんだけどいまいち、上手くいかなかったんだ。だからさ、思い切って簡素かつ愛らしい姿になればいいかな、とか、馬鹿なことを考えてしまったわけだ。


 そこで俺は触手生やした丸っこい肉塊になってビチビチしながら、屋敷にお披露目のために向かったら――うん、案の定、奴隷の人達、発狂しかけちゃった。


 そんなこともあったけど、誰一人精神に異常をきたすことはなかった。良かった。


 ただ、やっぱり村につくまでに肉体の整形は上手くいかなかった。だから、肌がなるべく綺麗で同じ色の皮膚を持つゾンビの皮引っ剥がして最低限、人型の骨格整えてから纏ったんだ。


 まあ、結論から言うとミアエルにはバレた。意外と俺を見ている上に察しが良いもんでよ。あと、抱きつかれた時に若干、皮膚がだるんだるんしてる所あったみたい。


 そんなこんなあったから、一応、本来の姿は晒したよ。


 ミアエルは一瞬、ビビったようだったけど、すぐに普通に触手を触ったり抱きついたりしてくれた。やっぱすげえよ、この幼女。ちなみに今の俺は以前より肌に弾力があって、前より触り心地が良い感じらしい。


 まあ、ミアエルはともかく村の人達は俺をめっちゃ恐がるから、皮膚は纏ってる。この擬態、怪我負って再生すると元の姿に戻っちゃうからそこら辺、気をつけないとな。


 とりあえず俺は腕から爪なしの触手を生やして、ピチピチしながらミアエルと遊んでいた。ちなみにだが、背中の糸状触手は危険だから使わない。あれってクラゲとかと同じ刺胞がたくさんついた毒触手っぽくて、触れた相手に激痛と麻痺の効果があるようだ。


 野生動物に『神経毒』を試してみたが、触れただけで激痛にのたうち回る様は全員をドン引きさせるほどだった。毒性は操作していないのに、これってバレットアントの毒並かよ(歓喜)。


 ただ、他の触手に刺胞がないのは、助かった。さすがに全身凶器は楽しいけど扱い辛いから。


 ミアエルが俺の触手をペチペチ叩いて遊んでいると、他の子供達も恐る恐る近づいてきて、しまいには遊び始めてしまった。まあ、俺の皮膚の弾力は上がっているし、下手なことをしなければ寄生虫に感染することはないだろう。近くにスーヤもいて、ちゃんと俺と接する際の注意事項も伝えてくれてるし。触手も念入りに粘液を拭き取ってるし。


 俺が数人の勇気ある子供達とペちぺち遊んでいる中、少し離れたところでリディアと村人達がなんか騒いでいた。


 「……リディア様、本当に村を出て行かれるのですか?」


 「魔王も出ちゃったみたいだしね。……もしかしたら、前回の子と関わり合いがあるかもしれないし、確認に行きたいんだよねえ。前魔王の子供だったりしたら、人類に戦争をしかけているのはおかしな話だし……」


 「……リディア様がそうおっしゃるのであれば、我々は止めることは出来ません。ですが、『外』は前よりもずっと危険です。『女神』の支配権が広がっていると聞きます」


 年のいった老人が数人、リディアの前に立っていた。ぼーっと聞いてた感じ、あのおじいちゃんとおばあちゃんらは村の有力者っぽい。


 がしっ、と、ちびっ子の一人に触手を掴まれてしまった。なので先端を素早くピルピルと動かしてみると、なんかウケてしまった。他の子も真似しだしたので、ピルピル祭りが開催される。


 リディアが苦笑いを浮かべる。


「まあ、あれに関してはどうしようもないって諦めるしかないかなあ。局面まではあまり関わらないようにするから、心配はしないでいいよん」


 「――そうですか。ならば問題はないのでしょう。……それと――」


 と、長老様方はリディアとあれこれ話し合う。中にはほとんど世間話的なこともあり、本当に必要かなあ、と思うものもあった。……一応、行くな、と言ってる感じかな? でも引き留めようとする材料を出しながらも、何故かリディアの答えに大した反論も見せない。


 うーむ、何がしたいのやら。


 分かんなかったから、スーヤに聞いてみた。


 (あれってリディアを引き留めてんの?)


 (一応、な。ただそれは出来ないから、少しでも長くリディア様とお話したいんだろう。たぶん、リディア様は長老達が生きている間には戻ってこられないだろうからな)


 (ふーん?)


 分かったような、分からんような。引き留めることが出来ない理由は、なんか複雑っぽいからいいや。


 リディアが子供にするように老人達の頭を撫でたり、軽くハグしたりしている。どちらもめっちゃ悲しそうな顔をしているが、リディアの出て行く意思は固いようだ。


 ちなみにだが、リディアも俺も、あとついてくるならミアエルも、アンサム&フェリスについていくことになった。


 屋敷に泊まった日のことだが、どうにもアンサムの呪いを解くために俺の力が必須らしいとリディアが言ったのだ。


 俺としてはどこの集落にも入れないから、もう目的が失ってたようなもんだ(一応お墓ハウスは村の外に出来るからここが実家になるけど)。だから別に同行するのは構わなかった。


 なんかついてった方が面白そうだったし。んで、付き添いということでリディアもついてくることになった。俺がうっかり寄生虫ばらまいた時の後始末も含めた保護者だそうだ。下手すると、俺、気付かない内に村や町を壊滅させることとかあるだろうし、ありがたいね。


 他に目的がありそうだけど、話せないだろうから今は気にしないでおく。


 あっ、そういえば、話は変わるけど村についてからすぐにミアエルにウィリアムが家族かどうか確かめたよ。さすがに無神経な俺でも直球は無理だったけどな。


 だから、「ミアエルって兄妹っているー?」ってこれもこれで地雷なの分かってて問いかけたんだ。通訳してくれたスーヤ、すっごい気まずそうだった(リディアは本気で頭を下げて辞退した。やっぱ無理っぽかったみたいね)。


 「……いたよ。お兄ちゃん」


 と、ミアエルに言われてさすがに緊張でゲロ吐きそうになったね。


 でも、「そうなんだー。ミアエルに似て、綺麗で格好良いんだろうなあ」と言ってもらおうとしたけど、スーヤは通訳でも嫌だったらしく全力で首を振られてしまった。うん、仕方ないね。


 それでこの気まずい雰囲気どうしよう。そう思ってると、ミアエルが、無理したように笑った。


 「……えっと、あの、ね。死んでは、ないよ。たぶん。………………んと、お兄ちゃん、襲撃より少し前に、村からいなくなったから。…………光の種族だけどね、お兄ちゃん、綺麗な黒髪で赤い目をしているの。もし、見つけたら、教えてね?」


 「う、うぅー」


 ミアエルが空気を読んでフォローしてくれた。俺、今日ほど自分が情けないと思ったことはないね。


 どうやらミアエルの兄ちゃんは、光の種族では珍しい姿をしていたそうな。つまりウィリアムは家族ではなかったようだ。うーむ、良かったのか、悪かったのか。


 しかも生存フラグ立っちゃったし、ちらっと聞いた感じじゃなんか黒そうな感じがしないでもない。


 その後、特に何か問いかける訳でもなく、ミアエルと普通に遊んだ。今では問いかけたことは気にしていない風だった。


 んで、その特殊なミアエルの兄ちゃんについてだが、リディアいわく光の種族の『出来損ない』だそうだ。光の種族って基本的に金髪金目で光魔法を生まれながらにスキルとして修得しているそうだ。だけど、稀に生まれる黒髪はスキルを一切持っていないらしい。そのためか集落では、忌み子やらなんやらと蔑まれるそうだ。最悪追い出されることもあるらしい。


 ……それ聞いて、なんかものすごい嫌な想像しかしなかったんだが。


 たぶんミアエルの兄ちゃん、生きている可能性が高い。ただし、最悪な形で。


 ……ミアエルももしかしたら、『それ』を考えているのかもな。


 ミアエルからは兄に対しての悪感情は感じられないため、恐らく仲が良かったか、好いていたのだろう。


 ……いやー、もうなんか考えるの怖いわあ。もし生きてて出遭ったら、とか。


 もうやだっ。アハリ、重い話きらーいっ!


 ということで、ぶっつり忘れることにしよう。ああ、ウィリアムだが、秘密裏にリディアに処理してもらうことになった。あとなんか光の種族の死体が他にもあるらしかったが、それも下手に見せることもないだろう。


 ……何事も、知らない方が幸せなことだってあるんだ。……というか、ミアエルの精神にこれ以上負荷かけたくないし、気遣う俺の精神も保たない。


 ミアエルは今、触手を真剣白刃取りして遊んでいる。ぺちーん、とたまに触手が頭に当たって笑っているところをみると普通の子供なんだけどなあ。けど、この子、背景がかなり悲惨かつ重すぎるぜっ!


けど、俺に出来ることなんてないしなあ。メンタルケアとかも、無理だろ。異世界来る前の俺の人生なんて山も谷も大してなかったし、辛い人生を送った人の気持ちなんて分からない。


 俺に出来るのはミアエルと『普通』に接するだけだ。幸い俺といると楽しいって思えてもらってるしな。俺に出来るのは、それくらいだ。

 




 ――そうして、時間は過ぎていく。夜になり、俺は一人、村の外を歩いていた。


 遠出はしないけどな。ちなみに、村には一週間ほど滞在するらしい。結界を直すのにそれくらいかかるんだってさ。


 相変わらず満ち欠けしないでかい月が空に浮かんでいる。


 なんとなく俺は、村の外れにあるという墓地に向かってみた。そこはある意味、俺がこの世界に生まれた場所だ。


 リディアによってゾンビは駆除されて、簡易結界も張られているようで、前よりずっと静かだった。


 前世の俺だったら、一人で墓場とか怖くて行けなかったが、今は特に怖くない。何度も死にかけていれば、この程度の『怖い』は慣れるもんなんだな。


 適当に墓場をしばらく歩いてから、適当な場所に腰を下ろした。


 意味はないけど、息を吸って吐いてみる。


 異世界に来て、一週間程度経ったが、その間に前世以上の濃い体験をした。


 ゾンビになるわ、カエルに丸呑みにされるわ、寄生虫身体に湧くわ、何度も死にかけるわ、最後は触手も生えた。


 大変だった。でも、楽しいと思えている。俺自身に色々と不確定要素があるため、手放しに楽しめないが、それでも生きがいを感じている。アンデッドが言うとおかしな話だが。


 ここは剣と魔法の世界だ。まだまだ未知の発見があるだろう。それらに思いを馳せると年甲斐もなくワクワクしてくる。


 俺の前世は山も谷もなかった。あまりにも普通で、その普通を疑問にも嫌にも思ってもいなかったけど、どこか覚めていたんだ。


 前世の世界は凡人には、広がりが望めない。足を向けずとも、遠い世界を見ることも聞くことも出来る。だから、どこにも『新しい世界』はなかった。無意識のうちにそれがどうにも不満だったんだろう。


 だからこそ、新たな世界に期待してしまう。


 ……色々と面倒なことが取り巻いているが、まず楽しもう。でなきゃ、勿体ないだろう。


 こんな貴重な体験、そう出来ることじゃない。


 もしかしたら、世界の命運を預かるかもしれない。


 もしかしたら、身体を乗っ取られるかもしれない。


 もしかしたら、誰かが目の前で悲惨な死を遂げるかもしれない。


 不安は多々ある。


 でも、それらを込みで悩みながらも楽しんでしまおう。


 これは俺のためでもある。


 俺はアンデッドだ。


 殺されるか、自分から死なない限り死にはしない。


 どんな最期を迎えるにしても、満足して終わりたいんだ。


 世界の覇者になる訳でもなく、救世主になりたい訳でもない。


 ただただ、楽しんで生き、そして朽ちたい。それが俺の願いだ。


 この俺が生まれた墓場にて、このちっぽけで、この質素な願いを叶えると誓う。


 ――さあ、死にながらこの世界を生き抜いてやろう。


 どんなことがあろうとも。

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