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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第三十一章 戦いの決着

 バックアードの魂の中に寄生していた妖精達は浮かれていた。

 

 殺した殺した殺してやった。

 

 忌まわしい魔女の使い魔を、消滅させた。


 バックアードの口から、ヘドロが垂れ落ちる。アハリートの原型は跡形もなくなり、周りにあるヘドロの水たまりと同等のものになった。最後に、残った下半身もついでとばかりに潰しておく。


 バックアードの魂に潜んでいる妖精達はケタケタと笑う。それに釣られてバックアードも愉悦に染まった笑い声を上げた。


 あとは予定通り、知性がある程度戻ったバックアードに指示を出して奴隷達を皆殺しにすれば、進化することが出来るだろう。


 一応、生者の魂を浄化せずに魂を丸々一つぶち込めば、簡単に進化までのレベルアップはできる。だがそうするとバックアードの魂がほぼ確実に完全崩壊を起こしてしまう危険性があるのだ。


 もっとも浄化したとしても、本来の許容限度を超した魂を付与すれば確率で破裂する可能性はある。まさにやろうとしていることだが、破裂した場合は、残念だと諦めればいい。どっちにしろ、あの魔女、リディアにとって『王種』になりたての者との戦いなど児戯に等しい。だから進化出来るのが針の先ほどの可能性であったとしても、魔物の最高峰『魔神』にせねば決して勝てぬだろう。


 まあ、魔神になったとしても、その強大な力を保つためには魔界のように常に安定した高濃度の魔力が周囲に漂っていなければならないのだが。


 魔神はその強大な力故に安定性に欠け、魔力の薄い地域では簡単に死滅する。


 そのため、仮にバックアードが魔神になったところで一日、二日程度保てば良い方だ。でも、その時間があればこの場から魔女に逃げられたとしても魔女の村を強襲すれば、いい。そうすればあれは戦わざる終えないだろう。あの魔女は無駄に情を持つ故に扱いやすいのだ。


 バックアードの命はどのみち確実に潰えるが、問題ない。


 そもそも魔物は妖精達が大嫌いな『邪神』の駒に過ぎないのだ。


 だから妖精達はまったく良心の呵責を覚えずバックアードに囁き、生者を殺すように唆す。


 バックアードも嬉々としてそれに従う。先に待ち受ける運命など知らずに。


 一網打尽にするため、屋敷を焼き払うことを提案する。バックアードは若干ながら知性が戻ってきたこともあり、屋敷を破壊することに難色を示す。だが、魔女を倒すためと囁かれて渋々従うことになる。


 魔法が展開されていく様子をウキウキとしながらも――妖精達は一つの引っかかりを覚えていた。


 先ほどのゾンビだ。人の魂が入った勇者の身体を持ったゾンビ。あれは確かに殺したはずなのだが、魂が抜けてこなかった。生前の勇者同様、魂の強度から転生者だと思われ、その魂を得れば大幅なレベルアップが出来ると期待していたのだが……。


 そのため生きている可能性はある。でも、あの瞬間に何が出来よう。


 だけど魂がどこに行ったか分からないため、不安が残る。


 それに、もう一つ疑問点があった。あの勇者の肉体だ。今はアンデッドとなっているが実質あの勇者は『死んではいない』。それはあの勇者は生前に邪神によって『不滅』の呪いを受けているからだ。その上でさらに妖精達によって付加された呪いによって魂が身体へと封印されているのだ。肉体を壊したとしても『不滅』の呪いによって肉体は再生される。だから、消えたままなのはおかしいのだ。


 ただその身体には違う魂が入り込んで、動かすというイレギュラーなことが起こっていた。その要素によってバグが発生している可能性もある。魂が呪いから外れて消える可能性すらある。


 ――だが勇者の魂は恐らく消えていない。もし仮にバグによって魂が抜けたとしたら、魂の吸収が行われていないのはおかしいし、魔王が出現している現在、新たな勇者がこの世界のどこかに出現しているはずだ。でも妖精達は世界に散らばっている同一体によって有力者を監視している。報告がないなら、勇者の魂は消えていないと判断出来る。


 バグによって再生が遅れている、という仮説の方が正しい気がする。そもそも勇者の肉体が壊れた際の再生速度は分からないのだ。それを試す前にあの魔女が身体を持ち去ったためデータが不足していることもある。


 そうなるともう一つの魂も復活して動き出す可能性も考えられるが――推測の域も出ず、結論は出せない。


 ならば、と妖精達は彼女ら同一体が繋がっているネットワークで瞬時に相談、結論を出して一旦保留ということにした。


 今、いないのなら現在優先すべき事柄を達成した後に調べれば良い、と。


 バックアードの頭上で、火球が生成される。今度はしっかりと安定を保っており、射出も問題なくこなせるだろう。上手く屋敷の玄関からホールに撃ち込めば、奴隷達を一網打尽に出来るはず。


 上手く行けば、リディアは無理でも他の二人も焼き殺すことも出来るだろう。


 バックアードが火球を射出しようとした。


 その瞬間だ。


 どすん、とバックアードの胴体真横に重い衝撃が走る。魔力操作が出来始めてきたところでこの一撃は、意識を乱すのに十分だった。


 安定を保っていた火球が揺らぎ、突如、爆発する。内在魔力を多少宿しているために被害は薄れていた。だがそれでも巨体を転がすには十分な衝撃を受けてしまう。


 バックアードはすぐさま体勢を立て直し、周囲を見渡す。


 すると、おかしなゾンビを発見する。


 勇者のゾンビではない。だが、全身に赤黒い血管のようなものを浮かび上がらせており、何よりそれは口から芋虫を生やしていた。近くにいるゾンビを捕まえて、同様の血管をそのゾンビにも伸ばし、ぐじゅぐじゅと形を変化させている。


 妖精達は混乱するが、その最中にバックアードが呟く。


 「ぱラ、さIト……」


 バックアードが、カチンカチンと忌まわしげに歯を鳴らす。


 妖精達は即座にそのゾンビの魂を鑑定してみると――あの勇者ゾンビのモノであることが分かった。


 ……不可思議なことにどうやらあのゾンビはあの瞬間逃げ延びたようだ。どうやったかは分からない。仮説を立てたバグによる再生は――しかし元の身体に再生していない以上、可能性は低い。


そのゾンビも喋る気はないのか、それとも喋れないのか今し方作った肉塊で出来たハンマーを手に持ち無言で見据えてくる。


 ――逃げ延びた手段は分からない。けれど、邪魔をするならば殺すだけだ。一度でもダメなら二度、二度ダメなら三度殺してしまえばいい。


 栄光を掴むために、『あれ』は妖精達にとってもバックアードにとっても邪魔だった。


 だから、そのゾンビに敵意を向けるのは至極当然のことだと言えよう。





 ……いやーマジ死ぬかと思ったね。実際、さっきまで俺はほぼほぼ死んでた。噛み潰される瞬間、とっさに芋虫だけ背中から地中に流し込んでやったのだ。正直、上手く行くか分からなかったけど、今こうして他のゾンビに寄生して仮復活出来ている。


 そんでなんとかギリギリでバックアードの魔法を食い止めて、現在に至る。


 んー、奴さん、戦う気満々だけど、俺はもう色々と無理だよ? 『侵蝕』で無理矢理俺の身体として扱っているけど、さすがにちょっとなんかやっぱりおかしいのだ。誤作動というか違和感というか、若干動かしづらくてただでさえ低い精密性がガクンと下がってしまっているようだ。


 一度肉体を吸収してからの再構築は時間かかりすぎるから、今は出来ぬ。


 バックアードが飛びかかってきたら逃げの一手で、とにかく地面に逃げ込んで遠くに離れて現れての繰り返ししか出来ない。あいつが俺を捕まえられないと判断したら、その時点でゲームーバーだが――問題はなかったみたいだ。


 ……俺の視界に今まで映っていた青白い光の膜が消え去っていく。バックアードも気付いたのだろう、空を見上げて、キョロキョロし、『とある存在』に気付いて月に視線を向けた。


 巨大な月に背を預けるように何かが浮かんでいる。いつの間にか現れたそれは、静かにバックアードを睥睨していた。


 ……うん、どうやら俺が稼いだ一瞬は、十分な時間であったようだ。


 バックアードは、激しく唸り声を上げると先ほどよりも素早く火球を展開する。狙いは空に浮かぶ存在――リディアにだ。


 リディアは片手を突き出し、射出されたバックアードの火球の進路上にやや大きめの黒球を生成する。火球がその黒球に、ずもっと全身を沈み込ませる。沈み込む途中で火球が光って爆発したが、全て問答無用に吸い込まれていく。


 すぐにバックアードは様々な魔法を撃ち放つが黒球の軌道から離れていても、吸い寄せられ、飲み込まれる。奴の魔法を扱う精度は格段に上昇しているはずなのにリディアは歯牙にもかけていないようだ。いくつか、リディアまで飛んでいった魔法もあった。だが、何故かリディアに触れる前に弱まり消滅してしまう。


 その間、リディアはもう一方の手の平を空に向けて、くんっと軽く指を上げる。すると地響きと共に屋敷を囲っていた鉄柵が連なったまま引き抜かれていく。


 軽い動作のくせにとんでもないものを引き抜き、リディアは連なる鉄柵を、中心に程よい空間が出来るように丸めていった。ものの数秒でそれは成し遂げ、バックアードが何か行動に移す前にそれを振り下ろす。


 バックアードが逃げ出す間もなく、中心に捕らえてしまう。まるで檻のような、というか檻そのもので奴を閉じ込めてしまった。辛うじて身じろぎ出来る程度の隙間しかない。


 バックアードは暴れるが、深々と突き刺さった鉄柵はビクともしない。さらにリディアは上部も曲げて対面同士を繋ぎ合わせてしまう。


 バックアードの無力化が完了してしまった。


 おおう、一瞬でここまでやっちゃうか。マジすげえな、おい。


 リディアは、ふわりとバックアードの目の前まで降りてくる。バックアードは一際激しく暴れるが、リディアは表情を変えない。そのまま無造作に手を振るうと、檻としての機能が損なわない鉄棒が十数本程度外れる。


 その鉄棒をバックアードに向かって様々な角度で先端を向けた。


 初めて、そこでバックアードに怯えたように震える。


 リディアは口を開く。


 「頭」


 そう言って、鉄棒の一つがコツンとバックアードの額に軽く当てられる。――そう思った瞬間、全ての鉄棒が勢いよくバックアードの頭蓋骨を刺し貫いた。それは一度だけではなく、再度抜かれ、もう一度――さらにもう一度――欠片となって崩れ落ちるまで何度も繰り返される。


 ……え、えげつねえ。


 その後もリディアは何のつもりか、「右前脚」「尻尾」「左中脚」――うんぬんと宣言しながら徐々に砕いていったのだ。


 淡々としているから見ている側としたら、すごい怖い。


 そうしていつしか、檻の中には骨の残骸と、唯一、黒靄を纏う骨が一本残されるだけとなった。


 ……うわあ。……あのね、俺、リディアが来たらバックアードと接戦するんじゃないかと思ってたんだよ。でも蓋を開けてみたら、圧勝どころか虐殺だった。


 リディアは檻を押し広げると、黒靄を纏う骨を素手で掴んで、外に出した。……いやいや、素手で掴んでいいの、それ。普通にやってるけど、おかしいだろ。


 で、リディアは念には念をか檻に向かって手を下に振るうと、檻の中にあった骨の破片が全て見えない圧力によって完全圧縮された。


リディアは一本の骨だけになったバックアードをプラプラと振るう。黒靄が一層濃くなったりもしているけど、リディアにダメージは一切無い。


 「これで終わりかな。トドメはアハリちゃんが刺しちゃって」


 そう言って、俺に鉄棒の一本をふよふよと浮遊させてきたので、手に取る。


 (俺がやっちゃっていいのか?)


 「うん。私はもうレベル上げることに意味はないし、そもそもこの程度じゃもう足しにもならないしねえ。フェリスちゃんとアンサムくんも別に良いって」


 そういうことならお言葉に甘えようかしら。


 俺が鉄棒をキュッと握ると、リディアは「その前に」と指を立てた。


 「このままやったらたぶん大部分の魂を持ち逃げされちゃうかもだから……魂に巣くうウジ虫を叩き出さないとねえ」


 なんのこと、と不思議に思ってちょっと集中してバックアードの魂を見てみると――確かになんかいた。四つほど、なんかうぞうぞと魂の中を異物が蠢いている。ちょっと、なんていうか、マジ気持ち悪い。


 「はい、出てけ、ウジ虫」


今のリディアは笑顔になりながらも、口汚く罵る。


 リディアは「精神破壊(マインドブレイク)」と呟き、骨を指で弾いた。


 瞬間、バックアードの悲鳴と共に《ったあああああああああい!》という少女の甲高い悲鳴が響き渡った。


 そして今までバックアードの中にいた奴らが光の球となって、飛び出してきた。


 てっきり気持ち悪い感じから、醜悪な姿を想像していたけど意外にもその姿は可愛らしかった。羽の生えたちっちゃい全裸の少女だ。いわゆる妖精。ただ、その顔は苦痛と憎しみ、怒りに染められていた。


 《忌まわしき、醜い魔女め!》 


 《老いさらばえるべき不徳の悪魔!》


 《許されざる邪神の使徒め!》


 《いつか貴様を――ぐう!》


 「黙れ」


 リディアが妖精の一体を鷲掴み、ギリギリと遠慮無く力を込める。彼女は今まで見たこともない怨嗟に満ちた表情で、妖精を睨み付ける。


 「お前らにはウンザリだ。糞に纏わり付くべき害虫共が。何度何度も邪魔しやがって。偽りの力を得て増長して、強くなったようで楽しいか? そんなに『あの子』の力が欲しいか?」

 

 《我らは救世主!》


 《世界を破滅に導く異教徒め!》


 《我らは正しきことを行うモノなり!》


 リディアは支離滅裂な妖精達に呆れたような荒々しいため息をつく。


 「何度も言う。正しい『役割』を果たせ。『あの子』へ至る封印した道を解け。お前達、『端末』如きに『あの子』の役割は務まらない」


 《嘘つきの売女めが!》


 《我らは知っている!》


 《貴様らが我らを貶めることを!》《我らを破滅に導くことを!》《この世界を破壊することを!》


 「……。本当に消されたいのか?」


 底冷えするようなリディアの殺気がこもった言葉だったが、――妖精達は狂ったような哄笑を上げた。妖精達は笑いながら逃げていき、リディアの手の中に収まっていた妖精が苦しげながらも嘲笑を浮かべる。


 妖精は小馬鹿にするように歌う。


 《そんな脅しは聞きはしない。我らを倒す術は、ありはしない。そうでしょう? 世界に嫌われる『邪神の使徒』が》


 「…………」


 リディアが何も言わずに、妖精を握り潰した。「ぐぴゅ」と嫌な声、嫌な音を立てて潰れると、光の粒子となって消え去る。


 リディアは長い長いため息をついて、項垂れた。


 うーん、よく分からないけど大変そう。


 まあ、少なくともあの妖精とリディアって致命的なまでに仲が悪いみたいだね。今後、あまり不用意に口出ししないようにしよう。俺に向かって今みたいに口調変わるレベルでブチ切れられたら、ガチで泣く自信あるもん。


 でも、一応、ある程度は聞いておこう。なんか派閥あるっぽいし、知らないと後々、俺とリディアの間で諍いが起きる可能性があるし。で、ここはあえて直球で行こう。


 (世界滅ぼすの?)


 「…………」


 俺の問いかけた一言に、リディアは頭痛に苛まれたかのように、額に曲げた指を当てて息を吐き出す。とりあえず怒っていない感じかな。


 リディアは苦しげな声で話し始めてくれた。


 「…………詳しい話は今は出来ないけど、簡潔に言うとさっきの妖精達が言っていたことは若干本当。私の目的が達成されると、少なからず全世界で死者が出る、かな」


 リディアはかなり迷った末に、そう言ってくれた。


 「でも、そうしないといけない理由があるの。私の目的が達成出来ないと、もっと酷いことが起こる」


 (それは言えるのか? 言えないとしたら、その理由くらいは頼む。……たぶん、俺を巻き込むつもりなんだろ?)


 「…………。……焦られても困るから、かな。時間はまだあるの。けど、理由を知ったら焦る可能性があるから。……焦って死んじゃうことはまだいいよ。けど、強くなるために『大義名分』を作って無実の人達の大量殺戮だけはさせたくないの。……その過ちを犯した子が過去にいるから。止めるのは私の目的とは矛盾してるし、私自身色んな殺しもしてきた。けど、でもやっぱり超えちゃいけない一線はまだ超えたくはない。……まだ少しでも人でありたいから」


 (……。……そういうことなら分かった。後ででいいから、少しでも出来る範囲で俺を巻き込む理由を教えてくれ)


 「……うん、分かった。……それとありがとう」


 リディアは俺が離れていかなかったことに安堵した様子だ。まあ、俺としては突然現れた見ず知らずの寄生型の妖精なんて信じられないし。


 出会いがあいつらが先だったら、あいつらについていたかもしれないけど。星の巡り合わせがちょっと違っただけだ。だからどっちが悪か正義かなんて言うつもりもないし。


 先に出会ったのがリディアだったからついていく、それで良いんだ。今、下手にどっちかの正当性を求めたら、その正当性が瓦解した時、俺は何も信じられなくなって、何も出来なくなってしまうかもしれないし。


 たぶんリディアは、百%正しくない。無論、奴らもだろうが。


 詳しく知らない上に事の真偽を正しく判別出来ない以上、思考停止して従いつつ、ひたすら情報を集めていた方がマシだ。


 ていうことで、しばらく俺はリディア側につくことにする。リディアと敵対する奴らから誘惑されてもしりませーん、聞きませーんで通すことにしよう。


 うん、出来る限り、後戻り出来ないレベルのことしでかす前に情報仕入れないとな。やべえことしでかしてそれが過ちだったら、俺の小市民精神は容易く壊れちゃうからな。


 (じゃあ、この話は置いておいてさっさとレベル上げて――進化出来たらするか。ところでどうやってバックアード、突く? リディアが持ってるのか? でもやだなあ。それ外した時、リディアに刺しそうで怖いし)


 リディアが強張った身体から力を抜き、優しい笑みを浮かべる。


 「……ふふっ、私は大丈夫だよん。防ぐ自信はあるから」


 俺は首を横に振った。


 (俺が怖い)


 リディアが大丈夫なのは、なんとなく信用出来るけど、怖い物は怖いのだ。なんかの間違いで刺して血がどっぴゅうって出たらトラウマものだぞ?


 「うーん」とリディアは首を傾げて、一本の骨と化したバックアードを地面に落とす。だが、骨は地面に落ちきる前に半透明な何かにこつんと当たって、止まった。


 「じゃあ、物理障壁の上に乗せておけばいいかなあ。私のは鉄レベルの強度があるし。ああ、でもすっぽ抜けないように重力で固定――は、ああ、抵抗しちゃってくれるなあ。ここは私が抑えるしかないかなあ。私に向かって刺すよりはマシ、かなん?」


 (あー、それで妥協するわ。……つーかさっきから気になってたんだけど、なんでリディア普通に素手でそいつ触れてるの?)


 「企業秘密だよん」


 リディアは悪戯っぽく笑って、はぐらかしてきた。やっぱなんかスキル使ってるんだろう。んぐぐ、何やってるか俺には分からない。魔力を見ることが出来れば、ちょっとは理解出来るのかな。


 さて、バックアードを倒そうか、と鉄棒を構えたところ、ふと屋敷の方が騒がしいことに気付く。割と遠目であったため、俺の視力ではたくさんの奴らががわちゃわちゃしている姿しか見えなかったが、声は聞こえる。


 奴隷のたぶんリーダー格てか、俺の叫びを聞いて屋敷に他の奴隷を率いてくれた奴が声を上げた。


 「お、お前は……! 生きていたのか……!」


 「あ? それ俺が言いてえくらいなんだが。全員はいねえらしいが、奴隷の大半生き残ってるじゃねえか。……まあ、大方、バックアードが馬車に乗ってる奴らを襲わないよう指示出したんだろうな。意外にがめついみたいだな、あいつ」


 対して答えるのは、アンサムだ。地下から戻ってきたのだろう。で、ホールで奴隷達と再会したと言った感じか。


 声色的に奴隷達はかなり警戒しているが、アンサムは逆に興味なさげだ。もうアンサム的には奴隷商人続ける義理もないし、当然っちゃ当然か。


 アンサムが手をぷらぷらしている姿が映る。


 「もう俺にはお前らを捕まえて商売やる能力ねえから、どこへでも行ってくれ。ああ、とりあえず夜が明けるまで待った方がいいか? 二階なら、アンデッド共にも襲われねえだろ」


 「し、信用できるか! ……そこの獣人、仲間なんだろ! そいつがいれば、確かに俺らをおさえられるかもしれないからな!」


 「いや、ボク関係ないけど。そいつならお好きにどうぞ」


 めっちゃ面倒くさそうな声でフェリスが言う。アンサムは軽く眉を顰めながらフェリスを見やる。


 「いや、お前は俺が殺されないよう護衛するべきなんじゃねえのか?」


 「殺さない程度に袋だたきにされるくらいなら、守らなくても良いんじゃない?」


 「ひでえ」


 フェリスの冷たい返しに、ケラケラとアンサムが笑う。


 フェリス、アンサムに対して塩対応過ぎないだろうか。仮にもその人、王子様なんじゃないの? ほんと、二人ってどういう関係なんだろ。というかフェリスって立場的に意外と偉いのかな? でも、単独でこんなところに来るって言うのもおかしな話だし……。


 「皆、そいつを取り押さえるんだ! また奴隷にされて溜まるか! こんな、こんな危ない目に遭うなんてもうコリゴリだ! 俺らが何したって言うんだ!」


 「いや、自業自得じゃね? お前ら、基本的に集落にいられなくなるくらいみみっちい犯罪重ねまくった奴らばっかじゃねえか。ほとんどタダ同然で引き渡された奴らばっかだぜ?」


 「う、ううううう、うるさい! 皆、かかれえ!」


 「ついでにそこの獣人もだ! 信用出来ん!」


 「おっぱいだ! おっぱいを狙え!」


 「いや、狙うなよ」


 げんなりした声のフェリスを最後に乱闘が開始された。いやあ、元気だなあ。


 なんかしっちゃかめっちゃかになってる。でも奴隷達、十人以上いるけど、アンサムとフェリスが押していた。


 奴隷達はどうか分からないけど、アンサム達は奴隷達を殺す気はないみたいだし大丈夫かな。


 じゃあ、俺はバックアードにトドメを刺すか。


 俺は思いきり鉄棒を振り上げて、バックアードに振り下ろす。


 ばぎゃ、と骨が真ん中から真っ二つに砕け散る。最後に哀れな獣ような断末魔が響き、闇夜に溶け込むように消えていった。


 同時に機会音声が脳内に聞こえてくる。


 『レベル37に上がりました。『侵蝕』の熟練度が上限に達しました。『潜伏』の熟練度が上限に達しました。条件を満たしました。『擬態』を取得しました。『治癒強化』の熟練度が上限に達しました。進化して『治癒強化』が『自己再生』になりました。『毒性強化』の熟練度が上限に達しました。進化して『毒性強化』が『毒性操作』になりました。『気化散布』の熟練度が上限に達しました。『吸血』の熟練度が上限に達しました。『走行』の熟練度が上限に達しました。『大声』の熟練度が上限に達しました。進化して『大声』が『絶叫』になりました。『粘液』の熟練度が上限に達しました。またレベルアップにより魔力の最大値が上昇しました。――進化条件を満たしました。以下に進化可能です。『テンタクル』『ディパジット』『リーチ』『グール』』


 (んほぉおおおおおおおおおおおお! 『テンタクル』なりゅのぉおおおおおおおおお!)


 「え、ちょ、アハリちゃん……!?」


 『確認しました。『テンタクル』へと進化を開始します』


 俺はストンと素早く膝を折って、地面にうずくまる。


 「アハリちゃん!? ちょっ、まっ、あ、あ、アハリートォ!!」


俺は全力でリディアの声を無視して、期待に胸を膨らませていた。だって無理もないだろう。触手生やせるんだぜ、触手。これで興奮して錯乱しなかったら、いつするってんだ。


 ということで、俺の意識が闇に飲み込まれていく。


 なんなすごい焦った感じにリディアが俺を揺するが、もう答えることは出来なかった。

※無駄な補足

進化について。

魔物の進化は、肉体の構成が大きく変わることがある。だがスキルの有無にかかわらず、前回の肉体の構成は受け継いでいる。そのため仮に同じ進化体や同様の最上位種の『王種』であっても能力が大幅に違うことがよくあるのが確認されている。

例としてゾンビでは、自爆能力があるモールや酸液を発射できるモールなどなど。

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