それはアルハラです!
人物紹介
オミクレー:吸血鬼の少年。年齢は16歳程度とかなり若い。立派なリーゼント付き。
オルミーガ:蟻の姿をした魔族。小柄な見た目によらず、とても力持ち。粗暴に見えて案外、インテリ。
イェネオ :200年前に勇者だった女性。見た目は少女だが、それなりに年がいっている。
アハリートがゴブリンを退治している最中、オルミーガ、オミクレー、イェネオはフェリスの案内の下、ラピュセルを散策していた。
「うみゃい!!」
《うみゃいー!》
《うみゃいーー》
そんな中でイェネオは立ち並ぶ屋台に突撃し、片っ端から制覇していた。片手にはビールを持ち、もう一方の手には様々な食べ物が握られている。そしてそれに群がり貪るアスカとラフレシアだ(ラフレシアはちょっと姿を変えて、ピンク髪にしている。原種に近い)。妖精が食べ物に群がる姿は道行く人々をギョッとさせる――特に傭兵らしき人達は原種を知っているのか「んんっ!?」と殊更ビクついていた。
ただ、明らかに魔族なオルミーガが近くにいるのを見て「ペットか……?」と呟きを残して特に問題になることはなかった。
「食性はイェネオは人間として扱って……あの二体は、原種と同じで雑食。問題はお前ら吸血鬼だよ」
イェネオ達を観察していたオルミーガはオミクレーに顔を向ける。オミクレーは舐められないようにか険しい顔でオルミーガを睨む。
「んだよ」
「生意気だな」
「ふが!?」
オミクレーはオルミーガに鼻を摘ままれてしまう。
すぐに離してもらえたが、これにはオミクレーは怒髪天を衝くことになる。
「なにすんだてめえ!!」
「喧嘩腰で話すんなガキが。相手見ろ、ボケ」
《そっちは初手からマスターに喧嘩の売り買いしてなかった?》
「あれは相手見た上で喧嘩売ったんだよ。元から決闘する気だったんだから相手は見てんだ、あたしは」
オミクレーの中から聞こえてきたラフレシアの声にオルミーガはかなり冷静にそう答える。実際、彼女の言うとおりオミクレーに対しては彼が攻撃的であるにも関わらず、意に介していなかった。
「で、オミクレー。お前に訊くが――」
「お前なんかに何も答えることなんてあるかよ!」
「その立派なツノ引き千切んぞ」
「いでででででで!!」
オルミーガは生意気なオミクレーのリーゼントを掴んでギリギリと引っ張る。小柄ながら怪力を誇るオルミーガによって、リーゼントがみしみしと悲鳴を上げる。
「とりあえずこのまま訊くが、お前らの食性は血液だけか? こっちもざっくり調べて、『人間の血液だけ飲む種族』じゃないのは分かってる」
「取れる取れる!!」
「答えろ」
「そんくらいなら答えるから、離せや!」
「……。まあ、いいか」
オルミーガは軽く吐息をついて、オミクレーのリーゼントから手を離す。
「で? 男に二言はないならさっさと答えろ」
「……血に限らず液体なら基本的になんでも飲む」
「果汁、乳汁なんでも良いのか……酒は?」
「嗜好品としてなら。けど『混じって』アルコール臭くなるから、あんま飲む奴はいねえ。酔いも長く続くから、長期休暇もらった奴しか飲まねえって聞くし。……俺もちょっと飲んでみたことあっけど、十数ミリリットルで数日酔いが覚めなかったな」
「そこら辺は他の吸血鬼と一緒か。『揺らいでいる』上に血液を循環させる能力に『優れているせい』で刺激の強い食料はあんまりよろしくはないみたいだな。どうするか……。雑食の吸血鬼で、しかも国家を築いてるほどの集団って見たことないからな……。一応、吸血鬼に関するデータはあるけど、『限定感染』じゃない方法で増えた吸血鬼はどう変化するのか、イマイチ分かんないからな、鵜呑みには出来ない……」
オルミーガは口元に手を当てて唸り、オミクレーに複眼を向ける。
「ジルドレイ型の吸血鬼の情報が少ないから、手探りで行くぞ。ラフレシア、えーっと……サンか。あいつと……ダラーにどのくらい酒の濃度を薄めれば良いのか訊いてくれ」
《はいはい…………えーっと…………わかんないって》
「……仕方ないか。吸血鬼は行軍には向いてない性質だからな。おら、オミクレー。お前で試すぞ。フェリス、ライムと酒――ここら辺は麦が取れるんだっけか? じゃあ、ウィスキーが買えるとこ教えてくれ。それか酒場でも良い」
「いいよ」
「え? 嘘だろ? やめてくれ、あれマジで辛いんだって!」
オミクレーは顔を青くして逃げだそうとするが、オルミーガはお構いなしに首根っこを捕まえる
「うるせえ、行くぞ。あと毒入れられた時に排出する訓練にもなるから、やっとけ。イェネオ! ウィスキー飲みに行くぞ!」
「いきゅぅー!」
こうして食料確保という名目で、吸血鬼の耐久実験が始まるのであった。
とある酒場にて。
「お、ぼぼぼぼぼ」
オミクレーは机に上体を横たわらせながら、呻いている。血の気が薄い吸血鬼にしてはさらに薄い――を通り越して白から真っ青とも呼べるほど血色をしていた。
ウィスキーの瓶が彼の隣にあり、それなりに大きなものであったが半分ほどまで減っている。ちなみにであるが、オミクレーが飲んだのは数ミリリットル程度で(それもある程度薄めた)、ほとんどが隣にいるイェネオが豪快に飲んでいたのだ。
《がんばれ負けるな、ふぁいとおー》
そんなオミクレーの上にアスカが乗っかり、応援がてら意識を失わない&死なない程度にアルコールの毒性を弱めていた。
「すん、ま、せん……」
オミクレーは酩酊しながらも、なんとか意識を集中して血中からアルコールを排出しようと頑張っていた。
「大変だねー、吸血鬼っていうのも。アンデッドなのに毒に弱いなんて」
イェネオはそう言いながら、ショットグラスに自らウィスキーを注いで、一気飲みする。
「かー! 効くぅー!」
「お前も大概にしとけよ」
「良いじゃないの。オルミーガちゃんは飲まんの?」
「今はまだ。ボスから一応、監督するように任されてるからな。……それに酔っ払いの相手をフェリスに全部任せるのは酷だろ」
「それはすごい助かる」
オルミーガの対面に座るフェリスはミルクを飲みながら感謝の意を示した。
イェネオはつまみを食べながら、横目でオルミーガを見やる。
「アハリートのこと、ボスって言ってるんだ」
「一応な。……それと色々と任されてる以上は、責任は持たないといけない。そこのガキ含めて」
「真面目だねえ」
「あれが戻ってきたら、多少は酒を飲むつもりだけど。そん時は付き合ってもらうぞ」
「あいよー」
イェネオはつまみを少量手に取り、アスカの口元まで持っていくと《うぉおお》と言いながら、貪るのを見て楽しげに微笑む。
「そんでこのあとどないすんの?」
「馬車の物色。……でも、すぐには買わない。幸いボスにはパトロンがついてるから、状況次第では良いのが貰えるかもしれないからな。とりあえず必要な機能だけ確認したい」
「……。案外、考えてるねー。てっきり『沼や川を泳いで進め!』くらい言うかと。あっ、西の境界って『酷く広い湿地帯と密林地帯』で合ってるよね?」
「変わらず。……まあ、ボスとあたしだけならそうしたかもしれないけど、そうじゃないからな。特に吸血鬼は常に日光を遮るようなものがないと遠くには行けない。たとえデイウォーカーになっていても、死ななくなっただけで長時間日光に浴びてると皮膚が焼け爛れるからな」
そう言いながら、オルミーガはオミクレーに手を伸ばし、彼が被っていた頭巾をめくる。青白い肌に赤くなった日焼け痕が目立つ。デイウォーカーでも日の光は完全には防げないのだ。
そんなオルミーガを見ながら、イェネオはウィスキーをくぴくぴと呷る。
「優しいねー。よく分かんないけど、なんか吸血鬼を憎んでるとか言われてなかったっけ?」
「正確にはジルドレイの吸血鬼だな。あと『あれ』をやったのはこいつらじゃない。一応、そういうのは弁えてないと駄目だからな。異種族が乱雑に住む魔界だとそういう考えは大事にしないといけない」
別に異種族と共存しているわけではない。共存しなければ生きられないのが魔界なのだ。魔力が荒れ狂う魔界で発展するためには、どうしても一種族だけでは限界がある。さらに最近――ここ二百年くらいではタイタンからのちょっかいもあることから、特に結束を強めないといけなくなっている。
「へー、魔族って真面目だねー。魔王ってアスカ以外に知らんし、そもそもそっちの定義じゃアスカって魔族じゃないしね」
《我、魔王なれど魔族に非ず》
アスカはしゃきーんと荒ぶる鷹のポーズをとる。
「かなり珍しい魔王ではあるな。魔界に住めない魔王なんて」
オルミーガはつまみを手に取ると、アスカの口元まで持っていく。するとアスカはこれも《むおおおお》と言いながら一生懸命食べた。それを見て、オルミーガは口元を緩める。
フェリスも興味がわいて、スッとつまみを渡すと、これも《ふおおおお》と食べてくれたので、皆が和やかな雰囲気になれたのだった。オミクレーを除いて。
次回更新は5月25日23時の予定です。もっと早くなるかもしれません。




