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ご都合主義を押しつけられる側はたまったものではない。

 巨大なワームが真っ直ぐと伸びて、()える。金属を(こす)り合わせたかのような鋭く耳障りな鳴き声が辺りに響き渡った。


 そして、ワームは即座に床に向かい――完全に潜ってしまう。


(――集中! 落ち着きましょう!)


 ローラは怒り狂いそうな意識をすぐさま(しず)めて、意識を床に向ける。後の二人も同様に意識を切り替えられたのか、構えを取った。


 ――当然ながら、感知は出来ない。


 ローラ達に緊張が走る。


 その張りつめた空気はローラの足元に牙が生えたことで破られた。


「――っ!」


 ローラは即座に『透過』を使い、首から上を先に動かすようにして回避行動を取る。その数瞬後、ローラの半身を通過するようにワームの胴体が通り抜ける。


 彼女は頭部がワームの体内に入らないようにしつつ、最低限腕だけは残しておく。横に思い切り振り抜くとワームの身体が大きく削がれる。


 自分だけ触れるようにして、相手には触れられないようにする『透過』の応用攻撃だ。


(肉は削った。けど――)


 ワームのえぐり取られた胴体は……やはりというか、瞬く間に再生してしまう。


(魔力による補填じゃありませんね。ワーム本体か、『アスカ』が再生用の肉を持っているのでしょうか)


《元々アスカに重ね合わせの力はありませんでした。空間拡張してしまった肺に溜め込んだ血液を自己再生に使っていたはず……。魔神の時も同様の力を行使していました》


(空間拡張の気配はありませんね。恐らくアハリートの力を使っているのでしょう。……それと肉の感触以外に『栄養価の高そうな液体』の詰まった特殊な器官に空間系と法則系の力がありました。あれが恐らく、『精神汚染』の源)


 絶対に入ってはいけないと強く感じた。


 ワームがUターンをして、ローラに食いつこうとする。巨大な体躯(たいく)をしているが、かなり速い。基本的に『透過』による回避に頼っているローラにはその素早い動きを避け続けるのはかなりきついものがあった。


 ワームが口を大きく開けて丸呑みするように跳び込んできたところ――、


「おりゃあああああああ!!」


 横合いからアンジェラが跳び蹴りをしてきて、ワームを吹き飛ばす。


 ワームの巨躯はその衝撃に折れ曲がり、ずるりと全身を引きずり出されて、そのまま壁に(たた)きつけられる。どぱん、と内臓が弾け飛んだような音が鳴って、力なくずり落ちたが――すぐに生気を取り戻して再度床に潜って消えてしまう。


(アンジェラ、ありがとうございます)


(気をつけろよ。……それで、あいつ倒せそう?)


(無理ですね。再生が速すぎますし――局長さんの『急所感知』でアスカの居所が薄ら分かってそちらに手を伸ばしても、逃げられました)


(……そっか。こっちも決定打はないかもしんない。『無突』を食らわせたかったけど、職員が体内にいるからな)


 でなければ先ほどの一撃で終わったはずだ。


 一応、アスカがいるであろう場所をピンポイントで攻撃したが大ダメージ程度では意味がない。アスカには致命傷というのは意味がなく、即死以外に倒す術はない。


 それか肉体を切り離すようにして、削り続けるかだが……それはかなり不毛な戦いになる上にワンミスも許されない過酷な戦いになってしまう。


 ワームを倒すためには、アスカを倒さなければならないが、確実に殺す必要があり、そのためには体内に(とら)われた職員を助け出す必要がある。しかし、職員を助ける方法がない。下手な攻撃は職員を死に至らしめてしまうだろう。


(……一応、職員の居場所は『精神汚染』用の器官にいることは触れて分かりました。……最悪、どんな状態になっても即死させなければ、私が治せますが……)


(ペン。斬れる?)


(あの巨体を一刀両断は出来ないです)


(そっか。千切るのは私の力なら出来そうだけど……直接触れられそう)


 今のワームに直接肌に触れられるというのは、死を意味する。


(……触っても良いなら問題ないんだけどな)


 そう言いつつ、アンジェラはまた飛び出してきたワームを弾き飛ばす。――だが、それでは意味がなく、やはり不毛な戦いになってしまっていた。これ以上、疲弊(ひへい)してミスをすれば、一気に瓦解(がかい)するだろう。


 倒すための有効な一手がないため、このままではジリ貧だ。


(必要なのは――――増援。……出来る?)


(出来ます)


 アンジェラの問いに『とある人物』が応えたのと同時だった。


 一カ所に魔力が収束し、空間が歪む。弾き飛ばされて床を転がっていたワームが「ぎっ!」とそちらに顔を向けるが――何かが出来るわけでもなかったようだ。遠距離攻撃はないのだろう。それに一瞬でその位置までいけるほど素早くはないようだ。


『転移』は即座に完了し、一人の青年が降り立つ。


 それはロドニー隊に所属する魔法使いドミニクだ。


(では、やります)


(任せました)


 妖精憑きの最大のメリットは、完璧な連携がとれることだろう。現場に駆けつけてからの状況把握というものが必要なく、即座に実行が可能なのだ。


 ドミニクはワームを見つめる。


(貴方は感知するのが難しく、とても厄介ですが――その力に(ともな)った『デメリット』が大きすぎる)


 ドミニクは(つえ)を振るうと、床に逃げ込もうとしていたワームがビタリと止まる。そしてそのまま宙に浮かんでしまう。


(――魂がなく、明確な魔力を感じないということは、すなわちレジストが出来ないということ。他者の魔法が至近距離で発生してもそれを防ぐ術がない)


 ワームが力を使えている原理は不明だが――恐らく、魔晶石と融合したアスカが動力源になっていると思われる――固有の魔力がないのが容易にわかるため、高出力の魔法が使える者さえいれば、完封出来てしまうのだ。


 逆を言えば、魔法使いがいなければ今のワームはかなり厄介な敵と言える。……実際それもあるからローラ達を選んだのだろう。


「ぎい! ぎぎい!」


 ワームはバタバタと暴れるが、ドミニクの拘束を解くには至らない。さらにドミニクは片手を突き出し、複雑に動かすとワームの胴体部分がミチミチと肉が千切れていく音が鳴る。


 ワームの胴体の真ん中部分が左右に引っ張られ、破れた体皮から体液が(あふ)れ出してくる。


 アハリートの意識が宿る頭部が「あれまあ」と(つぶや)く。


「うーん、残念。これも想定してたけど、思ったより一方的だなあ。魔法使いと戦う場合の課題が出来たな、これは」


「ぎい……」


「仕方ない、仕方ない。今回ワームくんはかなり頑張ったからな。ワームくんの有用性が改めて分かったし、次に活かせるように頑張ろ。てか、獣人は魔法使えないし無双出来るだろ」


 アハリートが「あとこいつらの対応能力が早すぎておかしいだけだからなー」とワームを(はげ)ましている。


 そうしている間にもワームの身体が千切れていき、肉体は二等分される。――しかし、まだ完全には離れていない。というのも溢れた全ての体液が逆流し、さらには離れた肉体に繋がったまま元に戻ろうとしていたのだ。


(案外……力……強い……これが……魔神アスカの……再生力……!)


 (かろ)うじて引っ張る力が強いようだが、ドミニクがかなり踏ん張っているのを見るに少しでも気を(ゆる)めればまた元に戻ってしまうだろう。


(見ているだけでは駄目ですね。アンジェラ! 私を飛ばして下さい! 職員を引っ張り出します!)


(あいよ)


 ローラはそう伝えると、アンジェラは特に聞き返すこともなく両手を組んで手の平を上に向けた姿勢で構える。


 ローラはそれに向かって走って跳ぶと、アンジェラの手の上に乗る。


 アンジェラは両手を思い切り振り上げると、そのままローラを空中に放り投げた。


 天高く舞い上がったローラは姿勢制御しつつ、勢い余ってワームの胴体にめり込んで自爆してしまわないように構える。


 手が届くほどまでワームに近づくと『透過』の力でワームの胴体を左右から挟み込み、――先ほど得た感覚を頼りに体内をまさぐる。


 そして――、


(いました! 職員はここにいます!)


(んじゃあ、頭ぶっ飛ばしても良いんだな)


 アンジェラがそう言った時には、すでにワームの頭部に拳を叩きつける瞬間だった。――ローラを飛ばした後に自らも跳び上がったのだ。


 ローラが職員の位置を明確にしてさえくれれば、アハリートなどが意地悪で職員をワームの口元まで動かして『殺させて』くることも出来ないだろう。


 どぱぁん、とワームの頭部が弾け飛び――力が抜ける。


「これまたあれまあ。まあいいや、投下」


 そうアハリートが言ったと同時だった。


 ワームの胴体が開き、職員が体外に放出される。


「ちょ、わ――」


「え? あ、あぁあ!?」


「わっ、あ、暴れないで――」


 ローラは突然の落下と『精神汚染』された職員が暴れ出したことで、(あわ)ててしまう。


「ドミニク!」


「分かってます!」


 アンジェラが怒鳴ると、ドミニクはこれもすぐに応える。


 ワームを投げ捨てると魔法によって、ローラと職員を受け止める。そしてこの間に、職員はローラによって強制的に『眠らされて』しまったので、魔法が万が一の可能性でレジストされる心配もなくなった。


 そのままローラは地上に降り立ち、「局長さん、この方を!」と言って、ペンサミエントに職員を預けて――自らはワームへと目を向ける。


 ワームは頭部も吹き飛び、千切れかけていたはずだが、すでに全快していた。しっかりと頭部もあり、「ぎい……」と小さく鳴いて意識すらも元に戻っていたのだ。


 ――いくらなんでも再生能力が無法すぎる……とローラ達全員は顔をしかめてしまう。


 ローラ達が一撃でワームを(ほおむ)り去るには――と考えている最中、アハリートが「さて」と声を発する。


「とりあえずもう勝てないので、最後の応対として先ほどの宣戦布告について――」


 ……そこで何故かアハリートがピタリと止まる。


「?」


 意識の接続が切れたか――じゃあ、もしかしたら奇襲が来るのでは、と全員が一瞬にして気を引き締めたが、アハリートは「待てよ?」と呟く。


「ちょっと別の質問なんですけど、よろしいですか?」


「よろしくないです」


「これまでのワームくんの再生能力について、貴女達はそれがなんの力であるか分かってますよね?」


「……。わかり、ません」


 嫌な予感がした。だから、苦し紛れであるがローラは嘘をつく。


 ワームの力――それと異常な再生能力については、その正体はほぼ完璧にわかったと言って良い。先ほどアスカがワームの体内で妖精となっていた姿を見たのだ。もはや答え以外の何物でもない。


 でもそれを認めるのはいけない気がした。


 アハリートがコクリと(うなず)く。


「ですよね。つまりアスカの力を私は使えてるということです。ということは――」


「話聞いてます!?」


 無理矢理話を続けようとするアハリートに思わずローラは怒鳴ってしまう。


 アハリートは、はっはーと笑う。


「いやあ、ちょっとやりたいことができまして、そういう流れにしたかったんですよね。創作する時、やりたいことをやるために無理矢理話やキャラの言動をねじ曲げる、あれですよ、あれ」


「それご都合主義って言って、やっちゃ駄目な奴ですよ!? 貴方、商才もなければ文才もないみたいですねっ!!」


「おお、その発言、大変――」


 ローラが精一杯の罵声を浴びせかけると、アハリートは一つ目のくせにまぶたを片側半分下げるという気色の悪い方法でウィンクをして、わざわざ小さな両手を生やして合掌し、舌のような(ひだ)を突き出す。


「いとおかし」


「くたばってください!!」


 言動の何もかもが雑すぎるアハリートにさすがのローラもお口が悪くなってしまった。


 アハリートは満足そうにケラケラと笑う。


「はっはっはっ。面白いですね。さて、では――準備(メイクアップ)だ、アスカ」


《いぇあ》


 その瞬間、ワームの胴体部分からブクッと巨大な血の塊が(ふく)れ上がった。


「ぎい~~~」


 そして瞬く間にワームがその中に吸い込まれて行く。


「ドミニクさん!!」


「……!」


 ローラに声をかけられる間もなく、ドミニクは動いていた。――力による物理的なダメージはほとんど意味がない――だから、と高温の火球を形成し、飛ばす。しかし、爆発はさせない。物理的なダメージがほぼ意味がないけれど、レジストされないというのなら――手段はいくつかある。


 高温の火球は血の塊の一歩手前で止まると、そのかなりの速度で鮮血を蒸発させていく。


「あっ、変身中に攻撃は御法度ですよー」


 と、アハリートが血液から顔出して言う(ちなみにすぐに干からびて死んだ)。


《あちー》


 アハリートとは別の感情のこもらない声が聞こえてきたと思うと、血の塊からさらに分厚い血の塊が溢れ出し、高温の火球を包み込んだ。


 じゅうううう、とすさまじい音が鳴り響くが――、


《ごっくん》


 次の瞬間には、火球がかき消えてしまった。


 これにはドミニクも困惑する。


(!? レジストは……されていない――なにが……?)


《もしや、魔法を食べた……?》


 ドミニクに宿る妖精は呆然としながらも、口にする。


(食べ、た……?)


《……過去に戦った魔晶石と融合した魔神アスカは、光魔法以外の魔法を食べてきました。だから私達は魔神アスカに対して長期戦が出来なかったんです。……向こうは、他のあらゆるものを食べて魔力へと変換して、どうしても私達では削りきることが出来なかった……》


(やはりあれは……)


《嫌でも確信するしかないでしょう。魔神アスカと同等の存在である、と》


(では、どうすれば……)


《……削りきる、しか勝ち目はありません、あれには》


 宿る妖精は諦観(ていかん)するように言う。


 アスカは無敵ではない。ストックしている血肉を失っても、回復は出来る。だが魔力で肉体を構成して戦わなければならない。魔力で出来た肉体はとても不安定で、ある程度削れば、簡単に霧散してしまうのだ。


 だからアスカを倒せる。削り続ければ。だが、それはとても簡単なことで、とても難しいことなのだ。


 血の塊が収束すると、一人の少女が現れる。


 大理石のような真っ白な病的な肌をしたそれは、血赤珊瑚(ちあかさんご)のようなとても濃い赤色をした長髪を垂らしていた。目も赤いが、瞳孔が黄色く、縦に尖った異質な目をしている。


《簡易おべ、べ》


 一糸まとわぬ姿だったその少女は、そう独り言を口にすると、身体から溢れ出させた血で――ドレスのようなものを形作る。両手の指先から二の腕の辺りまで覆う『真っ白』な手袋なようなものもつけたが――それも血のなのか、表面が常に波打っていた。


《で、ははは、は》


 その少女――アスカが一歩踏み出そうとしたところ、カタカタと奇妙に震え出す。ローラ達がとっさに構える中、アスカは首を(かし)げる。


《だ、駄目、か……ワームく、くん、かもん》


「ぎい」


 アスカが口を開けると、ずるりとワームが()いだしてくる。しかしその大きさは先ほどに比べると圧倒的に小さく細くなっていた。


 ワームは流動するドレスの中に埋まるようにしてアスカに巻き付く。


《生ける?》


「ぎい!」


《ならこれがベストな位置ということで》


 そう言ったアスカは、改めてローラ達に向き合い、両手と片脚を高々と掲げた荒ぶる(たか)のポーズをとった。


《我、鬼傳朱鳥と申す者。いざ、推して参る》


 そんなアスカの方にニュッと葡萄(ぶどうあたま)頭が生えて声を発する。


「はい、そんなわけで第二ラウンド開始です」

次回更新は4月20日23時の予定です。

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荒ぶる鷹のポーズは吹くw
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