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花束になんでもない雑草を添えて

 除染部隊の隊長は隊員を呼び戻し、即座に編成を組む。一隊あたりの数を多くするため、探索効率は落ちるが仕方ないのだ。新たに現れた寄生生物はある一定以上の戦闘能力を有しているため、複数人でなければ返り()ちにされてしまう危険性があった。


(……一番の救いは職員を一カ所に『まとめて』くれたことで、対処さえ出来れば逆に楽になったことか。それと、恐らく成り代わりの心配もなくなったかもしれないことだな)


 まさかあそこから他の頭部に成り代わるなんてことは――あり得そうだから、鎮圧した後にしっかりと葡萄頭か職員の頭部にマーキングはしておくべきだろう。


隊長はすぐさま部隊を(ひき)いて、寄生生物と交戦している隊員達の下へ向かった(ロドニー達は複数の寄生生物に襲われており、その対処に追われていた)。


 そして、そこで見たのは――無惨にも変わり果てた姿の部隊員だった。一人は全身が焼け()げており、もう一人は(かろ)うじて息をしていたが、所々炭化するほどの酷い火傷を全身に負っていた。


 そんな彼らの近くには(あし)がへし折られて、転がる寄生生物――『あじさい』がいた。魔法攻撃を警戒していたが……どうやら、(しゃべ)れないようだ。息を吸い込んで言葉を発しようとしていたが、息を吸う度に空気が抜けていく音がする。


 ――部隊員は『あじさい』を無力化する方法を見つけ、それを行ったようだ。……自分達の命を犠牲(ぎせい)にして。


「馬鹿野郎……!」


 隊長は辛うじて息をしている隊員に駆け寄る。


「なんで殺さなかった! そちらの方が簡単にできたはずだ!」


「……い、いやあ……なんか、できそうだったんで……。やっぱ、もうちょっと、(きた)えておくべき、でしたかね……? 理屈はわかっても、実践が、できないんじゃ、やっぱ、どうも――はは……」


 除染部隊は戦闘能力は高くない者の集まりであるが、劣等生というわけではない。多種多様かつ特殊な能力を持つ野生動物や魔物の対処方法を頭に叩き込む必要があり、一定の知能が必要なのだ。また未知の生物に対する観察眼も要求されるため、彼らも十分エリートであるのだ。


「いますぐ回復術者を――」


「…………」


 隊長がそう言っている間に隊員の呼吸が止まってしまう。隊長は息を飲み、すぐさま蘇生(そせい)させようとするが――、


「た、隊長!」


 他の隊員に呼びかけられ、顔を上げて『気配があった方』に目を向けると、そこに新たな寄生生物がいた。


 人型であるが、手足が細く長い。指は全て三本で赤銅色の太い爪が生えている。『あじさい』とは全く違うフォルムだ。他に触手が関節部位から垂れ下がっており、四足歩行をしながらそれらを引きずりながら歩いていた。体長は約3メートルほどだろうか。


 寄生頭部は一つ生えており、その周りに恐らく職員であろう頭部が三つほどついていた。――恐らく、というのはその頭部が『加工』されており、無駄を()ぎ落とした単なる球体であったからだ。


「……『よつば』か」


 隊長が(うな)りながらそう口にする。


 事前に出会っていた個体だ。そして『あじさい』と違って、厄介な特性を持つ。それは――、


「『呼吸』始まりました!」


 隊員がそう叫ぶ。


 実際の呼吸ではない。魔力を大量に吸い始めたのだ。そして、『よつば』の身体から垂れていた触手が手足に巻き付き、(ふく)らむ。


「来るぞ! 防御態勢!」


 隊長は隊員の蘇生を諦めて、立ち上がり、即座にそう指示を出す。


 同時に『よつば』がとんでもない速度で()けてきた。


『あじさい』や『よつば』などの職員の頭部を使った個体は職員のスキルや魔力を使用して、強化するようだ。


『よつば』は肉体強化型の個体だ。希少な肉体強化を持つ職員一人を起点にして、すぐ枯渇(こかつ)してしまう内在魔力を他の職員が魔力を吸って、非効率ながらも肉体強化使用者の魔力に変換して使用者に送り込むことでそれなりの時間、肉体強化を維持(いじ)出来るようだ。


 それに加えて、触手を筋肉に見立てて(まと)うことで、さらに強化されるようだ。


『よつば』が腕を振り上げ、隊員の一人に向かって(たた)きつける。隊員はギリギリで(かわ)すと『よつば』の爪が床を(えぐ)る。爪に使われているのは、ワーム製の牙なのだろう、(かす)れば装備ごと抉られてしまうだろう。


 攻撃は止まらず、爪が左右へと雑に振り払われ、隊員達はそれを紙一重(かみひとえ)()けていく。


 隊員側からは攻撃はしない。いや、してはいけないのだ。殺しては駄目という制約ももちろんあるが、それ以上に躱すことに全神経を集中させないと危険なのだ。


 爪ももちろんそうだが、触手も厄介なのだ。


 隊員の一人が爪の()ぎ払いを掠るように受けてしまう。爪の先が防護服を裂き、本体までダメージはないものの、体勢がわずかに(くず)れてしまった。


 一定以上、下がれなかったせいで触手が瞬時に伸びてきて、巻き付き、締め付けてくる。さらに『よつば』の腕と共に振り回されようとした時、――隊長が触手を『斬鉄』で絶ち切り、救い出す。


「気をつけろ!」


「す、すみません!」


 とにかく筋肉代わりの触手が厄介なのだ。それと腕が長いため、近づけない。近づいたら触手に(から)め取られて、振り回されて(つぶ)されてしまう。


 でも、弱点がないわけではない。もし本当にどうしようもなかったのなら、退却(たいきゃく)している。


 除染部隊は『よつば』を取り囲んでいく。ただ、背後に回っても危険なため、やはり攻撃はしない。ただ、待つだけで良い。


「隊長!『時間』です!」


「よし! ――攻勢に移れ!」


 隊長がそう指示を出すと、隊員達が恐れず一斉に()びかかる。だが、不用意に(ふところ)まで行くような真似はしない。先ほどより近づき、攻撃を加えだしたのだ。


 爪、よりも触手に注意を払う。攻め入る時は仲間と共に組んで伸びてくる触手を仲間に切り払ってもらいながら、確実に部位にダメージを与えていくのだ。


 でも重要なのはダメージを与えることではない。


『逃がさない』ことだ。


 攻勢に移ってから、すぐに『よつば』の動きが目に見えて(にぶ)くなる。


「肉体強化、切れました!」


「たたみかけろ!」


 さらに猛攻(もうこう)を仕掛ける。もっと深く踏み込み、触手を切り払いながら、腕に『斬鉄』を叩き込む。片腕が切り落とされ、『よつば』が体勢を崩す。その隙を逃さず、もう一方の手、脚と確実に切り落として無力化していった。


「うぐぐー」


 床に伏して動けなくなった寄生頭部が悔しそうに(うな)っている。手足(さらに触手)がなければ何も出来まい。


『よつば』は肉体強化による速攻を仕掛けてくる厄介な個体である。(かた)い爪も受けてしまえば防具は容易く引き裂かれ、剣もへし折られることだろう。


 ただ殺すだけならば遠距離攻撃を交えて無茶苦茶に攻撃すれば殺すことは容易かった。だが今回はあくまで、無力化が目的だ。だからどうしても、職員の頭部にダメージが入りにくい近接戦闘をする必要があった。


 無謀(むぼう)に思えるが『よつば』には明確な弱点がある。


 それは肉体強化を使用することによる『息切れ』だ。他の頭部があることにより普通よりも長時間戦えるが、それでも肉体強化を使い続けるとすぐに内在魔力が枯渇してしまう。


 だから隊長らが一度交戦した際も、『よつば』は一度引いて『呼吸』をしてから再度襲いかかってきたのだ(そのおかげで退却することが出来た)。


 肉体強化などの使用による内在魔力が切れやすい要因は大気中の魔力を吸い込んでも、即座に内在魔力へと変換出来ないからであるが、他にも他者と近接で戦うことで魔力が思うように吸えなくなるからである。


 要は相手も大気中の魔力を操作して自分用に固定しているため、それらを引き寄せて吸い込むことが難しくなるのだ。


(……職員を使っているこいつらは強いことは強いが、『息切れ』などのわかりやすい弱点が多い)


 (わな)やわざとではないだろう。即興(そっきょう)で作ってしまったが(ゆえ)の隠せない脆弱性というものだ。もしかしたら製作者(アハリート)側が知らない場合すらある。


 ただそれでも除染部隊員が少数で当たってしまったのなら十分壊滅させられてしまう能力を持っている。恐らく『ある程度の力を持つ者を倒すため』にこれらは作られたのだろう。


 それに一応、確実に勝てるようになったものの探索効率が極端に落ちてしまったため、時間をかけさせるという相手の思惑に実質乗ってしまっている。


 ただ幸いにして、職員の頭部を使用する以上、量産は出来ない。数を確実に減らしていけば、また同じ体制でことを進められるはずだ。


 だから問題はない――そう思っていた。


 隊員の亡骸(なきがら)を安全な場所に隠し(アハリートに『使われる』ことを防ぐため)、隊員達は施設内を進んで行く。名簿を確認すると、あと少しで被害に()っている職員の救助を終えられそうだと、安堵していた。


 多少、危険性は上がったが、職員をひとまとめにしてくれたことで逆に探す手間が省けた。名簿と頭部をしっかりと照らし合わせれば(『よつば』のような頭部は困るが、割とそのようなものは少なかった)、逆に効率が上がりそうだった。


 それに強化型の寄生生物達は聖人達を主に標的としていたため、『よつば』以降はほとんど戦うことはなかった。


 むしろ一番厄介だったのは、戦闘力のある個体ではなく……、


「あっ、『とうもろこし』」


 隊員がそう指さした先にいたのは、筒状の身体にたくさんの職員の頭部をつけた寄生生物だった。元の葡萄頭のような節足の脚をつけており、大きさは今までの強化型個体よりかなり小さめだ。


 隊員の何人かはゆっくりと近づいて行く。


「……静かに……」


「!? きゃーいやー!」


「くそっ、バレた!」


 隊員を見つけた『とうもろこし』は甲高い悲鳴を上げて、シャカシャカと高速で逃げていく。


 そう、『とうもろこし』は……逃げるのだ。


 とにかく戦おうとせずに逃げることに専念しており、多人数で動くようになった弊害(へいがい)もあって、一番無力化が難しい個体になってしまった。何より敏感(びんかん)で、すぐに感づいてくるのだ。


(あせ)って追いかけるなよ。ああいう場合は――やはり『罠』がいる」


「……ばあー」


『とうもろこし』を追いかけて行った先の天井には触手の生えた葡萄頭がいた。饅頭(まんじゅう)のような身体に(とげ)付きの触手を生やした個体だ。


「……これはスカですね。職員の頭がない」


 葡萄頭の伸ばしてきた触手を切り払いながら、隊員はその葡萄頭を魔法で焼き払う。


「ぎゃー!」


 金切り声と共に葡萄頭は燃え尽きて、べちゃりと床に落ちる。


「……なんだか、職員の頭がないのが増えてきましたね。名簿を見る限り、ここの職員の『ストック』がないからでしょうけど……」


「ああ、そうだと思うが……」


 種がなくなってきての苦し紛れなら、それで良い。


 だが、職員の頭部なしの個体も必ずしも弱いわけではない。いや戦闘力はないに等しいのだが、厄介なのだ。実際、今の葡萄頭も複数建物内に設置されており、嫌らしいことに見えにくい天井部分にいることが多く、何人か隊員を負傷させられてしまった。


 弱いが放っておくと厄介な個体というのは、速度を求められる現状においては面倒極まりなかった。


(……方向性を変えてきた? 戦わない方面に行くなら良いが……)


 隊長は懸念を抱く。


 そもそも葡萄頭だけでは戦えないと判断したからこその職員の頭部を使った『花』を呼称する悪趣味な個体を蔓延(はびこ)らせているのだ。


 それに『花』のコンセプトは恐らく、コストをあまりかけず職員の能力を間借りして戦闘能力を強化するというものだろう。


 だから葡萄頭単体にコストをかけすぎると、『量産型』としての意味が薄れるから、罠個体だけのようなものだけを作っているのだろう。


 仮に強い個体を作れたのなら、すでに実践しているはずだ。


(……いや、待て。『花』もそうだが、妙に実験臭くある。私達を狩る方法が確立し実行してている、というより『どのようなものが狩れるか』を試しているようで――)


「隊長! また新たな個体が……複数で……職員の頭部は見受けられません」


 そう隊員に声をかけられ、隊長は目を向ける。


 廊下(ろうか)の突き当たりに様々な身体を持った葡萄頭達がいた。


 先頭に立つのは人型の個体だ。人間に近い形だが、かなりの筋肉質で凶悪なほどに太い肉体を持っている。体長は二メートルほどで、ちょこんと乗っている葡萄頭がかなり不釣(ふつ)り合いに見えた。そして足は普通だが、手に指がなく、丸い。しかもワーム製の牙なのか、赤銅(しゃくどう)色をした鉄球のようなものになっていた。一体だけだが、その凶悪な見た目故にとても目を引く。


 他の個体は人型より小さく、四足歩行をした獣型だった。


 胴体がやや(ふく)らんでいる以外はガリガリに痩せた猟豹(りょうひょう)型のような個体が二体ほど人型の横に付き従っている。その他の四足歩行は犬のような体躯(たいく)をしており、肉付きも良い。何より、トラバサミのような口のようなものをつけていた。このトラバサミの個体――犬型がもっとも数が多い。


 そして、『とうもろこし』のような個体もいるが、胴体につけているのは職員の頭部ではなく、葡萄頭だった。


 体長は苦虫を()み潰したような顔をする。


雑兵(ぞうひょう)を倒すための『使い捨ての量産型』か……!」


 人型と猟豹型が走り出す。人型は見た目通り鈍足で、猟豹型が先んじるように突出する。――そしてその猟豹型の膨らんでいた胴体がさらに膨らむのが見えた。


「! 物理障壁展開急げ! 毒性の煙幕――もしくは爆発による攻撃がくる可能性がある! 煙幕の場合、それを晴らす風魔法の準備も急げ! 物理障壁は風魔法展開準備が済んだら、すぐに解け! 人型に割られるぞ!」


 犬型も遅れて駆けだしてくる。


「私が人型の相手をする! 犬型の処理は任せる! 取り囲まれて、噛まれないようにしろ!」


 ――猟豹型が跳びかかってくる。そして隊長の予想通り、空中で爆発し、白い煙を辺りに撒き散らす。壁に触れるとわずかに溶けるような音がすることから、酸性であるのが分かる。


 隊員達は隊長の指示通りに動き、煙幕を防ぎ――すぐさま風魔法を展開し、酸性の煙幕を薄めることに成功する。


 初動は完璧だった。


 だが、乱戦を回避するには――その策を考えるには時間がなさすぎた。


「ごおぉおおおおお!!」


 人型が重々しい唸り声を上げながら、鉄球のような手を振り上げて、叩きつけてくる。


 隊長はそれを横に避けるようにして躱し、剣を葡萄頭に向かって突き出す。


 剣先から鋭い斬撃が飛び出し、葡萄頭を真ん中から撃ち抜いた。


「ご……」


 人型は呆気(あっけ)なく事切れ、その巨体が倒れ込む。


「犬型、くるぞ!」


「おおおお!」


 隊長がもっとも凶悪に見えた人型を一撃で倒したことで、隊員達の士気が上がる。明らかに隊員達より多い犬型個体にも気後れしている者はいなかった。


 それでも速度の乗った、それなりの大きさがある獣が跳びかかってくると何人かは押し倒されてしまう。それでもトラバサミに自らの頭部を潰されないように(歯先がワーム製の牙であった)、必死に剣で受けて即死する者は誰もいない。


 そんな彼らも対峙した犬型を倒して、ほんの少し手が空いたものによって救い出される。


 ――殺しても良い個体というのは楽であったというのもある。何より葡萄頭はその脆弱な頭を貫けば、それで終わるためかなり弱かったのだ。


 (このまま押し込めばいけるが――やはりまだ爆発タイプが控えている……!)


 隊長がチラリと廊下の奥に目をやると、そちらにまだ猟豹型の個体が何体か佇んでいた。現在の乱戦時にこられるととても厄介だが――――何故か動かない。


(なんだ? 奴らにとっても好機だろう。……待て、『とうもろこし』はどこだ!?)


 ひっそりと一体だけいた『とうもろこし』がいなくなっていた。


 隊長は犬型を鍔迫り合いをしながら、周囲に目を走らせると……天井に()り下がって近づいてくる『とうもろこし』を見つけた。


(まずい。今、隊員の上に寄生頭部を落とされたら――)


 隊長は犬型を弾き飛ばし、『とうもろこし』を撃ち落とそうとする。突き型の飛ぶ斬撃は射程はそれほどでもないため、近づく必要があった。この乱戦では近づくのは難しい。


「寄生頭部をつけた『とうもろこし』がくるぞ! 気をつけろ!」


 だから注意喚起はしておく。


 『とうもろこし』は葡萄頭をボトボトと落としてきた。休眠していた葡萄頭は床を跳ねるようにして転がると、即座に目覚め、走り出す。


 そして葡萄頭達は一目散に――倒れた人型や犬型の身体に飛びついた。


「なにっ!?」


 隊長は驚愕(きょうがく)する。


(肉体がオーダメイド――本体が使い捨て……! 一撃必殺は悪手か!)


 葡萄頭は明確な弱点だ。壊せば動かなくなる。だから、肉体の損壊を選ぶより頭部を貫くことを優先するのは当然だ。


 だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 倒したと思われた犬型や――人型すら起き上がる。

 

隊長は人型からやや離れてしまっていた。そして襲ってきた犬型の対処に追われてしまっていた。


 だから――、


「あっ――」


 人型の鉄球の手が隊員に振り下ろされる。それに隊員は気付くが、その時には目前に凶悪な手が迫り――ごちゃ、と硬いモノと柔らかいモノが同時に()き潰される音が鳴る。


「――!」


 隊員が目の前で死んでしまう。


 幸い隊員達のパニックは起こらなかった。それでも緊張は走り、「頭を潰すの駄目――いや、今は――」と思考が定まらない様子だった。


 起き上がった犬型が背後から襲い来るということも合わさって、パニックが起こらずとも集団として徐々に乱れていく。


 大きくは崩れてはいないが、フリーになっている人型が厄介だった。あの鉄球のような手を受けることがまず不可能で、受けてしまった隊員は剣や盾ごと潰されて息絶えてしまう。雑に薙ぎ払われることでも隊員はどんどん致命傷を負っていく。


 そしてたたみかけるように(ひか)えていた猟豹型が駆けだしてきた。


(駄目だ。このままでは――)


 確実に壊滅する。


「一度退くぞ! ――お前達、生き残れ!」


 通ってきた道から新たな寄生生物は現れていない。だから問題なく退くことは出来る。当然、追い打ちをかけてくるし、それに背後からやられてしまうだろう。それを防ぐことは難しい。


 隊長にとって、とにかく今は逃走して生存確率を上げることが最優先だった。


 そんな彼がとった方法は――、


「《うぉおおおおおおおおおおおおお!!》」


 誘因(ゆういん)効果のある『ウォークライ』をこの最中に放つことだった。


 音に敏感な葡萄頭達はこれを無視することが出来なかった。一瞬だけだが、全ての意識が隊長に向けられる。


「行け!」


「――っ」


 その隊長の怒号と共に隊員達は一斉に駆け出す。もちろん隊長も駆け出すが、――共に逃げるためではなかった。


 隊員達をすぐに追いかけた犬型を少しでも多く戦闘不能状態にするために、追い打ちをかけ――それでも逃がしてしまったのなら、あえて追わずに振り返った。


 迫り来る犬型や人型を少しでも多く倒し、または足止めすることが彼が為すべきことであったからだ。


「……私の横をただで通り抜けられると思うなよ」


 そう立ち塞がるように言う隊長は横を走り抜けようとした犬型の葡萄頭を輪切(わぎ)りにして、一撃で戦闘不能にする。


 鬼気(きき)迫る雰囲気に人型や犬型は一瞬だけ警戒するように動きを止めるが、――直後に通り過ぎてきた猟豹型に合わせて一斉に隊長に向かって跳びかかった。


 猟豹が爆散し、廊下が酸性の霧に包まれたことで――全ては覆い隠されてしまった。

次回更新は3月16日23時の予定です。



 『花束』の実験についてと『雑草』の運用について。


 魂がある頭部を複数使用した『花束(フラワーギフト)』は、一定の戦果を上げることが出来ると証明された。ただし問題点がある。

 それはレジストによる干渉だ。『あじさい』は魔法特化型であり、多人数で使用される複合魔法を使うことが出来る。固定砲台として優秀であり、運用する分には『肺』を傷つけられない限り問題ない。問題は別の所にあり、それは運用を長時間続けていると互いの魔力でレジストして壊れてしまいそうになるという点だろうか。

 『よつば』が特にそれが顕著で、どうしても変換出来なかった魔力を送り込むことでレジストし、それが何故かダメージとなって頭部を傷つけてしまう。

 肉体(ハードウェア)的な接合に問題なかった。問題はどうやら(ソフトウェア)らしい。ラフレシアによる細かい調整や『魂隔離』などのスキルを使わないといけないようだ。

 なので『花束』を作るときはラフレシアと葡萄頭が魂持ちであることは必須なようだ。それに調整さえすれば『あじさい』の魔法構築や『よつば』の『息切れ』を短く出来る。



 そのためラフレシアがいない場合は『雑草(ウィード)』を使うことを考える。これは葡萄頭用の肉体をオーダーメイドした運用方法である。当然だが魂がないため、スキルもなければ俺のフィードバックも一切無い。そのため、肉体性能のみに頼ることになる。

 それに当然だが、肉体を一から作るということで若干ながら『花束』よりもコストがかかるのだ。それでいて、弱いので使いどころは考えないと無駄な消費に終わってしまう。

 基本的に対峙する相手は『雑兵』が好ましい。実際、『花束』すら集団でかかっても聖人にはやられてしまった。戦う相手を選ばなければならず、下手に強い相手に当てるなら、むしろ作らない方が良いまである。

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