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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第二十六章 格の違い

 バックアードの屋敷についたら、俺の背骨がぽっきり折れちゃったよ。

 

 屋敷の真上まで飛んでくるまでは良かったんだよ。問題はそこからだ。リディアの奴、俺の肉体強度を視野に入れずに屋根に突っ込もうとしやがってよ。ギリギリ気付いたから良かったけど、瞬間的に急ブレーキをかけるためには、一点に力を発生させなきゃいけなかったっぽい(身体全体じゃダメだったのか。魔法の原理はよく分からない)。対象となったのはちょうど俺の尾骶骨よりちょい上の背骨付近だった。

 

 ぼきぃ、と背中からのっぴきならない音が鳴って、俺の背骨が終了したのだ。

 

 ……初めてだよ、自分で自分の頭に思いっきり膝蹴りしたのって。

 

 先に屋根に突っ込んで行ったリディアの後を追うように、俺は土煙舞う中、床に降り立つ。――立てはしなかったから、横になる、だな。

 

 まあ、治せるけどさ。今の俺なら、骨をくっつけることぐらい朝飯前だ。

 

 (無茶しないでくれ、ほんと)

 

 (ごめんごめん)

 

 リディアがバックアードと睨み合いながら、念話で返してくる。

 

 俺は立ち上がりながら、周囲を見渡す。出入り口のでっかい扉前には、無残にも中身をぶちまけたナマモノがあった。ぐちゃぐちゃになっていて、かろうじて人の原型がある程度だ。

 

 ただ『感染』したまま、ついでに頭も無事で死んだせいか、ゾンビになってピクピクと動いている。

 

 たぶん奴隷商人達だろうな。壊滅させる――少なくとも死なせるつもりだったとはいえ、この死に様は余りにもむごいため少し罪悪感がある。……せめて墓ぐらいは作ってやった方がいいかな。とりあえず奇襲されるのは嫌だから、頭は引っこ抜いて隅に転がしておくけど。

 

 あとついでに外のゾンビ共に乱入されるのも嫌だったから、こいつらの死体を溶かして扉に張り付けておいた。……自分でやっててなんだが、えげつねえ行為だよな、これ。

 ……まあいいや。で、周りを見渡すと俺らを取り囲むようにアンデッド共がいる。種類は半透明のお化けっぽいのと人型の骨だ。ゾンビはいない様子。

 

 俺の相手はあいつらザコ共だ。リディアがバックアードの相手をしている最中、茶々を入れられないようにする。

 

 あと、フェリスとアンサムの護衛も兼ねてるんだけど……。

 

 ……俺らが屋根から中にぶち破ってきた時、ちょうと真下に二人がいたんだろう。たぶんフェリスがアンサムを抱えて跳んで床に伏せたっぽいな。俺らからちょっと離れたところにいる。切り裂き傷や痣とかはあるけど、俺らが負わせた傷ではない、はず。

 

 んで、なんか、あれだ。フェリス、アンサムを自分の胸の下に抱え込んでる。アンサムの顔に大きな胸がむにゅっとなってる。でもアンサムは恥ずかしがってるなんてことはなく、なんか目をつむって神経集中して堪能してる顔だ。少なくともピンチの怪我人の顔じゃねえな、あれ。ちなみにフェリスは気付いていない模様。

 

 「アハリート!」

 

 フェリスが俺を見つけてダッと走り寄ってくる。その際、柔らか重しがなくなって目を開けたアンサムと目が合う。なんか親指立てて来たから、こっちは親指下に向けたら何故か笑った。

 

 フェリスに視線を戻すと、嬉しいのか尻尾をパタパタさせている、可愛い。

 

 「グッドタイミング! よく来てくれたね! ほんと危なかったんだ! ……ほんと、貞操の危機的な意味で」

 

 遠い目をして笑うフェリスだった。貞操って何があったよ。アンサムが原因じゃないよな。ということは、バックアードか? あいつ骨のくせに性欲あるとかどんだけだよ。そもそもナニするんだよ、骨の身体で。ロリコン属性持ちといい、ほんとアンデッドらしからぬ奴だな。

 

 ……ん? あれ、なんかフェリスの身体、変化してるね。手首から肩までの腕が盛り上がって毛むくじゃらで獣っぽくなってる。獣人ってこんなことも出来るんだな。格好良い。

 

 ――――もうちょっと観察――とか思ったけど、フェリスを越した視線の先に不味いものを発見してしまう。

 

 安堵するフェリスの後ろで、アンデッド共に接近されているアンサムを見つける。フェリスには申し訳ないが、ちょっと押しのけて歩いて行き、口をガバッと開ける。

 

 「どうし――おおぅ!?」

 

 フェリスが俺の口からデロリと出てきた芋虫を見て、ビビるが気にしない。そのまま芋虫を操作し、アンサムに攻撃しようとしていたスケルトンの頭を牙で抑え込む。思い切り力を込めると、バキッと頭蓋骨を粉砕した。

 

 頭を失い、崩れ落ちるスケルトン。死んだ。魂が抜けたのを確認した。

 

 ちなみにゾンビは基本的に頭を潰せば殺せるが、スケルトンはたまに頭を潰しても動く場合があるようだ。身体の一部が核となっているようでそれを破壊しない限り、動き続けるんだと。今のは運良く頭に核があったみたいだ(基本下位個体は頭にあるようだが)。高位のスケルトンとなると核を瞬時に移動する術もあるようで一筋縄ではいかないようだ。

 

 そのまま芋虫をデロデロさせてアンデッド共を牽制する。たまに半透明な、ゴーストみたいなのが物を飛ばしてくるが小物ばかりなのでたとえ刃物でも芋虫に刺して防ぐ。

 

 アンサムが俺の芋虫を見ながら、立ち上がる。

 

 「悪い、助かった。おい、番犬。しっかり護衛してくれよ」

 

 「うっさい、馬鹿! あれくらいなんとか出来てただろ!」

 

 軽い調子で言いながら肩を竦めるアンサムに歯を剥きだしてイーッとするフェリス。

 

 結構、仲良いのね。やっぱり知り合いなんだ。

 

 それにアンサムは放っておいても大丈夫だったか。スケルトンに近づかれていたようだけど、気付いていたっぽい。カウンター食らわすつもりだったのか、すぐに立ち上がれる状態になっていたみたいだ。

 

 アンサムは、安心感があるな。あれだ、リディアと相対してないと強者っぽいオーラを感じるな。

 

 そんな敵陣のまっただ中でで和気藹々していると、俺にバックアードの視線が向けられる。

 

 「あれはパラサイト……!? 何故――」

 

 「気を逸らすとか舐めすぎじゃないかな」

 

 「――! ぐが!」

 

 なんかバックアードとリディアの声が聞こえてきたと思ったら、二階の天井に『何か』勢いよくぶつかった音が聞こえてきた。『何が』っていうか、バックアードだ。

 

 リディアがバックアードに手を向け、その手の振りに合わせて、バックアードが吹っ飛んで壁に何度も激突を繰り返していく。これはひどい。

 

 フェリスも、うわぁ的な顔で見ているし、アンサムも眉をひそめてありえないみたいな顔してる。

 

 「……よく抵抗(レジスト)されずに魔法をかけられるな。気を逸らしたのだって一瞬だろ」

 

 「コンマ一秒以内なら、十分な時間だよ。それにこの程度挨拶みたいなものだしね」

 

 「――だから会話しながら制御出来る魔法じゃねえっつうんだよ……」

 

 アンサムは、ぼそっとリディアに聞こえない声を漏らす。なんかリディアすごいことやってるみたいだね。

 

 「というより、『あれ』が弱すぎるってのもあるかな。この程度の魔法、抵抗に時間かかりすぎ。――あら、ようやくかな」

 

 ばちん、とリディアの手が何か見えない力によって弾かれる。ダメージを受けたわけではないようだが、バックアードが解放されたようだ。いわゆる抵抗をした――かけられた魔法を跳ね返したってことだろうか。

 

 「ちなみに抵抗されて打ち消された場合、しばらくの間、直接かける相手にかける系の魔法、スキル全般は威力が著しく減退するから注意が必要だよん」

 

 へえ、そうなのかあ。

 

 ……デカ蛙の胃の中で俺がやったことも似たようなものなのかね。……つうか、あの時、デカ蛙が胃袋の時点で俺の攻撃を認識して逆に抵抗を成功させられてたら不味かったかもな。怖い怖い。

 

 バックアードがフラフラとしながらも、立ち上がる。結構丈夫な骨なのか、多少ひび割れはしたようだけど、欠け壊れたような部位は見受けられないな。

 

 「ぐ、ぐぐ――調子に乗るなよ、人間風情が……! この屋敷にノコノコ来たのが貴様の運の尽きだ!」

 

 バックアードが片手を挙げる。

 

 ……ん? 何も起こらない。もう何か変化したのかな? 周りの変化は……なんか天井から見える空に青白い膜が張ってるな。窓の外を見ると、鉄格子の柵の外にも同じものが出来てある。どうやら半球状の結界みたいなもので屋敷全体が覆われたっぽいのかな?

 

 アンサムがきょろきょろと周囲を見渡す。ただ俺のように結界みたいなものを見てるわけじゃなくて、周りにある……たぶん魔力を見ているっぽい。

 

 「……これは、魔力をほとんど操れない……?」

 

 「そういう結界なんじゃないかなん? 大気中の魔力を操れなくしてるっぽいね。たぶん魔法攻撃主体な私の対抗策なんだろうねえ」

 

 「え? それって不味いんじゃないの?」

 

 「うー……」

 

 逆転の展開速すぎない? 援護にやってきていきなり一気に形勢逆転とか、それどうよ? いや、でもリディアの落ち着き方からして、どうにか出来るのかな?

 

 「外のあれから見て、設置型法則系の結界魔法かよ。即席の魔法よりか強力な奴じゃねえか」

 

 「うちの村で使われている結界と似たような感じかなあ。ただ範囲指定に柱は使っていない動力源タイプ……範囲の拡張をする気がない。……完全な私対策みたいだねえ」

 

 「……なんでこうあいつは次々と希望をぶった切ってくるの……?」

 

 アンサムはちょっと焦っていて、リディアは相変わらず冷静で、フェリスはめっちゃ泣きそう。

 

 うーん、よく分からないけど、結構ヤバいってこと? でもスキルとかが使えなくなった訳ではないみたいなんだよな。ちょっと試したけど、『粘液』は普通に分泌出来るし。

 

 なるほど、ここは俺の出番って訳なのかな?

 

 俺が意気を高めていると、バックアードの高笑いが聞こえてくる。

 

 「くく、はははははっ! これで貴様は羽をもがれた蛾も同然よ。……その二人――と、そのパラサイトは惜しいが、ここで貴様を殺せるのであれば、対価としては十分だ! 我が最上級の業火の魔法を持って死ぬが良い!」

 

 詠唱も技名もなしに、バックアードがいきなり特大のファイヤボールを自らの頭上に召喚しやがった。

 

 ちょっと待って。なんでお前は魔法使えるの? つうか『それ』はない。普通、もうちょっと猶予とかあるもんじゃないの? 少なくとも油断するとか、なんかさ。……いや、この後、無駄な口上並べ立てて無駄な時間が――。

 

 「死ねえ!」

 

 バックアードが殺意たっぷりに叫び、ファイヤボールを投げ付けてくる。

 

 うぉぉおおおい! 殺意強すぎるだろ! もうちょっと時間ちょうだいよ! 悪役なら、無駄に喋って油断して背後から誰かにやられろよ! 

 

 「くそ……!」

 

 「あぁあああああああああああああああああ!」

 

 「うー!」

 

 全員が絶望に包まれる中、リディアはため息をつき、一歩前に進み出る。

 

 「はい、皆私の後ろに隠れていてねえ。危ないからねえ」

 

 「おい! 何してんだ! 障壁も張れねえんだぞ! ――試してみたが内在魔力を魔法に変換せずにそのまま外に出すことも出来ねえ! たとえあんたに内在魔力が多くあったところで……」

 

 「そうだね。……でも、魔力を外に出して操れないだけで、魔法やスキルが使えない訳じゃない」

 

 リディアは、右拳を握り、左半身を前に出し構える。中々、堂に入っているがこの状況でそのファイティングポーズは意味が分からない。

 

 迫り来るファイヤボールはすでに視界いっぱいになっている。もはや逃げることは不可能だ。

 

 そしてリディアは、ファイヤボールに向かって拳を振り抜く。

 

 凶悪な熱気を放つそれに拳がぶち当たり――ぱぁん、と弾け飛んでかき消える。

 

 「……は?」

 

 そう呟いたのはバックアードだった。赤色の目が点になり、口が半開きだ。

 

 対してリディアは呆れた顔をしている。

 

 「……本当に舐めすぎ。なんで私が内在魔力で使える対魔法スキルを持っているとか考えないのかな。本来ならそれを想定して、この結界も大気中にある全て魔力を自分以外が操れなくするんじゃなくて、仲間以外が内在魔力を操れない、にするべきなのに」

 

 失望したような様子で、リディアは首を横に振る。

 

 「まあ、大方、設定が難しいし、危険だから手を出しにくかっただけなんだろうけどね。キミらアンデッドは内在魔力を抑制されると動けなくなるし」

 

 「ぐっ……」

 

 バックアードが図星をつかれたような呻き声を漏らした。

 

 リディアの今言った話は初耳だな。あっ、でも前にゾンビは魔力で死体の身体を動かしている、みたいな話を聞いた気がする。

 

 ……『粘液』も身体の中で作る=内在魔力使用だから分泌出来たのかな。


 「手札はそれくらいかな? ならもう様子見は終わりにしようかな。君自身の攻撃には脅威はないだろうし」

 

 そう言って、リディアは床を蹴り、そのまま二階跳び乗ろうと跳躍する。身体能力も強化されてるのかな? それとも自前の身体能力? どっちにしろ、リディアって接近戦もこなせるんだなあ……。


 「――! うぉおおおお!」

 

 バックアードが迫り来るリディアに無詠唱で先ほどより小さな火の玉を無数に召喚、投げ付ける。二体のゴーストも援護に現れ、ポルターガイストで物を飛ばした。

 

 だがリディアは、その全てをことごとく、消し、はたき落とす。それどころかゴーストが飛ばした手の平ほどの木片を手に取る。そして二階についたと同時に、左右にいたゴースト二体を一瞬にして接近し打撃で消滅させてしまった。

 

 リディアは間髪入れずバックアードに飛びかかると蹴り倒し馬乗りになる。バックアードが自身を庇うため突き出した片腕を掴んで抑え、奪った木片を頭蓋骨に叩きつけた。バックアードは抵抗するが、力では負けており、撥ね除けることが出来ない。そのまま何度も殴られ、頭蓋骨や防ごうと前に差し出されたもう片方の腕をも砕かれてしまう。

 

 が、ご、が、ごり、と鈍い音がホールに鳴り響く。

 

 ……あの、リディア、それ、魔法使いの戦い方じゃないよ……怖いよ……。

 

 「う、がぁああああああああ!」

 

 頭部を失ったバックアードだが、どこから声を出しているのか叫ぶ。

 

 同時にリディアがバックアードから跳び退った。すると今までリディアがいた空間より上にたくさんの火の玉が出現する。

 

 それは瞬時に爆発し、衝撃波によりリディアをさらにバックアードから遠ざけた。

 

 土埃が舞い――数秒後晴れると、バックアードが消え失せていた。

 

 「……根性は多少あるみたいだね。逃げられた。……アハリちゃん交代! 『あれ』追って!二階のどこかにいるはずだから! ちなみに今、『念話』使えないから注意!」

 

 マジすか。てか、俺が?

 

 首を傾げる俺に、リディアは意図を察して言葉を続ける。

 

 「適材適所! 現状でゴースト倒せるの、私しかいないから! ここのザコを倒したら、追いかけるから!」


 まあ、そういうことなら仕方ないのかな。確かに、わらわらとスケルトンやらゴーストが俺らに向かってくる。――バックアードも形振り構ってられないのか、今まで入って来なかったゾンビも外から押し寄せてくる。

 

 リディア的に追いかけている間に、俺らに死なれる恐れがあると思ってるんだろうね。村に被害受けた後だし、当然かな。

 

 あと、下手すると俺の飛び散った血肉でヤバいことなるしね。今の俺ほど乱戦に向かない奴はいまい。俺の寄生虫ってとにかく元気よくってすぐに誰彼構わず寄生しようとするからね。

 

 一応、至近距離なら寄生虫達を操れるけれども、神経使うしいちいち気を遣うのは辛いのだ。それにこいつら体内に入るとすぐ増えるし。

 

 俺はリディアが飛び降りてきてから、普通に階段を上って行く。どこ行こうかな、と考えているとアンサムが口を開いた。

 

 「書斎の方に行ったかもしれねえ! 左の通路をそのまま真っ直ぐ行って五つ目のドアが書斎だ!」

 

 おお、有り難う。俺は感謝の印に親指を立てて、言われた方に向かって走る。

 

 倒せるか不安だけど、出来る限りやってみよう。





バックアードは浮くことすら忘れて、ただ必死に走る。後ろからはあの『化け物』の気配はしないが無我夢中だったため、気づきすらしない。

 

 どうしてこうなった。


 何もかも完璧だったはず。なのに、何故自分は無様に逃げているのだろうか。


 階下にいた部下に思念で指示を出し、魔女の仲間を襲わせた。その対処に恐らく魔女自身が加わったのだろう。追いついてこないため、足止めは出来たのだろうが――確実に部下はやられてしまうだろう。

 

 そのため、遅延は無駄な行為だ。

 

 結界が意味を為さないのなら、もはやバックアードにリディアを倒す術はない。

 

 ……唯一、今向かっている先に最後の手段はあるが、それは苦し紛れの行為に過ぎない。最悪、自滅してしまうかもしれない。だが他にすがるものがないのだ。

 

 バックアードは書斎に駆け込み、本棚の一つに近寄ると、研究書を引っこ抜く。その奥に手を入れ、中にあった取っ手を引っ張った。

 

 すると本棚が動き、後ろに隠し部屋が現れた。

 

 その中に飛び込むと、棚の一つから大きな瓶を手に取る。

 

 ――瓶の中に入っていたのは四体ほどの全身が白色に輝く妖精だった。虹色の羽の生えた数センチ程度の可愛らしい全裸の少女だ。だが、その顔は底意地の悪い笑みが張り付いており、いやらしい顔で必死になっているバックアードを見返す。

 

 「我に――我に力を寄越せ、妖精共!」

 

 蓋を開けると、妖精が飛び出す。

 

 妖精達は逃げ出さず、くるくるとバックアードの周りを旋回し始めた。

 

 妖精達は歌うように言葉を紡ぐ。

 

 《必死になってどうしたの? あの間抜けな魔女に追いつめられた?》

 

 《やっぱりやっぱりダメだった? それで無様に哀れに助けを乞うの?》


 《壊滅求めて破滅する? ならなら、しっかり求めよう。壊れて良いよとしかと言おう》


 《契約大事、言霊大事、認めなければ大事だ。どうぞ、貴方の願いを口にして?》

 

 「……っ」


 妖精達はケタケタと笑う。その感情にありありと悪意を感じ取れる。


 ――妖精は、他者のレベルを強制的に上げる力を持つ。無論、ノーリスクで力を得られる訳ではない。強制的にレベルを上げた場合、魂が拒絶反応を起こし、精神が壊れてしまう可能性があるのだ。――否、可能性ではない、ほぼ確実に、だ。


 そもそもレベルが上がるとは、倒した相手の魂の一部を吸い取ることだ。自動で、自分にとって最適な量を取り込むことで魂はレベルを上げていく。


 しかし、過剰な量の魂を取り込めば、吸い込む魂にわずかに宿る他者の精神に汚染されてしまう。馴染ませることが出来ず混じり合い、精神が狂ってしまうのだ。


 そして、もう一つ。進化の決定権を妖精に握られることになる。進化経路の中には、自我を失ってしまうようなものもあるのだ。妖精はあえてそれを選んでくる。


 唯一の救いとして妖精は、求めなければ力を貸せないということ。


 契約を結ばない限りは、無害な存在なのだ。


 ――そう、力を求めなければ――。


 「……我は求める。奴らを倒す力を。……そのために、破滅しようとも構わない……!」


 バックアードは妖精に力を乞う。


 だがバックアードは自暴自棄になってはいたが、完全に諦めたわけではない。わずかな望みにかけていた。魂の精神汚染に耐えて、自我を保ったまま力を得ることを。


 妖精達はその言葉を聞き、意地悪い笑みをさらに深くする。


 《聞き届けたよ、貴方の願い。契約完了、制約ほどけた、貴方に力をあげましょう》


 ぐるぐるとバックアードの周りを回っている妖精達が光の球に変わる。一体が真っ直ぐバックアードの中に入り込んで行った。


 バックアードの脳内に連続したレベルアップの音声が鳴り響く。バックアードは膝をつき、呻く。カタカタと全身が震え、まともに立ってすらいられなくなる。


 『警告。対象『バックアード』が魂の過剰融合による拒絶反応を起こしています。ただちに『端末』は魂の譲渡行為を停止してください。『ティターニア』の特権行使による浄化を要請します』


 バックアード、そしてまだ彼に入り込んでいない妖精の脳内に機械音声が聞こえてくる。


 だが、妖精はケタケタと悪意を込めて笑う。


 《お前の言葉なんて聞きはしない。だーれもだれも従わない。お前の思い通りにはさせはしない。()()()()()()()()()()()()()


 妖精は悪意と憎悪を歌声に乗せると、警告を無視してバックアードの中に次々と入り込み、力を与えていく。


 最後の妖精がバックアードの中に入り込むと、彼の絶叫が響き渡った。

※無駄な補足

リディアが魔力を使えない状況で使用したのは『拳聖』という身体強化スキル。内在魔力の続く限り、身体能力を10倍ほど、引き上げる。また、魔力で構成されたもの全般を打撃で破壊することが出来る。ただし構成されたものより魔力値を高めないといけない。

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