どんな叫びでもいいやろがい!
《マスター。防ぐ手段は? 躱す?》
(受ける。その方が良い)
いろんな意味でね。
人造勇者が地を蹴り、爆発的な速度で迫ってくる。止まっていた俺は、それから逃げる術はない。
胸の辺りから背中まで突き抜けるようにして、その直線からほぼ全身に細いダメージが広がるような死線が見えた。
(おらぁ!! 気張れよ、お前ら!!)
俺は体内にいる『奴ら』に怒鳴る。
返事はなかったが、奴らは素直に従い俺の配置通りに並ぶ。そして、人造勇者の拳が捻り込まれるように俺の胸に叩きつけられ、その衝撃波が――俺の背中の肉をちょびっと吹き飛ばし、衝撃波そのものは空気を震わせるように飛び出す。
目に見えてわかるほど、人造勇者の攻撃は俺の体内の他の部位に一切伝播せずに飛び出した。
《!?》
人造勇者は驚き、俺は歓喜に打ち震える。
(成☆功!)
《準備はしつつも一発勝負なんて、今日のマスターはギャンブルするね》
(今までは慎重にして、不確定要素は使わない方針だったけどそうも言ってられないからね)
一応は可能性は高いものを選ぶけど、有利になるかもしれないことは確実性がなくても実戦でもバンバン試した方が良いかも。少なくとも、今の俺はそう簡単には死なないし。
《ますたー、数珠つなぎに配置した葡萄頭が全部砕けた》
(だろうね。けど、良い)
ちなみに今のは葡萄頭を連結させて、これまた『孤苦零丁』を使って衝撃を胸から背中へと誘導してやったのだ。ちなみに流れを乗せただけで、音波には変換してない。てか、変換したらレジストみたいなことになっちゃうし、ちょっと危ないのよね。それと今、人造勇者が使っている『無突』は魔力によって造られたものだから、変換なんてしようものならその瞬間、消滅しちゃう。それじゃあ意味がないのだ。
まあ、なんであれこれで俺は衝撃波系の攻撃を受けても、大したダメージを受けずにいられる方法を得られた。
《ちなみに今ので葡萄頭10%の損耗なのである》
(一応葡萄頭は俺の残機でもあるから、結構痛手だわな)
普通なら、おいそれと受けるわけにはいかない。
――けど、ここでビビるわけにはいかない。
俺は振動剣を人造勇者のド頭に叩きつけるが、まあ簡単に躱されちゃった。けど、その場で最小限の動きでの回避じゃなくて、大きく後ろに飛び退るような回避だ。
……よし。ついにあいつを退かせることが出来た。今までは俺が退いてばっかりだったけど、ようやくだ。
……ようやく勝負の土俵に立つことが出来た。
「ビビってんなあ、人造勇者が! 無敵じゃねえと勝負は怖いかあ!? こいよ、今から逃げずに全部受けてやる」
《調子に、乗るな……!》
「雑魚に調子乗せる程度の稚魚なだけだろ、てめえが」
慣れないやっすい挑発をしますよ。ついでに広げた手の平をくいくいっとしてかかってこいのジェスチャーをします。
今まで何も出来ずに逃げてた雑魚にこれをやられる最強の兵器の心境は如何に!?
《――!》
ブチ切れ無言突撃でした。
(アスカ! 葡萄頭の回復中心に頼む! 俺自身の損傷は自分で治すから、気にすんな! ラフレシア! アスカで急造した魂なしの葡萄頭に魂込め頼む! ミチサキ・ルカ! 適度に結界張って遅延頼む! 張るところはそっちに任せる! 基本受けるだけだから、マジ雑で良いから!)
そう言って俺は人造勇者に近接戦を挑む。
初手、一撃を腹に貰うがこの衝撃を逃がしつつ、振動剣を振るう。だが人造勇者はそれをすれすれで躱したので、俺は、ぐにゅんと短剣の軌道を変更した。けれど、それもすぐに察知して俺の短剣を脚を思い切り振り上げて蹴ってくる。短剣が弾かれて真上に吹っ飛ばされる。
振動剣は吹き飛ぶが、一応触手を伸ばして掴む体勢を整える。
その間にも人造勇者は高々と掲げた脚を一気に真下――俺の脳天から潰そうとしてくる。
――これは受けるべきじゃないな。
衝撃云々以前に、普通に踏み潰されるだけだ。
俺はパカッと身体を開いて、降ってきた足を紙一重で躱す。そして振り下ろされた足は、地響きが鳴るほどの衝撃を地面に与えた後、止まらず最大級の踏み込みを見せて腰と肩の回転を上手く使った拳が飛んでくる。
それは――無論、受ける。
恐らく全力の一撃は……俺の肉を先ほどより吹き飛ばすが、やはり全ての衝撃は俺の背後へと逃げていく。――いや、ちょっと嘘ついた。
ちょっと内部がぐちゃっとしちゃった。
それを人造勇者も手応えでわかったのだろう、鼻で笑ってきた。
《所詮、ハッタリ……!》
「どうだか」
もちろん、ハッタリが大部分を占めるけど別の目的もある。
俺は受けるばかりではなく、振動剣がなくても拳で殴りつける。だが、これを人造勇者は回避してくる。ちなみに受けなくて正解。さっきの『誇張される嘆き』をぶち込んだから。
人造勇者の拳が一発、俺の脇腹に入り、反対側に衝撃が抜けていく。やっぱり若干だが、威力が強すぎて衝撃が逃がしきれない。でも、葡萄頭を介在させることで『無突』の伝播する効果が打ち消せている。今受けている内部ダメージは、こいつが単に馬鹿力過ぎるだけだ。
(やっぱり地力が負けてるときっついなあ)
《葡萄頭損耗率、45ぱーせんとー。回復入れつつも間に合っていないので、少々回避してもらいたいしょぞんー》
(むーりー)
《おーのー》
《いや、確かに受けすぎ。『過剰生成』で大量にあって隔離してた魂も普通になくなりそう。残機タイプは残しておいて、『同期』能力は低下するけど魂なしも混ぜ込んでいくよ? 今以上に自分にダメージ行くから、そのつもりでね?》
(はーい)
(一応、結界張ってはいるけどパリンパリンなんだけど。得意分野だけどここまで簡単に破壊されると病みそう)
(がんばってー)
俺の内部はそのまんまの意味で悲鳴が上がっています。
けれど、もうそろそろだ。
一際重い一撃が俺の鳩尾へと捻り込むように叩きつけられる。とんでもない衝撃波が俺の背後から飛び出してきて、肉も結構飛び散ってしまう。
――ああ、この林を汚しまくってる。怒られちゃいそう。
俺がそんな心配を、無意識にした時だった。
『熟練度が一定まで溜まりました。『衝撃操作』を取得しました』
――来た。
その無機質な声を聞いた瞬間、一気に思考がクリアになり、為すべき事が一瞬で組み上がる。人造勇者はなんの躊躇いもなく、再度拳の一撃を入れようとしてきていた。
人造勇者には時間がない。そしてまだ振動剣が宙を舞っているからだろう。とにかく俺にダメージが入っているなら、攻撃を続けるべきだと思っているのだろう。たとえ俺の魂に微かな変化を見つけたところで、そんな些細な変化に気を取られている時間は文字通りなかったのだ。
俺も拳を握って、カウンター気味に人造勇者に向かって振るう。カウンターにしては出遅れているけれど、良い感じの位置にだせている。もちろん人造勇者もそれを安易に受けていけないのは理解しているためか、もう一方の手で払ってくる。
その払いと同時に人造勇者の拳が俺の胸元を抉るように刺してきた。
そして衝撃が俺の身体を通り抜け――俺の拳の側面と人造勇者の手の甲が合わせられた瞬間にそこへ『流れる』。
とんでもない衝撃が――今まで俺の背に流れていた衝撃が、俺と人造勇者の間で弾ける。
《!?》
「もげぇええ!?」
そんでもって、その場に留まり驚く人造勇者と何故か吹っ飛ぶ俺だ。
(なんでだ!? ここで「お前の衝撃……そのまま返してやったぜ」とか……やろうとしたのに!)
《まあ、そうなるよね。相手の魔力がこもった実体がない攻撃だもん。相手にそのまま返したところでダメージなんて与えられるわけがない。あとさすがに、もげぇええはないと思う》
(今時、三下の雑魚でもあげない悲鳴だよな。もげぇええ、なんて)
《ますたーの鳴き声はとても素晴らしい》
ラフレシアが呆れ、ミチサキ・ルカが率直に貶し、アスカが頑張ってフォローしたんだろうけど、俺があまりにあんまりなせいで金を稼ぎたいゾンビみたいな言葉遣いになっちゃってる。
(う、うるしゃああい!!)
俺は心の中の顔を真っ赤にしながら、無様に後転しつつ(もんどりうつ、とも言う)なんとか立ち上がる。
くっそ、格好悪かったのは確かだから頑張ってリカバリーしてやる。
俺は腕を左右に広げてちょっとさっきより余裕がある『強キャラ』ポーズを取る。
「ありがとう。容赦なく殴ってくれたおかげでスキルを手に入れることが出来た」
はい、無様晒しましたけど、スキルを手に入れるために攻撃を受けて――それに成功しました。
俺の特徴は死ににくいこと、それと――誰よりもスキルを手に入れやすいという特徴がある。
この世界に耐性系のスキルはないけど、攻撃に適応出来るスキルはあるのだ。……あのデカガエルの『衝撃吸収』とかが最たるものだろう。
戦闘中に相手に合わせたスキルを得ることが出来れば、当たり前だが戦いやすくなるのは必然だ。
俺は真正面から人造勇者を捉え、口を開く。
「一つ、山を越えた。もう私には打撃は効かない。――それで次はどんな攻撃をしてくれる? 全部受けきって『進化』させてもらう」
《――スキルを、得た……? あり得ない――けど――》
人造勇者が小さく頭を振るう。たった今、俺がスキルを得たことが信じがたいようだが、同時に俺のこれまでの異常な変化を知っているが故に否定することが出来ないようだった。
《ちなみにますたー。損耗率は変わらないのだ》
(やっぱりかあ。まあ、だから頑張って大物っぽい雰囲気出してハッタリかましてまうす)
《細い綱渡りを常にするとは、へびぃだぜぃ》
バレてぱっくり食い千切られないようにしないとね。
欲を言えば『衝撃吸収』が欲しかったけど、吸収はしてなかったからね。つっても吸収どころか流すだけだったから、操作系になってむしろ良かったまであるかも。
まあ、衝撃を操作できるようになればやれることが増える。
《マスター、次は? 一応、何もしなくてもこのまま時間は稼げそうだけど。ちなみに後2分くらい》
(こっちから仕掛ける。とりあえず二種類の攻撃を試す)
そのどっちかの攻撃が通じれば御の字だ。その片方が通じれば、俺が成長していけば人造勇者をフィジカルで越えることも可能だと俺自身の自信にも繋がるし、相手にも脅威を見せつけられる。
俺の短剣が人造勇者の真上に落ちてきて、それを見ずに取って――へし折って遠くに投げてしまった。
(ぎ、ぎぃ……)
自分の牙が材料なためか、短剣をへし折られた見たワームくんがショックを受けている。
(ワームくん、可哀想……。アスカ、次は大きめの剣で頼む。ああ、最低限の切れ味があれば造形は雑で良いよ、雑で。どうせすぐにぶっ壊されたりするんだし)
《るじゃー》
(ぎぃ!?)
《悪魔かよ》
俺は再度アスカに剣の製作を頼むと、何故かラフレシアに罵られてしまった。不思議だね。
アスカに剣を造ってもらい、それを軽く振りながら具合を確かめる。もう、ソードブレーカーである必要はないから、雑にリーチを伸ばして使ってみます。相変わらずブンブン丸な使い方しか出来ないけど、十分だ。
俺はゆっくりと人造勇者に歩み寄る。
「……!」
人造勇者はやや気圧されている。退きそうになるのをグッと堪えて拳を構えた。
攻撃は当てられるはずだ。その『手段』はまだ人造勇者には見せていないから。
「《その嘆きは留まり、空虚に消える。神の子よ、罪を背負いし者よ、汝が耳朶に迎え入るは如何なる声か?》」
俺は魔力がこもった言葉を吐く。いわゆる詠唱。
「……っ」
人造勇者が一瞬の躊躇いを見せたが、すぐさま飛びかかってくる。拳を思い切り、剣に向かって叩きつけてくる。避けようと思ったけど、『死線感知』に反応しなかったため一手遅れて、俺の手首ごと吹っ飛んでしまう。もちろん刀身もへし折れて色々とぐちゃぐちゃになっちゃった。
「ぎぃ……!」
ワームくんが悲しそうな声をあげる。ごめんよ。
「《救いし者達の嘆きを聞かず、己の意思をも失い、命を奪われし者よ――その哀れな耳亡き者に槍を届けよう。――そして只々》」
俺は跳び上がる。剣を吹っ飛ばされたあとすぐに体重を軽くしていたから、ジェット噴射と合わさればそれなりに高く飛べる。
すぐに体重を元に――それも『俺本来』の数トンある体重に戻す。
「馬鹿、が――!」
人造勇者が唸る。俺が無駄かつ無防備に跳び上がったことに、馬鹿にされたような怒りがわき上がったのだろう。
一応思っとくけど、別に格好つけのために跳び上がったわけじゃないよ?
これは単なるミスディレクション。上を向くとわかるんだけどね、足元が視界に入っていないと思いの外危ないのよ。普段は見えているからこそ、逆に気付けない。
こうなったら俺はただ最低限、人造勇者の攻撃を躱して当てれば良いだけ。少なくとも人造勇者は本当に集中して俺を直前まで捉えていないと、空中にいたとしてもジェット噴射で軌道を変えられるから、完璧に無防備ではないのだ。
そしてそのための集中は――足元をさらに疎かにする。
俺と人造勇者の距離がギリギリまで近づいた瞬間だった。
「!?」
人造勇者の身体が不自然に揺れる。片脚に違和感が表れたことだろう。奴が一瞬視界をそこに向ければいたのは――ワームくんだった。
地面から身体を突き出し、大きな口で人造勇者の膝辺りまでぱっくりとくわえ込んでいたのだ。
「なっ――!?」
人造勇者は驚くが――すぐにそれは俺から意識を逸らすものだと判断し、俺へと向くと同時に肉薄した俺に拳を振るうが、ちょっと遅い。
俺は片腕を伸ばして、すでに人造勇者の胸に触れていた。やっぱり慣れないよな、俺との間合いって。
「――『死ヲ嘆ケ』」
射出される音の槍。『衝撃操作』と『孤苦零丁』により、極限まで圧縮して、さらに遠くに届くという音としての特性を完全に捨て去った超近接型の衝撃波だ。威力としては槍というよりもはや、杭打ち機。
俺の言葉を最後に、人造勇者のみならず周囲を震わせるほどの重々しい衝撃が響く。
同時に、
「ごがぁ!?」
人造勇者の口元から、鮮血が溢れ出してきた。あの強靱に思えた身体が揺らぐ。
「まだだ」
「!」
俺は『鬼胎』を込めて呟き、人造勇者に一瞬の硬直を与える。その間に、準備は済ませていた振りかぶった拳――それも今の身体以上ある膨らんだ大きな腕……そして先端の拳には先ほどアスカに造って貰っていたワームくん牙製のメリケンサックを備えている。
それを振りかぶり、
「くらえ」
振り抜こうとするが、重く遅いテレフォンパンチだ。たとえダメージを負った人造勇者でも距離を取ることは出来ただろう。
けれど逃がさない。
今、人造勇者の胸元に張り付いた手は粘ついた性質に変化して、そう簡単に離れられないようになっていた。
退こうとしていた人造勇者はその粘ついた手と未だ脚をくわえ込んでいるワームくんのせいで、無防備に硬直していた。
チリッ、と身体から火を出して俺達を燃やして脱出しようとしていたが、それでは遅い。
そして俺の全体重が乗った拳が人造勇者の真正面を捉えて、ぶち抜く。
「ぐぅ!?」
直前で全身から火が上がって、粘つきが取れて退くように吹っ飛んだが、その前に確かに深くぶち込めた。
人造勇者はさっきの無様な俺のようにもんどり打つように転がり、片膝で滑りながら止まる(ワームくんはすでに千切れて絶命していてこの間に断片も取れた)。
ごほ、と一つ咳をすれば、血がガスマスクの口元から大量に溢れ出てくる。
(結構ダメージ入ったかな?)
《心臓はもちろん、あの様子だと肺も破れてるかもね。たぶん今の拳も若干効いたはず。最後の最後に内在魔力が上昇したのを確認したから……たぶん、身体強化された上で『少し効いた』はず》
(よし!)
正直、防護服には一切ダメージが入っていないから、殴ったダメージは微々たるものだろう。でも『ゼロではない』。これが重要だ。
すなわち俺が今後、進化していけばフィジカル面でも十分に人造勇者と渡り合える可能性が出来たということ。
(今まさに人造勇者、討伐出来る!?)
《どうだろ。たぶん今のでかなり稼働時間が減ったから倒すまでには至らないんじゃない? そもそも肺と心臓は重ね合わせの応用でストックの交換があるから》
(ずっっっっっる!)
《たぶんマスターも同じ事思われてるよ》
(よそはよそ! うちはうち! 俺が嫌だと思ったから、相手から見た俺がどうとか関係なく、一方的にクレームをあげるの!)
《クソ野郎過ぎる……》
今だけは客観性を失いたい気分なのです。まあ、戦いではそういう思いやり的な客観性はガチで要らんからな。戦いなんてのは如何にして相手の嫌がることをするか、だし。
んで、ラフレシアの言うとおり、人造勇者はすぐにぜひゅーぜひゅー(水音も混じってる)というヤバい息づかいが消えて元の普通の呼吸音に戻る。
血は相変わらず垂れているけど、ボタボタと次から次というのはなくなった。
肉体は整ったが……構えておらず体勢に戦意は感じられない。
《潮時か……》
人造勇者が呟く。
「あら? もうちょっとやってても良いんだけど」
《あと一歩で殺せるならやる。……けど、そうじゃなかったらそっちの思惑に乗るだけだ》
人造勇者はため息をついて、ある方向に目を向ける。そちらはラピュセルがある方角だ。そんでもって、そっちの方から声が近づいてきた。まだまだ遠いけど、あれが聞こえるかあ。
《気配からして、この国の人狼達。……でも想定より早い。……『私』を使ったな?》
「そりゃそうだ」
すでにラフレシア経由でイェネオさんやサンに伝えて、ラピュセルの人達をこっちに寄越すように言っていた。俺らの仲間ではなく、サンとかを通じてスコールさんにとりあえず数を率いて来て貰うように頼んだ。
別に数を揃えれば勝てるとか思ったわけじゃなく、ラフレシアいわく――、
《いくら『私達』でもこの国の人達の許可なんてもらってないだろうから、呼べば退散するしかなくなる》
だってさ。下手にラピュセルの人達を相手取れば『タイタンとして』不利になってしまうだろう。
だからラピュセルの人達に来て貰う、ただそれだけで俺達の安全は保障される。まっ、実際はあんまり必要なかったんだけどね。でも良い。備えあれば憂いなし。何事も安全策はとっておくべきだ、ということだ。
《空間転移の魔力濃度が痕跡として残るのは……もう仕方ない。それに上も……》
ちらりと空での戦いを見やる。
結構上は上で白熱してたみたいだ。実はさっき一人、地面に激突してたし。
《あんなヘンテコな生き物共相手にこれ以上、私達の大切なエリートを好き勝手にされたくない》
そう言いながら、人造勇者はさっき自分で投げ捨てた『不治』の剣の残骸を拾い集めた。
《まだ……対策を練る必要がある……。もう絶対に舐めない》
「そりゃどうも。一応、牽制のために言っておくけどまだ俺は『王種』じゃないからね? 大幅な進化を出来る余地は十分あるのをお忘れなく」
《……? お前、『鳥籠の魔神』を倒したはずじゃ……》
「ルール上、倒せなくてね。代わりにキミの愛しの『勇者』にやってもらったのよ」
《…………》
人造勇者は一瞬、固まる。『王種』じゃない俺や魔神を殺したイェネオさんの状態とか諸々脳裏を駆け巡ったのだろう。んでもって、駆け巡ったところでそれを俺に質問攻めするほどの時間がないと悟ったのか、ため息をついた。
そんでもって、転移装置を起動させたのか魔力が収束していく。
《次はリディア諸共やってやる》
「意味ない脅しはやめな。それをやりたいなら、俺を圧倒しないといけないことぐらいわかるでしょ。――逆に俺は十分、お前らに示してやった。お前らの最強フィジカル兵器でも俺は殺せないってな。リディアは俺を守る必要なんてない」
そう俺が言うと、人造勇者は舌打ちをして――消えてしまった。転移門ではなく、転移だとぐねん、ひゅんっみたいな感じで消えるのね。あれなら張り付いていない限りは、追いかけられてしまうこともないだろう。
空中でも聖人かもしれない子達はもちろん、転生者も、
「この転移嫌なんだよなあ。魔力障害なんてなりませんように……」
とかぶつぶつ言いながら、転移して逃げていったよ。
そういや転移って転移する空間に魔力が充満しているから、危ないんだっけか? だからやるなら転移門を創るべきなんだろうけど、門を創って維持出来る人材がいないから、無理らしい。
……そう思うと気軽に転移門を創ってやってこれるジルドレイの方々ってやべえんだなあ、しみじみ思う今日この頃。
まあ、いいや。
俺は両手を高々と掲げ、叫ぶ。
「勝ったどー!」
ギリギリだったけど、越えられないと思えた山を越えることが出来て、とても嬉しい。
俺はこの勝利の余韻にしばし身を浸していたのであった。
次回更新は9月29日23時の予定です。




