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誰かの奇跡であるために

 魔力が収束した棺桶(かんおけ)が、ぶしゅううう、と音を立てて開く。棺桶の(ふた)が落ちると、白い煙の中から、ヌッと人型の何かが歩き出してくる。


 ……分厚い革の防護服を身に(まと)って防毒マスクをつけたヤベー見た目の奴だった。あと片手に両刃の剣を持ってるよ。合理性を極めると、デザインとか格好良さとかなくなるのって悲しいことよね。あれが俺と本気で戦う際の最適なスタイルということになる……!


《マスター、来るよ!》


『死線感知』が俺の腹を輪切りにするように走る。そして、同時に人造勇者はすでに俺の後ろに通り抜けており、俺の上半身は宙を舞っていた。


 やっべ、見えなかった。


 俺の背後では、俺の魂が入っているであろう上半身に目を向けた人造勇者がさらに細かく切り刻もうとしてくるのを『死線感知』でわかってしまうが……迎撃はたぶん出来ん。


《定石に従って、丁寧(ていねい)に切り刻んで正確な核の位置を割り出そうとしてるから、私が(だま)して時間を(かせ)ぐからなんとかしてよ!》


 助かります、ラフレシア。


 つっても、今は逃げるしか方法はないけどどうしようね。


 ちなみにワームくんが頭を出して、俺の下半身を捕まえてくれようとしていた。たぶんこのままだとワームくんは()られちゃうけど、わずかな時間をここでも稼げる。時間は少しずつ稼げている。


 あとはその皆が稼いでくれた時間で俺が最適解をすぐに出せれば良いんだけど、――――むぅりぃい!! こんな刹那(せつな)でどうにか出来るわけねえだろうがよい!


 と、凡人な俺が内心めっちゃ(あせ)っているとミチサキ・ルカの魂に魔力が注がれていっているのと――なんかアスカの魔力が膨大(ぼうだい)(ふく)れ上がる感覚があった。ミチサキ・ルカはともかくアスカの方はちょっとやべえ感覚。しかも大気中の魔力を取り入れてるわけではなく、なんか違う方法で高速で生成しているっぽい。


《!? これは――馬鹿か!?》


 人造勇者がそこで初めて(しゃべ)り、とっさにバックステップをした。


 その瞬間、俺の上半身からニュッと長い砲身が生えて、爆音と共に『砲弾』が発射される。それが直撃したのか、人造勇者は《!?》と驚いたような反応をしてぶっ飛んでいく。


 あっ、助かった。


 俺はホッとしつつ、ワームくんに下半身を(くわ)えられて、くっついた――と思ったけど身体が接着せず、落ちそうになる。慌てて触手を伸ばして(つか)まり、再度チャレンジするけど……やっぱりくっつかない。


(どういうこっちゃい)


《これ『不治』だ。あの魔道具の剣、『不治』のスキルが宿ってる。マスター、接合面を移動させて、その肉片を細かく体内でバラバラにすればとりあえず効果は失うからやってみて》


(おっけ――あっ、くっついた)


 ラフレシアに言われた通りにやってみると身体がちゃんとくっついた。それと斬られた部分も体内でバラバラにするとわずかに感じていた法則系の力も失われた。


(……『不治』ってそのまんまな意味の力?)


《そのまんま。複雑さは全くないよ。けれどかなり簡素にしていて複雑さがないから一度、効果が発動したら効果部位にレジストは『侵蝕』同様不可能。レジストそのものもしにくいし。けど単純だから『不治』の効果はその攻撃を受けた部分だけ。今のマスターならそれほど大きなダメージにはならないけど……とっさにくっつけなくなるのは致命的かもね》


 確かにね。それと俺なら良いけど、勇者くんや魔王さんみたいな他人だと、アスカの力では治せなくなるってことだから、余計にこの戦闘では近づかせないようにしないと。


 とりあえず二人はそれなりに離れた位置で不安そうに見ている。言いつけ通りちゃんと静かにしてくれていた。ラフレシアいわく、人造勇者達に俺の味方だとは思われているけど《断定は出来ない以上、魔族であろうといきなり攻撃しようとはしないはず》とは言っていた。


《ますたー、事後報告ー》


 俺がさてどうしようと考えていると、アスカが口を開く。


《やべーと思ったから、アルスに協力してもらって『雷霆万鈞』を使っちゃったのだ》


「あぶ!」


《その際、超速で使用するために生命のスープを飲んで魔力供給したよ。超速にしたせいでロスが酷くて50%もの生命のスープを使ってしまった……!》


(あれまあ。まあ、良いよ、俺の命が助かったし。……ところで、なんかイヤーな気配を感じたけど……)


 俺はアスカから感じたヤベえ気配について(たず)ねる。……あれは、気配的に魔神っぽさがあった。ちょっと、てかかなりヤバめな雰囲気だった。


《馬鹿かお前は!?》


 ラフレシアが――ではなく、人造勇者に宿ったフラワーが(はる)か遠くから怒声を上げて罵倒(ばとう)してきた。


(あの罵倒に最近のラフレシアから感じられる配慮とかが一切なくて、初期のラフレシア味を感じてちょっとドキッとした)


《興奮すんな変態が》


 こっちはラフレシアです。


《魔神を倒すだけじゃなく、その力の一端を身に宿すなんて頭がおかしいどころの話じゃないぞ!?》


 人造勇者さん、ブチ切れである(ちなみにダメージは全くなし。防護服だけでも壊れてくれたら嬉しかったんだけど)。


 てか、力の一端じゃなくて魔神そのものの魂を身に宿しているんですけどね、ぶへへ(しかも自我あり)。


(ところでラフレシア、アスカのさっきのはマジでなに? マジで魔神化しかけてたの?)


《たぶん魔力の大量吸収で魔神化しかけたんだと思う。魔神アスカの魂をそのまま流用してるからね。調整していると言っても、本質的にはアスカは未だに魔神のままだよ》


(つまり魔神としての身体を形成出来るほどの魔力を吸収すると、そのまま魔神になっちゃうってこと?)


《そういうこと。ただしあくまで『一気に』吸収した場合だけね。そこら辺の調整はさすがにしてるから、緩やかに大量の魔力を吸収するなら問題ないよ》


(だそうで。なのでアスカ。さっきのはあんまりやらない方が良いらしい)


《いぇあ》


 アスカは軽いノリで理解を示してくれる。


(つってもさっきみたいに俺が死にかけそうな時は、やっても良いからね。……てか、やってくれたおかげで良い感じにビビらせることに成功したし)


 人造勇者さん、俺の体内に魔神がいるとわかってさっきまでの威勢の良さは失われてしまったようだ。


《ここで、絶対に、殺さないと……!》


 けれど絶殺(ぜつころ)な意志を持ってしまったのが玉に(きず)


 さて、今度は受けきれると良いんだけどなあ、と思っていると上の鳥人間達に動きがあった。一人が急降下してきたのだ。それに続いて、他の四人も間を置いて各々、武器を手にして突っ込んできた(基本的に近接武器だけど、一人ライフルっぽいの持ってるんですが)


(一人『精神汚染』してくださいと言わんばかりに来たな。アスカ、ワームくん、準備よろし?)


《よろし!》


「ぎぃ!」


 とりあえず準備は良いみたいなので――、


「イタダキマス」


「!?」


 俺は口を何十倍にも大きく広げる。……本当の俺って、結構デカいから今の見た目に騙されると間合いミスっちゃうのよね。


 ばくん、と鳥人間を飲み込み、『クリーンルーム』へと(しず)める。


《魂の汚染確認。同時に転移の予兆あり。吐きだした方が良いかも。空間能力の中で他人の空間能力はエラーが発生するかもだから》


(おっけぃ。ところで転移って何を元に発生してるか分かる?)


 俺は、ペッと鳥人間を吐き出すと「うああああ!?」みたいな反応してるから、しっかりと精神が汚染されてますね。んでもって、その鳥人間に空間系能力特有の魔力が収束して、ラフレシアの言った通り転移する予兆が見受けられる。


《飛行用魔道具と胸のブローチかな。どっちかがあれば、転移出来るはず。仮に魔道具を鹵獲(ろかく)するなら、ブローチを破壊して魔道具に私を入れる必要があるね。ああ、あとあの魔道具の起動条件は手動と一定以上のダメージを負うと自動で発動する仕組みになってる》


 ブローチっていうと、丸っこい小さなボタンみたいな奴だな。


(なるほどー。鹵獲は結構ムズいけど、やれないことはないかな。あっ、アスカとワームくん、行ってらっしゃーい)


《行ってきまーす》


「ぎぎぃ!」


 鳥人間の肉体に入っているアスカとワームくんを見送る。


 んでもって、他の鳥人間達はビビって空に舞い戻っていた。意外に捕食範囲が広かったせいで、「も、戻れ!」と一人 (ライフル銃を持ってた奴)が言うと、慌てて急上昇したのだ。


《この声――あの子やっぱり転生者だ。あの、銃持ってるの》


(へえー、……つまり聖人のなり損ない?)


《ううん、普通に空飛ぶのが好きで自分から輸送部隊に志願した子。だから普通に練度は高いよ。……それと他の三人は……》


 ラフレシアは俺の感覚器官、『死神ノ権能』をフルに使って観察する。鳥人間達はバイザーみたいなヘルメットを被っているため、顔はわからない。


《……うーん、『私』が宿ってる気配はないけど……武器とか見覚えあるんだよなあ。……マスター? 考えられる可能性を言うよ》


(なーに?)


《たぶんあの三人は聖人の可能性がある》


(マジで?)


《確証はないけど。ただ、枢機卿(すうききょう)達はマスターのことを多少()めてるとは思うけど、手加減はしないはず。だとするなら、全力を出すと思うから……人造勇者と聖人を送り込んでくると思うんだよね。で、仮にそうだった場合、バランス型……マスターが前に戦った聖人と同じ、近接、近中距離支援、遠距離の三人組だね》


(支援は回復持ち? あのずっるい『透過』使う奴みたいな)


《ローラのこと? それはないね。回復能力持ちはローラ以外にいないよ。透明な魔力を持ってて、魂の強度がある子って本当に(まれ)だから。普通は格闘と魔法を両方使える子が採用されるね》


(なら、まあ良くは、……ないかなあ。どっちにしろ挟撃(きょうげき)される危険ありってことだよね)


《そのつもりだろうね。人造勇者を矢面(やおもて)に戦わせて挟撃――で、人造勇者が時間切れになっても、マスターを消耗(しょうもう)させていれば、そのまま追い込んで行くと思う。バランス型でもそれならマスターを()れるかもしれないからね》


 うーん、容赦(ようしゃ)ない!


(じゃあ、やれることは……ラキューと……アルス、準備! まともに戦わなくても良いから、周囲を飛び回って攪乱(かくらん)して!)


「ぷぎ!?」


「あぶ!!」


 ラキューはいつも通りビビって、アルスは……意外に乗り気だ。いや、意外でもねえか。この子、陰キャだけど戦闘狂だし、何より飛行魔道具を鹵獲出来るチャンスだからな。アルスって、ああいう玩具好きみたいなんだよね。あと銃にも興味あるっぽい。


(一応、ラフレシアもついて行ってね。まあ、相手が聖人だとフラワーが宿ってるってことだから、鹵獲は転生者以外には難しいとは思うけど……一応ね)


《わかった》


 てことで、ラキュー射出!


「な、なんだ!?」


 転生者鳥人間は俺が口から豚とそれに乗った白いショタ(今のアルスは乗豚(じょうとん)のため軽量化してます)を出したことに(おどろ)く。さらにその豚が尻から火を噴いて、飛んだものだから「なんだそれ!?」って困惑してた。


 鳥人間達はラキューとアルスの二人に任せよう。ラフレシアいわく《聖人って言っても空中戦は慣れてないから、逆に空で戦えばラキューとアルスでもいけると思う》だってさ。


《駄目だ――黙ってると色々やられる……!》


 人造勇者は俺の捕食行動も含めて、かなり慎重になっていたが、時間制限ありなのと俺が色々とやり始めたから突っ込んできたよ。


 ただ慎重にはなってくれると思う。特に捕食攻撃に警戒してるっぽい。回避を意識してくれるのは助かる。射程が謎の捕食攻撃は基本的に当てるつもりはない。けど、それは俺の命が保証されなくなったら、話は違ってくる。そん時は全力で食いますわよ、俺は。


 でも、基本的に治せるかどうかもわからん『精神汚染』をフラワー達にやるのは危険なので、こっちがそれをやっても、是非とも必死に避けて受けないで貰いたい(他力本願)。


 ……もうちょっと柔軟に行こうかしらね。『千ノ無貌』によって、俺の身体は即座に色々な形へと変化出来る。性質も変化出来るけど、そこはちょっと時間がかかるから高速戦闘ではあまり活用出来ないけど、それ以外の肉体変化を使うと相手が間合いを(はか)りにくくなるのはデカい。


 それと『死線感知』を併用(へいよう)すれば――、


《ちっ――!》


 人造勇者の(たて)切りをパッカーンと縦に割って文字通り、皮一枚ギリギリで(かわ)すことが出来た。同時に触手で人造勇者の横っ腹を(なぐ)りつけるが……ダメージゼロ! 回避することもなく、姿勢が(ゆら)らぐこともない。体幹がパねえ。


 うん、攻撃が効かないって相変わらずすんごい面倒くさい。今、下手に捕食攻撃に移っても、退かれるか口を切り裂かれるだけだな。……他の攻撃手段がないのはきつい。


 ちなみにですけど、『雷霆万鈞』はアルスに預けてます。もちろんラキューには『隠形児戯』を持たせてるので、隠れることも出来ません。


 詰んだかな?と一瞬、死を覚悟したその時、俺の胸元から突然強烈な光がスポットライト状に伸びて、人造勇者の目に当たる。


《――っ》


 一瞬だけ(ひる)む。本当に一瞬だけだ。目が(くら)んだっていうより、いきなり本来光らないようなところが光ったことに驚いたようだ。


 俺はとっさに腹からノズルを出して、ジェット噴射して距離を取る。


 もちろん火炎のダメージはなく、すぐさま追いすがってくる。俺はすかさず、口を開けて、やや顔を大きくすると、速度を落としてくれた。――この(おど)しが通用するのは、あと何度くらいか。あと、この捕食攻撃は間合いが重要だな。近くで出しても、反撃されて切り裂かれる。むしろ届かないんじゃないか、ぐらいがちょうど良いかも。


《残り大体4分くらい》


 ラフレシアの報告が入る。


(結構頑張ったね!)


《ちなみに初動で時間をかけることが出来ただけで、今の小競(こぜ)り合いだと30秒も経ってないよ》


(相変わらずバトル時の感覚長えなあ!!)


 てか、戦闘開始してから全く時間が経っていないという恐怖!


(あっ、それとヒウルありがとうな!)


(いえ)


 今の胸元ピカーはヒウルが『真経津鏡』を使ってくれたおかげだ。俺自身の意思で使ったわけじゃなかったから、人造勇者はその起こりを魔力では察することは出来ても、俺の挙動からわずかにでも『何がどこから』かを察することが出来なかったのだ。


 ――つーか、この後、マジでどうっすかね。攻撃を止める攻撃すら、俺にはないんよね。


(ワンチャン、ラフレシアかアスカを送り込むのは……)


《無理。防護服は魔道具じゃないから、経由も出来ないし。剣に宿るのはいけなくもないけど、まあ、『私』相手だと分が悪いね。少なくとも入ったらすぐに気付かれる》


《私も無理。あの防具は革製だけど、加工品は入り込みにくい》


 終わりましたわ。


 ちなみに空中ではラキューが飛び回りながら、煙幕を()いたりして鳥人間達を翻弄(ほんろう)し、アルスが上機嫌にチェーンソーを振り回して戦っていた。あっちは大丈夫そうだ。


 んでもって、こっちでは人造勇者が肉薄(にくはく)してきて、斬りかかってくる。『死線感知』があるから、最初みたいにぶった切られることはなくなったけど……単純なフィジカルで負けているせいで、ジワジワと追いつめられていく。


 アレですね。俺TUEEEEE!!を相手取る人の気持ちがわかったよ。どうにもならんもんよ、勝負の土俵(どひょう)に立つための最低限のステータスが負けてたらさ。


 片腕が斬り飛ばされる。回収しようと触手を空中に飛んだ腕に伸ばそうとすると、それを斬られ、返す刃で袈裟(けさ)斬りをされて避けてると、回収しようとしていた腕がポトリと落ちて――進み出てくる人造勇者に押し込まれて、回収出来なくなる。そんでもって、人造勇者は(すき)を見て、俺の落ちた肉片を魔法で燃やして消し飛ばしてしまう。


 一つ言おう。くっそ地味。だけど、確実に(けず)られていく。


 たぶん時間まで耐えられても、相当削り取られてしまうだろう。もし鳥人間達が聖人であった場合、かなりの苦境に立たされることになる。


 切り上げられて、鹿骨頭の鼻先が切り裂かれる。こういうちょっとでのダメージも手順を追って回復しなきゃいけないのがすげえ面倒くせえ。


 有効な攻撃手段がない。ダメージを与える術がない。どうするべきか。適当に逃げるのは悪手だ。地面に逃げると、恐らく地上に吐き出させる魔法か衝撃波を食らってバラバラにされる。まだ地上にいた方が生き残れるまである。


 攻撃力が足りない、攻撃力が。そのためには――一瞬、勇者くんの顔が浮かんだけど、さすがにこんな危険なことを――――とか思ってたら、当の勇者くんが走ってきてた。


 割と必死な顔で。


 ちょい待てぃ!?


 たぶん肉体強化を使ってるから、速度が(すさ)まじい。何気にジェット噴射で逃げ回ってる俺と人造勇者に追いついてきてる。


 そして、当たり前だけどその勇者くんに人造勇者は気付いている。勇者くんがカウンターを食らうかもしれない。


 でも勇者くんの力があれば、攻撃が通るかもしれない。


 ここで加勢させれば勇者くんが抱く、死の恐怖を――――って違えわ。


 それは違う。『死の恐怖』は克服(こくふく)出来ない。むしろ悪化する。勘違いしてはいけない。今の俺にとって都合の良いように考えてはいけない。勇者くんが真に恐れているのは、違う。


 だから俺は――、


「止まれぇええ!!」


 叫んだ。『鬼胎』を込めた声で。


「!?」


 この声に人造勇者、鳥人間達が恐怖に(すく)む。そんでもって、俺にまだ適応出来ていない勇者くんもだ。皆が一度、動きを止める(ラキューとアルスは普通に動けていて、このチャンスに嬉々として鳥人間の一人に向かっていたよ)。


 そして、すぐに人造勇者が向かってきて、また向かい合わせの鬼ごっこが始まり、俺も必死にジェット噴射で逃げる。


 勇者くんも追いかけてこようとするが、俺は怒鳴(どな)る。


「勇者くん、来るな!」


「でも――! 俺なら、そいつにだって――!」


「わかってる! けど、駄目! それは絶対にしちゃ駄目! 怖いでしょ、キミ!」


「……っ! ば、馬鹿にすんな! お、俺は――」


「違う! キミは自分が死ぬのは怖くないだろ! 怖いのは俺が死ぬこと――そんでもって、誰かを殺すことだ! だから駄目!」


 んなことしたら、余計にトラウマになるだろうがよ!


 自身で覚悟も決めず、望まぬまま誰かを殺したら、きっと後悔するだろう。そして、何もせずに誰かの死を見届けたら余計に、悪化する。


 そしてその後者(俺が死ぬこと)がいけない。本来あってはいけないことだ。


「俺は死なない! そんでもって、勝つ!」


 そう言いつつも、再生したばっかの片腕や触手がまたも斬り飛ばされる。


 ――俺はとんでもなく甘くみていた。


 俺自身の存在が他者にとって如何(いか)なるものになっているかを。


 俺が死ねば、ワームくんやラフレシア、アルスやヒウル、ディーヴァが死んでしまう(アスカとラキューは頑張れば普通に生きられるね)。


 こいつらにとって俺は生命線であるのだ。だから俺が死にそうな時はこいつらは必死に俺を守らなきゃいけない。けれど、それと同時に俺はこいつらにとって絶対的に安心な『不死なる存在』で在らねばならないのだ。


 そうでなきゃ、俺はこいつらを自由意志を持たせたまま従わせることは出来ない。自分で動かなければ死ぬかもしれない以上、俺の指示に従う意味などないのだから。そうなると色々と不都合になるから……俺は結果的にこいつらの自由意志を奪うことになる。


 今、この瞬間、己の死相が見えるこの瞬間に『自分では何も考えず、誰かに頼り切って生き延びよう』などと甘えたことは考えるな。それで『誰かの死を恐れる少年』に手を出させてしまうことを(はじ)だと思え。


 この世界に魔法はあれど、奇跡はない。少なくとも、仮にあったところでそれに(すが)るほど今の俺は弱くはないのだ。むしろ奇跡に(さら)されて負けてしまうか、誰かの奇跡の元となる強さを得ている。


 だから上に立つ者の責務きせきを果たせ。そうでなければ、勇者くんを地獄(この世)に引きずり込んだ責任を背負えない。


「そこで見とけ! 親が子を守るのは当然のことだ! その逆なんてとんだ笑い(ぐさ)になっちまう! だから――」


 俺は俺自身が出来うる限り、最大の不敵な笑みを浮かべて見せる。


「俺がこのポンコツ欠陥兵器、ぶっ倒してやるよ」


《やってみろ、豆苗(とうみょう)が》


 俺が挑戦的に宣誓(せんせい)すると、人造勇者がいくら切ってもにょきにょき生える俺を見て、小さく吐き捨てる。


 やってやろうじゃないか。


 でも一つ言わせてもらいたいかもしれない。


 ……ラフレシアの声で俺を食べ物に例えるのは止めていただこうか。

次回更新は9月15日23時の予定です。

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