理不尽さは戦い続けるには必要なこと
アロマさんに案内をされて、ラピュセルの都市を歩く。
商業都市というだけあって、やっぱり活気があるね。それと監視人さんに案内されてる時に思ったんだけど、人狼の国だけあって人狼は多いけど、普通の人間やいろんな種族の方がいらっしゃる。
アロマさんいわく――、
「周辺の農地経営は人間の方達がやってるんだ。で、そういう人達が作った農産物がここに集められてるって感じ。その他に最近は色々と大変になってる西からドワーフとかエルフが工芸品とかを卸に来たりするね」
――だそうだ。
《形式は違うけど、私達が運営していた時と同じ感じだね。こっちは科学都市みたいな感じだったけど》
ラフレシアがボソッと補足してくれる。
ラピュセルって兵糧はクソ強国家みたいだ。だからクレセントがダメダメな支援をしていた時も耐えていられたし、なんならプレイフォートに食べ物を送ってさえいたそうだ。そうして得た資金を軍事費に回してどうにか戦えていたみたいだな。
まあ、それとブラーカーさん達が怒り狂っていたせいでまともな軍事行動を行えてなかったというのが大きかったみたいだけど。周辺の集落を積極的に攻撃されてたら、結構ヤバかったらしいね。
《立地としては魔界が近いけど、他方面にアクセスが出来るから通商もやりやすいしね。近くに流れる河川は平底船を使えばプレイフォートに安価かつ大量に物資を輸送出来るし。ただ時期も限定されて、その上……たぶん通行料とか取られるのが厄介だったかもね。……スコール達がダラー達に今やってる交渉もそのことを考えた上での『転移』に関する技術をどうにか手に入れようとしてるし》
なんかわからんが色々あるみたいね。
――プレイフォートでは、活気があるのは市場を中心としたところだったけど、ここはいろんなところがガヤガヤしている。
特に工房っぽいのが多く見受けられる。
それをアロマさんに聞いたら、
「工芸品とかを卸にきたドワーフやエルフが居着いて、工房を立ち上げたりしたんだよね。食べ物以外にも『素材』も多く集まるから。魔界に近いっているのも何気にアドバンテージで腕っ節がある人達が依頼を受けて、魔獣系の素材を取ってくることもあるんだ」
はえー、そうなんだ。
だから冒険者とはまた違う傭兵集団も多くいて、ブラーカーさん達との戦闘に参加させてたらしい。けど、国所属じゃないから士気はそれほど高くなかったらしく、つよつよなブラーカーさん達の相手では依頼そのものを受けてくれなかったり、すぐに撤退しちゃったりと役に立たなかったみたいだけど。
それと――――スラムっぽいところも多くある。
《商業国家だと一山当てられる、って思う人が夢と希望を抱いてやってくるけど、そんな雑にやってきて成功するのは一握りだから……まあ、そのたくさんの無一文になった『一握り以外』がどこに集まるかっていうと、都市の空白のスペースだよね》
さすがに都市の中にデカいスラム街はなかったけど、都市の外側――ちょっと危険な魔界側には音を聞いた限りだとそれなりにデカいスラム街っぽいのがあるのを探知出来た。
基本的に煌びやかな衣装を身に纏う人ばかりだけど、時折、視界の隅にボロをまとった人達が見えていたのはそういうことだろうね。
何気にスリとかも多くいるから、注意が必要だ。俺も何回かスラれかけた。けど、感知が無駄に優れている俺はスリ師を事前に感知して、ヌルリと回避していた次第だ。
危害は加えず、とにかく回避してんだけど……妙に回数が多いんだよなあ。てか、周りの方々から「お金ないなった!」的な悲痛な叫びはあんまり聞こえてこないし。
……周りの一般人に比べて俺のスリに遭う回数が無駄に多いのは、無駄にお金が入った袋を出していた上に、目立つ見た目+明らかに魔物だから場合によっては被害者ぶれるとか考えてのことだろうか。俺に襲いかかられて生き延びられれば、ワンチャン兵士さんや傭兵さんに倒してもらえるとか思ってるんかな。
まあ、俺は襲わんけど。お金を取り返した後に、危害を加えずに全力で煽り散らかすつもりだけど。
……。ちょ、ちょっと盗まれて追いかけたりするのやってみたいかもぉ……。
(やめとけよ。迷惑かかるから)
ミチサキ・ルカに釘を刺されてしまった。
ちなみにですが、後ろについてきている三人にも少額ながらおこづかいを持たせてるんだけど……ヒウルは被害ゼロでディーヴァは一回遭って、ラキューは今のところ全敗だった。
ヒウルは視野が広いのと無駄に周りの視線を集める性質のせいで、スリが出来ないみたいだ。勇敢なスリが挑みかかったが、盗る寸前で捕まえられて御用となった。
ディーヴァは注意力が散漫なため、一度被害に遭ってしまい、それからは警戒して防止出来ている。けどちょっと油断し始めた辺りでスられそうな気配がある。
ラキューは、まあ、うん。ラキューって色々とセンスの塊で天才ではあるんだけど、日常生活ではポンコツだからなあ。あと、子供並に注意があっちこっちに行く上に見た目が豚だから舐められてるのか隙あらば盗まれてしまうみたいだ。
まあ、スラられたらすぐに気付いて、自分で追いかけて行って結果的に取り返すから被害総額は0なんだけどね(その追走劇を見て、俺もやってみたいなあって思ったんだよね)。
俺はふと思い立ち、振り返って三人に向かい合う。
三人は俺が言った「状況 (相手)に合わせた立ち振る舞いをしろ」の言葉を真面目に従って、俺の後ろに付き従う感じにした三人はやや仰々しい雰囲気を醸し出している。
まあ、ヒウルは良い。筋骨隆々な見た目で、胸を張ってのっしのっしと歩く姿はとても威圧的で合っている。
「改めて付き従う者として見た場合……ヒウルは見た目とマッチしてるけど……」
ディーヴァはヒウルっぽい歩き方をしている。大股でのっしのっしと歩き、拳を握って、大手を振っている。美人な見た目なので、これがまあ合わない。ディーヴァって変化を厭わず、色々と試すんだけど基本的に人の真似をする性質があるんだよね。別に悪いことではないんだけど、『他人が成功または正しいと思われること』が自分に当てはまるわけではないのを理解して欲しい。
つっても、それを言葉で伝えたところで『じゃあどうすれば良い』って混乱させるだけだから、やり方は否定しない。つーか、本当に人の真似をすること自体は間違いじゃないからな。
「ディーヴァは、うーん、ヒウルっぽい振る舞いは似合わないなあ。デカくなって筋肉もりもりになれば、その歩き方は似合うけど……」
「ヒウルみたいな見た目になるのは嫌です。筋肉もりもりより細くて柔らかそうなのが良いです。……この場合、どうすれば良いんですか?」
とのことなので、仕草を変えられそうですね。ちなみにヒウルはディーヴァにそんなことを言われて、ちょっとだけしゅんっと落ち込んだので脇を叩きながら、「ディーヴァは筋肉質な見た目になるのが嫌なだけであって、別にお前が嫌なわけじゃないからな?」と言っておいた。ディーバも首を傾げながら、「当然じゃないですか?」と言う。うーん、言葉って難しい!
んで、ディーヴァは反対側に首を傾げる。
「それでどうすれば良いんです?」
「しずしず歩くか、セクシーに歩くか……その際の歩き方は…………わからん。アロマさん、なんか良い感じのある?」
「え? えーっと、そういうのは……うーん」
アロマさんは腕を組んで眉をひそめて悩む。
「無難に綺麗な歩き方をするっていうのもありかなあ。まず胸を張って――」
「むんっ」
ディーヴァは背を弓なりに反らす勢いで胸を張る。
アロマさんは笑いながら、ディーヴァに近づき、背と胸に手を添える。
「反らしすぎ、反らしすぎ。不自然にならないように、そうそう。それで顎を引いて……」
「むむんっ!」
ディーヴァは顎肉が蓄えられるほどに顎を引く。……ちょっとわざとやってません? まあ、楽しんでるのは確かだろうね。
「はい、やり過ぎ。それだと可愛くないからね。何事も程よくバランス良く」
そう言いながらアロマさんはディーヴァの顎に手を添えて、角度を整える。
「歩く際は足音が立たないように、かつ自然に見せるには踵から地面につくようにすると良いよ。歩き方は内股にならないようにした方が合ってるかなあ? あと上下にブレてひょこひょこした歩き方より、芯が通ってた方が綺麗かもね」
「かの地域には正中線をブレさせず歩くことで、隙を消せる御殿手という歩法があるらしい……」
俺が両腕を上下左右に構えて真面目な声色で言うと、ディーヴァも真似するようにバッと両手を挙げる。
「うでぅんでぃ!」
「アハリートさん、ちょっと黙ろうね」
「うっす」
アロマさんに怒られちゃった。
「良い感じかなあ。あっ、指先は伸ばして身体に沿うように歩く時は緩やかに振る感じで。あと服装も揃えれば、もっと良くなるかも。ディーヴァちゃんの見た目的にヒールとか合いそうだし。確かエルフの工房でそういうのが……」
結構、熱が入り始めた。ディーヴァも興味がわいたのか、おふざけはなりを潜めて、真面目にふんふんと聞いている。うん、服装に関しても言及してくれるのはありがたい。これまた悪いことではないんだけど、皆と合わせたがるからね、あの子。
……服装とか合わせるのはチームや組織を運営する上で割と必要なことでもあるんだけどね。ある種の一体感とか、『その組織に属している』っていう指標にもなって強い結束にも繋がるらしいよ。
それを取り入れても良いけど、俺らは変幻自在が特徴でもあるからね。下手に縛るのもちょっと駄目なのだ。
「ぷぎっ!」
俺はちょっと暇になったのでラキューの前にしゃがみ込んで、目を合わせて見る。身体の横につけたお駄賃袋以外に服は着ていない。でも首元に赤いスカーフは巻いていて、それなりにオシャレだ。これはヒウルも俺も一応、つけている。もちろんそれを求めているディーヴァも。……まあ、こういう特徴があっても良いかもね。
「ぷぎ、ぷぎゃ、ぷもん!」
そんでもってラキューが何か訴えかけてきている。なんざましょ。
「どうした」
「ぷぎん、ぷも、ぷー」
「…………」
「ぶひんぷもぷも、ぶー」
「ごめんわからん」
「ぶぎー!」
ラキューが怒ってスネにかみついてきた。ごめんて。
しっかし、なんで俺ってラキューの考えてることわからないんだろうなあ。
「『私も何か改善するところがあるでしょうか?』と、訊いて、いる」
するとヒウルが一歩進み出てきて、説明してくれた。
「なるほど?」
確かにラキューは求めるように目をキラキラさせている。……この子はこの子で子供っぽいところがあるから、ディーヴァと同じようなことを望んでいるんだろう。
「うーん……」
あるかなあ。
「ぷぎ!」
ラキューが俺の目の前でテクテクと歩く。目線だけをこっちに向けてくるから、何かを求めているのがわかる。なんか言って欲しいっていうのが伝わってくる。
……特にないかなあ。俺は『四足歩行』ってスキルがあるけど、四足で歩くことに詳しいわけでもないから。
「ないよ!」
「……!」
ラキューがショックを受けたような顔で、わなわな震えてしまう。
「ショック受けるなって。今のところお前は完璧だからな。なんかあったら、ちゃんと言うからな? それとヒウルもな?」
俺はラキューのほっぺをむにゅむにゅしながら、ヒウルを見上げて言う。
うん、これについては本音だ。直すべきところはちゃんと指摘する。もちろん、『それは駄目』だけで終わらせないけど。ちゃんと解決策も提示しないとね。
それに合わせてちゃんとこいつらの好感度も上げておかないといけない。
嫌われると『理由も意味もないけど、とりあえずお前の意見は全否定』になっちゃうからね。
要は『敵』として認識されちゃったら、もう俺はこいつらとは完璧な主従関係にならざるを得ないからな。
でも、そうなると自由意志がなくなって、自由な行動もなくなって、結果的に自由な能力に制限をかけちゃうかもしれない。それが嫌なのだ。
ああ、ちなみに話は変わるけど相手に何かをやって貰いたいなら、好感度上げは必須だ。もしくは権力を持って、従わせるとか。
下や同じ立場で好感度が低いなら、従う理由なんてないからね。相手がどんなに正しいことを言おうと関係ない。言うことを聞かない理由なんて『気に入らないから』で十分なんだから。
ひっでえ考えだけど、気に入らないから従わない、は間違いではないんだよ。
そもそも何かしら漫画やらゲームやらの主人公が敵と対峙した時、相手の言い分が狂っていてもどこか否定しづらい場合、『特に反論は出来ないけど全否定』するでしょ?
この『否定』って相手と戦い続けるための手段でもある。これまたひっでえ話だけど、最終的に周りの賛同さえ得られれば、どんな理不尽なことを言っても良いのだ(そんでもって言葉で戦う場合は相手と直接ってよりかは、上の人間とか周りの人間を味方につけるのが正しい。敵対してる相手とレスバしても、どうせどうやったって平行線にしかならないんだから)。
けれどこの相手を否定し続けることって、言葉の武器を持つこととも言えるものだから、その『武器』の扱いには気をつけなきゃいけない。武器なんだから勝ちやすいのは当たり前で、勝ったとしてもそれは『正しさ』には結びつかないんだ。
言葉で戦うなら、武器を持ってる自分を意識しつつ、戦い続けないといつかどこかで狂うからな。
と、ここで閑話休題。
なーのーでー、俺はこいつらに対して割と注意を払って接しなければならない。一つの言葉で良くも悪くもなっちゃうからね。力関係は俺が確実に上で、俺が否定したら、こいつらは従わざるを得ない。
幸い俺には助言を授けてくれる人が周りにいっぱいいるから、知識とか思想の補完が出来る。そうそう否定に頼る必要はないはずだ。
――そしてそれらを踏まえて――、
(ラフレシア。満足? それと良い感じのものは見つかった?)
《満足。……美味しいって思えるものはそれなりに見つかったよ。……これで勇者は大丈夫なの?》
(さあね。生きるっていう目的に沿う『何か』はそう簡単に見つけられないから。生を諦めてるなら、その諦めてる理由をまず探らないといけないし)
何にしても対話は必須だ。死にたいです、そうですかさようなら、とは絶対にせんぞ。……だから、一旦魔王様を召喚して色々話を聞いておきたい。
たぶんだけど、予想が正しければ糸口はあるはずなんだ。それを確固たるものにして、勇者との対話に挑みたい。場合によっては全力の否定をして、死ぬことを諦めさせる。
俺はそう決意して、今度は服を買いに行くのであった。
次回更新は7月21日23時の予定です。




