進化しましたわよ
『『らぶあんどぴぃす』への進化が完了しました。進化により『感情抽出』『感情増幅』『感情付与』『クリーンルーム』『加圧』感情スキル『幸福』を取得しました』
はい、進化しましたよっと。感情スキルを手に入れたよ。珍しい。
『――条件を満たしました。『精神汚染※』『精神波』『感情抽出』『感情増幅』『感情付与』を統合し、『洗脳』に出来ます。統合しますか?』
あら、嬉しい。統合スキルになる。もちろんしますよ。
『確認しました。『洗脳』を取得しました。――条件を満たしました。属性『宗教家』を取得しました』
属性も手に入れたか。……あっ、もしかしてこれは……、
『――条件を満たしました。『洗脳』――属性『宗教家』を統合し、『溷濁ノ邪龕』に変化出来ます。統合しますか?』
あらまあ、最上位スキルにもなっちゃったよ。大盤振る舞いだなあ。
もちろん――、
「ああ、宿主、ちょっと待ってくださーい」
と、ディーヴァの声が聞こえてくる。なので、ちょっと中断。
んでもって、改めて身体を確認する。
視界がたくさんある。……けど、レギオンの時と違って『同期』する必要のない目だった。つまり、完全な俺の目がたくさんあるのだ。
《うわあ……》
ラフレシアのドン引きしている声が聞こえてくる。
俺の周りを飛んでいるラフレシアの目と『同期』して、俺自身の身体を見ることにした。
……おぉ、完全に『人間』の要素がなくなっちゃった。
身体の構造としては、レギオンに似ている。上部と下半身と脚(手)みたいな感じだな。ただ形状は全く違う。
上部が……形状としてはなんだろう、これ……。あっ、あれだ! ホヤだ、ホヤ! 穴だらけのホヤがドカンとあるのだ。穴の他に目玉がたくさんついていて、それが俺の通常の視界となっている。薄い膜が張っていて、グリグリと動くぞ、この目玉。
んで、頭頂部には棒が伸びていてそこになんか丸い葡萄みたいな袋がたくさんある。袋には特に何か液体とかが入ってるわけでもないみたい。そのさらに上には……チューリップみたいな形をした固そうな部位がある。かぱっと開くようで、中から…………あれだ、ウォーターソーセージみたいなのがたくさん出てきた(日本名だと蒲か?)。 で、その部位を露出させてわかったんだけど、これは『耳』みたいだ。
これを露出させたと同時に、音がより鮮明になったのだ。たぶんかなり高性能だ。指向性をつけられたり、エコーロケーションを行えたり出来るだろう。そしてかなり敏感であるため、以前より遙かに音に弱いはずだ。
んでもって、それを保護するためのチューリップ型の外骨格だろう。これの中に収まっていると音が弱まる。つっても、普通に過ごす上では問題ないレベルだ。むしろクリアになっているっていうか……。……もしかしてノイズキャンセリング効果があるのかも。この中に収まっていれば、以前より遙かに大きい音に強くなるかもね。
んで次は逆に下の方……ホヤの下部にはラッパみたいな……たぶん『口』がたくさん垂れている。それと触手だな。
そんで下半身は……棒状に伸びていた。前まであった大きな口もなくなって、ちょっと悲しい。棒状の部位には……葡萄みたいに頭がたくさんついていた。その頭部には目と鼻はなく、顔面にぽっかりと口のような穴がある。穴はすぼんで小っちゃいけど、たぶんこれすごく伸縮性があって広がる奴だ。
それと魂と核があるな。たぶん以前の上半身の上半身共みたいな感じなのだろう。でもレギオンの時と違って勝手に動き出す様子はない。ワームくんを入れなくても、完全に俺の支配下にあるみたいだ。……ただ油断してはいけない。こういうのは取り外すと凄い勢いでどっかいっちゃうかもしれないから、注意して扱わないと。
そんでもって1メートルぐらいある棒状下半身の下に脚がある。今度はしっかりと手じゃなくて、馬とか牛みたいな脚…………とか思ったけど、これでっけえ指だわ。さっきの人狼さん方がされていたみたいな、あれ。
俺の場合は一本のでけえ指が蹄みたいになった爪で大地を踏みしめている。
うーん、今の俺の全体の形状を何と言い表すべきか。……見たことあるんだよなあ。
あっ、ウィルスだ! T4ファージとかそんな名前だったっけ? あの形状と酷似している。
「あーぅー!」
声を出してみる。すると、ラッパの方ではなく葡萄頭から声が発せられた。特に考えずに声を発したから、全ての頭が音を発して、ビリビリと周囲を揺らす。
想像以上に音がでけえ。スピーカーだ、これ。しかも棒状部位の底に以前のようなデカい口があるかもしれん。そこから空気を吸う、ひゅごううという音が聞こえてきたのだ。
歩いてみる。ドスドスと前より重々しい足音だ。そういや脚が『∧』みたいな形状になってるから、レギオンより体高が上がってるんだよね。
まあ、多少縦長だけど元饅頭下半身部分にあたる棒もかなりぶっといから安定感はかなりある(実際、増えたのは横幅だったりする)。脚もたくさんあるから、倒れることはないだろう。
…………んで……ディーヴァ達どこ行った?
影も形も見当たらないんだけど!?
「皆さんどこですか!?」
「ここでーす」
「ぷぎっ!」
俺が焦って声をかけると、ホヤ頭部の穴からディーヴァとラキューが顔を出す。なんか可愛い。あとちょっと濡れてる? 出てきた時、びちゃびちゃと少なくない量の液体も溢れてきた。
「あら、そんなところから」
「宿主のこの中、空洞になってますよー。ワームくんもたくさんいますね」
「へー」
俺は眼球をめり込ませて、内部を見やる。ついでに明かりも灯す。
確かにホヤ頭部の中はほぼ空洞になっていた。そして変な液体が満ち満ちている。でも酸ではない。しかも不思議なことにワームくん以外の寄生虫がいなかった。
その液体内を泳ぐようにワームくんがうじゃうじゃいる。たぶん今までレギオンの上半身達に入っていた個体だろう。……俺の動きは阻害されないから、もう大丈夫になったか……このホヤ頭部内限定の仕様だろうか? 『クリーンルーム』っていうのも手に入れたし、それが関係しているのかもね。
そんでそのワームくん達がうじゃつく合間にヒウルとアルス、ついでにミチサキ・ルカがいた。アスカは水死体よろしく漂っている。
「あら、そんなとこにいたの」
(気付いたらここに入ってた。下半身ついてるし)
ミチサキ・ルカは肌が水死体並に白いことを除けば、生前の姿をしていた。今までは適当な人間の上半身になっていたからほぼ無個性(人間型は禿げ細身だ)だったんだよね。
ちなみに魂は宿っているけど、繋がりを強くするためのもので本人のものじゃない。
「ああ、そういや、さっきのディーヴァだよね? なんかあった?」
俺は外に顔を出しているディーヴァに問いかける。
「そうです、そうですー。属性の『宗教家』っていうのを手に入れたじゃないですかー。それどんな効果なんですか?」
「どんな効果なんです?」
俺は宙に浮かぶラフレシアに問いかける。
《えーっと……精神に働きかけるスキルが強化される代わりに、精神に影響を受ける何らかの要因に悪い影響を受けやすくなる、みたいな感じ》
「さっさと統合した方が良いな」
俺が持ってたらヤベえことになる奴だ。嫌だよ、頭がイカレて周囲に迷惑かけまくるのは。最悪誰かに操られるとかありえるかもしれないし。
「私、それ欲しいです!」
俺がさっさと最上位スキルにして消しちまおうかと思っていると、ディーヴァが、ずぼっと手を出して挙手してきた。
「欲しいって言われてもなあ。……ラフレシア? コピー出来る?」
《使えるようにするには時間がかかるけど、コピーはすぐに出来るよ。最上位スキル化は少し待って貰うけど。この属性って『私達』が取り扱ってたジョブみたいなものだから、私なら扱えると思う。保存しておける魂もたくさんあるしね》
「なら、お願い」
「やったー!」
喜ぶディーヴァだ。
まあ、精神に影響を与える力を強化出来るものだからな。かなり心引かれるだろう。ただし属性はデメリットもあるから注意していかないといけない。
そこら辺、ラフレシアに調整して貰わないとね。出来るのなら、だけど。
さて、身体についてとりあえずこんな感じで良いだろう。ホヤ内部に満ちている液体はなんだとかは後だ。成分を調べるためにゴブリンを使うか……それかアンゼルムさんに調べてもらうか。アンゼルムさんは、アスカ経由で呼び出せるだろう。
次はスキルの確認だ。
まず『洗脳』に統合された『感情なんたら』のスキルだな。
《『感情抽出』は……相手の感情を物理的、概念的に抽出するスキルだね》
「物理的はなんとなくわかるけど、概念的って?」
《簡単に説明すると物理は脳内の物質を直接吸い出すのに対して概念は、喜怒哀楽を魔力で再現する感じだね。概念的の方がコストが少なく、抽出した側に負担をかけにくい仕様だけど、魔力で構成されたものだから他人に『入れる際』に掻き消されちゃうみたいだね。物理的は脳内に再現された感情を司る物質をそのまま抽出して保存するみたい。もちろんこっちは負荷がかかるから抽出した相手は壊れやすくなるっぽいね》
なるほどー。概念的な方は敵にぶっ刺すよりかは味方側専用かなあ。でも味方に使うのはやりたくないなあ。あんまり使えなさそうだから物理の方に頼ることになるけど、抽出するの大変そうだなあ。なんか『敵』を見つけてその都度、感情を抜き取っておくか。何気に使えそうだからな、これ。
《もちろん自分にも出来るからね》
「じゃあ、『人心』で人間的な感情とすごく『幸福』な思いを抽出出来るってわけか。便利ー」
俺なら多少のダメージを受けても問題ないしねっ。
「皆を真人間や幸福にしちゃうぞっ」
《……ああ、マスター汁とか入れられたら、すごいやばいことになりそう。…………あー、なんとなくわかった。人によって感情の質も変わるかもしれないね》
「なんか失礼ー」
俺がそんな駄目な人間って言いたいんですかっ。……でも、そっか、人によって感情の性質は少し変わるかもね。同じ幸福でも、細かく違う可能性があるかも。
《それで次は……『感情増幅』だね。これは文字通り、発露させた感情を増幅させやすくするためのものだね。これも自分に有効だよ。てか、本来は自分用だと思う。もう一つ、『感情付与』はマスター自身の感情を他者に伝播しやすくなるスキルだね。もちろん抽出した感情も相手に与えやすくなるっぽい》
「無理矢理相手の感情を支配する力かあ。んで、『洗脳』は……」
《文字通り『洗脳』する感じ。たぶん『精神汚染』状態にしちゃうんじゃないかなあ? 統合スキルだからもしかしたら強弱つけられて、マイルドに出来るかもだけど。『侵蝕』の精神バージョンと思っても良いかも。『侵蝕』並にかなり強力になってるはず》
「『精神波』も混ざってるから、遠距離も行ける系かな? 声を浴びせて『精神汚染』したら前と違って治らないとかになってそう」
《たぶんね。『侵蝕』と違って肉体的にダメージを与えないから、支配方面では使い勝手は良いだろうけど……》
「繋がり方次第よね。『同期』で繋がって操れないなら、下手に『洗脳』するのは止めた方がいいかもね」
勝手に動かれて、『俺のために』あちこち悪さされても困るし。
ちょっと、早急に使い勝手を確かめて『混濁ノ邪龕』に移行するか考えないとね。もし『洗脳』に何かしらのパッシブ効果があるならラフレシアに頼んで『宗教家』は一旦消して『混濁ノ邪龕』にするのを見送るかも。特に懸念している『姿を見ただけ』で『精神汚染』が広がるなら、最上位スキルにするのはかなり怖いからね。
《えーっと、次に行くね? 『クリーンルーム』は本来、あらゆる存在を生存させる空間を創り出す空間魔法スキルだね。いわゆるリディアの『理ノ調律』の他人もいけるバージョンだね。まあさすがに火で炙ったり、凍らせたりするのは駄目でもマスターの毒とか寄生虫では死ななくなるはず。それでマスターの場合は、たぶんその空洞になってる頭部が対象になってるかも》
「ラキュー達以外を入れても死なないんかな?」
《たぶん》
「じゃあ、ちょっと――」
俺がゴブリンで試そうかなあと近くにいた奴を持ち上げたところ――、
「ゴブリンは嫌ですー」
「ぷぎー」
ディーヴァやラキューのみならず、アルスやヒウル、ミチサキ・ルカ、果てはワームくんが出てきて、手や頭をプラプラと振って『やめてくれ』のポーズをとってきた(アスカも真似してるけど、たぶん気にしてない)。
多数決で負けたので、俺は素直にゴブリンを下ろします。
なんか適当にそこら辺にいる野生動物を捕まえて突っ込んでみよう。
《次は『加圧』だけど……これは圧力をかけるスキルだね。……うーん、どこにかかってるんだろ、これ。さっき、声を出すときに息を吸い込んだけどそれかなあ? もしかしてコンプレッサーみたいな役割を持ってる?》
「コンプレッサーって圧縮空気を作るものだっけ?」
《転生者達にそう聞いたことはある。前より大声を出せたり、燃料の噴射に役立ったりするかもね》
イマイチ効果がわからんスキルのようだけど、もしかしたら圧縮空気で空気砲とか出来るかもね。ちょっと夢が広がるかも。
《感情スキルの『幸福』の説明は別にいらないよね?》
「うん。……あっ、これちょっと幸福な気分に意図的にしやすい感じがするようなしないような……」
《『宗教家』もあるから『幸福』キメ過ぎないでね》
そうだね。幸福トリップし過ぎて幸福は全てに優るものです。皆さんは幸福でなければなりません、とか言い出したらやべえからね。しかもこれ、仲間に簡単に伝播できちゃうから、いとも容易くやべえ集団に早変わりしちゃう。今の俺らって、表面上はそうじゃないけど潜在的に大きくぶっ壊れそうな危険性があるな。おー、怖い。
……まあ、いいや。身体とスキルについてはこんなもんすかね。あとはよくわからんこと……ホヤ内部の液体とか葡萄頭について確かめないとね。あと『洗脳』の詳しい効果だな。
あっ、そうそう。『肉体改造』のゴブリンを進化前の身体に張り付けていたけど、あれはどうなったのやら。気付いたら足元にそれらしいゴブリンが落ちてるから、同化はしなかったんだろうけど……(ゴブリンキングは売る予定のでさすがにくっつけずに放置です)。
では諸々、張り切ってやってこー。
次回更新は6月9日23時の予定です。もしくは6月2日12時に投稿するかもしれません。




