えげつねえのは一緒だろ!
俺が生きてるゴブリンをプチプチ潰していると、狼になっている人狼のお姉さん方は、きゃっきゃっとどこを盛るか(もしくは減らすか)、楽しそうに語っている。
良かった良かった、整形まがいなことだけど抵抗はないみたい。むしろ乗り気で良かったよ。全く同じに戻すのはたぶん無理だからさ。
……うーん? なんだろう。あの雰囲気に似たものを読んだ気がするぞ。
……あっ、思い出した。
(ハーマイオニーだ。あれと一緒だ! つまり同じこと……言うなれば、歯ーマイオニー現象……!?)
(歯ーマイオニー言うな)
ハリポタでハーマイオニーがマルフォイに歯を伸びる呪いをかけられちゃったんだよね。それで戻してもらう時、本来の大きさより小さめにして出っ歯を治して貰うというくだりがあるのだ。
(あれって原作の何巻だっけ?)
(炎のゴブレット辺りじゃなかったか?)
大体その辺りよね。不死鳥の騎士団以降だと、ホグワーツでのほのぼのが消えちゃうから。
俺はミチサキ・ルカとそんな雑談をしながら、洞窟の外に向かう。道中、もちろんゴブリンを倒していたけど。……ホブを合わせて倒して、ようやくレベル69になった。俺でさえも数十匹――下手をすると『精神汚染』のショック死でもっと倒していて、それだ。
ほんと脅威度に対して旨味がなさ過ぎるな、ゴブリンって。
だから気絶していない他のコロニーにいる奴らをおびき寄せようと思う。
やり方は簡単だ。声を出す、それだけ。
(ラフレシアー、『鬼胎』も『精神波』も乗せなくて良いんだよな?)
《大丈夫なはず。キングから流し込んだ『精神汚染』は『孤苦零丁』と違って、一時的なものじゃないから今も精神はおかしくなってるはず。きっとマスターの声を聞いたら喜んで寄ってくるよ》
俺の『精神汚染』を受けると、世界の全てがヤバい状態に見えてしまうらしい。けれど唯一、俺だけはそのヤバい世界の中で美しく見えるらしい。もちろん声も例外ではないから、大声を出せば声につられて他のコロニーにいるゴブリンが寄ってくるはずなのだ。
なので、外に出て大声を出しました。これでしばらく待てば、寄ってくるだろう。その中に『肉体改造』が出来るゴブリンがいればいいね。気絶していても、グリムさんが連れてきてくれるだろう。
――最悪、『肉体改造』ゴブリンが死んでた場合、お姉さん方の肉体を新しく作ることになる。魂が破損しちゃわない方法も一応、考えておくか。俺の身体にぶっ刺して、『魂隔離』とかを駆使すればワンチャンとかないかなー。
でも、俺の身体にぶっ刺されるのは、さすがに生理的に無理だろうなー。
そんなことを考えながら待っているといくつもの足音がこちらに近づいてきていた。
「ギャアアギャアア!」
「ゴブ、ブゴアギィア!」
そんな必死な叫び声を上げて、そいつらは草木を掻き分けて走ってきた。無数のゴブリンが押し合いへし合っている。そんで俺を見つけると目を輝かせた。息も荒く、まるで神でもみるような目をして――実際、地獄にいる救いの神に見えているんだろう――さらに速度を上げてきたのだ。
俺はそんな哀れな緑色の妖精を抱き留める。
「おーよしよしよし。……服着てない奴以外は即殺でオーケー?」
《どうだろう。混乱して服を脱いじゃった奴もいそうだし。だから一匹ずつやってもらえると私も確認しやすいかも》
ということで間引いていきまーす。
で、結果的に言うと『肉体改造』ゴブリンを見つけられて、その上、俺はレベル70になれたよ! ちなみにスキルに変化特になし。内在魔力の総量が上がっただけだね。
進化先は『だんご』『むかで』『らぶあんどぴぃす』『わぁるどうぉお』『ひゅどら』だねっ。……なんかわかんないけど、今回の進化先、子供に言い聞かせるような感じなのが気になった。そのことをラフレシアに言ったんだけど……。
《たぶん頭おかしくなってる前提で気を遣った煽りをしてるんじゃないの、『制定者』が》
そいつはひでえ。
《絶対に楽しんでると思うよ》
話を聞く限りでは『制定者』ってそういうこと、愉悦目的でやりそうだよね。でもある意味、俺とは気が合いそうではある。俺のことは何認定するのかしら? 人間認定じゃなかったら、仲良くなれそうだよね。
《はーい、皆さーん。こちらにいらっしゃーい》
ということで、準備を済ませました。『肉体改造』持ちのゴブリンが二体くらいいたので、そいつらを『魂支配』したよ。『侵蝕』の方が楽にセッティングが出来るんだけど、色々と精度が悪くなっちゃうからね。
んでもって、アスカを用意しておっとり系のお姉さんを治療開始ー。手足の指がくっついて、爪が分厚く蹄のようになっているため、そこをまず治す。
ゴブリンを使って、『肉体改造』をするとわずかにチリチリと音がして、肉体が変化していく。
「く、う――」
おっとり系お姉さんが痛そうな声をあげる。
指が分かれる時、血が滲み出てきたので、しっかりとアスカに輸血と酷い場合は止血してもらう。んで、かなり集中して指の形をしっかりと整える。
改めて感じるけど、俺ってやっぱり目はそんなに良くないんだよな。
「もうちょっと肌の質感をー」
とか言われても、違いがわからんかった。
俺より感覚的にマシなミチサキ・ルカや人間の感覚の細かい部分はわからないが目が俺より良いラフレシアに頼って(アスカも良いけど、『良い肌』がわからない)、なんとか手足は元通りに出来た。
んで、その次、おっぱいを治すのがしんどかったね。なので省く。
男なら喜ぶところだけど、俺の体内には下ネタ嫌いの妖精と精神は普通の女子の男子、『そういうことはわからない』から興味津々の妖精がいるんですよね。
そんな三人に見られながら施術するのは、気まずいっての。
おっとり系お姉さんからすれば、俺は単なるアンデッドだから気にしないんだろうけど(それどころか可愛い声が出るから性別は雌だと思われてるかも)。
そんなわけで早く終わらせたかったんだけど、胸はむしろ多めにリテイク重ねられてしまう。
さすがに隊長さんに怒られて(下手をすると日が暮れかねなかった)、渋々ある程度の形を整えて終わることとなったけれども。
「時間があったら是非、もう一度っ!」
(見た目)おっとり系のお姉さんから、たじろぐレベルの気迫を出されて俺は頷くしかなかった。
次はクール系のお姉さんを治したよ。こっちは初めからある程度の形を指定して貰って、それの通りにやったから楽で良かった。まあ、やっぱり肌の質感では少々つまずいたけど、手足の形や胸などはすんなり通ったよ。完成形はスレンダーですね。すらりとしていて、美人さんです。切れ長の目もマッチしておりました。
そんでもって、最後は隊長さんだ。
「俺は……とりあえず性器と胸を元通りにしてくれたら、それで良い」
《了解です。筋肉は全体的につけておく感じに……イメージとしてはカミソリのように鋭い、みたいな感じでよろしいでしょうか?》
「なんか詳細だな。それで頼む」
隊長さんが苦笑していたけど、承諾を得られました。
っぱ、筋肉は大事よ! 隊長さんは骨格からして程よい細さをしているから、無理につけるのはおすすめはしない。まあ、後のトレーニングによって筋肉量を増すのは否定せんし、是非ともつけてもらいたいが、自然体の筋肉はつけすぎは良くないからね。
無論、骨格が素晴らしいならそれに合わせて筋肉ももりもりにしたいけど、隊長さんはそうでもないし。
(……そうは言うものの雄っぱいのデティールは困るね。やっぱり雄っぱいなら雄っぱいらしく膨らんでいるのが素晴らしいと思うのですが)
(同感だけど、その雄っぱいだと全体的に筋肉を盛らざるを得なくなるから、この人には合わないんじゃないか? あとシックスパックも程よい感じにして――)
ミチサキ・ルカが助言をしてくれる。やっぱり男の人の身体に興味がある人だとわかり合えますね。
「私はマッチョが良いでーす!」
「私は細くても……」
俺が筋肉の造形に悩んでいるとおっとり系お姉さんとクール系お姉さんが手を挙げて言ってきた。おっとり系お姉さんはクール系お姉さんにむぐぐ顔を向ける。
「これは勝負しないと駄目かなあ?」
「……普段なら譲るけど、これに関しては……譲れない……!」
「なんで争う。そもそもお前らが決めるな」
なんかバチってる二人を見て、隊長さんが呆れたようにため息をついた。そんな隊長さんにおっとり系のお姉さんが驚いた顔を向ける。
「いやいや重要でしょう! 今後、伴侶になる方の肉体が決められるんですよ!? 精神性は確かに大事ですけど、見た目も大事です!」
素直やね、この子。
「……あれのことか。……別にもう良いだろう。元の身体に戻ったんだから。俺じゃなくても問題ないはずだ」
そう隊長さんが言うと、二人が顔を見合わせて、わなわなと震え出す。
「酷い……」
「そうですよお! なに言ってくれてんですかあ! 私達は『ゴブリンに捕まって出産』させられていたんですよお!? 挙げ句に『肉体改造』されて家畜化されて! そんなの――そんなの、すぐに広まるに決まってるじゃないですかあ!!」
詳細を知っているのはこの三人だけだから、俺や三人が言わなければ……と思ったところで違ったわとなる。ゴブリンがこの子らを使えないと判断したら、殺されているはずだと俺らはそう予想したんだ。その予想を他の人狼達がしないと思えない。
そういう噂が流れれば、まあ、色々と『不利』になるだろうね。
「なので隊長には私達二人を娶って貰います! 法律上、一夫多妻でも問題なかったはずですし! 今は親子の近親婚並にやってる人なんていませんけど!! でも出来ますし!!」
「そ、そうか」
おっとり系お姉さん(仮称)の気迫に押される隊長さんだ。
人狼の婚姻関係って色々と自由度が高いね。まあ、昔は人狼の総数が少ないとかで、形振り構ってられなかったっていうのがあるんだろうけど。
《はーい、それでは今のところ筋肉に関しては程よい感じにして、後々隊長さんに鍛えるなどして決めて貰いましょう。んで、次はちんちん!》
「大っきく!!!」
「あー……うーん……それはどちら、でも? ……直接、聞かれるのは……私はどうも……」
おっとり系お姉さん(肉食)がガツガツ言ってきて、クール系お姉さんが困ったように頬を赤らめている。初心ですね、クール系お姉さん。
《ちなみにちんちんの素となる海綿体は血液が溜まって固くなるのですが、大きすぎると血が回らずふにゃんとなるそうです。なので――》
「最高の硬度で!!!!」
おっとり系お姉さん(淫乱)は元気よく言ってきた。正直でよろしい。
「――っ」
クール系お姉さんは何も言えないようです。可愛いですね。
「…………」
隊長さんはもう勝手にしてくれって感じで天を仰いでいた。とりあえず全裸なので、早く終わらせて欲しかったんだろうね。
ああ、ちなみにうちの妖精さんは、
《ぺっ》
ツバを吐いてましたよ。いつも通りでしたね。
「感謝する」
「ありがとーございまーす!」
「ありがとう」
そんで肉体を戻した三人は保護しにやってきたグリムさんらに連れられてラピュセルに戻って行きましたとさ。
ちなみに俺はというと最後の一仕事がある。
それは――進化だ。
この辺りは安全が確保されたので、いっそのことここで進化してやろうと思ったのだ。
……最初は楽観的に皆に見せてやろーとか考えていたんだけど、ふと思ったんだよ。前回の進化で俺は声を上げたら、怖がられるようになった。そんでもって今のレギオンでは、油断すると周囲の精神を狂わせる場合がある。……じゃあ、次は? 下手をすれば『見ただけで発狂』の可能性もあるんじゃなかろうか。
なのでここで進化して、実験用に残していたゴブリンを使って安全性を確かめるつもりだ。
もし安全でなかったら、早急に俺は『第一形態』を作らねばならなくなる。
封印魔法は俺には使うのが難しいから、イェネオさんに頼ることになる。けれどイェネオさんを狂わせずに会うにはどうするかってことになるんだよなあ。
(イェネオさんに精神耐性がつく魔道具とか買ってもらえるかなあ?)
《一応、それを伝えておこうか。――あっ、皆、買い物するらしいけど何か欲しい物あるかだってさ。オルミーガは馬車買っといた方が良いんじゃないかって言ってるよ》
(ああ、馬車か。買っても良いんじゃない? そこら辺の旅行道具の調達はお任せするわ。馬車に関しては、俺が引くから馬は要らないよって言っておいて)
《オッケー》
そうだな、そういえば馬車は大事だな。特に吸血鬼組はデイウォーカーつっても、日の光には弱いからね。肌をずっと晒してると酷い日焼けをしちゃうみたいだから、日除けの幌つき馬車は必須だわな。特に西の共和国周辺は乾燥帯、熱帯などがある暑い場所らしい。そういう日除け対策はしていかないと吸血鬼じゃなくても大変になるだろう。
それなりの人数で旅をするから、色々と考えなきゃいけないな。俺一人なら雑に移動してもなんら問題はないけど、他の人はそうはいかないからね。
食料――とりわけやっぱり吸血鬼組は何かしらの食料となる液体の調達も必要だろう。ラピュセルで買えるなら買っておいた方が良いのだ。こういう場合は保存が利くお酒とかなのかなあ? どうなんだろ。
まあ、そこはオルミーガ達に任せよう。特にオルミーガ。魔族という他種が混在していながら共存してきたから、そこら辺の配慮は割と出来るらしいね。荒っぽい性格だけれど、隊長をやっていただけあって、色々と周りに気遣えるみたいだ。
さて、俺は俺で周りに気を遣わせないようにしないとね。
……いっそのこと、進化したらしばらくこの近辺で変身能力を得るために色々やろうかな。変身系の統合スキルを手に入れられたら、それで十分だろう。とりあえず小さくなれたら、『骨成形』で作った外骨格に身体をぶち込めば良い。たぶん狂う系のなんかを手に入れても、『直接俺の身体を見たら』とかになるだろうからね。
はい、では進化先を選びまーす。
『だんご』『むかで』『らぶあんどぴぃす』『わぁるどうぉお』『ひゅどら』の五つだ。
(『だんご』と『むかで』って形状?)
《そうじゃない? 移動の強化じゃないかな? 今のマスターって足回り脆弱だし》
そこら辺の強化ね。シンプルながら重要ではあるけど……特に困っていないんだよな。
(『ひゅどら』はやっぱり王種だよね)
《だと思うよ》
じゃあ、除外だ。
(それで『らぶあんどぴぃす』と『わぁるどうぉお』はラブ&ピース(平和)とワールドウォー(戦争)ってことだよな。純粋なレギオンとして多数戦を想定した変化って感じ?)
《かもね。これまで傾向――『ピュアキュア』とかを見る限りだとろくでもない平和なのは間違いないし、かと言って戦争もえげつない殺戮能力を手に入れるのは確実だろうね》
うーん、怖い。
(ミチサキ・ルカはこの進化先は……)
(知らん。『だんご』と『むかで』『ひゅどら』は見たことあるけど、前のは『あまるがむ』と『きんきー』だったかな。それで『だんご』を選んでた。まあ、二人の予想通り移動系だったな。移動に関しては割と便利にはなってた)
なるほどー。……何気に足回りの強化って重要なのかね。鈍足なのがネックなのは確かだからなあ。長距離を移動する際に液体燃料を使って、飛べるけど制御しにくし、近距離だと扱い辛いんだよね。
ジェット移動に関してはラキューの方が扱えるから、俺はもはやガソリンスタンドだ。
(つっても、目的を考えるなら『らぶあんどぴぃす』か『わぁるどうぉお』だよな)
《当初の目的通り、獣人を虐殺するなら『わぁるどうぉお』で良いと思うけど……》
(あくまで俺が虐殺をするっていうのは、戦争を止める方法がそれしかないってだけだからな)
ジルドレイみたいにうんこを撒き散らして止まるなら、そうするけど、戦争を止めるのはそんな簡単なことではない。うんこを撒くにしても、よく考えないといけないのだ。
あっ、そうだ、一応確認。
(オーベロンさん達的に虐殺しない方が良いっすか?)
『無論だな。出来うるならその方が良いだろう。ちなみにだが我が輩が言った『暗躍する者』に目をかけられたいのなら、殺しはしない方がいいかもしれんな』
オーベロンさんがパッと現れて、そう言ったら消えちゃった。
(じゃあ、『らぶあんどぴぃす』一択だわな)
《いいの?》
(どっちにしろえげつない感じなのは間違いないから俺的にはそんな悩んではいない)
どっち選んでもえげつねえのは確実だからな! 平和なんて言っても、周囲にいる奴ら全員強制的に薬漬けにしてハッピーにするとかだってあり得るんだから! 大体、ラブ&ピースなんて掲げる奴らって、なんか『草』吸ってる人しか思い浮かばないし!!(偏見)
まあ、それでも良いけど。俺一人で獣人にアヘン戦争仕掛けちゃうぞー。
てなことで、進化します。
「『らぶあんどぴぃす』に進化する」
『確認しました。『らぶあんどぴぃす』へと進化します』
いつもの機械音声が聞こえてきて、俺の意識は闇に溶け込んでいく。
次回更新は未定です。6月2日23時には必ず更新します。




