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思ったより、そんな危なげない

 はーい、ゴブリンキング戦いっきますよー。


《ホブの偽装(ぎそう)死亡&命令盗聴(とうちょう)オッケー。やっぱり意外に頭が回るみたいだね。時間をかけると人狼の人達、人質にされるかも》


(りょうかーい。すぐに決着つけるべきかあ)


 俺の身体にくっつけたホブゴブリンはまだ生きてはいる。まあ、実質死んだようなもんだけど魂の(つな)がりがあるから、ゴブリンキングの命令を聞くことが出来るのだ。ただし、通常の思考はさすがに盗聴出来なかったみたい。そこはしっかりとわけてるみたいだね。


 ああ、あとホブを先に狙ったのには理由がある。


(……キングを(ねら)いたかったけど……行けなかったんだよなあ)


 なんか知らないけど、奇襲範囲に入ろうとしたところで地面が『固く』なったのだ。そのせいでゴブリンキングに奇襲は出来ずにホブに狙いを変えたというわけだ。


(今の見た感じバレてるってわけじゃないよな)


《そうだね。……ただ『潜~』系のスキルって潜んだ内部で能力が解けて、一生埋まったままっていうのを避けるために抵抗しないされないっていう効果があるんだよね。そのせいで基本的に妨害行為には滅法弱い》


 だからゴブリンなんかでも俺を地面から引きずり出せるわけね。


《たぶんゴブリンキングには無意識にでも妨害するスキルがあるんじゃないかな》


(……そんな都合の良いスキルなんてあるの?)


《いくつか当たりはつけてる。少し戦えばわかると思うから、ちょっと戦ってみて》


(おーけー)


 というわけで、やるか。


 まず、適当に(なぐ)りつけてみるか。


 俺は触手を生やして、ゴブリンキングを横()ぎに(はら)う。――と、ゴブリンキングが意外に俺に向かって()びかかってきた。それも前に一回転するようにして、俺のある意味本体である鹿骨頭の上半身に(あし)を回してきて、即座にダガーで突いてくる。


 ぐちゃっ、と俺の核が潰されてしまい、意識が強制移動した。


 わぉ、怖い。


 俺はすぐさま『放電』するが、ゴブリンキングは俺を()りつけるようにして軽快に距離を取ってくる。――いや、『放電』はすぐさまじゃねえな。今、一瞬、発動にラグがあった。何か邪魔されたというよりかは、俺自身の不具合で遅延(ちえん)したような、そんな感じ。


《わかった。やっぱり『幸運』だ》


 ラフレシアが言ったそのスキル名に俺は思わず顔をしかめてしまう。


(『幸運』って……運が良くなるだけ?)


《統合スキルだから、その効果は強いよ。選択肢では常に正解を引くから、今みたいな弱点を突く場合は一撃で決められるし、他にはとんでもない低い確率の相手の不運を誘発出来るの》


(……今、『放電』がすぐ出なかったみたいに?)


《それと超低確率で起こりえる『潜土』が潜れない土が現れたりね》


 ああ、だからさっき、こいつの下に行けなかったのか。


《たぶん戦ってると、滑って転ぶこともあると思うよ。……何気に『幸運』って格上殺し(ジャイアントキリング)が出来るスキルだからね。フェリスとか戦ったら普通に負けるよ》


(どんなにすごい技術があっても、ちょっとした運の悪さで全部ひっくり返るって考えたら、確かに強いわな)


 フーフシャーさんとかもきつそう(違うジャンルで勝ちそうではあるけど)。リディアは……『理ノ調律』の効果によるかな。


 ……こいつを倒すには素のフィジカルでゴリ押しするべきなんだろうな。だからちまちました幸運じゃどうにもならんブラーカーさんとかは普通に勝てそう。


 あと俺みたいな一発だけの致命傷だけじゃどうにもならん相手とか(進化前だったら普通に殺されてた? いやワームくんもいるから結局、こいつに俺は殺せないか)。俺に対しては広範囲で潰すとかしないと意味ないからな。実際、核もすぐに回復出来たし。


《『幸運』の弱点はあくまで一度に一回の幸運しか現れないこと》


(ダメージ覚悟のカウンターとか複数のスキル同時発動とか有効なんだな。……こいつ、俺と相性悪いな)


《ほんとにね。ああ、あと『軽業』っていう身体強化スキルを持ってるかも。普通のゴブリンより身軽過ぎる》


鈍重(どんじゅう)な俺にはそっちの方がきついかもね》


 こいつは手数でどうにかする感じか。まあ、いつも通りっすね。ただ注意しないといけないのは、勢い余って殺さないことだ。


 ゴブリンキングは殺さないで捕まえることが重要だ。なんでーっていうと、『精神汚染』するためだ。


 妖精種はほぼ全ての仲間と繋がっているため、そういう精神を汚染する力に弱い。だからゴブリンキングの精神を汚染して、他のゴブリンを一網打尽(いちもうだじん)にしてやろうとしているのだ。


 ちなみにホブじゃなくてゴブリンキングを使う理由は、上位種は下位種の繋がりを絶てるからだ。下位種からやってもいけなくはないだろうけど、一度失敗したら対策されて効果が激減するかもだからキング狙いをするのだ。


 ゴブリンキングは触手をにゅるにゅる生やした俺に警戒したようにダガーを構えながら距離を測っている。隙を見て刺して離れる、のヒットアンドアウェイを繰り返すのか。確かに手応えはあるんだろうけど、何分俺に実質的な効果がないからなあ。かと言って、俺も時間をかけるのは御免被る。


 なので、ダカダカダッシュで突っ込みます。


 そんで、盛大にずっこけます。


 つんのめるようにし、ぶっ倒れて、ずしゃーと滑る。饅頭下半身の歯が折れちゃった。


「ぷぎゃああああ!?」


 そして運悪くラキューの方に滑って言って、とてもビビらせてしまった。――と、その瞬間、ゴブリンキングが俺を跳び越えて、ビビって固まっているラキューに襲いかかろうとしていた。……なるほど? ラキューを相当、邪魔だと思って、先に片付けようとしているのか。


 ――でも、そのために今、『幸運』を発動させたな? ラキューもちょっと不自然に足を滑らせてるところを見ると、『幸運』はラキューを対象にしているのはわかった。


 俺は即座にゴブリンキングの足を掴んで引っ張り、思い切り叩きつけようとする。ついでに『放電』も発動じゃい。


 すると『放電』はやっぱりラグが発生する(『幸運』の発動スパンは結構短いみたい)。


《起こりえる可能性が高いことから『幸運』は採用されるみたいだね。掴まれた足の方がヤバいはずなのに》


 そんでゴブリンキングはこのまま地面に(たた)きつけられまいと、ダガーで触手を斬ろうとするけど……残念、『粘液』と『弾力強化』により切れ目すら入らないのである!


 というわけで、無事に叩きつけることに成功しましたとさ。


「グギャア!」


 悲鳴を上げるゴブリンキングを俺は触手でグルグル巻きに『侵蝕』をかけようとする。けれど『侵蝕』が発動しない。


 ……ふむ、スキルを不発させる効果っていうのも厄介なこと、この上ないな。


(……『幸運』、ちょっと欲しいかも)


《マスターに使いこなすのは無理でしょ。不幸と不憫(ふびん)(かたまり)で適性なんてゼロに等しいから魔道具でも使えないと思うよ》


(言えてる)


 ラフレシアが酷いことを言って、ミチサキ・ルカが結界の準備をしながら相づちを打ってくる。


(酷い……。……でも、これってジルドレイで売れるよね? あと『軽業』ってオミクレーくんが使えるようになったら強くなるんじゃない?)


《珍しいから高値はつくだろうけど……進化するために狩りにきたんじゃないの?》


(面白いスキルとか珍しいスキルとか有用なスキルとかあったら話は別でしょうに。ちなみにホブを全部ぶっ殺したら、こいつと同程度の経験値にならないかな?)


《どうだろ? そもそも今、見た感じゴブリンキングも大体のホブも『元から上位種』として産まれてきたような魂の質なんだよね。マスターならギリ、進化に届くかもだけど……やっぱりゴブリン狩りはレベル上げには向かないね。もし進化出来なくても、信頼は得られるから他の討伐依頼も任せてもらえるだろうけど》


(そんときは他の誰かも連れて行こう)


 それこそオミクレーくんとか連れて行こうかね。


 俺はそんな雑談をしながら、ゴブリンキングの頭に『精神汚染』用のとげとげがついたかぶせ物触手を乗せる。なんかゴブリンキングが「タ、タスケ――!」とか言ってるけど、気にしなーい。


(結界設置完了)


(じゃあ、発動よろ)


 俺がそう言うとミチサキ・ルカが結界を発動させる。すると俺の周りに俺だけを囲うために作られた結界が(おお)う。


 この結界はゴブリンキングが死んだように思われないギリギリの繋がりを(たも)ったまま、精神的な状態や命令などのやり取りを出来なくする結界である。もちろん外からの攻撃も防げるよ。


 なんでこんな変な結界なのーっていうと、極限まで『精神汚染』してぐちゃぐちゃになったゴブリンキングの精神を他のゴブリンに一気に流し込むためだ。


 徐々にやったら、下位種でも繋がりが切られちゃう場合があるかもだからね。だから一気に精神をぶっ壊すために、ゴブリンキングを隔離(かくり)して精神を十分に(おか)すのだ。

『侵蝕』も脳以外の全身に染まり、『幸運』の効果が発動しないまま、『精神汚染』用の針がブスブスとゴブリンキングの頭に()さる。


 じゃあ、やりましょう。


 んで、その間、(ひま)だからラキュー達の戦闘でも観察しておこうかね。

 

 





 ラキューは……特に良いか。普通に危なげないからなあ。機動力もあって、判断力(ビビりだから間合い管理が上手い)も何気にあって普通に戦えている。主にホブ達の撹乱(かくらん)をして、追いつめられそうになると『隠形児戯』を使って回避するから、安定している。


 ビビりだから今の戦い方が合ってるんだろうね。糞石(コプロライト)銃とかも覚えれば、物理的な攻撃力も得られるだろう。


 んで、もう一人安定しているのはアルスだな。イェネオさんとの戦いで(まと)っていた装甲(そうこう)を今回もつけている。(うで)にチェーンソーをつけて、()かしながら戦っている。……血、足りるかなあ。


 まあ、なんであれ装甲で基本的な物理攻撃は防げていて、ナイフや剣では傷をつけられるくらいで破られていない。農業用フォークの刺突(しとつ)ではさすがに貫通(かんつう)していたが、核への致命傷じゃなかったら問題ない。


 ――一応、打撃も頭部を思い切り叩かれるのは不味いがそこはアルスもわかっているようで、しっかりと見極めて回避していた。


 ディーヴァはというと……こっちはなんだろうなあ。ラキューのようにセンスがあるわけでもなく、アルスのように戦闘そのものに興味があるわけでもなく……ただ、『狂気』がある。


「あははは!!」


 ディーヴァは高らかに笑いながら、チェーンソーを振り回して、ホブに斬りかかっている。致命傷のみを避ける最低限の動きだけをして、攻撃を直接受けて、止まった相手にカウンターでチェーンソーを当てているのだ。他には『肉体操作』が地味に上手く、ゴキ、ガキと骨格を変形させて避けていたりしていたのだ。


 あと『孤苦零丁』を活用して、相手を戦意喪失させられるので後ろから迫る相手に頭を回転させて声を浴びせかけたりしていた。悪魔憑きかな?


 でも、ちょっと雑な戦い方のせいで早々に全身がボロボロになってしまう。これはアスカを送って回復かなーと見ていると――、


「んー……あっ」


 何かを思いついたディーヴァは死体となったホブに向かって覆い被さると……食べ始めた。がちゅ、ぐちゃ、と音を立てながら食し……さらに……あっ、触れている指先からホブの身体に黒い血管が伸びていく。


 ……『侵蝕』使っているんですけど。ただ、俺が使うよりも圧倒的に効果は弱い。けれどその効果により、相手を食したディーヴァはみるみる身体を回復させていく。……黒い血管を伸ばすより、食った方が早いようだ。


「ぷはっ――あぁ……」


 深紅の血に染めて恍惚(こうこつ)とした顔をするディーヴァ。……ホブも攻撃を躊躇(ためら)うほどドン引きしています。


(継戦能力高そうね、ディーヴァって)


《……アレ見て、そういう感想なんだ》


 なんかラフレシアが(あき)れているんですけど。ディーヴァ、頑張ってるじゃないですかっ!何がいけないっていうんですかっ!


 ていうか、戦闘には狂気は必要だからね。俺は意図的に相手が引く行動を取れるけど、別にそういう『狂気』って俺の本質ってわけじゃないからなあ。俺がビビった時は普通に逃げるし。でも、ディーヴァのようなタイプは自分が不利でも楽しんで相手に向かって行ってビビらせることが出来る。結構、重要な『能力』だよ、これは。


 ディーヴァが興味を持つなら、相手の有用な『脅し方』とか教えようかね。


 そんでもって、能力的に一番、不安なヒウルだけど……こっちもまあまあ戦えてる。肉付けをしてフィジカルを強化していたおかげか、デカめなホブとも(なぐ)り合えてる。


 あと、閃光(せんこう)(ほとばし)らせて目潰(めつぶ)しをしたりと以外と『真経津鏡』を有効活用している。その中で面白いと思ったのは、片手を真っ赤にしていたのだが、あれは何かなあとか見ているとホブの顔面をその手で(つか)んだ瞬間、じゅううううと肉が焼ける音が鳴ったのだ。


 どうやら自分の手に熱を溜めて、それで相手の身体を焼いたらしい。アレですね、ゴ○ド・フィンガーですね。


 ……それと『怪力』もまあまあ使えるみたいね。他の三人より力が強いように見える。自分よりデカいホブと正面から殴り合えているのはそのおかげだろう。練度を上げれば、力はもっと強くなるだろうね。


「うぉおおおおお!!」


 ヒウルはホブの焼けた顔面を引っぺがすと、咆吼(ほうこう)を上げる。俺の真似をして『鬼胎』の効果を乗せたのか、ホブやここに流れ込んできた下位ゴブリン達がたじろいでいる。


 俺よりかなり効果が弱いから、逆に正統派のウォークライって感じだ。


 戦闘技能もまあまあで、アルスと同程度くらいかな。純粋なフィジカルはヒウルに軍配が上がると思う。


(思ったより皆、戦えるようで良かった)


《予想より強かったね》


 普通にこのまま(きた)えていくなら、十分戦力になり得るだろう。ただ懸念点は、あいつらは普通の魔物などとは魂の性質が違うことだ。元々魂を持っておらず、死なせないために魔道具に記憶を乗せている関係上、レベルという概念(がいねん)がたぶんないのだ。


(ねえ、ラフレシア。あいつらの進化とかレベル上げとか意味がないの? 追加とか出来ない?)


《そこは検討中。今のところはマスターに経験値が流れ込むようにしているけど、何%かは経験値を魔道具に()め込むような余地を作ってる。強くはしたいけど、どういう感じにしようかなって悩んでる。……下手にレベルを実装して進化とかスキルを得ても良いことにしちゃうと性質も変わって、たぶんマスターや私ですら魔道具を扱えなくなるかもしれないんだよね。初期の魔道具の性質を別個に作るのにはまだもうちょっとかかりそうかも。それと強くなりすぎると、死んだ際の復活時間が延びちゃうのが課題かな。ただでさえ今の魔道具でも新たに作るのに時間がかかるのに、もっとかかると復活の意味がなくなっちゃうから》


 まあ、復活に関しては実際のところ能力がなくなるだけで四人は再生出来るから問題ないんだけどね。戦力にならないだけで。


(復活時間を短縮(たんしゅく)するのって、魔力の関係なら、俺が強くなれば解決する?)


《理論上は。でも、王種の中でも最上位になった上でレベルを上げまくらないと目立った効果は見えないと思うよ》


 ふーむ、難しいのか。まあ、解決する手段がわかっているだけマシか。それとなんか色々と進化してスキルを得て行けば、良い感じに『適応』して再生を速めてくれるスキルを手に入れられるかもしれないし。


「アギャ、ギャギャ……」


 ゴブリンキングがガタガタと震えて、泡を吹き出した。……うーんそろそろかなあ。こんなに『精神汚染』したことないから限度がわからん。やり過ぎると、下位ゴブリン達がショック死とかしそうだよね。まあ、最悪それでも良いけど……。


(解放してみるか)


《『精神汚染』の限度見本の一つにさせてもらおう》


(今後、精神ぶっ壊す際に役に立つかもねー)


(…………)


 なんかミチサキ・ルカが引いてる気がするけど気のせいだろう。


 ……そういやラフレシアってふざけたことにはあまり乗って来ないけど、真面目な話だと性的なことでも積極的に言うからね。学術、科学的なことだと饒舌(じょうぜつ)になるタイプだ。でもそういうのって割とエグいこと多いからね、他人を引かせちゃうこともあるだろう。ラフレシアはあんまり気にしてないけど。


 それじゃあ、解放だぞーい。

次回更新は4月21日23時の予定です。

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