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敵として対面するとかなりヤベー奴ら

 ゴブリンキングとその近衛兵たるホブゴブリン達は『王の間』で鎮座(ちんざ)していた。工作が得意なゴブリンが骨などを用いて装飾(そうしょく)した元テーブルにゴブリンキングは座っている。


 キングであるためか、他のゴブリンよりも遙かに落ち着きがあり、どっしりと構えている。身体から立ち上る魔力のオーラは強さの(あかし)であり、他のホブ達より(はるか)かな強さを持っていた。


 そしてその近衛兵に位置するホブゴブリン達は向かい合うように整列し王への道を――作ってるわけでもなく思い思いに過ごしていた。骨をかじっていたり、寝そべっていたり、盗んできたトランプで遊びに(きょう)じていたりとまとまりがない。


 だが、王の間から出て行くことはしない。


 それは王の命令を受けたからであり、何より人狼達が攻めてくることを懸念(けねん)しているからだ。


 偵察隊と(おぼ)しき人狼を捕らえて疑念を抱き(残念ながら人狼達は口を割らなかった)、さらにラピュセル付近に潜む盗賊型のゴブリン達が魔族との戦争が終わったことを聞いたからだ。


 ならば自分達が『対応』されることは必然的であるのは予想が出来た。


 ――ゴブリンは基本的に知能が低い。しかし、それはあくまで『数が少ない』場合だ。数が増えてくると徐々に頭が良くなってくる。頭の良い強い個体が出てくる、というのも理由の一つだが、一番は彼らが『妖精種』であるからだ。


 妖精種の特徴は己の複製をコピーして増え、そして増えた分だけ個々が繋がり、認識能力が増していくのだ。目と耳が増えるということであり、知識や技術の共有により驚異的な速度で個々の能力や技術を飛躍させる。


 ラフレシアの原種であるピクシーなどは全てを共有してしまうがために、精神が崩壊しやすく、増えれば増えるほど逆に知能が低くなる。だが、ゴブリンは同胞との五感の繋がりはピクシーよりも弱いが知識や技術を個々に()め込み、それらを共有出来るのだ。


 だからゴブリンキングに至っては、生まれ落ちて短い期間でかなりの知識を得て、見識を得ることが出来たのだ。


 そして今現在、盗賊型のゴブリンと意識を共有しながら、人狼達の出方を見ていた。もし軍隊を(ひき)いて都市を出発したのを確認したのならば――その軍の数が少なければ奇襲及び迎撃をして倒して、多ければこの拠点を放棄してラピュセルを『奪って』しまおうと考えていた。


 幸運にも都市を一つ落とせる戦力はあるのだ。偵察隊の人狼は孕み袋としてはかなり優秀で、多数のゴブリンを産み、ゴブリンキングすらも産んでしまったほどだ。


 軍やラピュセルを落とせれば、さらなる躍進(やくしん)を望めるだろう。そうすれば、さらに――どんなものでさえも奪うことが出来るようになるだろう。


 そう、世界でさえ――。


 ゴブリンキングはほくそ笑む。


 すると――、


「ぷぎっ」


 王の間唯一の出入り口から、豚のような鳴き声が聞こえてくる。そして、そちらに目を向けると……豚がいた。


 何故かおかしな被り物――緑色で鷲鼻(わしばな)が特徴的な……恐らくゴブリンを(かたど)っているかのようなものをつけていた。それでまるでこちらの仲間になったかのように、悠々と入ってきたのだ。


 周りの少々おつむの足りないホブ達でさえ、頭にハテナを浮かべてしまう。


「ぷぎ、ぷぎゃ、ぷごん」


 豚はゴブリン達を(だま)せていると本気で思っているのか、余裕の雰囲気でお尻を軽快にぷりぷりとフリながら歩く。――ゴブリンキングに向かって。


(……ナンダ、アレハ……)


 ゴブリンキングは困惑(こんわく)してしまう。豚であるのは間違いないが、そもそもどこから来たのか不明だった。さすがに外の下位ゴブリン達でも気付くだろうし(食料がやってきたと喜んで襲いかかっただろう)、その感覚を通じてゴブリンキングもその存在を知ることが出来たはずだ。


 つまりあの豚は突然、出入り口付近に現れたということになる。


 ……見た目は白い豚だ。程よい肉付きをしていて、食用たり得るだろう。明らかに人工物と思しき被り物をしていなかったら、ホブ達は食いついていただろう。


 豚に何かあるように見えないが、突然、爆発することも大いにあり得る。


(……ツツイテミロ)


 ホブの一体に命令を出す。


 嫌そうにするホブだったが、キングの命令には逆らえないため、盗んできた農業用フォークを手に取ると、そろそろと豚の後ろから近づいてき、その尻を突く。


 その瞬間だった。


「ぷぎゃああああ!?」


 豚が悲鳴(ひめい)を上げると、尻から火を噴いた。文字通りの意味で、青い炎が噴き上がり、豚の尻を突いたホブゴブリンを飲み込む。


「ギャアアアアアアア!?」


『豚が尻から火を噴く』という意味不明なこと&高温の炎に包まれての激痛で叫んでしまう。


「!?」


 ゴブリンキングもこれには混乱してしまう。彼の魂に蓄積(ちくせき)されている知識には『尻から火を噴く豚』は存在しない。


 さらにその豚は()ぎ払うように炎を振って視界を(さえぎ)ってくると、即座に炎の性質を変えて――鋭い(とげ)のような形にする。それが推進(すいしん)力を得る形なのか、一気に壁際まで飛んで行ってしまう。


 豚は壁に激突する寸前で、(ひづめ)でブレーキをかけて、ついでに旋回(せんかい)してゴブリン達に向き合う。見た目によらずかなり運動性能が高いようだ。


「ぷぎぃいいいい!!」


 豚が威嚇(いかく)してきた。突然、尻を刺されたことがかなりご立腹なようだ。


 ――炎を吹きかけられたホブゴブリンは即死こそしなかったものの、炎を吸い込んでしまったのだろう、息が苦しげだった。治癒魔法を覚えているゴブリンで、助けられるか五分と言ったところだろう。


 だから放置で良い――ゴブリンキングはそう判断して、侵入者と対峙しようとした。


 だが――、そう思ったのも(つか)の間、ホブの一体が地面に引きずり込まれた。


 誰も見ていない。本人のみが感じた知覚を全員が共有したのだ。豚に注意を払いつつもそちらに目を向けると、そこにはホブはいない。


 地面に引きずり込まれたホブの感覚は……視界は暗闇が支配し、嗅覚(きゅうかく)は生臭い何かを感じ、触覚は冷たくぶよぶよしたものを覚えて……そんな中で――(つぶ)される。そこでホブは絶命した。


 何かがいる――ゴブリンキングはそう判断して、恐慌に(おちい)りそうなホブ達の精神を無理矢理、己の支配能力で抑制して、一体のホブに意識を向ける。


(ジメンノナカニ、ナニカイル! マホウデ、ヒキズリダセ!)


 そのホブは比較的魔法が得意なタイプだった。命令されたホブは魔法を使う。無論、その魔法使いが襲われることを考慮(こうりょ)して、他のホブを護衛(ごえい)につける。


 その間にも豚が尻から火を噴いて、高速で王の間を走り抜ける。ホブの一体の背後に回り込むと火炎放射で焼いてくる。


(ヒデハ、シナン! ダガ、スウナ! 『ソレ』ハ、ハナレルヨリ、チカヅイテ、ツブセ!)


「! ウガアアアア!」


 ホブは目をつむり、炎に耐えながら豚に跳びかかるが――豚はそれを見てから炎の性質を変えて、飛んで回避してくる。


 今、あの豚は倒すのが至難(しなん)の業だ――そうゴブリンキングは思う。数を集めて、一斉に襲いかかれば捕まえられるだろう。だから今は耐えて――目下は地面の下にいるであろう謎の存在を倒すべきだ。


 ゴブリンキングが考え、注意を払っていると――地面が沸き立ち、時間はかかったが『ソレ』が出てきた。


 巨大な真っ白な肉の塊の怪物だ。


 人間の胴体が無数に生え、肉団子のような下半身には巨大な口と手足がいくつか生えている。さらにその身体を支えるのはたくさんの腕という、不気味な外見をしていた。


 おぞましい怪物にさしものゴブリンキングも戦慄(せんりつ)する。


 その生物が如何なる存在かは知らないが、ここでこれを殺すか――逃げなければいけないと悟る。


(ジンロウヲ、カイシュウシロ!)


 王の間の外にいる下位ゴブリン達に命じる。とりあえず人狼さえいれば、多少ここで数を減らしても立て直しは出来るとふんだのだ。


 だがすぐに人狼の家畜部屋の警備にあたっていたゴブリンから連絡が来る。


(デイリグチ、フサガレテル! ハイレナイ!)


 そのゴブリンの視界を共有して見てみると、出入り口に半透明の壁が出来て入れないようになっていた。その先に、拘束から解き放たれた人狼達が見える。


 ――ゴブリンキングは壁を、結界だと即座に判断する。そしてその結界は簡単に壊れないものではあるが、魔法使い型の話で『攻撃され続けると魔力の消費が激しくなる』とのことを聞いていた。


 結界は四方で囲まれているタイプだ。つまり籠城(ろうじょう)するつもりなのだろう。応援がくることを想定しているのだろうか。――もしやこの化け物がそれだというのか――。


 ゴブリンキングは色々と考えるが、その前に指示を出す。


(ソノ、ケッカイヲ、タタキツヅケロ! アナヲ、ヒトツホッテ、カチクベヤニハイレ! ソレデカコンデタタクノダ! イズレ、ケッカイガ、トギレル! ソノシュンカンヲ、ネライ、オソエ!)


 人狼は三体いる。だからその間まで結界は三人分のエネルギーで維持されるかもしれないが、結界の構造によってはエネルギー供給は一人で行わなければならない場合がある。三人で同時に結界の維持をすることも可能な場合があるが、それは瞬間的な強度や維持を求める方法であるため、籠城などの長期戦には向かない。


 ゴブリンキングにはそこまでの知識はなかったが、可能性として考えられたため、この指示を出した。少なくとも何もせずに手をこまねかせているよりずっとマシだからだ。


 それにもしこの白い怪物が人狼達を救いに来たというなら、人質として十分な価値があるはずだ。


 ――今すぐにでも自分は外に行く算段をつけなければ――とゴブリンキングは考えていると王の間の出入り口から三体の人影が地面から生えてきた。


 それは筋肉質な男、女のような見た目をしたもの、全身に装甲をまとった何か、だ。それらが白い怪物から分かたれた部位であるのはすぐにわかった。


 そしてそれはホブ達やいずれやってくる下位ゴブリンに敵意を向け――白い怪物はゴブリンキングに意識を向けてくる。


(……オレサマガ、コレノアイテヲ、シロトイウノカ)


 少なくともそうしなければ、――逃げ道が作られなければ、そうなるだろう。穴掘り要員を手配して、逃げ道を確保するように動かすが、その前にホブ達が死にまくれば、白い怪物と三体+豚に袋だたきにされて終わる。だから人狼組や穴掘り要員を除いたこのコロニーの全てのゴブリンを総動員して三体と豚を排除しなければならない。


 白い怪物には、ホブ以外の他のゴブリンはあてない方が良い。直感的にそう思う。少なくとも今し方、殺されたと思しきホブの胴体が肉団子から生えていることから下手な戦力は吸収されると思っても良いだろう。


 とにかくゴブリンキングは己一人でこの白い怪物を止めなければならない、と決意する。


 ゴブリンキングは腰にさしていた人狼のダガーを構えると(うな)りながら、白い怪物と対峙するのであった。

次回更新は4月14日23時の予定です。

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