突入前の事前準備!
ゴブリンが巣を作っているのは、ラピュセルから結構離れた山間だ。ジルドレイの廃鉱とは真逆の森林地帯だな。位置的には西方面だ。
今のところラピュセルに被害は、……たぶん出ていないらしい。でも『盗み』がちょっとずつ増えていることから『盗賊』の能力を有したゴブリンが暗躍している可能性もあるとのこと。
んでもって、ラピュセルが被害を受けていないなら、なんでゴブリンのでっかい巣が出来てるのがわかったのー、っていうと、巣が出来た方面の村が甚大な被害に遭っているからだそうだ。
農作物の奪取から始まり、時間を経て畜産物を――特にメスを奪われ――さらに短期間で大量のゴブリンが攻めてくるなどしたらしい。
一応、少ないながらも人狼達の軍が出動していたようだ。でも数の前には少数精鋭ではきついもの。ゴブリンは弱いため、今のところ撃退は成功させ続けていたものの損耗を強いられていたようだ。
しかも日を追うごとにやや強く――というより特殊なスキル持ちも現れ、厄介になり――村が飲み込まれるのは時間の問題に思われていたそうだ。
それで危険を承知で巣の規模を調べに調査隊が派遣されて、ゴブリンの規模がわかった、ということだ。そして、調査隊の何人かがゴブリンに捕まる、という事態に陥ったらしい。
《こうなると事態は一刻も争うかもね》
ラフレシアやグリムさんいわく、内在魔力が高い人狼をゴブリン繁殖に使われてしまうと、基礎値が高いゴブリンが生まれてしまうらしい(だから迂闊に調査を出来ず、傭兵やプレイフォートのゴブリン退治部隊を待っていたらしい)。
(ところで人狼って他種族との子供を作れないんじゃなかったっけ?)
《そうだね。もしゴブリンでも増えなかったら、捕まった人は基本的に殺されてるだろうし、そうじゃなかったら――たぶんゴブリンが増えるには相手の遺伝子を必要としないことになるんじゃないかな》
ああ、まだわかんない感じなのか。
(ゴブリンって受精させてるわけじゃなくて、あくまで卵とか植え付けてる系?)
《どうだろう。卵の可能性もあるし、精子的な何かが魔力的な要素でゴブリンにそのままなっているだけかも。……少なくともゴブリン的には低コストで自己複製して、母体からあらゆるエネルギーを奪って成長出来れば良いって感じだから》
普通の生物とはまた違う生殖方法っていうことなのかな。
《そもそも初めに物理的な肉体がなければ、かなりの速めに『形』に出来るからね。私を見ればわかると思うけど》
(ああ、なるほど)
己のコピーを作ることが本質で、別に相手との子供を作っているわけでもないのだろうか。性交し受精して増えるという認識でいるのが、根本的に間違いということだろうか。相手の妊娠という能力が自分を複製するのに適しているから『形だけ』利用しているだけってことかな?
《スキル、魔法っていうものには形だけ満たして動作させるものがあるからね。ゴブリンの相手を妊娠させるのもそうだし――マスターみたいなゾンビは心臓はあるのに動かないまま血流が出来てたりするし》
ああ、そういえばそうだったな。……うーむ、面白いな。あくまで『形式』だけ揃えて、実際は動作させていなくても仮想的に実現しているのかあ。
……なんか色々考えるとこんがらがってくるな。この話はとりあずおいておく。
(ゴブリンの討伐に必要なのは『繁殖用生物の処理、及び救出』『コロニー一つにつき、ゴブリン90%以上の討伐』『ユニークゴブリンの確実な排除』だっけか?)
《そうだね。『繁殖用生物~』に関しては人狼達が囚われているところ以外は気にしなくてもいいかも。わざわざ豚とか牛を連れて逃げるゴブリンはいないからね。人質に出来ると判断されたら別だけど。ただ、終わったらちゃんと処理はしないと『種』が混じってたせいでいつの間にか産まれて、そこからまた増えてー、みたいなことになりかねないから畜産動物はしっかりと『処理』しないといけないよ》
グリムさんから、そこら辺の処理の許可は受けているので、俺の血肉とさせてもらう予定だ。
(えーっと『90%の処理』はとりあえず皆殺しじゃなくても良いんだ?)
《出来れば皆殺しが望ましいけど、出来なかった場合の最低限必要な討伐数がその90%になるね》
(逃がしても良い数は……大体65匹? 大丈夫? そんなに逃がして)
《大丈夫ではないかも。集まられると小さな村は壊滅させられる戦力にはなるから、やっぱり100%が望ましいね。あくまで人狼側が仕切り直せる最低限の数がそのくらいってだけだから、私達はしっかりと鏖殺しないといけないよ》
(了解)
んで最後は……、
(ユニークゴブリンっていうのは、キングってことでオーケー?)
《うーん、キングは最低限狩るべきで、重要なのは他のだね。さっきオルミーガが言っていたけど肉体改造を出来るゴブリンは確実に見つけ出して殺さないといけないよ。それを逃がすと増える速度が段違いに違うから》
まあ、雑TSして雄だろうがなんだろうが妊娠出来るようにするらしいからな。適当な動物を捕まえて、雄でも雌に改造して増える――を雑に出来るなら確かに増える速度はとんでもなく早くなるだろうね。
(見分け方は? ゴブリンって全部同じだからわからなくない?)
《それに関しては大丈夫。全部同じっていうのは、ゴブリン側にとっても同じで――複製であるせいで身体が大きいキングやホブでもない限りは、本人達ですら見分けがつかないから服装とかでジョブを決めてるらしいんだよね。そのリストは貰ったはずだからしっかりと目を通しておこうね》
(オッケー)
ちなみにコロニーの場所が書き込まれた地図含め、服装の図解を貰っているよ。文字も書き込まれているけど――日本語っぽい感じではあったけど読めなかった。まあ、でも問題はない。
……とりあえずラフレシアとの復習はこんな感じで良いか。
一応はグリムさんには同じ感じで聞いてはいたんだよね。
けれどあくまでグリムさんが話していた時にラフレシアと話す時のような質問はあまり入れなかった。というのも、ラフレシアからこっそりと言われたんだけど、あまりにも知らなすぎるのは相手を不安にさせてこの話はなかったことにされる可能性があるからだってさ。
《この件に関してはマスターが適任なのは確かだから、引き受ける形にしたいんだよね。被害を少なくするのはこの方が絶対に良い》
とは、ラフレシアの弁である。
まあ、確かに俺は多数戦に向いた能力をしているからな。それを実際に試したことはないけど。これから俺の能力がどこまで『多数』に対して通用するか、実際に体感することになるだろう。ちょっとは人狼さん達も借りるし、全てのコロニーを回るつもりはないから試せないかもしれないけど。
んで、ゴブリン退治にあたって俺がすべきは『俺ら』は何が出来るか、だな。
特にミチサキ・ルカ。
(なんだよ)
(結界を張る能力って使えるんだよな。能力の概要……あっ、その前に魔力消費ってどういう感じになってんの? 俺と共有?)
(共有みたいな感じだな。完全には融合してないから内在魔力とかは俺自身のを扱うことになるけど……大気中の魔力はどうしたって周りにあるのしか使えないから、ほぼ共有と思ってもいい)
魔力を吸収したりするのも、俺かミチサキ・ルカのどっちに振り分けるかとか考えなきゃいけないのか。めんどくせっ。
(でー、結界ってどういうの? 魔法障壁みたいな空中に半透明の盾みたいなのを出現させて、かきーんって防ぐ系?)
(通常使用は大体、そんな感じだな。その他に死の森にある俺の村に張ってる設置型の結界みたいなのも使える)
(設置型って即興で作れる?)
(無理だ。設置するモノ――境界を仕切るモノを魔道具化させなきゃいけないからな。魔道具化は大量の魔力を照射しないといけないから、かなりむずい。まあ、俺なら結界運用だけを想定した魔道具作成なら、安いコストで済むけどな。だからワンチャンアスカで魔力を補給しながらやれば、出来なくはない)
《ドガ食いをお求めで?》
アスカがニュッと俺の頭から生えてきたので、優しく撫でる。
(頼むかも)
《任せとけぃ》
アスカは胸をポンと叩く。頼もしい限りだ。
まず、設置型の結界を作ってからだな。そうしたら――キングを狩りに行くぞ。上手く行けば、少数の人狼の方々でもコロニーのゴブリンを駆除出来るかもしれないのだ。グリムさんには少人数の人狼サン達を出して貰うことになった。
(んと、設置型の作成数は……最低2セットくらいかなあ。捕まった人狼さん達って三人で良いんだよね?)
《そうだね。その人達を守る結界が欲しいの?》
(うん。連れてけないだろうしね。……一応、訊くけど肉体改造をされたら、アスカの力で戻せる?)
《にくたいかいぞー?》
アスカが首を傾げるとラフレシアが、うーんと唸る。
《どうだろ? ……肉体改造系って遺伝子操作される場合が多いんだけど……アスカは『肉体の設計図』を弄られたら戻せる?》
《自分ならいけるけど、他人は無理》
(じゃあ、連れて行けない系で話を進めよう。あと『遺伝子を弄られてる』場合の対策を含めて、グリムさんに連絡入れとこう)
三人の位置の把握を最優先にして、見つけたら結界を渡してその場に留まるように指示を出して、基本的にそこで身を守って貰うようにする。
知るべきなのはこれくらいだろうか。あとは出向いて現場で色々と考えよう。特に捕まった人狼さん達が別々の場所で囚われていたらかなり面倒だ。
そんときは人狼さん達のデコイでも作って、本物は無理矢理饅頭下半身の口の中にぶち込んで運ぶか。一箇所に集中することさえ出来れば、とりあえずは良いのだ。そのための手段は問わないこととしよう。
《一箇所にはいると思う。聞いてる感じだと今回のゴブリンの性質は『性欲』じゃなくて『物欲』っぽいからある程度、統制は取れてるっぽいんだよね。そういう場合は重要な捕虜なら、『強い個体』に割り当てられると思う。……ただ物欲型はその統制の取れた性質上、増えたら厄介な方ではあるんだけど、マスターが対応するなら問題ないでしょ》
なんでもゴブリンには明確な分類があるわけじゃないけど、『略奪』の傾向に特徴があるらしい。性的な事柄に興味が強く出て、雑に増えやすいがそれ故に弱いままな性欲型と性欲よりも物欲優先で計画的に増えているように見える物欲型という種類が多く見られるらしい。
そんで今回は物欲型っぽいね。
性欲型はコロニーが散在的になるので、コロニーの特徴からして今回は性欲型ではないのは確定なようだ。
性欲型はかなり対応が面倒な上に、進化の傾向が性欲に寄るせいで淫毒やら依存性の高い毒を用いたゴブリンが多くなって人質が『精神的に取り返しの付かない』場合になる可能性が高いらしい。
怖いね。……まあ、物欲型でもそうならない可能性はないわけではないので、注意深く見ておかないといけない。人質の状態によっては対応を変えなきゃいけなくなるからね。
次回更新は3月31日23時の予定です。




