このゾンビは意外にカネを持っている
「あー……一応、僕からフォローさせてもらうと、僕ら人狼は特定の条件が揃えば近親婚はオーケーなんや」
さすがにグリムさんを不憫に思ったのか、スコールさんが言葉を足してくれたよ。
「10レベルの差があって――まあ、要は進化をしてれば、親と子、キョーダイでも遺伝的な問題は回避されるらしいで」
俺は首を傾げる。
《人狼って進化しても姿は変わらないんじゃないんですか?》
「そこはなんか狼形態の方がなんやかんやするらしいな。詳しい話はアンゼルムさんから聞いたって」
フェリスの付き添い時に暇そうなら訊いてみようかしら。
フェリスはその説明を受けて、相変わらずグリムさんの腕に抱きつきながら(グリムさんは腕をブンブンしている)頷く。
「うん、だからボクがお父さんと寝ても問題ないっていう」
「問題はないが問題はあるぞぉ!?」
グリムさんが言い得て妙なことをおっしゃられてる。確かに問題はないけど、問題はあるね。
この調子だと近親婚は認められているけど、今現在において積極的にやられていることでもないんだろう。
《まあ、俺としてはそこら辺はどうでもいいから、祝福しとこう。ぱちぱちー》
「いぇーい」
「雑に認めないで貰えないだろうか!?」
興奮はするけど、実利的に見ると知って何かなるわけでもなくて、心底どうでもいいのでこれ以上は掘り下げません。面倒くさいので。
《んで、グリムさん。ゴブリンについて訊きたいんですけど……》
「……このまま普通に進めるのだな。……フェリス、離れなさい」
「はーい」
グリムさんがそう言うと、張り付いて離れなかったフェリスは素直に離れた。
とりあえず俺が主導して話を進めようかしら。まずは……ゴブリン退治するって話だけど、具体的に何をするか訊くべきか。イメージとしては間引く感じに殺すのかな? それとも皆殺しな感じで逃がしちゃ駄目な感じだろうか。何かしら必須要項があれば訊いておきたいよね。
《俺、集団のゴブリン退治って初めてなんですけど何に気をつけて討伐しまくればいいですかね? なるべく逃がさないようにした方が良いですか?》
一体だけならジルドレイにいた時、訓練場で戦ったことがある。その時の印象は、やっぱり弱い魔物、だ。んでもって、集団であったとしても俺ならば苦戦することなく倒すことが出来るだろう。
「……逃がさないのは当然だが、同時に倒すことが必須だ。ゴブリンは群体の妖精種だ。五感や意思がある程度共有されているために隠れながら討伐したところで察知されてしまうだろう」
《なるほど。地面に潜りながら一匹一匹食べていったとしても気付かれるんですね》
さすがにラフレシアのように全ての個体が完全に繋がっているということはないだろうけど、一匹殺したら即座に気付かれて散り散りに逃げられる可能性があるってことだよな。
「だからこそコロニーの位置を調べて、一斉に処理をしなければならない。貴殿に出来るか?」
《うーん、どうでしょ。コロニーの数は?》
「30個。一つのコロニーの平均数は20匹程度だ。ただキングがいると思しき本拠地である洞窟内の正確な数は不明だが恐らく50匹近いだろう」
ふーむ、30個、それも20匹以上いるコロニーを同時に破壊するのは俺じゃ出来ないな。そもそも振り分ける人員がそんなにいない。
だから違うアプローチで削って行くしかないな。
……今、思いついたことがあるんだけど上手く行きそうではある。『これ』なら下手に戦力をばらまく必要はない。
《とりあえず今思いついたことがあるんで、その作戦の成否について聞かせてください》
「良いだろう、貴殿の話、聞かせてもらう」
そんなこんなでグリムさんと話し合うことになりましたとさ。
んでもって、ざっくり話を終えてオルミーガ達が待つ客間に行く。ダラーさんとサンはまだスコールさん達と話し合うことがあるらしいので、別室に移って話すらしい(重要な商談なのでさすがに中庭では出来ないみたい)。
それで客間にやってきたわけだけども、雑にゴブリン退治に行くことになったのを伝え、それぞれの意思を訊く。
まずイェネオさん。
「パス。どこから飛んでくるかもわからない投石集中砲火でクリティカル食らってお持ち帰りは昔から良く聞く話だからなあ。行きたくない」
《了解です。次、オルミーガ》
《あたしもパス。あいつら言葉は通じるけど対話出来ない奴らだし――イェネオが言ったようにクリティカルが怖いんだよ、ほんとに》
オルミーガが重いため息を吐く。何かしらゴブリンで苦労した経験があるみたいだね。
《次、オミクレーくん……は、行かない感じで》
「なんで決めつけんだよ!?」
ブチ切れられてしまうけど、これは仕方ないことなんだよ。
《危険だからねえ》
「はんっ。俺は男だし、負けてもただ殺されるだけ――」
「ちなみに言っとくけど、規模のデカくなったゴブリン集団は肉体改造が出来るスキル持ちとかいて、普通に男でも性器切り落として雑な子宮取り付けられて孕み袋にされるからな」
「…………」
オルミーガの横槍にオミクレーくんは一瞬で黙り込む。
……うん、嫌だよね、わかるよ。
《じゃあ、パスってことで》
「うぐぐ……!」
《そんな恨めしそうな顔しないの。そもそも俺も『全力』でやるから周りの被害がヤベえ事になるのよ。少なくとも毒やら精神汚染やら耐えられるようになってからだな(寄生虫はとにかく気をつける所存だ。生態系を破壊したら意味がない)。今回はそこのお姉さん方に訓練してもらって、しごかれてくれい。……一応、そのお姉さん方に善戦出来るようになったら、俺のオミクレーくんに対する『子供扱い』も緩和するかもだしね》
「ぐぅうう……!」
オミクレーくんにすごい顔で睨まれてしまった。でも、ぐうの音しか出ないのか反発はしてこない。
《はい、てことでせっかくの商業国家ということで、お小遣いあげまーす。ジャラジャラー》
俺は(金貨ではさすがに扱い辛いので)さっきスコールさんに両替して貰った銀貨と銅貨、ついでにこの国で流通している紙幣をじゃらじゃら、ぱらぱらと手渡す(一応袋にはいれてありますよ)。
「わーい! お酒いっぱいのめりゅー」
イェネオさんが無邪気な幼女みたいに喜びながらおっさんみたいなことを口にして受け取った。
「どうも」
オルミーガも素直に受け取ってくれる。
「……うぐうう……!」
オミクレーくんも悔しがりながら受け取ってくれました。
ああ、一応、ダラーさんとサンにもお小遣いをあげたよ。
アルス達も物欲しそうにしているけど、この子達は討伐依頼を終えたら、としっかり言い含めておいた。……討伐依頼が終わったら、少しだけ都市を回れるように時間を取るか。その頃には魔王様と……勇者の魂の解析が終わってるかもだし、お小遣いあげるついでに今後のことを話せたら良いなあ。
とりまこんな感じでよろしいか。それでは、ゴブリン退治に行こうかな。――一応、背後にオミクレーくんが勝手についてきてないか確かめつつね。そういう『事故』は絶対に起こさない。
ご安全に! ゴーだぜ!
次回更新は3月24日23時の予定です。




