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ゴブリンは意外に厄介

 んで、これからの交渉についてだけれども、俺はもう必要なくない?と思う次第です。ていうか、あとは適当に偉い人同士で会談してもらって、話を進めて貰えば良いのだ。正直、そこまですんのめんどい。それにたぶん、そこからの交渉はスコールさん達も『本気』を出してくるだろう。今まで良い感じに話が進んでいたのは、あくまで俺が信用にたる存在かつ商談の前段階だったから、っていうのもあるだろうし。


《そんな感じで良いっすか?》


「ええよー」


 かくかくしかじかと説明したら、スコールさんも快諾かいだくしてくださいました。


《アンゼルムさんもあとはプルクラさんとかに後々の話を聞いてくださいね。……いや、フェリスのために一応、俺がついて行った方が良いかなあ》


「どうだろうね」


 俺とアンゼルムさんがチラリ、とスコールさん達を見やる。


「まあ、その方がええかもしれんね。あの子を信用しとる人狼もあの子が信用しとる人狼も数がそんな多くないからなあ。一番仲が良い子は有能やけど強いっちゅーわけでもないし、信頼出来るあの子のパパンもキミほどの力はたぶんないからなあ」


 そうなのね。


 ……この世界の生物にはレベルという概念はあるけど、高レベル=高耐久にはならないんだよね。基本的に見た目通りの耐久にしかならない。なので普通にデカくて硬い化け物とか出てくると人間とかではタイマンでは勝つことは難しい。


 そんで人狼は色々と平均値は高いけど、強度は人間寄りかなあ。


 ……人間のルイス将軍はどうかって? あの人は魔物に片脚……どころかたぶん半身浴ぐらいしてるからなあ。見た目通りの性能と耐久は恐らくしていない。


《じゃあ、俺のゴブリン退治が終わるまでに良い感じに話を終わらせてください。……あっ、でも大丈夫かな。サンがいればどこにいても、ジルドレイと繋げて行き来出来るかな?》


「転移門を繋ぐには繋ぐために必要な人がいないと駄目ですけどねー。なので私がここからいなくなるとここには来られなくなりますよー」


 サンがそう説明してくれる。


 そうすると、あらかじめ誰かをここに連れてこないと行けなくなるのか。アスカも転移の起点には出来そうだけど、ジルドレイ以外に配置するのは怖いなあ。


 ……そこはおいおい考えようか。


《ちなみにゴブリン退治には俺一人で行く感じだけど良いですよね?》


 皆――ダラーさんとサンにくとうなずく。


「そうだな……ゴブリンは…………正直、フェーズが進んでるならあまり相対したくない」


「フェーズ4くらい行くと結構、怖いらしいよね」


《フェーズ?》


 俺が首を傾げるとダラーさんが「ああ」と頷いてくれた。


「ゴブリンは増えるごとに、厄介になっていくんだ。数がどうの以外にも、文明の度合いや能力が加速度的に増していく」


 ――ダラーさんいわくゴブリンはフェーズ1が拠点を持たずにうろつくクソ弱い狩猟民で大抵はこの段階で死滅してしまうらしい。


 だが生き残って、何らかの生物を利用して増えた場合、フェーズ2になり、拠点を持つようになる。そしてさらに数を増していくとフェーズ3になりユニーク個体が現れ出す。


「でも、ユニーク個体って言っても力は基本的に弱いから、どっちにしろ『運が悪い』場合を除けば問題ない」


「ゴブリンに対して『運が悪い』ことって常にあるけどね」


 数が多いほど、『偶然』が多くなるってことだな。偶然投げた石が頭部とかの急所へ良い感じに当たったりするかもしれないってことだ。


 どうやらゴブリン退治で怖いのは数によって起こる、『偶然』で負けてしまうことらしいね。


「けどフェーズ4まで進むと……キングの個体が生まれることで厄介度がかなり増してしまうんだ」


《統率力がヤバくなるとかです?》


「いや、ゴブリンの統率は元からかなり高い。仮にも群体の妖精種だから連携は高い精度で取れるんだ」


 ああ、そういえば一応、ラフレシアほどじゃないけど同種なら精神が繋がってるみたいな話を聞いた記憶があるな。


「怖いのは、高い能力を持つキング個体が次々に生まれて、その個体を元に数が増えて基礎能力が上がっていくことなんだ。……本来、ちょっとの脅威程度だったユニーク個体の能力が格段にヤバくなる。……それが加速度的に増していくんだ」


 なんかヤバそうなのはなんとなくわかった。


「フェーズ5はもはや対処不可能な域におちいった段階だな。王国、もしくは帝国と呼ばれる段階でかなり高い文明をきずくくことがある。……でも、『略奪』という特性は変わらないから奪い続けて周りを荒野にして…………全てを奪い尽くしてゴブリンごと周囲の国は滅ぶ」


《あっ、一緒に滅ぶんだ》


「荒れた土地を残してな」

 うーん、厄介!


(……にしても、ゴブリンって他者に依存しないと生きられないとか生物として不完全過ぎない?)


《増えすぎた生物が滅ぶのは普通だよ。ゴブリンはそのサイクルが異常に早いだけ。……それと依存については、……普通に寄生生物がいるじゃん》


 確かにその通りだ。寄生生物は他者に依存しまくってますね。そんで宿主がいなくなると死んじゃうから、…………まあ、ゴブリンもそう考えると普通か!


「ちなみに現在のフェーズは4言うてたな」


 スコールさんがそういうとダラーさん達はあからさまにげんなりする。


「……瀬戸際だな」


「そうやな。魔族とプチ戦争しとったせいで、対処が後手後手になってもうたんや。あー、大変やなー。戦争が長引いてしもうたからなあー」


 スコールさんがチラッチラッとわざとらしく、ダラーさん達――吸血鬼を見る。


「うっ」


「うぅ……」


「さようなら」


 ダラーさんとサンはダメージを受けて、アンゼルムさんは転移門を自ら閉じていなくなってしまった。


 俺はスコールさんを心の中で首を傾げつつ、見る。


(……ちょっと優位に立とうとしてる?)


《そうじゃない? これから交渉する相手だし。そう考えると本当にマスターには優しくしてたんだね》


 そうみたいね。……そういう意味では俺にとっては信用にたる人ってことになるかな。……どうしよう。ダラーさん達のフォロー入ろうかなあ。



「だが、それ以外にも商家達がゴブリン退治に金を出し渋ったのが原因だろう」



 ――そんな折、スコールさんに横やりを入れる声がはいった。


 俺らが入ってきた出入り口からで、そちらから背が高くガタイの良い眼帯をつけたおじさんがやってきた。長く伸びたあごひげがせくすぃだ。後ろにはフェリスがいることから……たぶんパパンか。


「ああ、グリム。来てくれたんか。キミはすぐに来てくれるから、ほんと助かるわ。『戦後処理』は大丈夫か?」


 スコールさんが手を軽く振ると、グリムさんははなを鳴らす。


「お前に呼ばれた以上はな。若造であろうと上に立つ者ならば敬意は示す。それに『戦後』の処理も一応は片付いた。私がいなくても、もう問題ないだろう」


「厳しいけど、キミのそういうとこありがたいわあ。押しのけた他んの年寄り連中はどうにも扱い辛くてなあ。ゴブリン対策の予算もそいつらが出ししぶってん」


「だろうな。お前にしては対処が雑すぎると思った。……だが今後は『王子』が戻った上に戦争も終わった。立て直しに期待する」


「オーケー任せとって。ああ、そうそう『王子』の件ではフェリスちゃんを貸してくれて助かったで。強い上に追跡されない子が他におらんからなあ」


「……娘が役に立ったのなら幸いだ」


 グリムさんとやらは堅物そうだが、娘のフェリスが褒められたことで明らかに口角が上がっている。


 そんで明らかな異物である俺に目を向ける。


「それで………………こちらは?」


 コレとか言われないだけ、紳士しんしだね、この人。まあ、フェリスに道中説明を受けたんだろうけど。


「この子はアハリートくん。極秘やけど、転生者らしいで。せやろ?」


《いぇす! この世界には生まれ落ちて数ヶ月程度のべぃびぃですが、よろしくっす!》


 俺は片目をつむりながらサムズアップすると、さすがにグリムさんはたじろいでしまった。


「そ、そうか。……雰囲気が見た目に寄らないな」


 んで、グリムさんは一旦、咳払いをする。


「私はグリームニル・ハングマンだ。この国では――将軍の地位についている」


 グリームニルさんね。愛称がグリムさんと。じゃあ、基本的にグリムさんで良いか。


 それでグリムさんは傍らに立つフェリスの肩に手を置く。


「それで――すでに世話になったらしいが――これが娘のフェリスだ」


「改めてよろしく。――ちなみに――」


 フェリスが肩に置かれたグリムさんの手を手に取り、グッと引っ張り、腕を掴んで胸にむにゅうと抱きしめる。


「フィアンセでもあるので、認知よろしくぅ」


「フェリス!!!???」


 グリムさんがとんでもなく驚いて、フェリスの腕を振り払おうとするけど、フェリスは離れない。ちょっとブラブラされてるのが楽しいのか、無邪気に笑う。


 俺は首をかしげる。


《義理の父で、なんやかんやあって将来の夫的な立ち位置?》


「義理の父ではあるが、立ち位置的には血の繋がった祖父だ! それ以上でもそれ以下でもない! ええい、離れなさい、フェリス! はしたないぞ!」


「えーだって、ボクと結婚してくれる人見つからなかったら、お父さんとするって話じゃん」


「パパ頑張ってるから! フェリスちゃんの良い結婚相手見つけるから! だから仮にもパパとするだなんて言わないで!」


「ボクは別に良いけど。あとこういうのはボクから言っとけば、お父さんの名前に傷がつきにくいでしょ。どんどん否定してオッケー」


「ああああ!! 優しいぃいいい!! けど、色んな意味でいやあああああ!!」


 グリムさんが嬉しそうにするも、悲しそうな声を上げる。すんごい複雑そう。


 …………なるほど。


(……近親相姦系か。しかも娘が乗り気とかおもしろ。いいぞ、もっとやれ!)


(やっぱり薄い本が厚くなった。興奮してきたな!)


《黙れよ、二人とも》


(しゅんましぇん)


(ごめんなさい)


 汚い転生者二人が興奮していたら、清楚な妖精さんに怒られてしまいました。

次回更新は3月17日23時の予定です。

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