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ハイブリッドセンシティブ女

 なんとか消し炭にされずに済んで、ホッと一息ついた俺はダカダカダッシュで都市へ向かっていた。


 ……許しは得たけど、まだちょっと心がドキドキしている。油断して近づいてきたところをドカンとかやってくる可能性はゼロではないのだ。


 まあ、さすがにないけど。そん時は各自、全力の守りと攻撃に移ってよしな感じにしたので頑張ります。


 とりあえず最低限、オルミーガを饅頭まんじゅう下半身の口にぶち込んでいるので一人は救える。イェネオさんはラキューに乗せているので、なんやかんや大丈夫だろう(馬さんスタイルとして馬の被りものをラキューにつけている)。


 サンも魔法系なら問題なく防げるっぽいし、こっちも問題ない。


 残るはダラーさんと背負われているオミクレーくんだけど……こっちが範囲攻撃に一番弱いのよな。ダラーさんの機動力に陰りは見られないけれど、弾幕系の魔法や範囲攻撃を受けた場合に即座に回避出来るかって言われたら、ちょっと唸っちゃうレベルだ。そういう場合はサンが援護するっぽいし大丈夫らしいけど(ダラーさん一人だけなら血の鎧を全身に纏って防御形態を取って守れるらしいよ。ハイマさんほどではないけど固くは出来るらしい)。


 んで、現在お荷物状態のオミクレーくんはすっげえ不満そうな顔をしている。


 俺はちょいとからかいがてら、ダラーさんと併走してオミクレーくんに声をかけてみる。


《へい、まだ顔が痛いかい? ボーイ》


「うっせえ……」


 ギロッとにらまれましたが、もう怖くありませーん。


《背負われてるのが不満なら、オルミーガねえさんの隣が開いてるけど?》


 俺が饅頭下半身の口をガバッと開けると意外にもオルミーガが涅槃ねはんポーズをとって、となりをぽんぽんとたたいた。


 これにはあおり耐性が低いオミクレーくんの怒りボルテージをマックスまで高めて顔を赤らめてしまう(怒り以外の意味もありそうだけど)。


「馬鹿にしてんのか!」


《うん》


「ぶっ殺す!」


《さて、ここで一つ、問いかけます》


「ああ!?」


《オミクレーくん、キミは自分をしっかりと弱いと認識してますか? それと子供だってことを理解してる?》


「――っ! お、俺はガキじゃねえ!」


 うーむ、予想通りの答えを返してくれたよ。


《大人は自分を大人だと言わないのだよ。むしろ逆であることに夢を馳せるのである》


「なにわけわかんないこと言ってんだよ!」


 わからんよね。大人にあこがれを持つ子供は大人になりたいと切に願うが、大人は子供に戻りたいと思うモノなんだよ。


 実際にダラーさん、サン、オルミーガ、そんでもってイェネオさんとミチサキ・ルカも遠い目をしている。哀愁あいしゅうを感じるぜっ。


《キミは無理についてきて、無理に力をつけようとしている弱い子供だよ。それを自覚して欲しい。……仮にキミが無理をすれば、ダラーさんが全力で守ろうとして最悪死ぬからね。……守って貰わなくてもいいとか思わないでね。ダラーさんはキミの意思に関係なく、キミを絶対に守る。敵だった俺すら守ろうとした人だ。……自分が弱いことを自覚しないと誰かを殺すことになる》


「……!」


 しっかりとくぎしておく。オミクレーくんに無理は絶対にさせない。少なくとも彼自身の判断で何かをさせてはいけないのだ。事態が悪化することもそうだが、その責任を取らせたくはない。


 こういう場合、下手な成功体験とか与えちゃいけないのよね。自信を持つのは良いことなんだけど、それが必然じゃなくて偶然によって為された場合はとっても危険だから。


《何かして欲しいことがあるときは、俺やダラーさんが指示を出すからそれに従うこと。もし何か良い案があれば、しっかりと声をあげて。大変な時は聞けないかもしれないけど、本当に大事なことだったらそういう場合は無理矢理にでも伝えて。……自分で、とか考えちゃ駄目だぞ》


「……。……うるせえし」


 オミクレーくんはむくれちゃったが……こっちの言葉を無視する気はないらしい。まあ、注意深く見ていきましょう。若い子が突っ走った時は、うーんと…………あれだ! 俺はダラーさんを見やる。


《ダラーさん、もしもの時はよろっ! 丸投げするんで!》


「ははっ、善処する」


 ダラーさんは苦笑いしながら言ってくれました。貴方ならそういうと思っていましたよ。


 とりあえずオミクレーくん係は基本的にダラーさんだな。場合によってはオルミーガにヤクザか軍隊仕込みのやり方で従わせる方向でいきましょう。オミクレーくん自身が死ぬのを避けるのもそうだけど、ダラーさんとかを死なせたりとかのごうは背負わせたくないからね。

 

 






 さて、重そうな軽い談話をしつつ、ついに門まで辿たどり着きました。遠くから見てわかってたけどプレイフォートと違って、この首都の防壁は比較的低い。


《魔界に近いからね。空を飛ぶ魔物が結構いるから、城壁みたいなのの効果が薄いっていうのもあるかも。南のプレイフォートは魔物より人間と戦うことが多かった歴史から、丈夫な城壁を築く文化があるんじゃない?》


 俺が疑問を言ったら、ラフレシアがそう返してくれたよ。


 そういうのがあるのね。あと防壁を低くすれば、その分、範囲を広く取れるからプレイフォート違って広範囲を囲ってる感じがある。


 んで、そんな壁の外には人間の兵士さんがたくさんおりました。やっぱりプレイフォートの正規軍っぽいね。俺の姿を見て、かなりどよめいておられる。


 さーて、責任者は誰かしらー。自分から進んで出てきてくれると助かるんだけどー。それかフェリスはいらっしゃらない?


 そう思って、キョロキョロ見渡しているとフェリスが進み出てくれました。


 ただ、一瞬気付かなかった。


 だって服装が違っていたから。


 フェリスの服装って、バイオ3のジルの上着を短くして、ホットパンツはいたような見た目だった。けれど今は布面積がかなり多い。


 うーんと、イメージとしては昔の中国っぽい感じ。でもチャイナ服ではないよ。もっと古代ぽい。白衣に足首まで伸びるはかまっぽいスタイルだ。くつもブーツじゃなくて、薄く平べったいものだった。

 

 でも、腰に下げてるダガーはいつも通りごついあれだ。


《わあー、フェリス、久しぶりー。変わらず元気そうー。服可愛いー》


「どうも。……そっちは……なんかひと月程度で、すごい変わっちゃって……」


 フェリス、ドン引きだ。無理もない。


 でも普通に近寄ってきてくれました。


 ちょうどアルスの前までやってきたフェリスは、アルスをジッと見て、特に襲いかかってこないのを確認してからそのほおをむにむにとむ。アルスは「!?」はちょっとビックリしていたが、気にせず揉ませてあげていた。


「制御は出来てるんだ」


《一応は。ちなみに下の子は俺の制御下から若干外れて、完全に別個体だからあんまりいじらないであげてね。今、触ってる子はアーセナル・ミネルヴァくんです。アルスと呼んでください》


「あぶー」


「ああ、そうなんだ。ごめんな」


 アルスが不満そうな声を上げると、フェリスはすぐに頬から手を離して、頭を軽くでた。


「初めましてー、ディーヴァ・ミューズでーす」


「……しゃべれるんだ」


 デーヴァが笑顔で手を振って自分から挨拶あいさつをすると、フェリスが驚いた顔をする。


《うん。臓器風の魔道具作ってもらったじゃん。それを移植したら喋れるようになった》


「あの魔道具あげたんだ」


《せっかくだし、役に立ってもらいたくて。……でも俺も使いたいからコピー品をラフレシアに作って貰ってる。時間かかるそうだけど》


「量産出来るんだ」


 これにはフェリスも苦笑。んで、もう一人の方にも顔を向ける。いまやごつい身体をしている大男なヒウルだ。


「じゃあ、せっかくだし、こっちは?」


「アマテラス……ヒウル」


 ヒウルはそう短く口にして、終わる。


寡黙かもくなタイプか。……なんか個性分かれてるな」


 そうフェリスが言うと、三人が目を見開いてバッと顔を向ける。これにはフェリスもビクッとなってちょっとだけ後退ってしまった。


「!? え? なんか不味いこと言った?」


《ううん、個性あるって言われて喜んだだけだと思うよ。こいつら生まれた時、俺、個性ないって失言しちゃったから。個性ある個体っていうのがこいつらの命題っていうか、アイデンティティーなところあるからさ》


 個性ないと俺に捨てられる、とかわずかながらでも思ってるかもしれんのよね。もうあの発言を撤回をしても遅いから、このままにするしかない。……個性伸ばそうとして変な風にならなきゃいいけどなあ。


 まあいいや。


「そんでこっちは……」


 フェリスは俺の饅頭下半身の口の中にいるありっ子ことオルミーガも見つけてしまう。


 オルミーガは面倒くさそうな顔で手をプラプラと振る。


「あたしはこいつらとは関係ない、拉致らちされた哀れな魔族だから気にすんな」


《オルミーガちゃんですっ》


 俺がそう言ったら舌をむんずと掴まれて、引っ張られてしまった。


《この子は西に行った時、魔族の方々との橋渡しをしてもらうための存在です》


「そっかー」


 フェリスはそこでオルミーガの追求をパッタリとやめる。不機嫌そうな雰囲気から突くと蟻からはちに変身してしまうのを恐れたからだろう。


「……他のも含めるとなんか色々と増えたなあ」


 俺の近くで所在なさげにしている吸血鬼組のダラーさんにサン(今は地に足をつけている)、オミクレーくん(今は背中から降りている)をチラリと見る。


《あっ、下半身のこいつらって実は四天王でもう一人いるんだけど――》


 そっちは今、俺から離れて自立行動中だ。イェネオさんを乗せている豚でー、と説明がてらそっちに顔を向けると――、


「……なんで豚に、子供が……?」


「お嬢ちゃんは一体……」


 ――と、兵士さん達に心配そうに声をかけられていた。けれどその一方で馬の被り物をした豚に乗るという姿はかなり滑稽こっけいだったのか、遠目に笑われてもいた。


 ……それにイェネオさんの姿も簡素な革の防具に長剣とも短剣とも言えない絶妙な長さの剣は玩具にも見える。だから何かしらのごっこ遊びをしている子供に見えなくもないのだ。


《あっ、ヤバっ》


 ラフレシアがそんなイェネオさんを見てつぶやく。どうしたよ。もしかして暴れ出す?


(止めた方が良い系?)


《……あー、どうだろ。むしろマスターは関わらない方が良いかなあ》


 ラフレシアがめっちゃ言葉をにごす。雰囲気的に流血しそうな感じではないけど。


 そんでイェネオさんがラキューから降りて、近くの嘲笑ちょうしょう的な笑いを浮かべている兵士さんに近づいて行く。……うん、選んだ相手からして明らかにもう喧嘩売りに行くのが目に見えてるね。


 イェネオさんはその兵士さんを間近で見上げて、口を開く。


「はじめまして! わたし、イェネオっていいます! きょうは! あんでっどのおじちゃんとそのおともだちといっしょに、じんろうのくににこうしょーにきました!」


 舌っ足らずで、あと無駄に交渉とか大人達が使ってたの真似ただけだろー的な感じの言葉をあえて使うのが子供っぽい。……なんか慣れてるねえ。怖いねえ。


 なので、俺はイェネオさんからそっぽを向いてフェリスと話し込むフリをする。聞き耳はもちろん立てているけれども。


「ああ、そうなのか。そっちの豚は友達? 尻から火、吹いて移動してたけど」


 ラキューはここにつくまで空を飛ばず、地上で尻から火を噴いてスライド移動をしていた。かなりシュールで見ていたらとっても笑えるものだから、まあ兵士さん達の大体がゲラゲラとそれで笑ったのは無理らかぬことだ。


 ちなみにですが、ラキューに乗ることになったのはイェネオさんが自ら乗りたいと言ったからだ。なんかそん時、悪い顔をして「この時代だとどうなるかなー」とか言ってたから元からなんかやらかす気ではあったみたい。


「ぷぎ!」


 イェネオさんは平気そうだけど、ラキューはご立腹だ。馬さんヘッドをぶんぶんと振って威嚇いかくするが、これもこれで可愛いので笑われてしまう(こっちは女性兵士の方に「かわいー」みたいな評価を受けた)。


「はい! おともだちです! ラキューはとっても、たよりになります! わたしがせいいっぱいたたかってもかてません!」


 ラキューって面倒くさい性能しているから、生半可な実力の相手ではれられないし、イェネオさんみたいな強者でも注意を払っていても普通に足元をわれるからな。高速移動が出来て、毒を撒けて、気配ごと消して透明になれる豚は強いのだ。


けれどラキューの能力を知らなければ、そんなことわかるわけもなく、豚と戯れた幼女という印象しか与えない。


「ところで、おにーさんは、かのじょさんいますか?」


「え? えっと、結婚してるけど」


「よし」


「え?」


 そこで兵士さんは不穏ふおんな何かを感じ取る。


 後退りしそうになるが、イェネオさんが兵士さんの手を軽く掴んで笑顔で見上げる。


「おにーさん、わたし、なんさいにみえますか?」


 こわいこわいこわい、なんかこわい。都市伝説みたいなアレの怖さがある。


「は、八歳くらい……?」


「違うよ」


 イェネオさんが首を横に振る。兵士さんはいちゃ駄目だろうに、その先を訊かないのはいけないことかのように錯覚し、口を開いてしまう。


「な、なんさい……?」


「○十歳」


 その瞬間だった。


 兵士さんの身体が宙を浮き、そのまま仰向けに倒されてしまったのだ。たぶんイェネオさんが倒したのだ。頭をぶつけず、背中から衝撃を少なくなるよう落とされた感じだ。


 そしてそんな兵士さんの上にイェネオさんはまたがり――あれだ、『見せられないよ』みたいな酷いことをしたのだ。


 音だけで説明するなら、ぶっちゅ、じゅるるるるるるる、みたいな感じ。


「~~~~~~~~~~っっ!?」


 兵士さんが声に出来ない悲鳴を上げているが、そんなのお構いなしだ。


 そして、ちゅぽんと離れる頃には兵士さんは目から光を消して、涙を垂れ流していた。むごい。


 ピクリともせずにすすり泣く兵士さんの上から、今までの幼女オーラを消して、にじみ出る強者のオーラを立ち上らせ、威風堂々(いふうどうどう)と立ち上がるイェネオさんは腕を高々と掲げて、人差し指を伸ばして兵士さん達に向ける。それが一人一人、特定の人物を指していく。


「今、指さした奴、私を馬鹿にしたようにわらった奴な」


「!?」


 指をさされた兵士さん達がびくうとふるえる。


「今からお前らに見た目ロリで中身ババアの女に無理矢理キスされたという傷をつけてやる。見た目ガキの相手に、大の大人が無理矢理されるんだ」


「!!?」


 事態を理解出来ずに、兵士さん達に動揺が走る。中には俺を見る人達もいたけど、一応、ジェスチャーで俺、関係ないっすと示しておきました。


 マジで俺関係ないもん。


《なん、だと……?》


 そんでなんか俺の頭の上に現れたアスカがめずしくショックを受けていた。わなわなと震えていた。


(どうした)


《私は、イェネオが見た目の割に大人のお姉さんなのは知っていた》


 この子、意外に言葉選び上手ね。『不死ノ王』の教育のたまものか。


《けど二十歳くらいだと思って、肉体年齢をそれ基準に再生してしまった……!》


 アスカがクッと拳を固く握りしめ、ひざをついてぽんっとその拳を俺の頭に叩きつけることで後悔している様をしっかりと現していた。


 あらまあ。……。一応、それ伝えておくか。


《イェネオさーん! アスカがイェネオさんの肉体年齢を二十代にしちゃったらしいっすよー!》


「まじぃ!? やっふぅううう!! だから身体の調子良かったのかあ! 雑に酒飲めるぅ! ありがとうアスカーー!! あっ!? つまり――――ぐははははは! この見た目ロリで肉体がレディ、そして中身がババアのハイブリッドセンシティブ女は存在が最強の兵器と化したのだあ! 震えるが良い、おろかな若人わこうどよ!! 貴様らに見た目ロリ、実際は妙齢みょうれいの女で、本質はババアにキスされたという最悪な汚名を一度につけてやるわああ!!」


 なにあの悪魔、こわい。


「いやぁああああああああああああああ!!」


 兵士さん達の雑巾ぞうきんを引き裂いたようなにぶく野太い悲鳴が辺りに響き渡る。


《ああ、またあの阿鼻叫喚を見る羽目になるなんて……》


 ラフレシアが悲しそうにつぶやいていた。昔からやっていたんですね、あれ。


《なるほど、あれがめた真似する生意気な相手に格付けするやり方か……》


「……さすがにうちら魔族は品性は保つ……」


 オルミーガが即座にそう言った。


《……イェネオは昔からあの姿であなどられてきたからね。その上、年齢を重ねた後、そこを馬鹿にしてくる若い子がいたから、ああいうことするようになったの》


 なるほどー。まあ、確かにイェネオさんは本当に見た目が子供にしか見えないからなあ。色々と苦労があったのだろう。


 まあいいや、あっちは放置だ。敵対的と見られることはないだろう。ただキスされてるだけだし。『見た目が子供』の攻撃を防げていない方が悪いってことで。


 とりあえず人狼の国に入国できそうなので、そこを喜ぼう、やったー。

次回更新は2月18日23時の予定です。

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