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なんか、ごめんなさい……

「で? 人狼の国(ラピュセル)にはどうやって入るつもりなんだよ」


 オルミーガが相変わらずのしかめっ面で俺を見上げながら、そう問いかけて来た。俺はその問いにキメ顔を作って、人差し指を振ったら殴られたが、そのまま口を開く。


《友達いますし、問題ナッシング! さすがに俺だってわかるっしょ!》


「……なら良いけど。ただお前が進化したのって、ブラーカー様と戦ってた、まさに『あの瞬間』だろ? その『友達』そのこと知ってんのかよ。その上……南の……プレイフォートの軍が駐屯してたら、かなり面倒なことになるぞ」


《それこそ、大丈夫だってー。俺、王子と友人ぞ?》


 俺は呑気のんきに笑っていました。……正直()めてたんだよね、『南の国々がレギオンを恐れている』ということを。


 そもそもドクターにも暗についてくんなと言われるくらいには、レギオンになった今の俺は面倒くさい存在らしい。




 だから――、




 ラピュセルまで後、数キロというところ。


 平地が続いた先に大きな町が見えた。そんな町の空に、……巨大な火の玉が形成されていた。


「きれー」


《たーまやー》


「……言わんこっちゃない」


 俺は現実逃避して自分の声帯で呟き、アスカはのんびりと言い、オルミーガは俺の下の口の中で呆れた風に言った。


 俺は今まさに、戦術魔法で攻撃されそうになっていた。


 楽観的に考えたら、この様である。


 だからみんなは横着せず、石橋を叩いて渡ろうなっ。俺からの約束だぞっ。


(でも?)


 ミチサキ・ルカがなんか問いかけて来たから、笑顔で親指を立てる。


(めんどくせえから、やんない)


 そんなの他の人に任せときゃ良いんだよ! そもそも俺にそういう政治的ななんかを考える脳味噌あると思ってんの!? ねえんだよ!


(つーことで、ラフレシア、政治的な行動が必要な時は口(はさ)んでね?)


《嫌なことに対する発狂は?》


(するぅ)


《クソがよぉ……》


 そりゃあもう、クソガキになりますよ。それか頭ハッキョーセット並にさけび散らかします。どっちにしろ、駄々っ子ちびっ子になります。


《で、だ。この状況どうすれば良い? 地面潜ればいける?》


 わからんことはわかる人に聞きます。この場合はオルミーガだな。なんか知ってそうだし。


「対レギオンになれてる相手なら、あれは見かけ倒しじゃない確実に戦術的な力があるだろうな。地面は十数メートルくらい削れるはず」


 ワンチャン逃げられなくもないな。『異空ノ猟犬』は20メートルくらいまで潜れるから。とりあえず死にはしない。やばくなったら皆を体内に放り込んで、潜ってしまえばとりあえず一時しのぎは出来る。


 ただ第二波以降は、威力も上方修正されて飛んでくるかもしれないことを考えると何度も同じ手は駄目だ(潜ったまま近づくことも出来るが、さすがにイェネオさんとかがいるとずっとは潜ってられない。酸素を生成したり、アスカの力で持たせたりすることも出来るだろうけど)。


《他の対応……ミチサキ・ルカは結界で防げたりする?》


(出来なくはない。ただ『完全な結界』にすると魔力切れ――それも囲った空間内に起こるから、あんたが行動不能になる。でも魔力を供給出来るようにするとその脆弱性をつかれる。耐えて反撃出来るってんなら前者にするし、基本的に魔法を使えないアンデッドなら後者の方式にする)


《俺自身にはあれを迎撃する手段はないからなあ。イェネオさんとオルミーガ、ダラーさんは……やっぱり?》


「なーい」


「ない」


「ないな」


 異口同音だ。この三人は近、中距離攻撃専門だからな。相手に近づく術があるって言っても長距離だとバカスカ攻撃されるし、その近づく間に俺が攻撃されたらアウトだし。そういう意味ではラキューも駄目ね。


 じゃあ、遠距離攻撃が確実に出来そうなサンは……、と思ってそちらに意識を向けると……、


《なんか魔力の流れがおかしいと思って、見てみたら……どういう状況よ》


 空中に浮かんでいるサンの頭の上に妖精が一体いた。


 でもラフレシアでもアスカでもない……プルクラさんの顔立ちだ。『本物』よりも全体的に丸みが帯びていて、やや幼くは見えるが整った端正な顔立ちが目を引く。……ただやっぱり目はつむるのね。


 ――そんなプルクラさんの姿をした妖精が険しい顔を俺に向けていた。


《近づいたら、いきなりあんな感じになりました》


《馬鹿じゃないの? あんたレギオンなんだから、何かしら根回しして町に近づくのが普通でしょうに》


 プルクラさんがやれやれと頭を振る。


 ちなみにですが、このプルクラさん。一応、本物です。ちょっとした実験でサンが何かしらピンチの時に現れるようにしている。


 このプルクラさんは本体と意識が繋がっており、本人が動かしているのだ。でもちょっとした問題があって一体しか動かせない上に、この妖精の身体を操っている時は本体のプルクラさんが動けなくなる。


 やっぱり複数の意識を同時に操るってかなり大変みたい。一度やらせてみたんだけど無理ってことで一体だけの生成に留めている。まあ、実際のところ一体だけで事足りるので問題ないんだけど。


「……あいつは?」


 オルミーガがいぶかしげな視線をプルクラさんに向けている。


 …………。これはさすがに誤魔化さないと不味いかな。サンやダラーさんとプルクラさんでは『存在価値』に違いがありすぎる。ブラーカーさんの子供をさらって利用することを主導したんだもんね。


《サンにつけた守護妖精のプーちゃんです!》


《は? あんたなに――》


(アスカ!? 絶対にこの妖精のことプルクラっていうなよ!? プーちゃん可愛いって言え! プーちゃん可愛いって言え!!)


 俺はとてつもない圧をアスカにかますとさすがに気圧されたようで《おぉ……》となっていた。そんでアスカはというと――、


《プーちゃん可愛い。プーちゃん可愛い》


《プーちゃんですっ!!》


 プルクラさんは両手の人差し指を両頬に当てて、満面の笑顔で言う。


(きっつ……)


(きっつぅ……)


《きっつぃ……》


 失礼なのはわかっているけど、俺とミチサキ・ルカとラフレシアは思わず心の中でつぶやいてしまう。


(……ありがとう、アスカ。……それとごめん)


《? いぇあ》


 アスカは不思議そうに首を傾げていた。……うん、わからないならわからないで良いんだ。これはわかる必要のない事柄だから。


 あっ、プルクラさんにこんなはずかしめを与えてサンが怒ってないかなぁ、と心配になってみてみると……。


「んふふっ――」


 頑張って笑いをみ殺していた。むしろダラーさんの方が困惑していて、どう反応していいのかわからない様子だった。


 ……サンってプルクラさんを尊敬はしているけど、信仰はしていない感じなのかな。そこら辺をちょいと観察していくか。


 ――まあ、今はいいや。


《サンは『あれ』をどうにか出来るの?》


 俺がそうサンに問いかけると視線を斜め上に向けて考え込む。


「やれるかどうかって言われるとやれますけど、……うーん? プーさん?」


《様で良いと思います!》


『期限切れ』だから気にしなくては良いんだろうけど、サンがプルクラさんを様づけで呼ばないのはあれだろう。


「プー様?」


《やっちゃいなさいよ。……そもそも防いだところでそれだけじゃ舐められて、第二、三波が続くんだから。防ぐことって敵対側からするととんでもなく地味だし。魔法合戦ならあえて受けるのも手だけど、これはそうじゃないでしょ》


「それもそうですけど、攻撃したら対話的なことで不味いことなりません?」


《…………。ああ……》


 サンが俺をちらりちらと見ながら言うので、プルクラさんがなんか合点が言った様子で頷く。


《ならないわよ。少なくとも相手が思っているのが『レギオンが突撃してきた』わけで対話もクソもない状況なのよ。そういうアンデッドって基本的に『魔法』は使えないから、あえて使うことで『自我』の主張にもなるわ。……ていうか、今、『これ』が止まってることからして相手からすると『対話の可能性』がわずかに出てきたことになるから》


「私達がレギオンを操って突撃してきた、という考えは……」


《可能性はあるけど、こっちにそれをするメリットはもうないでしょ。そもそもレギオンを使役出来た奴なんて歴史上存在しないのよ。同じアンデッドだとしてもね。だったらギリギリ、精神が落ち着いているやつって考えた方が現実味があるわ》


 ちょっとの精神操作してどうにかなる問題じゃないしね、レギオンって。肉体じゃなく、荒れ狂う精神だけを常に抑え込むのはかなりコストを使う。だったら自分や仲間と協力した方が良いくらいだ。


《それにあの魔法をぶち抜いて、破壊した方が黙らせられるでしょ。少なくとも対策する間が稼げるから、下手に声をかけるよりマシになるはず》


「打ち抜いた後に爆発の危険は?」


《そこらへんのセーフティを考えない無能だったら消し飛んだ方が世のためよ》


 らしいです。


(ラフレシアさん、どうですか?)


《良いんじゃない? ……全部しっかり説明されたって感じだけど》


 サンに気を遣われちゃったみたいね。てか、決定権があるのは俺だから、こういう決定権がある奴に対する理解を深める説明って大事なのか。


 集団の、それもリーダーってなるとちょっと面倒くさい行程が混じることになりそうね。


 でも(俺自身含めて)状況がわからないのに勝手なことをして悪化させるのだけは駄目だから、こういう報連相はしっかりとしていくことにしよう。


《じゃあ、やっちゃって!》


「了解です、ボス」


 俺が巨大な火の玉に指をさすと、サンが冗談めかして敬礼してくれた。


 そしてサンは親指と人差し指を立てて、うでを真っ直ぐに伸ばして火の玉に向ける。それはさながら銃を撃つような仕草だ。


《……魔法を撃つんでしょうけど、……間に合うんですか?》


 この前受けたガトリングも弾速は速かったけど、なんやかんやとよけられたからなあ。


《あんた達との戦闘は見てたけど、正直、あんなに弱体化するなんてね。……私にした子は一応、戦闘訓練はさせてたけど本気でやらせたことがなかったからその限界値は正確には探れなかったのよね。……ていうか、本来、あんな雑な物量押しをするタイプじゃないのよ、あの子の魔法は》


 ふへー、そうなんだ。


 んで、意識して『魔力感知』を使いながら見ていると……なんというか綺麗きれいだった。魔法を使う時って、大気中の魔力を集めるんだけど、俺の場合、雑にぐおーっと集めて、ぐおーっとめて、どかーんと撃つ感じなんだ。


 魔法は下手な奴が使うほど、大雑把おおざっぱになってロスも大きくなる。まさに俺はすごくロスが大きいのだ。


 そんな俺に対して、サンは滑らかで線を引くような魔力の軌道を描いて、指先に無駄なく集めていく。


 魔法は扱う現象によって濃度が決まっており、その濃度に達していなければ魔法は現象を再現出来ない。集めた魔力濃度にムラがあれば、それがロスとなる。


 サンの溜めた魔力にはムラが見受けられない。


《魔法による現象顕現を用いた攻撃はあまり有効じゃないわ。その理由が本体から離れるほどに『魔力操作』の効果範囲から外れて、弱くなって防がれて……レジストもされやすくなる》


 それは魔法の訓練でリディアから教えてもらったことがある。だから魔法は近中距離で行い、遠距離にするには何かしら魔法そのものではない二次効果で作ったものが有効なんだってさ。


 もしくは本体と直接繋ぐなにかしら『有線』でやれば(トラサァンさんがやってた『雲集錨アンカー・チェイン』がそれだ)、レジスト能力があれば有利になれる。


 ああ、それと遠距離にするには内在魔力を使わないっていう手もあるな。内在魔力は魔力を操作するのに重要なものだけど、他には『自身にその魔法効果を及ばせない』っていうことも出来る。近距離で爆発させたら、爆風や熱は自分に効果ない、とか出来る。なので、燃費を良くするために内在魔力を極限まで減らす、なんてテクニックもあるようだ。それならレジストされないしね。


 だけどそんな魔法を遠くに放つとレジスト以前に逆に支配されて使われちゃう場合があるらしいが。


 まあ、簡単に言うと遠距離魔法は扱いが難しいのだ。


 それと魔力って遠方でも感知出来るから対処はしやすい。魔力って基本的に滞留する性質を持っているみたい。動かさなきゃそのままで動くには特定の――『魔力操作』などを行わないといけない。だから動かすと、その流れが生まれちゃって観測されちゃう場合があるのだ。


 さすがに遠くとなると(リディアレベルじゃないと)かなり集中しないといけなくて、戦いの最中とかはほぼ無理っぽいけど……。ただあの火の玉を形成するくらいの規模なら、そういう観測者もいるだろう。


 ――で、それを感知させないであろう、レベルの『魔力操作』が行われている。


 サンの指先に小さな白銀の弾が形成される。それはとても静かに――魔力の流れにさざ波すら起こさないほど。


《……ちょっとまだまだ荒いわね》


 そう呟くプルクラさんにサンが少々苦笑いを浮かべる。


「ノイズはないですけど、どうにも強張った感じがありますね。まあ、届きますし、破壊出来ますけど」


 サンは自信満々というより、事実をただ述べるように口にして、――ソッと何事もなくその弾丸を放つ。


 目にも止まらぬ速さで――白銀の軌跡だけが伸びる。俺がそれを視認した時にはそれは火の玉を、すでに貫通していた。


 そして火の玉は瞬時に氷結――その形態を変化させてしまったがために、一瞬にして跡形もなく消滅する。


 わあ、すごい。


《わあ、すごい》


 俺はパチパチと手を叩き、称賛する。今のは本当にすごかった。


「えへへ、ありがとうございます」


 素直に照れるサンだ。うーん、初々しい。……最近、なんか気の強い女の子ばっかりだったから癒やされるわー。……クレナイちゃんが恋しいぜ。


(その気の強いって、俺も入ってる?)


 入ってないよ。


 ミチサキ・ルカは……どっちともつかないから、細かくは決めてない。その時々で選ぶ感じで。


 そんでもって、フラフラと飛んできたプルクラさんが俺の頭をペシンと叩いてきた。


《ほら、攻撃したんだから、声をかけなさいよ。対策考えたら、第二波くるかもしれないわよ。あっちは色々悩んでるけど、こっちが攻撃したっていう事実に変わりないんだから。何も声をかけなかったら敵認定されても知らないわよ》


 ああ、このまま良い感じにはいかないんすね。シメは俺がやらんといけないのか。


《じゃあ皆さん、耳をふさいでー》

 俺は一つの上半身をのぞいて、饅頭まんじゅう下半身を含めた口と肺に空気をめ込む。


 そんでもって、大声を出す。


「すみませぇえええええええええええええええん!! こちらレギオンなんですがぁ!! 別に敵意ないし、そっちに用あるんで近づいて良いっすかあ!? 偉い人にアハリートの名前で通して貰えると助かるんですがぁあああああああああ!! 落ち着いて待ってくれるなら、軽い花火打ち上げてくださーーーーーーーーーーーーーーーい!!」


 何言えばいいかわからないから、とりあえず率直に言ってみた。ああ、ちゃんと『鬼胎』は切ってありますよ。さすがにね。


 そんで俺は言い終わった後、心をドキドキさせながら待っていると――――しばらくして、しょぼくれた花火が空に、ぱぁんと上がって一息つくのであった。

次回更新は2月11日23時の予定です。

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