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そこに確かなつながりが欲しくて

「3にょき! うぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 とんでもない勢いでイェネオさんが合わせた手を頭上に高々と掲げる。――幸い、この瞬間に3にょきを発する者はいなかった。


「4にょき!」


「4にょきー」


 けれど勢いに押されたか、それとも狙っていたのかサンとアスカが同時に上がってしまった。


 妖精アスカはサンを見やり、首をかしげた。


「あらー」


「あっ、アスカ様、すみませーん」


「よいのだ。くるしゅうない」


 サンがゆるく謝り、アスカが寛大に許す。ちなみにだけど、サンはアスカに対して特に物怖ものおじする雰囲気はない。でも始祖ということで最低限の敬いはしているようだけど。


 ダラーさんはまだ距離感がわからず困っているようだ。一応、話しかけられたら丁寧な対応はするけど、自分からアクションをしかけない。


 そんなダラーさんだけど、たけのこにょっきはかなり強い。持ち前の動体視力と素早さで、基本上がれてしまうのだ。ただ連続の勝ち抜けを阻止するために自爆覚悟の合わせにょっきをされて負けてしまうことがあった。


 こういうゲーム系の勝負事で本気を出せなさそうなダラーさんだが、初めはかなり手加減モードになっていたがイェネオさんとオルミーガに即座にバレてキレられてしまい、本気でやることになったのだ。


 んで、一番強いのは、ミチサキ・ルカだ。言うだけあって、この通常レベルが異能に達してるメンツに勝ち越している。


 ああ、今やっているたけのこにょっきはポイント制を採用している。一番に抜けると、多くポイントが貰えて、後になるほど低くなる。で、ダブりのお手つきは少しだけマイナスになる。


 なんか明確な勝ち負けがあった方が燃えるんじゃないかってことで、即興でルールを作ったよ。


 だからかなんなのか、確実にポイントを増やしたり、妨害したりするテクが生まれている。


 色々変わっちゃってるけど、楽しそうだから、ヨシ!


 オルミーガもこういうゲーム系の勝負事には熱くなるタチなのか、普通に楽しんでるみたいだし。


 ちなみに俺は参加してないよ。


 最初は参加しようかなーとか思ってたんだけど……、


「ぷんぎっ」


 俺の横で不貞腐ふてくされてる豚――もといラキューがいるからだ。不機嫌そうに今し方つけた触手をぺちんぺちんと振るわせている。


 ……なんかね、『孤苦零丁』が上手く使えなかったのだ。適性はあって『孤苦零丁』そのものは動かせた。でも、ちょっとした問題があったのだ。


 それは今度だな。解決策を思いついたら、その時に問題点を挙げよう。


 さすがに一人だけポツンと蚊帳かやの外は可哀想だから、俺は遊ばなかった。


 とりあえず伏せているラキューの背中をでていると、――オミクレーくんからラフレシアがすぽんと現れる。


《終わったよ》


(大丈夫そう?)


《後遺症とかはなさそう。ただこれ以上は無理そうだから、調子乗って自分からやらないように言い含めておいた方がいいかもね》


 そこら辺はダラーさん経由でだな。俺から言っても、効果は薄そうだし。


(てことで、二人目アスカかもーん)


《じゃじゃじゃーん》


 俺の身体から新たなアスカが生まれ出る。……やっぱりラフレシア以上に魔力が持って行かれる感覚があるな。


 アスカがふよふよと不安定な挙動で飛びながら、オミクレーくんの顔の上に降り立つ。


 そんなアスカが気になったのか、ラキューが立ち上がってオミクレーくんに歩み寄り、アスカを見つめる。


 アスカがチラリとラキューを見つめ、……何か考え込むように固まってからすぐにオミクレーくんに向き合う。


 ……あんまりないからみではあるな。邪魔せず観察するか。


 ラキューも特に何かする気は無く、ジッとながめている。アスカの回復能力を落ち着いて、間近で見る機会ってあんまりないから気になったのだろう。


 アスカがスッと両方の手の平を少し離した気功砲みたいな手の形を作る。そして――、


《もどーれー、もどーれー、もとにもどーれぇえ》


 それ戻らんやつー。


 そんでもってアスカは実際にオミクレーくんの顔を回復させなかった。


「ぷぎ?※1」


 意味がわからないラキューは首を傾げてしまう。


 アスカはそんなラキューに振り返り、微笑みを向けて口を開いた。


《そうだよ、私はインチキだからね》


「…………!」


 ラキューが目を見開き、口を半開きにして、はぁーと息を吸いながら驚いた顔を見せる。そんでもって俺の方をバッと見上げてきた。


《ジョークだよ、ジョーク》


 俺がそう言うと、ラキューは再度、アスカに目を向けるとアスカが――、


《いぇあ》


 そう言いつつ片手でサムズアップして、もう一方の手でなんかやしの力っぽい何かでオミクレーくんの顔を治していた。


「ぷぎゃー」


 ラキューが、してやられた、みたいな両目を矢印を内側に向けたような形にして、くやしそうな顔を作る。あら、意外にノリが良いわね。


 ……うーんと、この場合は……アスカをたしなめなくてもいいか。仮にこれがラフレシアだったら、注意はするかもだけど。


 ってのも、俺やラフレシアはラキュー達四人の『命の根本』を握っている。どんな時でも容易くり取れてしまうのだ。


 俺らはラキュー達から見れば、上位存在に等しい。そんなやつから冗談とか言われたら困ってしまうだろう。笑っていいのか笑って駄目なのか、その間違いで怒って命を取られてしまうと、そう思ってしまうかもしれない。


 否が応でも上下関係が出来てしまう場合は、接し方は考えなきゃいけない。ちゃんと威厳は持たないとね。


 下手に出て舐められてしまうと今後の活動に影響が出るからな。命令に従わなくなったら、結局排除しなきゃいけなくなるかもだし(今後俺は命の取り合いに身を投じ続けるのは確実だし)。


 なので俺は基本的にラキュー達に意図して冗談は言わんし、ふざけたことはしない。そう改めて心に刻んどく。


 でもアスカはたぶん俺らみたいに魂をぐちゃぐちゃに出来るわけでもないから、このままで良いだろう。アスカはラフレシア直属の眷属みたいな感じで、まあまあラキュー達寄りだろう。まあ、ラキューが強く出なかったのはまだ俺とラフレシアと同等くらいに思ってるからだろうが。


《ますたー》


 アスカがオミクレーくんを治して、俺に近寄り、見上げてきた。とりあえずすくい上げて上半身の一体で向かい合う。


(なーに?)


《ますたーと私は今や家族?》


 そう言われ、俺はちょっと言葉に詰まってしまう。うーんと、そういう繋がりを求めての発言と取って良いだろうか。


(えーっと、なりたい?)


《いぇあ》


(そっか……。申し訳ないけど、立場的には家族として対等のポジションで扱うのは難しいかなあ。俺はお前達を『使役』しているマスターなので。そこら辺の繋がりを求めるなら、プルクラさん達の方が良いよ)


《なーる》


 特に気にしてないようにアスカがうなずく。


(ただ俺じゃないなら、ラキュー達をそう見ても良いし、ラフレシアを……この場合、マザーとして扱っても良いし)


《なんでじゃ》


 俺の頭の上に乗っていたラフレシアがペシンと叩いてくる。そんなラフレシアをアスカは見上げて呟く。

《まざー……おかん……》


《いや、おかんはやめて》


 おかんは嫌らしい。


 アスカが首を傾げる。


《お母さん?》


《うっ……!?》


 ラフレシアがたじろぐ。


(母性感じてんじゃないよ)


《うっせえ! 名前かマザーで良いよ!》


 ラフレシアは俺の頭をペシンと叩きつつ、アスカにそう許可を出すのであった。


《では、まざーで。ところでラキュー》


「ぷぎ」


 アスカは、次にラキューに視線を移す。


《家族扱いでよろしいか。たまに冗談を言う間柄が素晴らしい気がするのだ》


「ぷぎ? ぷごぎゃ」


 ラキューはとりあえず頷く。


《よし。……ということで》


 アスカは頷き、飛び立つとやはり頼りない飛行でラキューの前につく。


《お前も家族だ》


 アスカはそう言って、ラキューの鼻をぺちんとなぐる。


 ファミパン来ました。


「ぷぎ?」


《冗談を言える間柄なら、これは許されると『彼』に聞いたので。うん、家族に成った》


 アスカはどことなく満足気だ。関係にカビが生えるくらい長い間、続けば良いな、この家族が。


《ところで、まざーよ》


《なんだよ》


 アスカは次にラフレシアへと意識を向ける(意識の割り振りがまだ上手く出来ないのか、たけのこニョッキ側はちょっと動きがぎこちなくなっている)。


《さらに一歩進めるために、私に名前をおくれ》


《……アスカじゃ駄目なの?》


《アスカはふぁーすとねーむで、まざーからせかんどねーむをもらう。おくれ。ラキュー達にはつけてた。おくれ》


《勢いがないのに、圧がすごい》


 アスカって精神的な欲求をそれほど感じないだけで、一応は感情があるみたいなんだよね。だからかわずかに感じたそれを必死に手繰って、出力してるんでしょうね。


 俺はここで口を出してみる。


(良いんじゃない? せっかくだし、花の名前にしちゃえ。意味のある名前だと、それが一番だろ?)


 そう言うと、ラフレシアがちょっと複雑そうに唸る。


《……私達と同じにするのは……何か駄目な気がするけど……》


《問題ない》


 アスカは首を横に振ると、ラフレシアはため息をつく。


《…………。なら、いいよ。……じゃあ、どうしようね。アスカの意味には自由って意味を込めてあるんだろうけど、今のアスカが求めるものは自由よりも繋がりで良いんだよね?》


《そんな感じがいい》


《なら……アイビー、別名のヘデラ……いや、あえて和名でセイヨウキヅタ……キヅタでいいかも。アスカの名前をそのまま使う感じで名字っぽいのがあってるかも》


 ちらりとラフレシアがこっちを見てきたので、俺は頷いておく。


(いいんでない? 花言葉は?)


《『永遠の愛』『不滅』『友情』とかそういうの。ただヘデラの名前の由来が『しがみつく』っていう、まあ伸びて絡みつく植物としての意味合いがあって、それ関連で死んでも一緒、みたいな意味もあったり》


(俺からすると一蓮托生いちれんたくしょうみたいなところあるから、かなりマッチしてるな)


 俺に対するいましめとして、頭の隅においておけるな。俺が死んだら、ほぼ全滅だもんね、この子達は。引き際とかしっかり見極める力をつけないと。


《……じゃあ、キヅタで》


 そう言った瞬間……特に何も起こらなかった。


 俺とラフレシアはちょっと身構えていたけど、何も起こらなかったことに残念半分、安堵半分な面持ちだった。


 アスカとラキューは不思議そうに俺らを見ていたが、追求をする気ないらしい。


《アスカ・キヅタ?》


(俺達や『不死ノ王』の国の形式からするとキヅタ・アスカの方が良いかもね。ヒウルみたいな感じ)


《じゃあ、キヅタ・アスカで》


(鬼傳朱鳥とか言う漢字名も送ろう。伝われっ。びびび)


《びびーん》


 俺が手をぴらぴらさせると、アスカが頭の両脇に人差し指を立てて、謎電波をキャッチする。


「ぷぎゃ!」


 なんかラキューがぴょんぴょんと足元で飛び跳ねているので、ついでに謎電波を送ってやる。


(ラキューにも、びびび!)


「ぷぶごん!」


 ラキューは触手を小刻みに揺らして、俺の謎電波をキャッチしてくれた。


 まあ、こんな感じのおふざけなら良いでしょう。


 ちょっとずつ、俺とこいつらの関係が良い方向に変わっていくことを、俺は切に願うのであった。

次回更新は2月4日23時の予定です。もしかしたら1月28日23時に更新するかもしれません。



ちょっとした補足。

※1の訳 「治さないんですか?」

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