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使命を為すために冷たくあれ

 フーフシャーはアハリートが土のテントの外に出て行ったのを見送ってから、土の椅子いすに座り込んだ。項垂うなだれて、深いため息をついてしまう。


 ブラーカーはそんな彼女を見て、おろおろとして、リザードマンのラケルタは「心中お察しいたします」と静かに口にする。


 ――さすがにラケルタは戦いに身を置いているだけあって、大きな動揺はしない。ブラーカーも姉の死だが、同じく動揺はしていない。


 自分の子供と違って、姉を戦士として扱っているためだろう。そちらの死は覚悟していたのかもしれない。


 だが、フーフシャーはそこら辺の割り切りは出来ていなかった。


 200年以上共にいた姉妹だったのだ。涙を流しはしなかったが、身体が重くなるほど気持ちが落ち込んでしまう。


「……心配してくれてありがと」


 しばらく、この重みに身をひたす。父――前任の魔王が殺されてしまった時以来の気持ちだ。あの時は自分――ブラーカーやライラ、弟も力がなく、涙を呑んでいた。あんなことが起こらないようにと力を得たのだが、こんな結果になってしまうとは。


 戦いに身を投じている以上、『運が悪い』ことが起こるのは、当然あり得る。


 ……もし、それが嫌なら戦いなどしなければいい。


(でも、そんなことは出来ない)


 何故なら、偽神化を得た魔王を聖地に送り届けなければ、世界は終わってしまうから。


 妖精達が成し遂げたいこともわかっている。認めてやりたいという気持ちもわずかにあるが、いつまでかかるかわからないことを待っていられるほど、この世界には余裕がない。


 だからどんなことがあろうとも進まねばならない。どんな犠牲ぎせいを払おうとも。それを忘れてはならない。


 フーフシャーは大きく息を吸って、吐く。


 ――そう。冷静に、冷酷にあろう。冷たく考えろ。


「……。ブラーカー、とりあえず戻ることを優先するわ。良いわね」


「うん」


 ブラーカーは少し不満気であったがうなずく。


 吸血鬼達と長々と交渉していられるほど余裕はない。魔王が殺されてしまったら、意味がないのだ。あれは勇者を殺さなかったが、長い年月を得て偽神化を得ている。死なせてはならないのだ。


(……まあ、偽神化っていう点で言えばフェリスちゃんや……アハリートくんも候補ではあるけど)


 フェリスは生まれながらに偽神化を得ている特異な存在だ。この南の地方を回っている時に耳にした。――ただかなり不完全な力ではあるようだが。恐らくは魔力不足だろう。最上位スキルを初めから持っていると同様の『不完全な力』であることが多い。


 そしてもう一人の候補、アハリートは驚異的なスピードで進化出来る特殊な魔物だ。もしかしたら偽神化をもうすぐ手に入れるかもしれない。


 さらに重要なのは妖精を味方につけている、というところだろうか。彼が味方になってくれれば、戦力の増強も行える(もっともラフレシアの意思を尊重しているからタイタンと戦えるが、魔族には支援出来ない、ということは十分あり得るが)。


 とりあえずオルミーガをつけたので、吸血鬼達とだけ親交が深まる、ということはないだろう。結局のところ、アハリートは操るのが難しいため彼自身に決断してもらうしかない。


(そこは期待しない方がいいわね)


 アハリートは何気に頑固だ。恐らく彼の中では『魔族と吸血鬼達が争わないようにする』ことで考えが決着している。両陣営で考えれば、吸血鬼側が悪いとわかっていても、なおもそんな決断をしているのだ。もはや変えようがないだろう。


 そもそも生き残ってくれているだけで十分なのだ。


 ミチサキ・ルカというティターニアの力に唯一、対抗出来る存在を宿し、ラフレシアというタイタンの機密をも知り得る存在を宿している。


 最低限の好感度さえ保っていれば、いずれ始まるタイタンとの決戦で最高の味方となってくれるだろう。……というか、アハリートがいなければ勝てない。


(……そのくらい重要だっていうことは向こうも知っているはずだしね)


 交渉でそこを押し出してこなかったが、ルカうんぬんのことを切り出されていたら、どうにも出来ないし、むしろ逆に良いように使われてもおかしくはなかった。だから下手に無理矢理何かさせるのも悪手であったのだ。祭り上げることも出来たが、拘束されることを嫌っているだろうから、それも悪手だ。


 ただ、吸血鬼達にこれ以上手が出せないわけではない。


 ちょっとだけ不満気でしょんぼりしているブラーカーの脇腹をぽふぽふと叩く。


「安心しなさい。アハリートくん頼りにはなるけど、オルミーガがなんとか仲良くしてくれたら上手くいくから」


「……行きますかね?」


「さあね。……でも少しでも仲良くなれば可能性はあるわよ? ……だって、アハリートくん、吸血鬼の始祖を従えているんですもの」


 ――そう、始祖アスカを身に宿している。吸血鬼達が千年かけて『救おう』と周りに甚大な影響を与える存在だ。仮にそんな存在に命令されたら、強制力がなくても従う存在が一人や二人いてもおかしくはない(現最高指導者のプルクラなどは無理だろうが)。


 そうすれば少しは有利な条件を引き出せるかもしれない。


 だからあせる必要はない。――今は確執かくしつを置いて、為すべき事を為さねばならない。


 そうして何もかも取りこぼしたら、今以上の後悔をするはめになるから。

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