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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第二十二章 心は『人』としてあるために

 蜘蛛脚野郎から情報を得て分かったこと。

 

 今回の村への襲撃は、バックアードがリディア及び村人達を殺してこの森での天下を取ろうとしたためみたいだ。

 

 ……うん、クソだな。クソ骸骨だ。これほどの外道がいたとは。

 

 てっきりミアエルを奪ったからその報復とか考えてたんだけど、それについては向こうは知らなかったみたいだ。

 

 まあ、こんな凶行に及ぼうとした大元の理由はミアエル――生きた光の種族を手に入れたかららしい。で、あの骸骨はミアエルのことを嗅ぎつけられたら、リディアは確実に何かしらの対処をしてくるだろうなんて思っていたみたい。だから、その前に面倒だから村ごと殺してしまおう的な考えだったようだ。

 

 ほんとクズ野郎だな。

 

 そんで、今の現状を見るにあの骸骨、馬鹿じゃないからほんと厄介で困る。

 

 ……もしバックアードが誇大妄想で無能なただの馬鹿なら良かったのだが、無駄に狡猾なせいで襲撃の初動が成功しちゃった感じだ。


 で、今し方村に侵入したゾンビは、この蜘蛛脚野郎以外にも地面を掘り進むモグラゾンビ部隊がいるようだ。そいつらが村の中心に行ってしまったらしい。

 しかもその中には蜘蛛脚野郎と同じ自我がある上位個体もいる様子。そいつらで結界の心臓部をぶっ壊すつもりのようだ。中には地雷っぽい能力を持っているモグラゾンビが何体かいるみたいだ。

 

 ヤバいかなあ。結界の心臓部をぶっ壊されたら、村の至る所から侵入されてしまうだろう。

 

 とりあえず結界の柱近くでうごうごしていた爆発ゾンビを屠っておく。結界は回復したから、すぐに大軍が流れ込んではこないと思うけど……。村人が奮闘して結界の心臓部を守れることを祈るか。

 

 んでもって、ミアエルの元に歩み寄る。


 「ゾンビさん……」

 

 ふらふらになりながらもミアエルは自力で歩いてきて、寸のところで倒れそうになり、俺は慌てて支える。

 

 ……本当、酷いことになってるな。顔は傷だらけ、鼻は折れてるっぽかったけど、いつの間にか無理矢理空気が吸えるように治したようだ。右肩は溶けて肉がぐずぐずになっている。痛がる様子はないけど、まったく動く素振りがない。これもヤバいだろう。

 

 さらに全身の肌には、斑模様の痣が浮かんでいた。

 

 俺に回復手段があれば良いのにと、切に思った。

 

 今、俺が出来ることは支えてやることだけだ。

 

 「……ゾンビさん、…………私、私のせいで、スーヤさんが……」

 

 スーヤ? 誰それ。とか思ったが、もしやあのさっきまで一緒に戦っていたお兄さんかな? あっ、てかヤベえじゃん。

 

 俺はちょっと慌ててしまい、少々、乱暴にミアエルをお姫様だっこすると、たったか走る。

 

 で、さっきから飽きることなくマイペースに打撃&摂食を繰り返している元村人兵士ゾンビの前までやってくる。そこでミアエルを下ろして、座らせる。

 

 「わ、私が……!」

 

 「うー」

 

 なんかミアエルが手を突き出して、光魔法使いそうな動作を見せたので、手で制す。こいつらは――村人ゾンビは、殺しちゃダメだ。少なくとも俺らの手はなるべく使わない方が良い。

 

 「……なんで止めるの……?」

 

 そう呟くミアエルだったが、手は下ろして攻撃の意思はなくなる。でもかなり不満げだ。

 

 これは困る。喋れたら良いんだけど、無理だし、ジェスチャーだと伝わるけど時間がかかるからなあ。まあさっさと行動に移して見せればいいか。

 

 俺は、ゾンビ達をむんずと掴んで適当にそこら辺に放り投げる。ゾンビ達は抵抗せず、それどころか転がっていった先で上半身を起こすと、何かを叩いたり食ったりするような動作をその場で繰り返す。

 

 で、そうやって次々と変なゾンビを投げて埋まっているモノを掘り起こしていくと、ぐっちゃぐっちゃになった剣が頭に生えたゾンビが現れる。それをさらに放り投げると、真っ赤に染まったお兄さん――たぶんスーヤがいた。

 

 目を閉じて静かにしていたスーヤは、目を開けると「ぶへっ」と血を吐き出した。

 

 重傷に思えるけど、ほとんどゾンビの血だ。でも若干、囓られたっぽいところがある模様。でもミアエルに比べるとほぼ無傷だ。

 

 つまり、生きてる。

 

 「……終わった、のか?」

 

 「スーヤさん!」

 

 ミアエルが目をめいいっぱい見開くと、スーヤに向かって飛びついた。

 

 血がつくのも構わずに、ミアエルはスーヤの胸に顔をくっつける。

 

 「生きてる……? 生きてる……! 生きてた――! 生きてたぁ……!」

 

 ミアエルが年相応の子供のように、スーヤの胸で泣きじゃくる。

 

 スーヤは困った顔をして俺を見てきたから、俺は肩をすくめて見せる。

 

 とりあえず今は安全だから、ミアエルの好きにさせてあげてくれ。

 

 俺の意図がスーヤに伝わったかどうかは分からない。

 

 でも、スーヤは一息つくと、ミアエルの背に手を回し、あやすようにぽんぽんとしていたのだった。





しばらく泣いていたミアエルは、さすがに限界だったのか、こてんと突然気を失ってしまった。いきなりだったため、死ぬんじゃないかと思ったが単に気が緩んでしまっただけっぽい。その後、普通に息づかいは聞こえてきたから、今は問題ないと判断した。

 

 ていうか、普通、子供があんな大怪我負ってたら動けるはずないと思うんだけどね。どんだけ気力強いんだよ。無理しすぎていつかコロッと死んじゃうんじゃないかと、不安になってくるわ。

 

 「……俺に『解毒』してから気絶したようだな。……この子は本当に子供とは思えないな」

 

 まったくだね。

 

 とりあえずミアエルはスーヤにおぶってもらう。


 で、その目の前のスーヤについて。

 

 なんでこいつが助かったかというと、ざっくり言えば『侵蝕』でゾンビ達を無力化したからだ。

 

 結構、ギリギリだった。俺がこの村のこの広場に入り込んだ時には、ミアエルがぶん殴られていた場面だったのだ。

 

 さらに顔面を地面に叩きつけられたのを知って、俺は頭に血が上ってすぐさまミアエルを助けようと思ったが、理性がストップをかけた。

 

 普通にこのまま出て行ったら、俺は殺される、と。

 

 はっきり言って、俺は強くはない。

 

 すごい弱いわけでもないのも理解している。たぶん『侵蝕』やら『潜伏』はチート級の能力だろう。


 だけど、無双出来る力では断じてないのだ。

 

 俺の対処なんて簡単で、とにかく近づかせず遠くから攻撃すれば良い。『潜伏』で一度隠れれば相手は俺を見失うし、地中を移動出来るから奇襲も出来る。だけど、それが何度も成功するのは普通のゾンビかよほどの馬鹿にだけだ。

 

 ある程度の知性がある奴が相手だったら、壁上に避難など対処されてしまうだろう。

 

 少なくともそれで膠着状態になんて陥ったら、状況は悪くなるだけだ。下手をするとミアエルをダシに使われて、俺が現れたところで集中砲火されることだってありうる。

 

 それに触れたら勝てるって言っても、一瞬で終わるわけじゃない。触れている間に地面から引きずり出されたり、囲まれたりして袋だたきにあえば悠長に制御を奪っている暇なんてないだろう。

 

 だから俺は、必死に気付かれないようにゾンビ達の制御を奪っていった。


 その過程でやばそうになっていたスーヤを助けることが出来たというわけだ。

 

 殺されている風な偽装したのは、スーヤは足を怪我していたから。蜘蛛脚野郎との戦闘中に的にされても困る。

 

 まあ、正直、スーヤが制御奪ったゾンビの元から逃げ出さない保証はなかったんだけどね。でも、意外にスーヤは空気が読めたみたいだ。

 

 ゾンビの制御を奪って偽装を施した後、スーヤが拘束から抜け出しそうだったからダメ元で軽く接触したんだ。

 

 こう、なんというか、スーヤの頭近くに現れて、肩をぽんぽんしたの。

 

 「……!?」

 

 ビックリしたような顔で俺を見て、けど硬直していたことに慌てて、けれどゾンビ達から攻撃を受けないのを知って、瞬時に状況を理解してくれたのだ。

 

 で、俺は自分の唇に指を当てて、『静かに』の仕草をすると俺が敵ではないと理解したようだ。

 

 「……加勢はいらないのか?」

 

 スーヤの問いに俺は頷く。

 

 「……分かった。なら任せる。……ありがとう」

 

 そうして俺は、スーヤを説得して静かにさせると蜘蛛脚野郎との戦いに一対一で臨んだのだ。

 

 まあ、結果、スーヤも死なず勝ちはしたが結構ギリギリではあったな。正直、ミアエルの援護がなければ刺し違えていた可能性だってありえた。

 俺自身の安全をとってスーヤとの共闘もありだったんじゃなかろうか。と、そんな風に終わった今、考えていたりする。

 誰かを危険に晒したくないと考えるのは悪くはないはず。だが、あの場面で俺が死んでいたら状況は悪くなっていただろう。

 

 絶対に勝つなんてことはよほど強くないと出来ないが、負けにくくする方法は無数にあるはずだ。その場その場――もしくは先のことを考えて最善を選択することを今後は考えよう。

 

 「……ゾンビ――いや、アハリート、か? ……助かった」

 

 俺が先ほどの戦闘の反省をしていると、スーヤが俺に頭を下げていた。

 

 別にいいよ。好きでやってるんだし。

 

 まあ、細かくは伝わらないから首を振る程度ですませよう。てかそう言えば、今の戦闘のおかげで俺のレベルが2上がって20になって、進化出来るから、どうするか考えないと。

 ちらっと見たら吸血鬼があったんだけど、他に気になる進化先もあったし、現状を良くする力が出来れば欲しいのだが、うーむ。

 

 リディアがいてくれたら、色々と詳しいし助かったんだけど。

 

 そんなことを思っていると――。

 

 「俺は『念話』を使えるから、何か伝えたいことがあれば言って欲しい。図々しい願いではあるが、村のために協力してもらえると助かる。……本当に図々しい願いなんだが」

 

 マジかよ。スーヤ意外に有能かよ。

 

 (別に問題ないかな。協力させてもらうよ)

 

 「……助かる。……本当に」

 

 スーヤ、滅茶苦茶申し訳なさそう。

 

 ……まあ、図々しいのは否定しない。一応、俺が村に入れるのを渋っていた訳だしな。普通ならどの面下げて、俺に手伝いを頼むんだ、って話しだ。

 

 もっとも俺は俺を村に入れる危険性を十分に分かっていたから、別に条件を出されたことに不満はない。危険でも入れてくれようとはしたしな。

 それに入るために難しい条件を出したのは村のためだって分かるし、今も村を救うために恥を忍んで頼んでいるってことが分かるから悪感情はない。

 

 ……で、そこは置いておいて、だ。さて、協力するために何を要求しようかしら。この協力の依頼は仕事と認識してもいいんだよなあ? なら対価はもらうべきだよなあ?

 

 報酬については俺がこいつらを認めようがそうじゃなかろうがは関係ない。それで俺がタダで仕事をする理由にはならないのだ。てか、今なら色々言っても、大体の要求は通りそうだな。なんたってこの問題を片付ければ、俺はヒーローだしな、げへへ。

 

 そもそも仕事に対して正当な対価を求めるのは間違ってはいない。つーか、ただ働きなんてすると、今後も良いように使われてしまうからな。

 

 対等かつ良き友人として相手を思いたいのなら、相応の対価はふんだくるべきだ。

 

 欲しい何か、があるわけじゃないけど、今のうちに言質ぐらいはとっておくか。

 

 (……協力はするけど、タダってわけじゃないからな。……村に住まわせてくれっていうのは、言うつもりはないけど)

 

 「問題ない。要求にもよるが、大体は叶えるつもりだ」

 

 ならばよし。スーヤが村でどの程度の地位と発言力を持つか分からないが、リディアにも言っとけば大丈夫だろ。地位はともかく何気にあいつ発言力あるだろうし。


 んでは、作戦会議を始めようか。

 

 とりあえず俺は蜘蛛脚野郎から得た情報と俺の大まかな能力と進化出来ることをスーヤに伝える。一通り、伝えるとスーヤは顎に手をやって考え込む。

 

 「ここに残り続けた方がいいな。多数の敵が侵入したとしても、結界の心臓部がまだ無事な場合、守りが手薄な場所に増援を送って防衛に当たるようになってる。ただ――」

 

 スーヤが先を続けようとしたところ、村の中央から数回の爆発音が間隔を置いて鳴り響く。いくつめかの爆発の後、先ほど張り直したばかりの結界が消えてしまった。

 ……恐らく、というかほぼ確実に中央の結界心臓部が破壊されてしまったのだろう。タイミング悪いね、ほんと。

 

 スーヤが険しい顔をして続ける。

 

 「……クソが。……心臓部が破壊され、結界の維持や回復が困難と思われる場合は一部を除いた全兵士や非戦闘員の村人は中央に赴き、避難や最終防衛ラインを組むことにされている」

 

 (今は中央も危なくないか? それに集まったら、一人感染とかで総崩れにならないか?)

 

 「避難場所は心臓部とは違う施設だ。そこは村を囲う結界と同等のモノが三十分程度、入っている間適応される解毒結界が三時間張られる。だから『感染』による崩壊は起こらないようになっている。……と、言ってもここまで来たら本当に危険な事態だから、そこに閉じこもることは『安全』とは程遠いんだがな」

 

 うん、なんとなくそれは分かる。もはや完全に行き詰まったと言ってもいいだろう。

 

 (じゃあ、スーヤとミアエルは予定通り、そこに行くとして俺はどうする? 結界内にいれてくれなんて言うつもりはない。つーか、そんなことしたら本気で総崩れになる危険があるしな。ていうか、立て直しは出来るのか?)

 

 「理解してもらえて助かる。……立て直しは、正直難しいだろうな。避難し、抵抗するだけだ。最悪、村の外への避難も考えられる。それも勝率は低いが」

 

 ……直接口には出さないが、スーヤの苦笑いを見るに、もはや『終わった』と言ってもいいのだろう。

 

 「ただ、結界が張られている間にリディア様がご帰還なさったのならば、まだ希望はある。村の損害を度外視すれば、あの方の広範囲攻撃魔法でどうにかなるからな。そのための『最後』の避難でもあるんだ」

 

 マジすか。どうにかなっちゃうのかよ。どんだけすごいんだよ、リディアって。


 で、そのどっか行っているらしいリディアの行方について質問したら、どうやら村の外で上位個体の退治をしているようだ。

 

 ……リディア一人で大丈夫なのかと思ったが、多少進化した程度のゾンビが1、2ダース集まろうとも問題にもならないらしい。マジヤベえ。


 「……そこでアハリート、あんたには遅滞行動をとって欲しい。『侵蝕』と『潜伏』の効果なら、正面から立ち向かわない限り危険はないはずだ。もし、抑えられない、危険そうだと判断したら村から逃げて構わない」

 

 (分かった。……進化は出来るがどうする?)

 

 「した方がいいだろう。もう一度、教えて貰ってもいいだろうか」

 

 俺は頷き、未だ脳内で提示され続けている次の進化先をスーヤに告げる。

 

 『ヴォーメット』『バースター』『※ヴァンパイア』『パラサイト』『モール』

 

 ――この五つだ。

 

 (……どれに進化すればいい?)

 

 「好きなので良いが……現状で進化して欲しいのは…………いや、でも……」

 

 言い淀んだスーヤに俺はため息をついて、言う。

 

 (……この村の奴らが生き残る可能性が上がるなら、お前はどんなことでもすべきなんじゃないのか?)

 

 スーヤは切れ者で、たぶん物事を正しく判断して行動に移れる有能な人間だ。指揮官として活躍出来るはず。だが、無駄に優しい部分が指揮官としては不適正だろう。

 

 ここはお前が俺を慮る場面じゃないだろう。騙してでも俺を使うべき場面だ。

 

 スーヤは苦しそうな顔をして片手で口を覆うと、一度息を吐いて、話し始める。

 

 「『パラサイト』だ。だが、これは正直言って、『あんたにとって』悪手なんだ。……だから……その……」


 スーヤがまたも言い淀んだため、俺は睨みつけてやった。


 「……っ! ……ああ、分かったよ、くそっ――パラサイトはな、自分以外の全ての存在を支配下における特殊なゾンビだ」

 

 パラサイトはゾンビの突然変異種とも言える存在らしい。この森に過去に一度、パラサイトが現れたようだ。そいつは『感染』ではなく『卵胞血虫』という体内で毒ではなく寄生虫を生産する特殊スキルを持っており、寄生虫でもって相手を支配するようだ。

 

 『卵胞血虫』は同じスキルを持っている者以外、全ての生物に感染する。寄生虫に感染しても死なないし、死んでもゾンビにはならない。だが感染した者は部位によって時間は変わるが、脳に寄生虫が到達した場合、自我を失いパラサイトの完全なる操り人形と化してしまう。そして感染していない者を中心に襲い続けるという。

 

 一番えぐいのは、しばらくするとその感染者は『卵胞血虫』を得て、体内で寄生虫を生産する力を得てしまう。でもあくまでスキルを得るだけでパラサイトになるわけではないようだ。ただスキルを得たら、脳内の寄生虫を取ったところで寄生虫はずっと体内で増え続け、常に脳の主導権を奪おうとするそうだ。

 

 むろんそれは人間以外の他生物はもちろんゾンビ達も含まれる。

 

 過去にパラサイトが現れた時は、この森が壊滅してしまうところだったらしい。

 

 幸いにして、何故かアンデッド喰らいのカエルは感染しなかったことや、リディアが解決のために全力を出したこと、危機感を覚えたバックアードが手を打ったおかげでなんとか収束したらしい。

 

 「……あんたがパラサイトになったら、この村どころか他の集落に安易に入ることは出来なくなる。それと俺は進化について詳しくは知らないが、リディア様が言うには一度現れた進化先は、二度と現れないらしい。だから慎重に選んで欲しい」

 

 (……なるほど)

 

 つまりここでパラサイトを選んだら、二度とヴァンパイアにはなれないと。

 

 ちなみにヴァンパイアについて聞いてみたが、こちらの進化先は悪くはないらしい。

 

 魔法も使え、姿を変えることも出来るらしく、他にも様々な力を得られるようだ。

 

 でも、一朝一夕で得られる訳ではない。ヴァンパイアは完全なる大器晩成型で、初期は日光に弱く、ゾンビの不死性もほとんど失われてしまうらしい。心臓を潰されると死にはしないが一時的に動きが停止してしまうみたいだ。あと、ある意味生き返るらしく、呼吸もするようになるようだ。息していなくても死にはしないようだけど、活動を停止してしまうらしい。さらにこっちは別に良いのだが、寿命も出来てしまうんだとか。それでも数百年以上はあるらしいけどね。ヴァンパイアの方が確実にいいだろう。

 

 俺は脳内にて告げる。

 

 (パラサイトになる)


 『確認しました。パラサイトへの進化を開始します』

 

 俺の決断にスーヤが目を見開いて見つめてくる。

 

 「いいのか?」

 

 (……うん、まあな。このまま見捨てるってのも夢見悪いし……それに俺は変態だから」

 

 「……?」

 

 スーヤにちょっと困惑した顔で見られてしまった。

 

 詳しく言うつもりはないが、俺は『化け物』が好きなんだ。戦隊物とかでは、ヒーロー側を応援はするし好きだけど、怪人側の能力とか姿に憧れていたりもする。

 

 バイオでハザードなデロデロした生物兵器さんとか武○人間とかめっちゃサイコーなんだよね! ちなみにムカ○人間はその機能性や存在意義が受け入れられずにいる。否定はしないけど、あらすじから苦手で本編は観てないんだよねえ。

 

 んで、そういう訳だから化け物に至ることに忌避はない。むしろどんどこいという感じだ。

 

 ――だからこれは俺のためなんだ。俺自身がなりたいとそう願っている。

 

 ……。

 

 …………俺は『誰かのため』を言い訳に重要な選択をしたくないんだ。その言葉は今は正義を為すためや生きるための原動力になるだろうが、いつかは呪いに変わってしまうだろう。

 

 その呪いは他者を守るために離れられない――束縛であり、他者に恐怖を抱かせるものでもある。俺は心は人でも、外側は完全に化け物だ。恐がるなというのは無理がある。

 

 恐怖は蓄積し、いつか爆発して守ろうとした人達が俺を殺そうとするかもしれない。無理もないことだろうけど、俺はそうなったら、殺そうとした奴らを絶対に許せないだろう。

 

 そうしていつかの誓いである『誰かのため』は本当の呪いに変わる。抱いた正義は、壊れて信仰するものを失って絶望した俺は、心も本当の化け物に変わってしまうだろう。

 

 だからこそ俺は、嘘でも重要な選択は『俺自身が決めた』としなければならない。

 

 いつでも誰かから離れられるために。

 

 ……独りぼっちになるのは辛い。だから、仕方ない、なんて割り切ることなんて出来ない。

 

 けど、人を憎む『化け物』だけにはなりたくない。

 

 まあ、リディアやミアエルくらいなら、強いし、しばらく一緒にいられるだろう。

 

 それで今は良いと思えたんだ。

 

 俺は地面に座り込み、目を閉じ、意識を闇の中に沈み込ませる。

 

 さあ、化け物になろう。『誰かのため』ではなく、『俺自身のため』に。

 

 この時の決断を『誰かのために』から『お前らのためだった』にならないように。

 

 心まで醜い化け物に、ならないためにも。

 

 

 『『パラサイト』への進化が完了しました。進化により『感染』が『卵胞血虫』に変化しました。『魂支配』のスキルを取得しました。『補助脳』のスキルを取得しました。――条件を満たしました。感情スキル『人心』を取得しました』

※無駄な補足

進化先について。ヴォーメット、バースター、ヴァンパイアは省略。

モールは、文字通りのモグラ型に変化。地中を掘り進められるように手が変化し、その他に目、耳などの感覚器官も変化する。スーヤの足を挟んだのは、こいつの仕業。

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