それは優しさではなく、欲望です。
(あっ)
俺がさてどう攻めようかと考えていると、なんかミチサキ・ルカと心の中で発した。
(なんじゃい)
なんか不安になるだろ。
(……えっと、直感なんだけどさ)
うん。
(たぶんあいつ、覚悟決めた)
(どういうこと?)
(……あんたに勝つためにはさ、部位を千切って潰して、再生させないために肉片から遠ざけるか、消し飛ばすかしないといけないだろ)
(そうだね)
自分の殺され方を説明されるのは、ちょっと不思議な気持ちになる。
(一人であんたを倒すのにはかなり時間がかかるんだよ。しかも何度も同じ事を繰り返すから、どこかで必ず事故が起きるからまず勝てない。試行回数を稼がれるのは、かなりきつい)
俺を倒すということはつまり、『作業』と一緒! しかもその作業を繰り返すと、いつかは事故を起こして業務を強制終了をしてしまうのだ。
(なるほど。……それで?)
(……それを全力でやりにくる可能性がある。全ての行為を常に全力で。どっちにしろ、あいつの勝機はそこだけだし)
なるほど、イェネオさんがやってきた決死の攻撃を今まさに仕掛けてこようとしているわけね。
(ビビんなよ)
(無理かもー)
俺にそんな度胸があるとお思いか!? ――ただ、うん、勢いに乗らせるのは危険なのはわかる。圧力っていうのは、弱い相手でも強い相手をビビらせて、ミスを誘発させる力がある。
……ただ、だからと言って挑発に乗って前のめりになるのも危険だ。これこそ頭は冷たく、心は熱くならねばならない。
乗ってはいけない。だから一つの思いを抱く。
あいつを殺す。これだけは揺るがせてはならない。結果をどうするかはともかく、そういう思いを抱いていないと俺は絶対尻込みするはずだから。
俺は饅頭下半身の大口を開けて、吶喊する。突撃が普通に安定するからな。ウェイト差というものは覆らないのですよ。この世界、見た目通りの耐久した奴しかいないからな。
――ただ一つ思ったのは、だからこそ虫系の魔物は危なそうではある。甲虫――特にゾウムシ系統の外骨格は再現されるととてつもなく厄介だ。酸とか効くのかしら。
俺はそんなことを薄らと考えつつ、オルミーガに噛みつく。そんでもって触手も避けられないように軌道を考えて振るってみたけど――見事に全部避けられましたね。
しかも今度は、スライディングして股抜けしてきたよ。下は目がないから見えぬ! けど、俺にとって目は飾りだから――とか思っていると爆破されました。
《音が弱点だってバレてるね》
(うそーん)
(そもそもアンデッドだってわかってるなら、それくらいは予想を立てられるんじゃないか?)
……そりゃそうか。これは相手を――魔族そのものを舐めすぎてたな。下手すりゃ魔物討伐というカテゴリにおいては圧倒的経験値があるのはきっと魔族の方々だろう。
とりあえず押し潰すために、俺は脚の腕を全てパッと真横に伸ばして、身体を重力に任せて落とす。
どすん、と鈍い音が響くが、残念ながら踏み潰しは掠りもしなかった。
俺の下から抜け出してきたオルミーガは牙剣を突き刺してきた。無論、爆発する。
(おふぅ。……あれぇ? なんか『死線感知』発動しなくない?)
《発動条件に引っかからなかったんだと思う。……死に直結しないか……もしくはやっぱり相手の感情の感知があり得るかも》
(たとえば?)
俺はとりあえずぶるんぶるんと雑に振るって、オルミーガを追い払いつつ、ラフレシアに訊く。
《うーんと、たぶん殺意かな? たぶんだけどリザードマンの人に注意されて……その上で何か決意した時に考え方を変えたとしたらあるかなあ?》
つまりそれまではガチで殺しに来ていたと。殺さない方が良いと認められたのか、価値がない雑魚と判断されたのか。
オルミーガがバク宙して距離を取ってきた。アクロバットな動きが華麗ですごいなあ、とか思っていると片手の牙剣を前掛けの――太股の内側かなあ――に入れて、なんか違う形状の武器を取り出してきた。
……さっきと形は似ているけど、先端がワームくんの牙みたいな形状になっていた。それを向けてくる。
(あれは――イェーガー!?)
(そこは、アンデッドのあんた的に女スパイの方では?)
(いや、それだとそのまんますぎるじゃんか。じゃなくて――)
なんか面白い玩具使ってきそうだったから興奮したけども、ちゃんと防がないと! そもそもフックショットかどうかもわからないからな!
で、結論から言うとフックショットでした。
ぼふん、と中々に勢い良く鉤爪が射出されて、俺の上半身の一部に突き刺さる。これは――突き刺して引っ張るタイプなのか、巻き取られて接近するタイプなのかで対応が分かれる。
まあ、空中で当ててきてるなら――やっぱり巻き取って接近してきた。
「あぶぅううううううううう!」
観客席からアルスの興奮した声が聞こえてきた。ああ、うん、好きそうよね、ああいう玩具。
(似た構造のもの作れるかな)
《魔法と組み合わせればいけなくはない》
一応設計してみるか。ただ俺は使えないんだよなあ。この巨体だと無理だし、それだったら触手を使った方が早いまである。だから使い心地や改良はアルス頼りになっちゃうな。
俺は立ち上がらず、饅頭下半身の下部を地面につけながら(立ち上がる準備はしている)、ワイヤーを引っ張ろうとする(ここで注意するのは引き抜かないこと。もう普通に慣性で飛んでこられるから)。
んで、その前に鉤爪フックが引き抜かれる。もちろんそれも織り込み済みで本体を触手で狙う。オルミーガは俺に直接張り付かないと明確なダメージが与えられないはずだから、接近してくるはずなのだ。
ただ懸念は――――そう、もう片方の牙剣を前掛けの中にしまって、何かを取り出した。その形状は……銃だ。
《タイタンと戦って、銃を模造してくる魔族は確かにいたけど……》
割と魔族側の思考って柔軟なのかね。スキル、肉体、最強! とかの脳筋ばっかりだと思ってたんだけど。あくまで道具を使うスキルは会得出来ないけど、強いなら使う感じなのかな。
ミチサキ・ルカが唸る。
(銃口の大きさ的にショットガンっぽいが――)
さすがに薬莢とかの概念はないはずだから、シンプルに何らかの『弾』を飛ばすだけだと思うけども――。
爆音と共に放たれたのは、無数の甲殻の塊だと、思う。銃口をやや上に向けていたから、たぶんそれは直角に近い放物線を描いて俺の上半身――鹿骨頭の俺に当たり、爆散させる。
《音からして火薬の威力は低い。たぶん近距離専用のショットガンタイプで、弾そのものに法則系の魔法を施してる。重さが増すやつだと思う。――で、自動拳銃っぽいけど構造的に火縄銃と一緒。……連射はないはず》
(それだけわかれば助かる)
実際、ラフレシアの考察通り、連射が出来ないようでオルミーガは銃口をすぐに下げてきた。
そして俺のブレた軌道を描く触手に器用に掴まると上半身に向かって跳びかかってくる。その最中、銃と牙剣と入れ替える。
オルミーガは目を見開き、息を止めていた。息を止めているのは毒とかの警戒じゃなくて、シンプルに集中するためだろう。精密な動作を要求される時って。呼吸のブレすら邪魔な時があるんだよな。――たぶん、これで決めるつもりで勝負を仕掛けて来ている。
そんでもって、銃はもう一丁あると予想。ここぞって言うときに使ってくるはず。
ちなみにですが、銃を見たアルスはやっぱり興奮してました。あれも作らないとね。でもね、アルス。銃よりレールガンの方がすごいんですよ――とか言いたいけど、隣の芝生は青いと言うように他人の持つ面白い玩具は自分のものより面白く見えてしまうものなのだ。
オルミーガは上半身の一つに跳びかかると、牙剣を根本に突き刺し開いて、両腕で上半身を引き抜いてきた。弾力はあれど、切り込みを入れられたら、ブチブチと千切れちゃった。そんでもって、ぽいっと雑に捨てられる。あぁ、断面に哀れなワームくんの尾がぴちぴちしているのが見える。
にしてもお腕が四つあると便利だなあ。まあ俺はいっぱいありますけど!
そんないっぱいある腕や触手で掴もうとするが、紙一重で避けて、弾いてくる。
なんだろう、打撃の当て方が上手くて、裏拳とかを当てられると、ぱぁんと鋭い音が鳴って大きく弾かれるんだ。面白いね。
フェリスやイェネオさんみたいなタイプは打ち合うことをせず、回避に専念する技術を磨いてるっぽいけど、オルミーガは組み合って打ち勝つ技術を有してるのかな。
また一体、上半身をもがれてしまう。破壊はしないっぽい。アンデッド系は核を破壊しないといけないタイプもいるから、壊した上半身に核があってーとかの可能性も無きにしも非ずだもんね。実際、核やワームくんがいるわけだし、対応としては間違っていない。
ただシンプルな破壊よりも時間がかかるために、リスクが増していく。俺にインファイトは絶対やっちゃいけない。
――ただこちらもどこかで勝負に出ないと、削りきられる恐れがあるな。特に銃がもう一丁あった場合、最後の最後に使われたら俺は確定で負ける。
勝負事には敗北する確定のラインっていうのが存在していて、そのラインを超えさせないように立ち回らないといけない。
で、この場合俺が勝つ条件は……オルミーガを捕まえること。
今の手札で出来るか? 出来るな。よしやろう。
俺は雑にオルミーガに向かって触手などを振るいながら、注意深く観察してタイミングを計る。ちょっと心がドキドキする。相手に読まれてたり、直感的に回避されたらどうしようとか思ってしまう。
まあ、成功しなかったら殴り合いの泥仕合か、全スキルを使ってのゴリ押しで倒すだけだけどね。後者は正直、恥ずかしい気持ちになるからやりたくはねえ。
さて、勝負は一回だけだ。
――タイミングは牙剣を刺そうとする瞬間だ。そこで声を上げる。
「あぎゃあああああああああああああ!!」
「!?」
よし、『行動を躊躇った』! 成功だ!
俺はすぐさまオルミーガの腕を触手で掴んで、地面に叩きつける。さらについでに高速起動させていたチェーンソーを腹部の関節がある部位に押し当てる。オルミーガの甲殻は薄く、ワームくんのオリハルコン製の刃の前では、容易く引き裂かれてしまう。
「うぐぅうううううう!?」
痛みはあるようだけど、血はそんなに出ない。そのまま上半身と下半身を切断し、下半身を放り捨てる。その上で、オルミーガの四本ある腕全てを触手で地面に押さえ付ける。
俺はバッとリザードマンのお人に顔を向けた。
《オルミーガ、この状態で反撃出来ます!? 俺の勝ちでは!?》
「あー……いや、確かにそうだが……」
リザードマンのお人が困ったように唸る。
「……一つ言わせてもらうと、優しさは侮辱にもなり得ることを理解して貰いたい。オルミーガは貴方の命を奪おうと決闘を申し込んだ。然らば逆も認められるということ。そこに情けをかけようと言うのなら、辱めるのも同然。命を奪う――糧として価値のない存在としてみなすことも同義ということになります」
ああ、そういう考えね。強くなる魔族らしい思想だ。それを否定するつもりはもちろんないけど、従うのは嫌だなあ。
……オルミーガは……「さっさとやれ……」って言ってる。……一応、俺の勝ちってことで良いんだよね?
《……えっと、俺の勝ちでとりあえずオーケーってことでオーケー?》
「……まあ、そうですな」
《じゃあ、この人の命は俺のものってことでオーケー?》
「…………結果的には……そうなります、かな?」
そこでリザードマンのお人――ついでに他の観客達、さらにはオルミーガも薄々感づいたらしい。
《じゃあ、復活させて連れてっても良いってことですか!?》
「…………いや……」
リザードマンのお人はオルミーガをチラリと見て、ブルブルと顔を横に振る彼女を一瞥する。そして一度目をつむってから、近くにいたフーフシャーさんを見やる。
フーフシャーさんは小首を傾げて、隣にいるブラーカーさんを見上げる。ブラーカーさんはフーフシャーさんを見返して、首を傾げた。
フーフシャーさんは俺らの方を見て肩すくめた。
「良いんじゃないかしら」
良いらしい。良かった。
「良く、ないんですがぁ……!?」
オルミーガが消え入りそうな声でそう呟いていた。
《アルスー面白い玩具持ってる人、連れてけるよー。あと魔物として、近接戦闘出来る人っぽいから、この人に指南してもらってー》
「あぶぅ!」
アルスがすごい嬉しそうにしていた。良かった、機嫌を直してくれたようだ。俺としては一番の懸念点だったから、助かりました。
よし、結果的にフーフシャーさんとかが来られなくなっていたから助かったぜ(吸血鬼の件の他、魔王を救うにはフーフシャーさんやブラーカーさんが魔王の下にいないといけないらしい)。
……ダラーさんやサン達、吸血鬼との確執? 知らん。そんなんしらーん。
ということで、オルミーガを連れていくことになりました。
次回更新は12月10日23時の予定です。




