アハリートの評価はいつも大体一緒
オルミーガは短い間、このアハリートと打ち合ってわかったことがある。
このアンデッド、かなり『面倒くさい』ということ。
強くはない。技術面ではむしろ素人と思えるレベルだ。典型的な強スキルを手に入れてイキがっている奴だ。
……本来なら、生き残り続けているはずがない。ましてや成長が遅いはずのアンデッドがこのレベルまで進化することはありえない。そう、あり得ない。何故ならこのレベルの能力を手に入れるまでに命というタマをどこかで必ず取り落とすはずだからだ。
(……。なんだこのチグハグ野郎)
死神妖精が憑いているなら、無理なレベリングをしたとも考えられる。魂の強度が異常に高く、その特性を利用したためと考えれば理由はつけられる。
(……いや、いいや。こいつの背景なんてどうでも良い)
問題は勝てるか否かだ。
結論から言うと、難しい、だ。
そもそも攻撃が通りにくい。弾力がかなりあり、投げたところでつぶれることもなかった。この耐久力……。タイマンでブラーカーと死合って生き残ったのは偶然ではなかったようだ。
それでもって、ダメージが通ってもすぐに肉体再生をして帳消しにしてくる。
(その上、レギオンだから一撃で致命傷を当てることも無理)
レギオンの倒し方は上半身を一つずつ千切って潰す根気のいる作業が必要になる。……だが、このアハリートは再生能力が高く、雑に潰しても意味がない。
だから本体の魂がある上半身を的確に狙って、切り離して潰さなければならない(『順当に進化してなったレギオン』の場合はこの方法を取らなければならない。自然発生型はどの上半身も能力が均一だから、とりあえず潰す方法が主流だ)。だが生憎とオルミーガに魂を感知する能力はなかった。
だから偶然に頼るほかないが、その間に向こうの『偶然』により一撃を食らってしまえば、その時点で終わりだ。
(幸いゾンビ系の弱点として爆音には弱いのは確認した)
必死に隠しているが、明らかに爆音による効果で弱体化している。勝ち筋はこれを用いるのがベストだろう。
――もっとも本当に殺すのは不味いのだが。
決闘開始前に軍師のリザードマンに念話で(絶対に殺すなよ)と釘を刺されてしまったのだ。……何やら対談でアハリートを殺せない理由が出来たらしい。しかも先ほどのように脅された結果ではないようで――むしろ敬意のようなものさえ感じられた。
さすがにNO.2――それも総指揮官である上司の言葉を聞かないほどオルミーガも無法者ではなかった。
オルミーガの勝ちはアハリートに降参させること。そのためには本体の魂がある上半身を切り離して、それに刃を押し当てるべきだろう。
ちなみにオルミーガ自身は死ぬまで負けを認めるつもりはなかった。仮にも相手に命を賭けさせたのだ。都合良く自分も助かるつもりはなかった。
様子を窺っていると、アハリートが回復したのか、下半身の口を開け、吶喊してきた。
「!」
恐怖による硬直で身体が固まるが――先ほどより硬直時間が短い。
大口が、ガチンと閉じる直前にその場から跳び退き、事無きを得る。……少し殺意が増している。多少はそうしないといけないと判断したのか、殺すことに別の狙いが生まれたのか定かではないが、どちらにせよ冗談でも手を抜くわけにはいかなくなった(元々手を抜くつもりなどなかったが)。
オルミーガの攻撃手段は種族として持ちうる『怪力』に酸や爆薬の体液を生成などのスキル。他には技術的な能力に『無突』などがある。
『無突』は内部破壊が出来るスキルではあるが、身体が大きな相手だと効果が薄く、効果範囲を広げようとするとレジストされる危険性が比例して上がっていくため、使いどころは考えなければならない。
――基本は触手を殴って千切るのに使うべきだろう。
オルミーガは複眼でしっかりと見極め、触手を適切に殴り、千切り飛ばしていく。その度に血液とそれに混じる寄生虫を浴びるがそこは無視だ。
この程度の寄生虫なら体内で増殖するのを防ぐことが出来る。
(進化でパラサイトを辿ってる――ならワームもありか。……普通、レギオンは感情の共鳴して精神がイカれてるはずなのにそれがないのは……そこら辺の支配能力があるから?)
レギオンは行動に一貫性がないはずなのだ。上半身達が同じ思いを抱いたのなら、そのように行動するが、基本的に思い思いの行動をしようとしてバラバラなことをする。
それを制御出来ているのなら、支配能力に長けているパラサイトになっているはずだろう。
(ただ、あれは進化にせよ、突然変異にせよ、条件が群れとはぐれた個体にならないといけないってうちの賢者が言ってなかったっけ? なのに今は群体のレギオン……。……ほんとチグハグだな)
気の短いヤクザ風味のオルミーガであるが、わりと魔獣に関する知識は多くある。魔界の魔獣は倒すことに条件や手順を踏まないといけないものが多く、脳筋では限界があるのだ(ブラーカーなどは別)。
ちなみに手順を踏んで倒さないと危ない代表格は意外にも魔界で最弱の『ピクシー』であり、手順を間違うと『妖精嵐』というとてつもない大災害に見舞われることがある。
オルミーガは触手の一本を掴んで引き寄せるが――自切される。さすがに対応してくるようだ。その上、切り離した触手が腕に巻き付いてこようとしてきたため、即座に振り払う。
それで周囲――それも足元を確認して、千切った触手が溜まってきたのを見て、即座にその場から離れる。
支配能力――『遠隔操作』に優れているならば、千切れた触手を操って行動を封じてくることも考えられる。削ることに夢中になって、文字通り足元をすくわれてしまったら、元も子もない。
だが、アハリートはオルミーガが距離を取ったのをみて、触手を回収して取り込んでしまう。
再生するのにも多少エネルギーを消費するため、100%の回復をしていないだろうが、さすがにこれが続くとジリ貧だ。
(普通のレギオンなら一人でも倒したことはあるけど……こいつは完全に精鋭でやらないとけないやつだ)
ちなみに有象無象が相手をすれば操られて、取り込まれる。精鋭でも少数では押し切られて、穴を一つ開けられたら終わる。それなりの数がいる精鋭部隊で戦わないと安定して勝てない、そんな相手だ。
だが、泣き言を言って負けを認めるつもりはなかった。
……倒すには削る必要があるが、削り落とした肉体は操作されてしまうため、放置出来ない。かと言って戦いながら処理をすることも難しい。
だが本体から一度でも距離を取ってしまえば、今のように回復される。かと言って、相手を肉体が散らばる場所から離すことは難しい(体勢を崩すのはチャンスがあるものの、最初のように投げ飛ばすのには大きな隙を作らなければならない。それも何度も削ることを考えれば、それを成功させ続けねばならない)。
ちなみに爆薬の威力は、基本的に低い。相手の肉体に突き刺して内部破壊をすることを目的としているため取り扱いの素早さに重点を置いている能力なのだ。
(……つまりリスクを取り続けないと勝てないってことか)
面白い。ならそれをやろう。
次回更新は12月3日23時の予定です。




