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無意識を意識的にやることも大切です

 俺は野営地から数キロほど離れた荒れた大地に立って、ありっ子ことオルミーガと対峙たいじしていた。


 簡易的な闘技場が作られている。円形にふち取った土壁が俺とオルミーガの周りを囲んでいる。半径20メートル、高さ1メートルくらいかなあ。厚さはそれなりで、俺が激突してもギリギリ耐えられるくらいの強度はありそう。


 ……これをものの数十分で作ったんだから、すごいよね。ちなみに土を操れる人はそれなりにいるみたい。


 簡易的な土塁どるい塹壕ざんごうを即座に構築出来るのは、強いかもね。他種族混成軍の魔族ならではか。


 ただ個々の能力に頼るから、数が減ってしまうとその分、人間の軍隊より弱体化しそうではあるけど。


 そういう意味では強い個人の集まり軍隊って一長一短ではあるのかも。


「ふんっ、覚悟しろよ」


 オルミーガが下段の腕を組みながら、そう言い放つ。ちなみに上段の腕には両手にナイフのようなもの(鉄製じゃなくてなんかの部位を研いだようなもの)が握られている。


 魔物って道具類のスキルを会得出来ないから、あんまり意味がなさそうに思える――とか思ったけど、俺も魔道具を持ってるし――何より、あれは魔道具ではないけど『繋がり』が若干ながら見える。


 自身の部位を一時的に取り外してるだけなら、十分スキル効果とか乗りそうではある。油断は出来ないな。


 ちなみに今すぐ決闘を開始したいけど、……ちょっと出来ないかも。


「あぶ! ぶああ! あぶぶぶぶぶ!!」


 俺の目の前に、アーセナル・ミネルヴァことアルスが腕をバタバタとばたつかせながら、しかめっ面で抗議こうぎをしてきていた。


 ――事の次第は……オルミーガとタイマンで戦うということで上半身の三人と一匹には観客席に行ってもらうことになったのだ。二人と一匹は言った通りに移動してくれた(ラキューに至っては伝え終わるまえに全力ダッシュで向かっていった)のだが、アルスだけが残ったのだ。


 そんでもって今に至る。


(ラフレシア。アルスはなんて?)


《僕も戦いたい、だって》


(駄目です)


「ぶあああああああああああああああああ!!」


 アルスが両腕を高々と掲げて、威嚇いかくしてきた。


《せめて張り付くだけでも良いから、だって》


(ケチがつくから駄目です)


 アルス達って一応、俺の一部だけど能力や意思が完全に独立した存在なんだよね。正直、放っておいても戦果を上げてくれる頼れる存在に思いつつある(ラフレシア込みの必中レールガンはかなり強い)。だからこそわずかでも、手伝って貰っちゃうと『俺の』勝ちではなくなると思ったのだ。オルミーガは別につけてても良いとは言っていたけどさ、やっぱり気持ちの問題として俺一人でやりたいのだ(ちなみにラフレシアとアスカ、ミチサキ・ルカ、ワームくんは離れられないので基本的に大人しくしてもらいます)。


「ぶああああ!! あぶぅあああ!!」


 アルスが俺の饅頭まんじゅう下半身を、だむだむだむだむと連続で叩いてきた。……意外に情熱的ね、この子。


「行く、ぞ」


 んで、さすがに見かねたのかヒウルがやってきて、アルスをむんずと背中から抱き寄せるとそのまま引きずっていく。


「あーぶぅーーーー!!」


 全力で暴れるアルスである。


 もはや駄々っ子である。


「あたしは別につけてやってても構わないけど?」


 そう言ってくれたのは、オルミーガだ。俺とアルスのやり取りを見て、苦笑している。


《……せっかくのタイマンだ。ケチはつけたくない。……あいつらがいると否が応でも勝機が出来てしまう》


「……。あんなのでも強いってか。……それに見た目に寄らず真面目なこって」


 あっ、良かった。舐めてるのかーって怒られるかと思ったけど大丈夫だった。


《称賛と受け取っておく》


 まあ、うんあんなんでもアルスは強いよ。それに誰よりも向上心がある。


 ――幸いなことに、その『強さ』が俺とは違った方向に行きそうだとラフレシアから聞いていた。スキルを得て強くなろうとする俺と違って、技術面での強化をするつもりのようだ。


 どんな強さを手に入れるんだろうね。楽しみだ。


 さて、俺は俺で能力制限をしたタイマンをしようかね。とりあえず打撃オンリーにします。負けそうになったら、さすがに何かしらのスキルは使うけど。


 あっ、『精神波』は使わないけど『鬼胎』は使うよ。『鬼胎』は別に相手に致命的な障害を負わせるとかないから。それに恐怖による硬直は強いからね。


 ちなみに『鬼胎』の効果について、イェネオさんからちょっと面白い話を聞いた。


『鬼胎』は俺の声を聞けば問答無用で相手に恐怖を抱かせられるスキルだ(本来のスキル効果はちょっと違うらしいけど)。


 んで、その恐怖心は何を対象としているかだけど――たぶんその時、強く意識したこと、じゃないかってイェネオさんは言っていた。


 基本は俺に対して。


 でも連続で使えば、俺に対する恐怖心は当たり前だが弱くなる。恐怖の正体がわかっていれば、怖くはなくなるものだ。


 だから俺に対する恐怖心は回数をるごとに弱くなっていく。


 ――けどそれでも良いとイェネオさんは言った。『鬼胎』の真価は――恐怖の真価とは『意識外、もしくは意図しない』部分から抱かせるものらしい。


 なんでも恐怖の発現が俺からではなく、相手側の意識的に行う動作に対していけるっぽい。


 つまり相手の行動そのものに恐怖心を抱かせてブレーキをかけることが出来るかもしれない、とイェネオさんは言っていた。


 実際、イェネオさんは俺の声を聞いた瞬間に、自分の行動に謎の危機感を抱いてブレーキをかけてしまったことがあったらしい。


 ただしこれは、相手の行動を強制的に阻害する強い効果ではあるものの、あくまで相手が意識的に起こした行動でないと意味がないかもしれなく、直感的に動く相手 (ブラーカーさんとか)には行動のブレーキは効果が薄いかもしれないんだって。


 つまりこれを上手く扱うには俺の観察眼が重要になってくるわけだ。


 そこら辺も狙って行きたいと思っています。


 行動を誘う方法も学んでいきたいよね(この場合、手っ取り早いのは行動を制限するために、相手に『俺の有効な倒し方』を覚えて貰う必要があるかも)。


 とりあえず、初手の『絶叫』はやるべきだ。そんでもって定期的に雑に声を上げて――慣れたところで相手の行動に刺すやり方がいいかもね。


 なんやかんや考えていると、ドラゴン風味のお人が俺とオルミーガの間に立つ。


「――決闘を始めるにあたり、魔族が定める規定に従い、相手に命を捧げることを誓うか」


 なんか魔族の方々は命――『経験値』を重く見ており、瀕死になった味方が助からないと判断したらゆかりある人物にその命を『たくす』らしい。


 人間――特にタイタン側からは仲間殺しの蛮族ばんぞくなんて呼ばれてるらしいけど、魔物として強くなることを宿命付けられている彼らは彼らなりに命を重く見てるらしいよ。


ちかう」


《誓います》


宣誓せんせいがなされた。――始め!」


 ドラゴン風味のお人がその言葉と同時に、一度の跳躍で闘技場内から跳び退った


 で、俺はオルミーガが動く前に『絶叫』を上げる。


「――っ」


 オルミーガに恐怖による硬直が入った。同時に触手を一本横薙ぎに振るっていたが、触手がぶち当たる前に硬直が解けて、しゃがんで回避されてしまう。


 んでオルミーガは立ち上がると同時に跳ね飛んで、俺に急接近してくる。あらまあ、ここで突っ込んで来るとは意外。かなりのインファイターだったみたい。


 触手をぶるんぶるんと雑に振るったけど、弾かれたり回避されたりして懐に潜り込まれて、饅頭下半身を雑に掴まれる。


「どりゃああああ!!」


 俺の身体がふわりと浮かび、半円を描くようにして地面に叩きつけられた。


 どぷん、と俺の身体が地面に激突して、跳ねる。ダメージはほぼなし。『弾力強化』のおかげで衝撃系にほんと強くなったな。


(あれま。やっぱり力は強い系か)


(完全に蟻だな。……蟻酸(ぎさん)、……場合によっては爆発に注意だな)


 爆弾蟻っすね。テラフォー○ーズであったけど、実在するらしいね、あれ。


 オルミーガが持つ牙っぽいナイフは毒注入用の刺突武器なのかもしれんね。


 実際、死線が饅頭下半身の一部に走った。俺は牙を大振りに振ってくるオルミーガの手を寸前で掴んで防ぐ。もう一方の牙剣も刺そうとしてきたから、掴んでやった。


 そのまま無数の触手で包んで全身をバキバキにつぶしてやろうと伸ばすが、その前に三、四本目の手で無理矢理触手を引き千切られてしまった。


 んで、さすがにオルミーガは距離を取ってくる。


 ……ふーむ。勝てないほどってわけではないけど、すごく強いな。シンプルに腕力が強いのが厄介だ。一応、力そのものや重量は俺が勝っているから殴り合いになれば勝てるけど、さすがにそこまで脳筋じゃないだろう。


 ヒットアンドアウェイが得意なタイプかなあ。


 幸いなのが回避練度はフェリスほどでもなく、攻撃の技量はイェネオさんほどはない(どっちも、そんな簡単にほいほいいられても困る)。


 冷静になれば攻撃は当てられる。


 ――で、その攻撃を当てるためには、っていう思考が今は大事だな。


 普段なら毒とかラキュー達を使うけど、今は縛っているから違う方法を考えないといけない。


(で、こういう場合ってどうすりゃ良いの?)


 俺はミチサキ・ルカやラフレシアらにく。


(理不尽な即死級の攻撃がないのはなんとなくわかったから雑に攻めれば良いんじゃないか?)


《一撃で粉々にされないし、その方が良いかもね》


《死ななきゃ全てが安い》


 最後にほぼ不死の吸血鬼だったアスカが言う。


 俺はうーむとうなる。


(……なんか駆け引き的なアレは……)


(やりたいならやれば良いけど、それは経験とセンスが大事だぞ。……アレだな。転生者にありがちだけど、今世の持ち味生かそうとしないのがマジであるあるだな)


《競うな 持ち味をイカせッッ》


 うっせぃ。


(いやさあ、まあ、わかってるんだけどさあ。あるじゃん。なんか理想的なアレとか)


 俺の曖昧あいまいななんかアレにミチサキ・ルカがため息をつく。


(……。あんまりこういうこと言うのは駄目なんだろうけど、対戦 (ゲー)においての真理を一つ言うぞ)


(なんじゃい)


(強いキャラや武器を好きになれ、だ。そして俺が選ぶくらいには、お前は面倒くさいくらい強い)


 ひっでぇ真理。


 まあ、でも確かにその通りではある。勝ちたいのなら、単純に自分が強いことを理解して、強い攻撃をこすれば良い。それこそ遠距離から必中の攻撃を常にぶっぱしたり、即死攻撃を連発したり(アバダケダブラ連発おじさんはだから強い)とか。


(つまるところ戦いにおいて、必要なのは如何いかにして自分の得意を相手に『押し続けられるか』だ。で、お前の今の強みは『死ににくいこと』だろ。なら身体全体で当たりに行け。読み合いをする必要性がほとんどないんだから)


 そうなっちゃうのね。――まあ、漫画とかで主人公がよくある行動で、『それをすればいいのに』をしなかったせいで劣勢立たされるとなんだかなあって気分になるもんな。


(俺らは常に見てるしか出来ないから、そんな思いをいつも抱いてる。つーか、今のお前は読み合いとかの次元にないからな。そもそも読む側じゃなくて、一方的にさせる側なのを理解しろよ。……ほんとさ、俺自身が操作できないから、あああああってなるんだよ)


 そりゃごめんちゃい。


 では、行くか。


 俺はにらみ合っていたオルミーガにダカダカダッシュで雑に近づいて行く。


 オルミーガに緊張が走る。思考を必死にめぐらせているのか、俺と同じように突撃してこない。――つまり相手は俺に有効な攻撃を通すために必要なプロセスがあるということ。……確かに、『読む必要』がある側だな、俺は。


 饅頭下半身から無数の触手を生やし、ついでに上半身の一部もぶっとい触手に変化させる。


 連続でだんだかだんだか触手でぎ払い、叩きつける。


「チッ」


 オルミーガは舌打ちし、俺の攻撃を紙一重で回避しつつ(フェリスのようではなく見えている感じ――……複眼って距離の把握はあくは苦手だけど動体視力が高いんだっけ?)、触手を一本掴んできた。


 んでもって、触手が張った瞬間に引っ張ってくる。そのせいで、俺の身体が軽くかしぎ――その一瞬のらぎを狙って、牙剣を突き刺してくる。


 同時に、刺された部分が、ぼぉんと爆発して俺の巨体が吹っ飛んでしまう。


(やっぱり爆発したか)


(ビックリ。耳、きーんってする)


 ちなみに俺は爆発系がとても苦手です。自分でやるならともかく、相手にやられると聴覚が一時的に駄目になってしまうのだ。なので爆音を出されるととても弱体化してしまうわけなので、俺は平静を装って立ち上がります。


 平衡へいこう感覚が狂ってちょっとぷるぷるしてしまうけど、オルミーガに見えないように触手で支えつつ立って向き合う。


 オルミーガも追撃はしてこず、タイミングを計っているかのように、こちらを見てくる。……うん、情報は与えるべきじゃないな、と今理解した。


 戦闘前に戦い方とかをあーだこーだ言うのは無駄だ(相手の情報が出揃っているなら話は別だ)。戦っている最中に相手の弱点やくせを発見しないといけないのだ。逆に相手に出来る限り自分の情報は与えてはいけない。


 ……改めて考えながらやってみると、発見出来ることがたくさんあるな。普段何気なくやっていることを意識的にやるってのも大事か? こと戦闘においては特に。


 ……オルミーガには学びのかてになってもらおうか。程よく危険なこの戦いは俺にとって、成長する機会になりそうだ。

次回更新は11月26日23時の予定です。

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