表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/293

話し合いが難航したら、暴力を振るえ!

 フーフシャーさん達がいる地点はわかっているので、そこに向かう。


 ――そう。『達』だ。フーフシャーさん一人だけじゃない。そりゃそうよね。ブラーカーさんの部隊がいるんだから。機動力が強みの部隊だけど、戦闘中じゃない上に負傷者も結構いるし、ブラーカーさんの子供もいる。だから一旦、人狼達の領地内で回復を待って魔界に行くみたいだ。


 で、その野営地にとーちゃーく。もちろん、一人です。さすがにダラーさんとかがいると、緊張が走るかもってんで交渉は俺だけがすることになった。


 フーフシャーさんだけなら、たぶん冷静に話を聞いてくれるだろうけど、ブラーカーさんら部隊は『吸血鬼』相手に平静は保てないかもしれないからだ。


『もしも』があった場合、集団を相手にするのはダラーさんやサンだけでは無理だから、仕方ないのだ。


 しかもフーフシャーさんとブラーカーは最上位スキル持ちの王種だ。まあ、まず勝ち目はないよね。だから下手に刺激して戦闘に移行してしまうよりかは、俺一人の方が良いのである。


 もちろん怖いよ!


 リディアが調停役としていてくれたら、一番良いのかもね。そうすれば抑止力にもなるし、知り合いってことでさらに落ち着いてもらえるかも。


 ただ、知り合いな上にどうやらフーフシャーさん三姉妹と魔王の名付け親っぽい立ち位置だから逆にあっちの立場に寄っちゃうかも、とは本人に言われた。


 俺が吸血鬼側を気にかけてしまって、今まさに味方しているのと同じだ。さらに吸血鬼達の始祖を味方に引き入れちゃってるからなー。アスカが吸血鬼が不利になるのはやめて、と言ったら俺は色々と考えざるを得ない。


《いぇー、フーフシャーさん、いぇー》


 俺はブラーカーさんの部下っぽい魔物に引き連れられて、簡易の天幕やら(土が盛られてる)テントやら(土を固めて作ったのがたくさんある)がたくさんある。……一見するとなんかの巣っぽい。実際、土を巣にするために操れるのがいるんだろう。


「アハリートくん、いぇーい」


 フーフシャーさんがノリに合わせてくれた。


 そのおかげで俺を案内していた人(熊っぽいけどフェレットみたいな胴長で二足歩行してる)も、ちょっと身体から強ばりが抜けた。


 まあ、さすがにタッチはしない。


 周りの土のテントからたくさんの魔族が出てきて、俺に圧をかけてくる。……ふぅ、肌感覚ないけど、ビリビリした感じが怖いねえ。


 ……ラキューがおしっこちびっちゃってる。気絶してないのが強くなった証か。他の三人は緊張しているものの、いつでも『対応』や飛び出せる準備が出来ている。


 まあ、さすがにラキュー達でこの人らを倒せるとは思えないけど、殿しんがりにはなってくれるだろう。……一番警戒するべきは土を操れる奴か。潜って逃げるのが難しくなるのは、俺にはきついな。


 最悪、核を誰かの内部にぶち込んで一瞬で操ることも考えようか。『死神ノ権能』を合わせれば、意識を刈り取れるし出来ないことではない。その前に煙幕だな。んでもって、出来れば『隠形児戯』を使って、接近が安定しそうだ。余裕があったら、俺のダミーを作りだすのもいいかも(ちなみにこういう戦い方になるからイェネオさんも連れてこれなかった)。


 そういえば、まだ俺、核だけで動いたことってないんだよな。一応、動けるらしいけどどこまで感覚が制限されるのか確かめておくべきだったかもな。


 よし、最悪の想定もバッチリだ(準備不足も痛感したが)。


 んで、陣地中央に誘われて、開けた場所にて対談の場所が設けられる。たくさんの魔族の方々に見られてすごい緊張するー。


 んで、目の前には土のテーブル……もしくは壁のようなものが一つあって、その先にフーフシャーさんがいて、後ろになんかガタイのある爬虫はちゅう類っぽい人とブラーカーさんがひかえている。大きさ的には俺とタメ張ってますね。


《色々と報告来ましたー》


 俺は比較的、ほがらかな口調で言う。


 ――けども、俺の声を聞いて「死神妖精か?」と気付く人がちらほら。やっぱり結構、妖精の声を聞いている人はいるのね。


 と、フーフシャーさんが片手を挙げる。


「ああ、説明がまだだったわね。一応、このアハリートくんはタイタンの転生者――それも妖精憑きと対峙した際、妖精を鹵獲したらしいわ。完全に眷属にしているらしいから、心配ないわよ。どうやら女神との接続も切れているようだし」


 ちょっとザワザワが大きくなるけど、不信感が混じった声はやや薄れる。


《俺の声を実際に聞いた人は結構いると思うけど、色々と危ないので妖精の声で代用させて貰ってまーす。こんなんでも精神は男でーす。いえー》


 上半身達で全方位にブンブンとにこやかな笑顔で手を振る。皆どう反応して良いか困ってます。すべったな。


「それでアハリートくん? ここに来たってことは良さそうな報告を貰えるってことよね?」


 フーフシャーさんがすごい圧力かけてくる。けど殺気はない。……たぶん変なこと言うんじゃねえぞ、と俺の心配をしてくれての圧なんだと思う。なら一対一の面談の方が良かったんではなかろうか、と思ってしまうがいくら最強のトップとはいえ、たぶん恐らく納得のいかない内容になるかもしれないから、こういう対面は必要なのかしら。裏で出来ませんでしたー、と表で皆の前で出来なかったーではヘイトの向きが違うもんね。


 俺は笑顔のまま、言う。


《単刀直入に言うと吸血鬼達に対することで有利な発言は出来ません。基本的に俺は関わりないこととします》


「…………」


 フーフシャーさんが思わず顔に手を当てて天をあおぎそうになったが、グッとこらえた。まあ、たぶん想定していただろうから、殺気は出ていない。


 もちろんそれはフーフシャーさんだけだけども。魔族の皆さん及び、ブラーカーさんは怒りがにじみ出ている。


「…………一応、話を聞くわ」


《どうもっす。まず俺の目的は『魔神を殺すこと』だけであくまでフーフシャーさんらとは利害が一致しただけです。そこを理解して欲しいです。こんなナリですが、魔族陣営ではありませんのでご理解を》


「まあ、それはわかってるわ。……けどその発言でこちらとの関係が断ち切れるかもしれないことを理解しておいて。……コウモリは味方を作れないわよ」


 助言感謝します、フーフシャーさん。


 そう今の俺はまさにコウモリ野郎だ。どちらの陣営にも属さず、でもどちらに対してもいい顔をしようとしている。それは絶対無理だ。プルクラさんにも似たようなことで釘を刺されている。


《はい、ありがとうございます。――ではコウモリ野郎なりの誠意として、その理由について簡単に申し上げさせていただくと魔神を討伐した際にその始祖の妖精化に成功してこちらの眷属にしました。これです》


《ででん》


 アスカが鹿骨頭の上にぴょこっと現れる。赤髪赤目のラフレシアとは明らかに姿の違う妖精に、魔族の皆さんがどよめきます。


《吸血鬼の始祖で回復能力に秀でた元魔王です。ちなみに意思は反乱を防ぐことのみで、他は強くしばっていないので、素です》


《くるしゅうない》


 アスカが俺の頭の上に立って、周りに手を振る。あおりになるかもしれないからやめなさい。


 ――周りは怒るよりも、ちょっと困惑気味だ。魔神な上に元魔王という肩書きと、なんか緩い雰囲気にちょっとだけ毒気を抜かれたのかも。


《俺はあくまで俺のために動きます。……大事な相手を傷つけられた時に何も出来なかったから、回復能力が欲しくてこいつを無理矢理妖精にしました》


《無理矢理されました》


《――でも自由意志は奪いたくないので、そのままです。そんでもって吸血鬼達を――》


《傷つけて欲しくないので、ますたーには味方になってもらってます。すみません》


 ぺこりとアスカが頭を下げる。


《なので俺は皆さんの味方を出来ません。その代わり、消臭効果のある香水を用意しました。これで交渉してくれると助かります》


「そう。……納得は出来ないし、足りないわ」


 でしょうね。周りも明らかに納得していない。当初通り俺がうんこを撒き散らして、その間にフーフシャーさんがブラーカーさんの子供を救出したことにするか(ちなみにこの場合、俺はやっぱり魔族陣営ではないと主張するのだ)。もしくは最低限、派閥トップの首を誰か一人もってこないと納得しなさそう。でもそうすると、全面戦争になりかねないので俺はノータッチだ。


《一つだけ、まあまあ有用な情報がありますが、ちょっとショッキングなことなんでフーフシャーさん個人にお伝えしたいです。……それと信用していただけるなら、今すぐアスカを使って全員の傷を回復させます》


「……どんな有益な情報かわからないけど、まあ、聞いてあげる。回復については、……あまり信用出来ないから…………希望者のみにするわ。それと瀕死になってる子とかかしらね。……ただ時間差でゾンビ化とかにされることももちろんあるかもしれないから、治療を終えたらアハリートくんにはしばらくこの場に残ってもらうわよ」


《早く行動したいので前言撤回して良いっすか?》


「だーめ」


 フーフシャーさんが怖い笑顔で言った。うーん失言しちゃった!


 幸いサンとオミクレーくんにラフレシアを入れてあるので、遅くなっても安心! ああ、ちなみにですが魂の接続はこの駐屯地に入ったら切れちゃったよ。情報漏洩の対策はしっかり練られているみたい。


 だから連絡を取るためには、一度この野営地の外に出なきゃだけど……、無理かなあ。……ダラーさん達には、しばらく待って貰うか。俺が行かないと、人狼の国には行けんし。イェネオさんがフェリスと知り合いだったら、引率出来たんだけどねー。


「……それで? アハリートくんのお話はおしまい?」


《言いたいことは言えました》


「そう。……じゃあ、私達のことを言うけれど、良いわね?」


《聞くだけなら》


 俺がそう言うと、フーフシャーさんは疲れたように笑う。


「――まあ、本来はそういうことになるわよね。噛み合わない対談なんてそんなもんよ」


 ボソッと呟き、


「吸血鬼達には負うべき責任があるわ。その事実を明確にして、相応の罰を受けてもらいたいのよ」


《罰?》


「罰の内容についてだけど――――その前にまずアハリートくんには魔族側にも秩序があることを知っていてもらいたいわ。私達魔物と呼ばれる生物は相手を殺害することに忌避感が特にないわ。……アハリートくんもそうなんじゃない?」


《かもしれませんね》


 俺は相手を殺すことに、前世ほど忌避感はない。五感がほぼないゾンビに転生したからかもしれないが、魔物の魂が混じったからかも、とは言われていた。


「だから魔獣と呼ばれる生き物は、殺し合いが絶えないし、一部の部族は会話が出来ても話が通じないことがあって――魔族認定はされない」


 あっ、魔族って言葉を話せる人達のことじゃないんだ。……人間側との本人達の認識が結構違う?


「私達が魔物を魔族と認定するのは、他部族と共同体をきずける間柄であることよ」


 あらゆる種族が混在する魔界において、それぞれの特徴が違う生命体が共にあろうとするのはとても難しいことだろう。だからこそそれを為せるのは『文明人』であることに他ならないのかな。


「そしてその共同体を維持し、生きていけること。近くでいるのが無理な種族がいる場合は、その生活様式を整えることで共存出来れば――出来ないことをわかって離れる選択を取れるのなら――魔族と言えるわ。そんな魔族は家族も同然で、もちろん殺し合いなんてしない。無意味な殺しは絶対に避ける。――殺されたら、憎しみが生まれることを知っていて、やり返されることを知っているのは当然のことだと知っていなければならない。……それを知らないのなら獣よ」


 ……あら、意外なほどにまともだった。もっと殺伐としているのかと。


「だから私達はあの吸血鬼達を魔族だと認めていない――場合によっては魔獣だと――害獣として見ることだって出来る」


《……まだギリギリそうは見ていないんですか?》


「まだね。でも対応次第ではそう見ざるを得ない。……仮にも魔族のトップに君臨する一人の子供達をさらって、挙げ句惨たらしく殺した罪を償わないのであれば、私達は奴らをそう見ざるを得ないの」


 ――つまり、見て見ぬ振りをしてしまえば秩序は保たれないってことか。『魔族』としてそれは守られなければならないことなのだろう。


 守らなければ『魔族』という認定は意味を失う。


 ……あら、そう考えるとかなり重い意味を持つな。


 文明人が文明人であるために、相応の罰を求めているということになる。果たされなければ、フーフシャーさんらは下手すりゃ自分達を魔獣と見なさないといけなくなる、と。


 はい、俺の感想言います。ここから今すぐ逃げ出して良いですか? やだっ! 俺、こんな重い問題背負いたくないやい!


 それとさあ、今気付いたんだけどさあ、これって俺をはさんでるから俺の決断一つで互いの陣営が酷いことになるのよね。場合によっては決断しなくても、そうなるかもしれんという。


 ――気に入らんな。


 前世でこういうことあったなあ、って今思い出した。


 互いを嫌い合う奴らがいたんだけどさ。俺はその間で挟まれて、どっちともまあまあの関係を築いてる感じだったわけよ。


 でさ、いつの間にか俺関係のことでそいつらが喧嘩けんか火蓋ひぶたを切って、決別する理由を作りやがったんだよ。俺のあずかり知らぬところで、俺を理由にして。


 それで一つわかったのは、自分を可哀想だとか他人を嫌おうとしている奴は基本的に自分のことだけ考えて、他人がどう思うかなんて考えないんだよ。


 現にそいつらはその後、俺に何でもないように接してきやがったからな。俺がどう思ってるかなんて考えないで。


 で、言っちまえば『こいつら』は前世のあいつらと一緒だ。


 このままなあなあで行けば、俺をダシにされて殺し合いをされてしまう羽目になる。そして俺はそれを遠目にそれが終わるのを見ていることになるかも。


 んで、終わった後、こいつらは俺に責はないとか言いながら普通に寄ってくる可能性があるのだ。


 ふざけんなよ、と。


 死屍累々になったのに、関係ないはあり得ない。絶対に気に負う。……日和見は時に最悪な立場になり得ると今気付いた。中心になっているなら、中心になっているなりの責任を負うべきかも。


 …………。……よし。この場合の最善の策を思いついたぞ。


《はい、俺、気付きました!》


 俺は全ての上半身の手を挙げて、満面の笑みを作る。


 フーフシャーさんが首をかしげる。


「なーに? アハリートくん」


《まず宣言します! 俺、魔族と吸血鬼が殺し合いを始めたら、率先して両陣営が壊滅するぐらいぶち殺そうと思います!》


 その言葉を発すると――魔族達は怒るより先に困惑したように「は?」みたいな反応した。フーフシャーさんももちろん理解出来ない様子で「えっと……?」と苦笑いをしてしまった。


「それは……どういうこと?」


《いえですね。俺、フーフシャーさんのこと好きなんですよ》


「あら、ありがとー」


 すぐに笑顔で対応してくれる辺り、大人の女性の余裕を感じるね。


《んでもって、アスカもなんやかんやと好きになってます》


《ぽっ》


 アスカが無表情のまま両頬に手を当てて、身体をくねらす。


《吸血鬼側ではアンゼルムさんは優しくしてくれたし、ダラーさんもそうです。ドクターも面白いので好きです。――それで俺が守りたいものは、あくまで『それだけ』なんですよね》


 考えて見れば、本当にそれだけなんだ。別に国とかどうでも良いのだ。


《だから最終的にそれだけ残ればオーケーってことで、じゃあそれを邪魔する――戦争して殺し合ってそれらを消すかもしれない……集団をぜーんぶなくしちゃえば良いなって》


「……極論すぎるわね」


 フーフシャーさんが顔をうつむかせて、苦笑しつつつぶやく。

 

 でも俺にはそれが出来る。……出来てしまうんだ。


 まあ、当たり前だけどそんな言い分を受け入れられる奴は狂人なくらいで、普通は怒り狂うのである。実際、周りがようやく正気に戻り、「ふざけるな!」とか言い出して……フーフシャーさんの横に控える爬虫類……いや、ドラゴン風味のお人が、足を踏み鳴らして威嚇いかくしてきた。


「我らには正義がある! 貴様は子を攫い、惨たらしく殺してその親に見せびらかすやからにわずかでも味方するのか!?」


《しますよ。それと一つ。俺は吸血鬼と魔族の正義なんざ知ったこっちゃねえんですよ》


「なにぃ……!?」


 ドラゴン風味のお人が歯をギリギリさせてにらんでくる。めっちゃ怖い。


《正当性は互いにありますからね。俺がそこを否定することなんて出来ないんですよ。両方とも筋が通ってますし。踏み込んでも両方とも正しいと思ってるから、そこで抗弁を重ねても無意味ってわかったんです。なのでどうしようもないので知ったこっちゃないってことにして、俺は俺の正当性を掲げて、俺の思うとおりになるよう最低限のことをしようとしています》


「ふざけるなよ、死体風情が――!」


 怒りのボルテージが最高潮に達しています。


 まあ仕方ないのだ。言葉を重ねたところでどうにかなる問題じゃないから。


 本当にね、正論とか正当性って簡単に作れるから困るよね。それを盲信もうしんすると、もう止まらない。その正論に賛同者がいると間違っていないって思っちゃうし。


 正当性や正論は真実ではなく、ただの武器だ。主に自分の思想を通そうとするための暴力だ。


 それを理解してないと正当性や正論であらゆるものを叩き潰して……自分が正しく思えてしまう。


 困ったことに『正しい』ことは間違いではないしね。……これってある意味、嘘をつく時は真実とり交ぜる詐欺行為と似ている。正当性や正論は自分を気付かぬうちにだましてしまう。


 正しいことって、そう思ってしまうと、曲がらなくなるから違う方面からの言葉なんて届かなくなるんだよなー。


 でも集団としての方向性を決めるためには、そういう『正しさ』って大事だしなあ。あと正しさを持つことで心のバランスとか保てるし。マジでなんとも言えんのよ、ここら辺は。


 うん、なので俺は、基本的に思想のアップデートは常に行っておこうと思います、まる! 何事もかたより過ぎないよう、気をつけないとね!


 そんでもって、今の俺は直接的な暴力で乗り切ることにしました。


 やはり暴力! 暴力は全てを解決する!


 話し合いなんて糞食らえだっ! 何が文明的だ! そこをのけ! 俺は常に全裸の野蛮人だぞっ!


 俺は全ての上半身の人差し指を一定の方向に向けて、ブラーカーさんに笑顔を向ける。


《わかります?》


「――!」


 ブラーカーさんの毛が、ブワッと逆立った。たぶん怒りではなく、怖気おぞけでだろう。


 ちなみにそっちにはほぼ確実にブラーカーさんの子供がいます。魂とか音とかでわかりました。そんでもって見た感じ正解のようです。


《……俺は火蓋を先に切られても生き残れる自信があります。……それと姿を隠す自信も。……次は本物を潰させるかもしれませんよ?》


「う、うぅ――」


 ブラーカーさんの手がブルブルと震える。あの時のことを思い出しているのだろう。


 ――周囲の怒りは天元突破したが……俺の脅しの甲斐かいあってビビって手を出される心配はなくなった。怒声すら発することが出来ずに、束の間の静寂せいじゃくおとずれる。でもすぐに爆発しそう。


「……はあ」


 フーフシャーさんのため息が静まり返ったこの場によく響く。おお、良いタイミング。


「もう無理ね。色々と失敗したわ。アハリートくんは話せば、理解してこっちに傾いてくれると思ったんだけど……変なところで追いつめちゃっただけだったみたい」


《なんかすいません》


 つい謝っちゃう。


「良いわよ。私の判断ミスだから。……それにしても、うーん、皆を納得させるために危険だけどこの対談方法を選んだけど……やっぱり駄目だったかあ」


 フーフシャーさんはついに天を仰いでしまう。


「じゃあお開きよ。ああ、一応皆に釘を刺しておくけど、アハリートくんには手を出さないように。何もしなければ友好的だけど、一度手を出したら簡単に敵になるから。普通に私達、壊滅させられるわよ。正式に一対一で決闘するなら良いけど」


《嫌ですけど》


「だーめ」


 駄目なんですって。


「はい、皆お開きー。あとはこっちで話を詰めておくからー。文句があるなら、その後で。ちゃんと聞いてあげるから。それでもってまたアハリートくんと話し合いをするからー」


《時間がないので遠慮したいのですが》


「だーめ」


 やっぱり駄目なんですって。


 こう言われると俺は何故か反論出来ません。ふっしぎー。

次回更新は11月5日23時の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ