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豚がメスブタに出遭う時

どうも、ハンサムな神の名を(たまわ)りしラクエウス・カマプアアです。 



 名前を貰ってからというもの、私の快進撃は止まりませんね。ついに王種の吸血鬼をもくだし、名実ともに最強に至ったと言っても良いでしょう。


《調子こいてるね》


 うるさいですよ。


 それとラフレシアさん! 心の声は読まないでって言ったじゃないですか!


《いや、まあ、さっきまで聞いてはいなかったんだけど、なんか明らかに調子こいてる感じだったから注視しとこうかなあって》


 余計なお世話ですっ。


 ――まあ、良いですけどっ! 私、さいきょーですからっ。


 現に今、宿主から離れて一人で歩いていますし。私くらいになると単独行動は当たり前なんです。この国を一人で闊歩かっぽすることさえ造作もありません。


《それはやめとこうね。ここの吸血鬼に見つかると普通に狩られると思うから。マスターが豚の姿で暴れたから、豚っていう存在のヘイトがすごいことになってる》


 なんてことを……! ま、まあ、それでも私は王種の吸血鬼を――(以下略)。


 ――でも、宿主がちょっと心配なので護衛のために近寄っておきます。


《よろしいと思います》


 むぐぐっ、なんだかその返し、気に入らないです……!


 まあ、そんなこんなありまして、ダラーとサンが準備を終えてやってきました。ダラーは微笑みながら頭をでてきました。許します! ダラーは共に戦った仲なので! サンも触ってきましたが、ダラーの恋人らしいので許しましょう。ですが、私の頭はそんなに安くありませんよ!


 では、ドクターがいる座標までサンが繋いでくれるそうなので待ちます。


 サンが手を前に突き出すと、ぶぉん、と目の前にふちが青白い炎で象られた円形の穴が現れました。その先の空間は、外になっています。これが転移門です。一瞬で好きな場所に行けるのは便利ですね。宿主も使えるようになれれば良いんですけど。


《マスターは魔法の適性がそんなに高くないから、空間系の魔法は難しそうではある。進化の方向によっては魔法が得意になるかもだけど……マスターの好みの進化先ってそういうインテリ系じゃないから……》


 私は短い付き合いですけど、なんとなく分かります。魔法より毒とか洗脳とかの物理的なからめ手が好きそうですよね。


 私はラフレシアさんと(意図しない)会話をしつつ、宿主と一緒に転移門を通り抜け、地上につきました。


 やっぱり外の空気は気持ち良いですね。地下のやや土臭い空気は、どうにも馴染なじみません。それとジメッとしていて、肌にねばつくようなあの感覚が、嫌なんですよね。


《……やっぱりラキューって、五感があるっぽいね》


 普通あるでしょう。ラフレシアさんはないんですか?


《私はあるよ。でも、マスターや他の三人はないんじゃないかな》


 そうなんですか?


 私は宿主の身体に張り付いているディーヴァを見上げます。


(ディーヴァは五感がありますか?)


「耳以外ないよー」


(あれま)


 そうなんですね、意外です。


 ちなみに、宿主にかぷッと甘噛みをしてみましたが、(どうしたー?)と気付きはしましたが、意に介する様子はありません。……出血したら危なくないですか? 


《そこら辺はマスターも私もすごく気をつけてる。寄生虫がぶちまけたらすぐ分かるようにはなってるから、常に気を張る必要はないんだけどね》


 いえ、そういうわけでは……というか、宿主そのものの心配をしたわけなんですが……。


《ああ、そっち? マスターの心配をするなんて優しいね。でもマスターは血がなくなろうが、死にはしないからね。血圧は常に一定だし、そもそも心臓は動いてないし》


 …………アンデッドって根本的に生物とは言えないんですかね。……そんな存在から生まれた生きているとおぼしき私は一体、何なのか……。


《予想ではマスターが豚として行動し過ぎて、バグみたいな感じで生えてきた感じかな?》


 ……なんか嫌ですね。寄生虫より悪い虫(バグ)なんて。


《上手いね》


 嬉しくないんですけど。


《こっちは嬉しいバグではあるけどね。私やマスターと違って魔力の供給を絶たれても動けるってことだから。――その点、上手くすればアスカや…………アルスも動く方法を考えていたけど――素で動けるラキューには『もしも』の時に期待されてるよ》


 責任重大ですね。まあ大船に乗ったつもりでいても良いですよ。なんたって私は(以下略)。


「あれ? その豚ちゃん、一人で歩けるんだね?」


 そう言ってきたのは、黒が特徴的な女性――リディアです。なんでも古の魔女など呼ばれる存在らしいですよ。とっても魔力が多いので、魔神アスカを起動させる魔道具に魔力を供給出来た唯一の存在なんだとか。


 でもすごそうなのに全くそうは思えません。覇気が全くないふにゃふにゃとした感じが見て取れます。


 こちらに目線を近づけるようにしゃがんで来ました。なんと無防備なっ。その距離では喉笛のどぶえみ千切られますよ……! 


 この優しそうな雰囲気――なんだかとっても撫でてきそうです。


 私はカッと目を見開き、威嚇いかくします。ぶーぶー鳴くのは三流。一流は目だけで黙らすのですっ。


「お目々くりくりしてて可愛いねえ」


 馬鹿にしているのですか、このおアマさんは。


 不用意に手を伸ばしてきます。――その手首、貰いますよ……!


(ちなみにだけど、ラキュー)


 ふと、宿主が声をかけてきます。


「ぷぎ?」


 なんでしょう? と横に宿主を見やります。とりあえず反撃は後回しにしましたので、撫でられてしまいました。でも、仕方ありません。宿主の言葉を無視するほど、私は無作法な豚ではありませんので。


(その女の人だけど、ミチサキ・ルカが彼ピだからな)


 ……そう言われて気付きましたが、ルカの魂が宿っている上半身がこっちを凝視しています。……目力がすごいです。怖いです。


(――――豚肉は、生姜しょうが焼きが好きなんだ、俺は……)


 なんか怖いこと言ってるんですが!? 生姜焼きってなんです!? 食べ物っぽい――はっ、いやっ――。


 私は彼が何を思っているのか瞬時に察してしまい、恐怖しました。


 彼は私を食う気です……!


(怖いです! ラフレシアさん、あの人怖いです!)


《……うん》


 なんか反応がにぶいラフレシアさんです。どうしたんですか?


《こう――私も、なんかリディアを傷つけるのは駄目ーって言いたいけど、私がそんなこと言ってもいいのかなって……》


 なんかこっちはこっちでこじらせてるんですけどー!


 ひぃん……私は、ただ撫でられるしかないというのですか……! まるで愛玩あいがん動物のように……! 屈辱くつじょくですっ……!


「ぶひぃ」


 私が地面を向きながら屈辱に打ち震えていると、ふと目の前から女性――リディアの声が聞こえてきます。……豚の鳴き真似――! どこまで私を侮辱すれば気が済むのでしょう……!


 そう怒りに打ち震えながら、顔を上げた私は……固まりました。


 文字通り目の前にリディアがいます。片手で私の頭を撫でつつも四つん這いになって、「ぶひぶひ」とか言っています。


 表情が、すごく、なんというか……欲情した感じになってます。


 え? え? なんですか? え?


 私は思わず宿主を見上げます。全ての顔を逸らされました。


 ルカを見ます。顔を逸らされました。


 ラフレシアさんに意識を向けます。気配が感じられません。


 ……?


「豚ちゃん、今、私の手を噛もうとしたよねえ」


 ば、バレてます……!? くっ、一体何を要求――、


「きっとその無駄に生えそろった長い指など、貴様のようなメスブタにはいらぬ! 全て食い千切ってやろうとか思ってたんだよね……。そして食い千切った後に豚の手らしくなったろう! とか言いながら、横っ腹に頭突きをしてくれるんだよねえ……」


 何言ってるんですか……? 何言ってるんですか、この人!


 怖いです! 意味が分からないです! なんですか!? なんなんですか!?


「ちょっと細くてお肉が足りない指かもだけど、その綺麗な歯で、ガブッとしていいからね。あっ、良い感じにすり潰して、絶対にもう使えない感じにして私のところに吐き捨ててくれるとすごく絶望して興奮できそうなんだあ」


 そう言ってリディアは私の口元に指を差し出してきます。顔がマジです。火照ほてってます。何故です!? 分かんないですぅ……!


「ぶひぃいん、ひぃいいいん!」


 泣くしかありません。この意味不明な生物に私はどうすることも出来ずに、ボロボロと涙をこぼしながら、宿主に駆け寄ります。


 宿主は無視せず、私を優しく抱き上げてくれました。背中をぽんぽんしてくれます。


(あーよしよし、怖かったなあ。怖いよなあ、いきなりマゾにマゾマゾされるのはなあ)


「ぶひぃいん!」


 怖かったですぅ! なんですかあれぇ……もうやだあ……!


(リディア、ラキューは生まれて一日未満の子供だから、あまりどぎつい性癖を見せつけてくれるなよ。ガチのトラウマになるから)


「ありゃあ」


 リディアが申し訳なさそうに覗き込んできますが(ぷかぷか浮かんでます)、私は、ぷいっと顔を背けます。


 嫌です! この人、怖いから嫌いです!


「あぁ……嫌われちゃったぁ……」


 なんか恍惚こうこつとした声を上げてるんですがぁ。なんでぇ……。


(ちなみにこの女の人はな、露骨に嫌いとか、そういう反応するとすごい喜ぶから気をつけるんだぞ)


「ぷぎぃ……」


 なら、どうしようもないじゃないですか!


(でも意図的に嫌われるようなことはしないからな。噛もうとしない相手には噛まれようとはしないけど、噛もうとする相手には遠慮なく噛まれに行く。ちなみに俺は初対面で顔面を殴打したから、たぶんそういう対象として見られてる)


 何してるんですか、宿主。


「いぇい」


 リディアは片目をつむって、親指を立ててきました。


「ぷぎ……」


 なるほど、私は確かに攻撃的な意志を見せて、相手にそれを察知されてしまいました。……私の不手際故に起こった事故ということですね。


 でも、なんであれリディアは怖いので嫌いです。


 私がリディアからそっぽを向くと「ふぅ――!」と前屈みになりました。……嫌いなのに嫌いと反応すると喜ぶって、本当にどうすれば良いんでしょうね。


(……リディアの相手はラキューには荷が重いか。……つーことで、ミチサキ・ルカ渡すから話してこい! あっちいってイチャイチャしてな!)


 そう言って宿主は、ルカの上半身をブチッと引き千切って(ちゃんと下半身もつけてあげて)、ぽいっと投げ捨てました。


 ルカは慣れない身体のためか勇者なのに、べしゃっと無様に地面に叩きつけられました。すぐさま起き上がって、ちょっと怒り気味に振り返ります。


(今回の対面のさせ方、雑だな! こういうのはさ、あるだろ、タイミングとか! 最近、ループごとに話せること増えてきたって言っても、見送ることも結構あったんだからさ……。結構緊張すんだよ……)


 なんかルカがぶつくさ言っていますが、宿主は(しっしっ)と雑にあしらいます。それで、ルカと対面したリディアも分かりやすく狼狽うろたえて――色々とあって最終的にルカに連れられて、ちょっと離れたところに行きました。


 こうして平穏が訪れました。


(よーし、もういいな)


 安全を確保出来たからでしょう、宿主は私を地面へと降ろします。


《自信を持つのは良いけど、調子には乗りすぎないでね》


 ラフレシアさんにそう言われてしまいます。


(むぅ……)


 これには、うるさいですよ、と返せません。


 さすがにちょっと怖かったのでかえりみましょう。相手を選ぶのは大事ですね。


 そう思い、私は近くにいた変な髪型をした少年――オミクレーを見上げます。


「あ? んだよ」


「ぷぎぃいい!!」


 私はそんな彼に歯を剥き出しにして威嚇します。


「マジでなんだよ!?」


 そうです。こんな感じの反応をする相手が今のところちょうど良いんでしょう。


 私はイーと威嚇しながら、ダラーの背後に隠れたりして立ち振る舞いを学ぶのでした。

次回更新は10月22日23時の予定です。

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