だから悪い噂は聞くべきではない
無事に生きてる、どうもアハリートです。
パックくんにはいつもの『ありがとうございます!』をされたけど、それくらいだ。プルクラさんには……特には何もされなかった。
まあ、事前に脳破壊はするって言ったからね。言われた通りの効果があったわけだから、文句を言うのは筋違いとかなんとかだろうか。それとアスカが見てって言ったものに文句は言えないだろう(これが何もしてこなかった理由の99%かも)。
さーて、大体用事はすんだし、地上に戻ってリディア達と合流すっか。うーんと、この後は途中でフーフシャーさんらとも会って、色々とお話をしなきゃな。香水の話だとか魔王の話だとか。
それと人狼の国にチラッと寄ってジルドレイと通商出来るように取り計らうか。
幸い人狼側って吸血鬼を敵として認定しているけど、そこまで悪感情はないっぽい……のかな? たぶん形としては『勝利した側』だからって理由があるんだろうけど。逆に吸血鬼側は……あんまり人狼達のことを憎んでないっぽいのかな。ちょっと暮らしてた時に人狼の話題はちらほら出てたけど、憎悪っぽいことを抱いている人はそんなに……ていうか、俺が知る限りではいなかった。なんでじゃろうね。
んで、用事が終わったら、さっさと西の共和国にゴーするのだ。そんでもって虐殺を――――、そうだ。
《プルクラさん、ちょっと良いっすか?》
「嫌よ」
《あっ、違う話なんですがアスカって食料を与えれば、俺から魔力の供給を受けなくても活動出来るかもしれないんで、ここに一人預けようと思うんですよね》
「なんでも訊きなさいよ」
プルクラさんは優しいなあ。
《俺、次の目標として西の共和国に行って獣人達を虐殺しようと思うんですよ》
「いきなり頭のおかしい話を振られたわね」
プルクラさんが、俺のぶっ飛んでるっぽい話題に眉をひそめる。
《ただ、今回の獣人虐殺はあくまで目的のための手段っていうか……。目的は獣人達を煽動している光の種族の殺害なんですよね》
俺はプルクラさんに、かくかくしかじかぬるっちょんとミアエルとお兄ちゃん関連について説明する。
《この目標を達成するために効率の良い方法ってなんかあります?》
「あくまで『効率の良さ』で良いのね?」
《そうっすね》
そこに倫理観なぞ必要ない。あくまで効率よくして、『間に合わない』を極力なくしたいのだ。最速を目指したい。
「まず情報を手に入れるために、共和国側に肩入れするべきじゃない? そのために関われる手段があれば使いなさい」
共和国と関わる手段かぁ……。アンサムとかに訊いてみるか。情勢とかは聞いてたけど、プレイフォートが共和国とどんな関わりがあるかは訊いてなかったなあ。
「おびき寄せるなら、自分が囮になるべきでしょうね。その光の種族が強いのなら、その強い奴以外なら殺せない――被害が甚大になるっていうのを大々的に広めると良いんじゃない? ……ただそれを大々的に広めるには難しいけど。そんな危ない魔物と手を組みたいと思う組織はなさそうだし。個人でやるなら、とにかく相手の拠点を攻めて、壊滅――けれど殲滅はせずに逃がす、を繰り返すのが良いかしらね。効率が良いかは別として」
うーんと、俺は『アハリート』として活動をすれば良いんだな。今まではなるべく、俺という存在をバラさずにいれたらなあとか思ってたけど、今回は別で逆に広めるのが良い感じか。
でも課題がいくつかあって『効率良く広める方法があまりない』『そんなことをする俺と大々的に手を組む奴はいない』ってところか。
…………。変身能力を強化するか。今の見た目じゃ、共和国と手を組むのは無理だ。最低限『身なり』を整える必要がある。
少なくとも第一印象で理性ある奴だ、と思われないと最低限の交渉すら出来ん。
「――それとあんたの正確な目標は『お兄ちゃん』の確保でしょう? 復讐をやめさせることが出来ないと思ってるから、あんたが代わりに殺すってだけで」
《あっ、ですね》
「その計画、順序を間違えたら悲惨な結果になるわよ。だから本来の目的を見失わないようにしなさい」
……うーむ、本来の目的を見失わないようにかあ。
だとすると、最速で『お兄ちゃん』に接触して、説得――復讐代行を取り付ける感じかあ。
《『お兄ちゃん』に復讐をやめてもらったり、止まって貰ったりする方法とかありますかね?》
「そこはさすがに知らないわよ。その『お兄ちゃん』のことを知らないし。……ただ一つ分かるのは、少しでも自責の念があるのなら、他人に復讐の任は放らないわよ。だから止めさせるんじゃなくて、協力するにしなさい。じゃないと見えないところで勝手に動かれて、勝手に死なれるかもしれないわよ」
(実際、ミアエルは同じ様なことをした)
そうボソッと呟くミチサキ・ルカだ。
――プルクラさんの言うとおりだなあ。代わりに全部やりますう、とか言ってもたぶん聞き入れなさそうなのは目に見えている。
だから俺の力を貸す感じで、そこから『効率の良い』殺し方を模索していくのが最良かな。そんでもって、どこまで『残酷な行い』が許容されるか、だ。『お兄ちゃん』は獣人に対して、どこまで無情になれるのか知るべきだな。
邪魔する者、全て薙ぎ払うのみ、みたいな脳筋思考の復讐鬼なら一番楽だけど……はてさて。
《……こんなところですかね。ありがとうございます》
「礼は良いから、さっさとアスカ様を出しなさいよ。トラ、ご飯持ってきて!」
「あいよ、バル、手伝ってくれ」
「は、はい!」
「あと、あんたみたいなレギオンがこの地下にいると皆が不安がるからさっさと出て行きなさい」
ということでプルクラさんに追い出されることになった、どうもアハリートです。
じゃあ、地上につくまでに色々と考えるか(転移で一瞬だけどダラーさんとかサンとかの準備を待つ)。
――共和国での虐殺についてもう一つ注意しないといけない事柄がある。
それは、『獣人達に情を抱かないようにする』ことだ。
……今回の件で分かったけど、情を抱けば手が鈍る。吸血鬼達のことを知らなかった以前は、普通に殺せただろうけど……。ここで生活とかして吸血鬼達が『俺らと同じで普通』と分かってしまった今では、もう無理だ。だから、うんこを撒き散らすだけに留めたわけだし。
獣人達の虐殺は重要なファクターだ。権利を求めて狂ってる奴らに俺が代わりのものを渡してやることが出来ない以上、物理的な数を減らして弱らせないといけない。
虐殺しない方法がないわけじゃないだろうけど、それをするためには違うベクトルでの手段を見つけなければならない。――そう、見つけるところから始めないといけない。しかもその方法が俺にとって不向きである可能性もあるのだ。――たとえばワームくんを手当たり次第仕込むとか、出来るけど現実的じゃないしね。
明らかに時間がかかる。
ミチサキ・ルカが唸る。
(時間がかかるのは、かなり不味い。北のカーナーフ帝国のこともあるし、タイタンはどこかのタイミングで国が丸ごと狂って、襲いかかってくる。……オーベロンの話じゃ、その理由が西の共和国にあるらしいけど……つまるところその『何か』がタイタンを狂わせる目的を達成するのが間近ってことだ)
だから時間はかけられない。
――俺は、獣人達を殺すために彼らの良いところじゃなくて、悪いところを見て『殺しても良い存在』として認識しなければならないのだ。
意図的にそう出来るのお? とか思えるかもだけど、他人を嫌うのってわりと簡単。あれだ、何かを作るのには時間がかかるけど壊すのには時間をかけずに出来るのと一緒だ。
他人の悪い噂ばっか耳にしてると、認識に変なフィルターがかかっちゃうのよね。そのせいで相手が直接悪いことをしてこなくっても、悪い印象を持ってしまう場合がある。
それを、俺は自分自身に意図的にやる。
(ラフレシア。なんか獣人に関する悪いことってない?)
そうそうないかなあ、とか思ってたけど……ラフレシアの返答は意外なものだった。
《うーん、あるっちゃあるかなあ》
(あるんだ)
《ちょっと面倒くさいことでね、印象に残ってるのがある。……うちの国――タイタンって魔物に襲われた人達がやってきて、その魔物を殺すことに尽力することがあるんだけどね。――あっ、話は変わるけどプレイフォートでマスターが潰した暴力団のその妻と子は保護されてるからね。たぶん利用されると思うから、心得ておいて》
(おっけ)
あの子らか。……まあ、その可能性は想定してはいた。さすがに生かした以上、殺しにきたら殺しにくいし……何より、殺しきれなくても『俺を一瞬でも止めるために利用』することを本人達が織り込み済みでやるかもしれんのよな。
俺が復讐対象となる場合、どういう対応をすべきか考えていかないとな。
《――話を戻すけど、うちの国には稀に獣人から被害を受けてやってくる人達がいるんだよね》
(なんの被害?)
《大抵は、レイプ被害》
うわ、って声出ちゃう。
《人間からより被害を受ける比率が高いんだよね。人相手だと子供が出来るかも、とかの忌避観念が薄いせいなのかなんなのか……まあ、そこの犯罪心理は置いておくけど……》
ラフレシアがため息をつく。
《今では獣人の魔物認定を求める一派が多く集まって、面倒になってる。これってかなり認めにくいことなんだよね。……獣人を魔物と認定すると人狼達との関わりにくくなるから……》
大変なのね。――権利とか下手に認めたりすると、暴走する恐れがあるからちゃんと見極めないといけないんだろうな。うーん、政治って大変そう。
《でも認めないと国内での被害が増えるから、例外的措置として加害者やそのグループの掃討はやってるけど、あんまりウケは良くない。自治区解体とか要望が出てるけど、出来るわけないし。この問題はどうにもならないんだよね。それと野生動物の遺伝子汚染も問題になってるかな》
(遺伝子汚染……)
《獣人って元となった動物と交雑して、子供を作れるっぽいんだけど、たまに襲ったのか襲われたのか明らかに元の生物から大きく形状が異なった個体が国内でも確認されることがあって――それも狩猟動物とかだから……結構、大きな問題になってる》
(そ、それは嫌だな)
顔が人っぽい鹿とかが現れてるってことだよな。さすがに食いづらいわ。
(……獣人って一応、タイタンの国内にいるんだな)
《いるよ。他にもエルフとかドワーフとか。ただ、彼らは原住民であんまり揉め事は起こさないように距離を保ってるけど。西の共和国みたいに産業に大きく関与もしてないよ。――そういう『亜人』は自治区が一応設けられているけど、ぶっちぎりで治安が悪いのが獣人自治区かな》
うーん、予想以上に悪い話が出てくるぞお。
……もしかしたら、西の共和国でも野盗っぽい奴らが数多く存在してるかもな。人間に対して強く敵意を抱いているだろうから、人の姿をしていれば襲いかかってくるかも。
なんか人狼以外の獣人は種族レベルで劣等感を持っているっぽいな。
(……普通に西の共和国に行って、獣人と関わるだけで悪感情を抱きそうだな)
《かもね。人の姿をしてたら仲間認定はまずされないし、吸血鬼と一緒にいれば攻撃されることは間違いないと思う》
なら、もうこのまま直接、共和国に向かっても獣人に対する印象は悪い方にしかならなそう。
あとは良い人をあまり見ないようにするか。なんかキメラとかいう交雑を繰り返した結果生まれた生物兵器もいるみたいだし、汚い部分は多くありそう。
まあ、戦争っていう極限状態だから無理も――――という『認める』のはやめましょう。獣人は唾棄すべき存在、いぇあ! とか思うくらいにならんとな。
(ラフレシア、獣人虐殺については大丈夫そう?)
《大丈夫じゃないけど、それ以外の手段を模索するのも大変だから諦めてる。あっ、でも、イェネオとかに無理はさせないでよ》
(させませんよ)
なんならダラーさんとかサンとかに殺しをさせるつもりはない。っていうか、吸血鬼だから下手に獣人を殺しちゃうと不味いのよね。まあ、俺に加担するのも相当不味いんだけど、そこはバレないように頑張りましょう。
俺が虐殺に使える手駒は、ラキュー達と――狂界から連れ出した魔王『達』。
(あっ、そうそう。魔王と…………勇者の魂どうなってる?)
《……一応、隔離して保存は出来てる。…………勇者についてはマスターが魔王に説明してよ》
(もちろんですとも)
はい、魔王の魂どころか勇者の魂も確保してます。だってもったいないと思ってしまったんだもの。攻撃特化とか俺の力では、たぶん今後手に入られないものだからね。
(最悪、人格や記憶を消して魔道具としてスキルだけ運用出来るようにするつもりでもあったし)
《……それはそれで魔王とはこじれそう。私としてはあんまり弄らないからね。……そこはしっかりと私に『お願い』じゃなくて『命令』してよ》
(それももちろんですとも)
そこら辺の決断は有耶無耶にはしない。ちゃんと責任者として責任を持って対応しないとね。
(とりあえず使えるように調整を急いで)
《ラキュー達みたいに常時存在させる形じゃなくて、『召喚』する感じで良いんだよね?》
(うん。場合によってはスキルなしの低燃費モードとかも欲しいかも。……さすがに戦いだけを経験させるのは非道過ぎる)
《だね。そこも検討しておく。妖精化に近い形に出来るかも。アスカの力とかを使えば、上手いこと消費を抑えられるかもだし》
そうなのか。わりと便利なのね、アスカのスキルって。
それにしても西に行くまでにやっておきたいことが何気にあるね。場合によっては一回ぐらい進化を挟んでおいた方がよさそう。
人狼の国――の前にフーフシャーさんとの交渉も頑張るぞい。何気にドキドキしております。
次回更新は10月15日23時の予定です。




